ハイエンドな精巧な造形を謳い、世界中から注目を集める新興フィギュアメーカー「Molecule8」をご存知だろうか。解剖学に基づいた独自のスチール製骨格を内蔵し、よりリアルな可動を追求したプロダクトが特徴だ。そのデビュー作品となるジョン・レノンの1/6スケールフィギュアがいよいよ出荷を迎える。同社CEOのVijay Chadha/ヴィジェイ・チャダ氏に話を聞くことができたので紹介しよう。

TEXT_山田佳樹 / Yoshiki Yamada
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

ハイエンドかつグローバル志向のデザインスタジオ

Molecule8は2015年にアメリカで誕生した、ハイエンドクラスのコレクタブル・フィギュアにフォーカスし、フィギュアのデザイン、製造、マーケティングに特化したスタジオだ。ロンドン、東京、ロサンゼルス、香港を拠点に、グローバルな人材を結集・発信する体制を整えている。「私たちのプロセスは、最先端の技術と伝統的な芸術性の融合です。試行錯誤を重ね、クリエイティブなデザイン、エンジニアリング、マーケティングを通じて、それぞれのフィギュアがコレクターに比類ない付加価値を与えることにおいて、一点の曇りもありません」とチャダ氏は熱く語る。

Molecule8のパイプラインは、企画から量産までを一貫してフォローしている。まずはそれぞれのフィギュアにおける主たる特徴、機能、製品目標を固めるデザインフェーズからスタート。このフェーズが完了すると社内のメンバーや外部の協力者から集められたスタッフで制作チームを編成。生産段階では工場パートナーとのネットワークを継続的に構築し、生産プロセスの中でクオリティのレビューとリファインを定期的に行い、工場を慎重に監査するという。生産中から出荷前にいたるまで、徹底した品質保証と体系的な性能テストを経て、ユーザーの手元に届けられるというわけだ。

理想を追い求めたジョン・レノン・フィギュアへの挑戦

Copy of Official promotional spot for Molecule8 John Lennon 1:6 Scale Figure

現在、Molecule8が心血を注いでいるプロジェクトが、伝説的スターであるジョン・レノンの1/6スケールのフィギュア化だ。「シカゴのハードロックカフェで昼食をとりながらブレーンストーミングを行い、コレクタブル・フィギュア業界の現状について議論したのです」とチャダ氏はそのきっかけをふり返る。

「会社の看板商品として象徴的なフィギュアを制作することについて議論が始まりました。ハードロックカフェにいたので自然とミュージシャンの話になり、そこで『レノン』と言うワードが出た途端、我々がビジネスを立ち上げるためのフィギュアが決まりました」(チャダ氏)。ロサンゼルスに戻った彼らは、直ちにプランとデザイン案を固め、権利元にアプローチ。間もなく正式な許諾を得て、同プロジェクトはスタートした。

しかし、初期のデザインプロセスでひとつの問題がもち上がった。伝統的なボール・ジョイント・ボディでジョンのコスチュームを正確に再現することが困難である、というものだ。このような背景から、人間の動きを最大限表現可能にするため、内部に解剖学的に均整のとれたステンレス・スチール製の内骨格を有するシリコン・ボディの制作から取りかかることとなった。こうしてMolecule8のデビュー・フィギュアは旗揚げとなった。

なお、同製品は何度か発売延期をくり返しており、ファンからは早期のリリースを求める声が大きい。しかし、彼らは当初から掲げている「コレクタブル・フィギュア」としての明確なビジョンを守るため、最高品質という点に徹底的にこだわった。「私たちはジョン・レノンのフィギュア・セットを改めて多くの側面から改良し、ステンレス・スチール製のメガネや強化ガラス付きの磁気性台座と言った新機能を追加するために、さらに多くの時間と投資をするという困難な決断をも下しました」。

ステンレス・スチール製のメガネ。レンズを囲むリム部分はわずか0.3mm


磁気性のフィギュア台座。磁気によりフィギュアを立てることができるため、スタンドは不要

造形においては、デジタルとアナログの両面からアプローチを行なっている。頭部はアナログで造形。メガネなどのアクセサリーなどにおいては3DCGでのデジタルモデリングも併用し、それぞれのプロセスに適切な手法を選択しているという。

Molecule8 John Lennon - Imagine - Sculpting process by K.A.KIM./頭部のアナログ造形の様子

ギターやブーツ、ジャケットなど、実際にジョン・レノンが使用していたものを忠実に再現。様々なポーズがとれるよう、手のパーツも複数用意されている

解剖学的な正確性を追い求めた、現実味のあるフィギュアボディ

Molecule8の全てのフィギュアには、内蔵骨格「Mark I: LITE Endoskeleton」が採用されている。これにはチャダ氏の"より解剖学的に正確な動き"へのこだわりが光る。「コレクターとしては、ステンレス・スチール製のロッドや関節をシームレスで柔らかいボディにしようと試みた過去の製品に鼓舞されてきました。しかし、解剖学的に正確に、人間の動きを実現したレベルのフィギュアを提供されたことは、これまで一度もなかったのではないかと感じています」。彼らはアプローチの中で、実際の人間の骨格は厚みも形状も様々であることに気づいたという。リアルなスキン素材の層により実現した厚みのある1/6スケールの骨格は、他の柔らかいボディ・フィギュアでよく見られる肘、膝または股関節での不自然な肌の膨らみを大幅に軽減することを可能とした。

ジョン・レノンフィギュアに内蔵されているMark I: LITE Endoskeleton

Molecule8が見据える先と挑戦

チャダ氏は、もちろん日本のフィギュア文化にも強い関心と期待を寄せている。「日本のフィギュアは世界のほぼ全ての国で入手可能です。世界的にも歴史的にも日本のフィギュア文化はよく知られているため、私たちは他国のオフィスに先駆けて日本にオフィスを設立しました。ジョン・レノンのフィギュアの受け入れられ方は私たちの期待を超えており、これについては非常に満足しています」。さらには、日本のクリエイターと仕事をしてきた経験も、東京に事務所をもったひとつの理由となったという。

最後に、今後の展望について氏に伺った。「当初から、私たちの目標はこれまでとまったく異なる新しいフィギュア体験をユーザーに提供し、制作するフィギュアごとに改善を目指すというものでした。完成したジョン・レノン・フィギュアの出荷を控え、私たちはこの挑戦を通して今後の改善に繋がる数多くのことを学び、またこれから目指すべき道も確かなものになりました。ジョン・レノンのイマジン・フィギュアを皮切りに、現在、『夢のチョコレート工場』、『タクシー・ドライバー』、『ロード・オブ・ザ・リング』や、その他のわくわくするようなライセンス・プロジェクトも数多く進めていますのでぜひご期待ください」。


今後、製品化が予定されている作品群(Molecule8公式サイトより)



  • ジョン・レノン 1/6スケールフィギュア
    価格:36,000円+税
    リリース:2018年4月から5月予定
    発売元:Molecule8
    販売元:豆魚雷ほか
    Molecule8に関するお問合せ:info@molecule8.com