リアルタイムCGを積極的に活用することでも知られるSAFEHOUSEが、国内でも関心が高まりつつあるバーチャルプロダクションシステムを独自に開発中だ。CGWORLDでは、12月上旬に行われたデモの様子を取材。システムなどの具体的なメイキングを1月9日(土)発売の月刊誌(2021年2月号、vol.270)に掲載している。本稿では、月刊誌の記事と連動するかたちで監督と撮影を担当した奥藤祥弘氏と、俳優のダンテ・カーヴァー氏にバーチャルプロダクションに対する期待を語ってもらった。

TEXT_安田俊亮 / Syunsuke Yasuda
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_蟹 由香 / Yuka Kani

2020年12月上旬にSAFEHOUSEのオフィスで行われたバーチャルプロダクションの技術デモ。グリーンバックで撮影した役者の映像とUnreal Engine 4上のCG環境をリアルタイムで合成している

最少人数で成果最大、SAFEHOUSE流VPシステム

3DCG制作スタジオのSAFEHOUSEが今新たに取り組んでいるのが、「実用的かつ機動性の高い」バーチャルプロダクション(以下、VP)システムの開発だ。『スター・ウォーズ』シリーズの実写ドラマ『マンダロリアン』などで採用されて一気に知名度を広げたように、VPは"何を撮っているかをその場で確認しながら撮影できること"に最大の利点がある。VP=巨大な予算といったイメージが先行しがちがだが、SAFEHOUSE代表取締役で、VPプロジェクトのプロデューサーを務める由良浩明氏は「予算的にも機動性的にもライトウェイトなVPを目指して検証を進めています」と話す。

▲左から、俳優・タレントのダンテ・カーヴァー氏、エンバイロンメントSVの鈴木卓矢氏(SAFEHOUSE)、プロデューサーの由良浩明氏(SAFEHOUSE)、監督の奥藤祥弘氏
safehouse.co.jp www.gearstudio.website

SAFEHOUSEのVPシステムは、グリーンバックを用いたものだ。撮影した映像はそのまま現場のPCに送られて、Unreal Engine 4(以下、UE)上でリアルタイムに合成結果が得られる。合成映像はカメラマン側にも返されて、画を確認しながら撮影を進められる。構成そのものは実にシンプルで、そのため俳優、カメラマン、UEオペレーターが最低限いれば現場は成立する。

▲取材時に行われたデモンストレーションの様子。SAFEHOUSEが開発するVPシステムのコンセプトは"ライトウェイト"。省スペース&少人数で手早く制作することが大前提。その上で得られる映像クオリティを段階的に高めていく計画だ

UEであれば背景をその場で修正し、ディレクターの意図通りに撮影できるため、後の編集作業を大幅にカットできる。シンプルでありながら、できる限り現場で完結する撮影。ここが、由良氏の言う「ライトウェイトなVP」の強みだ。

SAFEHOUSEの短編オリジナル映像『The Guardian』はオフライン編集での実写合成となっているが、UEを利用することで撮影から完成まで3日ほどで完了している。撮影に参加したのは、俳優のダンテ・カーヴァー氏がGuardian役を演じ、ほかにカメラマンとディレクターを兼務した奥藤祥弘氏、プロデューサーの由良氏と、UE担当スタッフの4名のみ。SAFEHOUSEは『The Guardian』のクオリティをVPシステム、つまりリアルタイムに実写合成することで効率化をさらに推し進める考えだ。

▲『The Guardian』

演じる側として、ダンテ氏が期待しているのはそのスピード感だ。「『The Guardian』でも、撮影から映像完成までが驚くほど速く感じました。編集時間を多くカットしてスピードを上げられれば、その分様々なことにチャレンジできます。それに、コロナ禍のような大変な状況の中でも、こうしたタイプの撮影であれば安全に続けられます。映像制作に関わる仕事はストップしている場合もありますが、形を変えながらでも素早く撮影できるのであれば、制作スタッフやアーティストの雇用が維持できて生活が守られます。撮影現場ならではの情熱を活かしながら、様々な可能性が広がっていくと思います」。

VPシステムの導入は、実際に現場のかたちを変えていく。特に変化があるのは、実写映像の撮影現場と3DCGの制作現場がUEを介して同居している点だ。UEのオペレーターはただ背景アセットを設定するだけでなく、UE上で映像を合成し、ディレクターの指示に合わせて録画や撮影データ管理をする必要がある。一方でカメラマンやディレクターはUEのしくみを理解し、どういう撮影なら可能か、どこまでの修正が現場で可能かを的確に判断しなければならない。

「今まで近いようで遠い存在だった撮影チームとCGチームの垣根が、今後はどんどんなくなっていく予感があります。お互いのやり方をもっと知ることで、映像のクオリティは今以上に上がっていくはずです」(奥藤氏)。

小規模でスピーディに撮影しつつ、3DCGの力を存分に活かす。安全に配慮しながら、成果は最大。さらに本システムは、特撮研究所との案件でも実際に採用されているとのこと。「ライトウェイトとは言いながら、クオリティは十分に高いものがつくれます。その先の取り組みとして、グリーンバックなしで合成できるシステムも構想しています。目指しているのは、合成結果がそのまま完パケになるVP。開発と実証はより積極的に行っていくので、ぜひ注目していただきたいと思います」(由良氏)。



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    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日::2021年1月9日