今回はロサンゼルスからお届けしよう。新潟県で生まれハワイで育ったという野沢巧己氏は、英語で苦労した経験こそないものの、卒業当時の米VFX業界は就職氷河期で、数年間に及ぶアルバイト生活を強いられたという。そうした困難を乗り越え、現在クラウド・アーティストとして活躍している野沢氏に話を伺った。

Artist's Profile

野沢巧己 / Koki Nozawa(DreamWorksTV / Crowd Artist)
新潟県生まれ、ハワイ育ち。高校を卒業後、カピオラニ・コミュニティカレッジでアニメーションの基礎を学ぶ。2009年、ロサンゼルスのThe Art Institute of Californiaに編入。2012年に卒業後、アニメーションの仕事に就けるまで数年間アルバイト生活を送るが、2016年よりキャラクター・リガーとしてフリーランスで活動を開始した後、クラウド・アーティストへと転身。MPC LA、Chromosphere LA、FuseFX、デジタルドメインなどを経て、DreamWorksTVに移籍し、現職
www.dreamworks.com/shows

<1>ハワイからロサンゼルスへ、就職難でも粘り強く活動

――野沢さんは、ハワイ育ちだそうですね。

生まれが新潟で、ハワイのオアフ島で育ちました。両親は日本人で、私が生まれる前からハワイに移住していました。母が新潟へ里帰り出産して、私は生後3ヵ月のときにハワイに渡りました。幼い頃から、家庭では日本語、学校では英語という環境で育ちました。そのため英語で苦労したことはありませんでした。サッカーが好きで、サッカーチームにも所属していました。

将来のことを考えたとき、最初は建築の仕事に興味をもちました。しかし、深く勉強してみると私が抱いていたようなイメージとは異なり、思ったよりもクリエイティブな要素が感じられませんでした。勉強内容もとても厳しく、「自分には合わないのではないか」と悩んでいた頃に、たまたま父親が日本で買ったCG雑誌を読んで興味をもちました。また、昔から好きだったアニメの仕事に興味をもち始めていた時期でもありました。

そこで、ハワイのオアフ島にあるカピオラニ・コミュニティカレッジでアニメーションの基礎を学びました。学生時代はアニメや映画にたくさん触れました。特に、ディズニーやドリームワークスの作品に憧れをもち、本場ロサンゼルスでの就職を夢見るようになり、「ロサンゼルスの学校で本格的にアニメーションを学びたい」と、単身でアメリカ本土に渡りました。そしてロサンゼルスのThe Art Institute of Californiaに編入しました。

そんな中、日本では2011年に東日本大震災が起こりました。ふるさとの日本で大変なことが起こっていると居ても立っても居られなくなり、「自分に何ができるのだろう」と考えました。

そこで、有名スタジオのアーティスト達にアート作品の寄付を呼びかけ、アートショーを開きました。それによって得た約2,000ドルの収益を、全て被災地に寄付することができました。ゆかりのある日本で災害が起こったのはとても胸の痛い出来事でしたが、少しでも力になれたかなと思います。

学校を卒業して就職活動を開始しましたが、私が卒業した2012年頃はカナダのTAXクレジットの影響でロサンゼルスの有名なVFXスタジオが次々と倒産したり、カナダのバンクーバーへ移転し始めた時期で、ロサンゼルスではアニメーションの仕事自体が少なくなっていました。私も仕事がなかなか見つけられず、アルバイトでなんとか食い繋ぎながら生活する日々が続きました。

ラーメン屋など3つのバイトを掛けもちしていましたが、それでも物価の高いロサンゼルスで生活するのはとても大変でした。それと同時に、学生ローンの返済もあったので、苦しい生活が続きました。

両親から、「ハワイに帰ってきたら」と言われましたが、私はアニメーションの仕事を諦めたくなかったので、その生活を3~4年ほど続けました。

――ロサンゼルスでの就職活動は、いかがでしたか?

