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8K/60p時代の到来でハイエンドPCの需要が高まっている中、高い注目を集めているCPUが「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」だ。Zen+アーキテクチャを採用し、32コア/64スレッドを実現するなど、その性能は折り紙付き。TVCM向け映像制作などで定評のあるSTUDに、本CPUを中核に据えた自作PCを構成してもらい、その実力を検証してもらった。
メニーコアの実力をRenderGardenで計測
人々の「琴線」に触れる「モノ」や「コト」を映像で表現し、世の中に「楔(STUD)」を打ち込むことをビジョンに掲げて、2012年に創業したSTUD。設立以来、数々のナショナルクライアント向けTVCM制作でオンライン/オフライン編集を手がけており、少数精鋭で小回りの利く映像スタジオとして評価を高めてきた。近年ではVRやリアルタイムCG分野にも進出するなど、新たな映像体験の創造に向けて研究開発も進めている。
そんな同社では機材も千差万別で、スタジオには様々なOSやスペックの機材が並ぶ。これらを光ファイバーのネットワークでサーバと結び、どのマシンでも同じ環境で作業を可能にするのが同社のスタイルだ。その中でも主力となるのが、代表の岡田太一氏が自ら制作した自作PC群で、1台あたり30万円が基準。ただし数年に1回、フラッグシップの意味も込めて数百万円のPCを組み上げるのだという。「それでも業務用の専門機材に比べれば圧倒的に安いんですよね」(岡田氏)。
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岡田太一/株式会社スタッド
代表取締役
今回制作したPCのコンセプトも「8K/60pの映像編集をストレスなく行えること」と、「Unreal Engine 4を使用したバーチャルスタジオの構築ができること」だ。前者は2D、後者は3D性能が問われるため、CPUにはAMD Ryzen Threadripper 2990WX、GPUにはNVIDIA TITAN RTXが選択された。前者は32コア/64スレッドを誇るモンスターCPUで、後者はリアルタイムレイトレーシングに対応。現状で望みうる最上位クラスの組み合わせと言えるだろう。
中でも岡田氏が評価したのがRyzen Threadripperのコア数で、これには同社のワークフローも関係している。「専門職の多い3DCGと異なり、コンポジット中心の弊社では1台のマシンで複数のツールを同時に起ち上げ、並行作業をすることが一般的です。Premiere Pro、After Effects(以下、AE)、Photoshop、Illustratorが常に起動していて、そこに必要に応じてDaVinci Resolveが加わります」(岡田氏)。そのためピーク値もさることながら、安定性が求められることになり、ふだんからCPUのコア数に目が行くのだという。
「NHK BS4K/8K Motion Logo」
同社が同機を用いて初めてDaVinci Resolveで8K/60pリアルタイム編集を行った作品。再生はもちろん、エフェクトやグレーディングも遅滞なく行うことができたのは驚きだった
という
©NHK( Japan Broadcasting Corporation) All rights reserved.
もっとも、メニーコア対応が遅れているツールもある。AEもそのひとつだが、岡田氏は「AEのプラグインであるRenderGardenを使用することで改善できる」と語った。AEのレンダリングマネージャーとして働き、複数の処理を同時に実行できるという優れもののツールで、レンダリング時間の劇的な改善が見込める。この性能をフルに発揮するためにも、Ryzen Threadripperが必要になるというわけだ。
それでは、同社が制作したAE用コンポジションを用いた検証結果を見てみよう。Seeds(=ジョブ数)とGardeners(=レンダーノード数)を変えつつ、5種類のエフェクトで作業時間を計測したところ、最適な組み合わせが状況によって変化することがわかった。また、Ryzen Threadripperの性能をフルに活かした32 Seeds+32 Gardenersの設定では、イニシャライズに大きな負担がかかった。「それでも重量級のプロジェクトであれば、32 Seeds+32gardenersの組み合わせに意味が出てくると言えそうです」(岡田氏)。あとはスタジオごとの状況次第ではないだろうか。8K/60p案件の増加が見込まれる中、適切なタイミングでの設備投資が求められると言えそうだ。
AMD Ryzen Threadripper 2990WX搭載
8K/60pワーク安心モデル
Kurzweil 2019
2Dと3Dの両方でハイエンドな作業を可能にするため、ASUS製マザーボードのZenith Extremeに、AMD Ryzen Threadripper 2990WXとNVIDIA TITAN RTXを搭載。メモリ容量も128GB(16GB×8)と、マザーボードの限界まで搭載された。ストレージもSamsung製の970 Pro M.2 NVMe接続の1TB SSDを合計7基搭載しており、高速なRead/Writeを可能にしている。1台をシステム用にCドライブ、2台をキャッシュ用にDドライブ、4台をデータ出力用にEドライブにあて、D・EドライブはRAID構成とした。このほか動画キャプチャ用に4つの12G-SDIコネクタを搭載するDeckLink 8K Pro。ネットワークカードに10Gネットワークに対応したASUS XG-C100C 10gbeを搭載。約200万円のモンスターマシンとなっている。
AE RenderGardenベンチマーク
検証用プロジェクトファイル「 After Effects Benchmark 2019 」STUDのサイトより無償ダウンロード可能 https://www.stud.jp/works/AfterEffectsBench2019.html
L:Ligh(t 120f)、M:Mid(120f)、H:Heav(y 120f)、U:Ultr(a 120f)、N:Nightmar(e 480f)
※RenderGarden未使用時のレンダリング時間(秒) L:9、M:48、H:130、U:511、N:2,068
RenderGardenはAEの処理並列度の低さを解消するため、1台のPCで複数プロセス(スレッド)の分散処理を可能にするプラグインだ。今回の検証では程度の異なるエフェクトを5種類用意し、RenderGardenの設定を変えつつ、120フレーム(Nightmareだけ480フレーム)の映像をAEでレンダリングし、それぞれの作業時間を比較してみた。普通に考えればSeedとGardener(RenderGardenの独自用語で、一般的なCG用語ではジョブとレンダーノードに相当)の値に比例して時間短縮が見込めそうだが、「いずれも理論値であり、実際には様々な条件が加わります。検証の結果GardenersはPCスペック、Seedsはプロジェクトの複雑さ次第で、それぞれ最適値が変わる印象を受けました」(岡田氏)。
検証結果を見ると、RenderGarden未使用時と比べて、使用時は圧倒的に処理が高速化している。その一方でLight~Heavyでは16Seeds/16Gardenersの設定が最も速く、UltraとNightmareで32Seeds/16Gardenersが逆転する結果となった。またRenderGardenを使用すると、設定値に関係なくイニシャライズに十数秒かかり、軽めのプロジェクトでは、このオーバーヘッドを吸収しきれないこともわかった。それでも最終的にNightmareでは、32Seeds/32Gardenersの設定で最も速く作業が終了している。AMD Ryzen Threadripper 2990WXの理論値である、64スレッドのパワーが最大限に活用されたかたちだ。
問い合わせ先
日本AMD株式会社
TEL:03-6479-1550
https://www.amd.com/ja
TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田充