前述のようにロサンゼルスでの雇用自体が少なくなり大変な時期でしたが、デモリールを更新しつつフリーランスとして活動しながら就職活動を続けました。

その結果、2016年にChromosphere LAに採用され、短編アニメーション『Age of Sail』という、私にとって初めての大きなプロジェクトでキャラクター・リガーとして参加することができました。この作品は、2019年のAnnieアワードを始めとする数々の有名な賞にノミネートされました。

2018年には、テレビ・シリーズのVFXを手掛けるFuseFXへ移籍しました。ここでのプロジェクトでたまたまGolaemが必要になったことが、クラウド・アーティストへ転身するキッカケになりました。このときはGolaemを習得するため、土日も利用して必死に勉強しました。

そんなある日、学生時代のインターン先の先輩からDreamworksの仕事を紹介されました。FuseFXとの契約が9月に終わる予定だったので、面接を受けました。

面接では、これまでの経験に加えGolaemのスキルなどをアピールしたところ、採用していただけることになり、クラウド・アーティストとしてDreamWorksTVで働き始めました。

DreamWorks Animationスタジオ。長編アニメーション映画のチームと、テレビのアニメーションのチームとがある

<2>DreamWorksTVでクラウド・アーティストとして活躍中

――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。

DreamWorksTVは、Dreamworks Animationの一部門で、テレビ用のアニメーションを手掛けているアニメーション・スタジオです。

会社の雰囲気はとてもフレンドリーです。最近はあまり残業もなく、福利厚生も充実しています。コロナ前のオフィス勤務だったときは、カフェテリアで無料のランチが食べられました。また、他のスタジオに比べて女性の割合も多いと思います。クルー向けのイベントもたくさんあり、プロジェクトが終わったあとの完成パーティーや、プレゼント交換なども行われていました。

コロナのパンデミック以降は、ずっと在宅勤務が続いています。

――最近参加された作品で印象に残るエピソードはありますか?

印象に残っているのは、DreamWorksで担当したNetflixの『ワイルド・スピード/スパイレーサー』です。この作品にはクラウド・アーティストとして参加しました。クラウド・チームは新しい部署だったので、システムやワークフローを構築するのが大変でした。その分、残業も多かったです。

作品が完成し、Netflixのエンドロールに自分の名前が出たときは、感動しました。

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

リガーをやっていたころは、アニメーターをサポートするという役割が楽しかったです。自分がつくったリグツールをアニメーターが動かし、それが作品として世に出るという点にやりがいを感じていました。現在はクラウド・アーティストとして仕事をしていますが、リガーと比較するとクリエイティブな要素が多い点が、楽しいです。私は、どちらかと言うとクリエイティブな仕事が好きです。

また、Dreamworksの最新映画や未公開映画を先行して見れることも今の仕事の楽しいポイントだと思います。次の目標は、いつか映画チームに異動して、長編アニメーションの映画制作に携わることです。

――オアフ島と聞くと観光地のイメージが強いですが、現地の生活はどのような感じでしょうか。

オアフ島は、観光客もそうですが、私のような日系人や日本から移住してきた方もとても多い街です。アメリカの生活を体験してみたい日本人にはちょうど良い街なのではないでしょうか。

特に、アウトドア・アクティビティが好きな人ならピッタリです。私を含め、周りの知人たちも休みの日はサーフィンやハイキングに出かけたり、海辺でのんびりしたりする人が多いです。週末は、ファーマーズマーケットで買い物する人もたくさんいます。日系スーパーや、ドン・キホーテ、日本食レストランもたくさんあるので、困りません。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

まずは英語の勉強が必須です。技術力ももちろんですが、英語ができるに越したことはありません。諦めずにコツコツと勉強すれば、必ず結果はついてくると思います。

あとは、周りに何を言われても諦めないことです! 周りに何を言われても、自分のやりたいことを貫いて頑張ってください。

スタジオ敷地内にて

【ビザ取得のキーワード】

①両親が仕事の関係でハワイへ移住
②里帰り出産で、新潟県で生まれる
③両親と共にグリーンカードを取得
④卒業後、アメリカで就労

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TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」

EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada