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復刻・第30回:削岩機

復刻・第30回:削岩機

STEP 03:「石粒の動き」を考える ~破砕の石粒を再現する~

飛び散る量とスピードにバラつきを出して自然なシルエットを目指す

STEP 02で大きな石の飛散を制作しましたので、STEP 03ではそれに伴う小さな石粒の飛散を制作していきます。飛び散る方向や初速のスピードは大きな石と変化するところはありませんが、発生する量は画面全体を覆うほどです。小さな石粒は大きな石に比べると非常に量が多いため、大きな石と同様にシミュレーションを用いて動きを付けると処理に時間がかかってしまい、トライ&エラーがままなりません。そこで小さな石粒は動きと量の調整など全てをパーティクルフローを用いて再現していきたいと思います。


大きい石と小さな石粒の飛散は、数や飛距離などそれぞれに異なる特徴があります

小さな石粒は先ほど制作した大きな石の断面から大量に発生していますので、パーティクルフローのオペレータ[PositionObject]で大きな石を選択し、各オブジェクトのエッジ部分から小さな石粒が飛び出すように[Location]内にて発生位置を指定するプルダウンを[Edges]に変更します。


STEP 02で制作した大きい石を、石粒の発生源に設定します

発生源が決まったら次に石粒の動きを付けていきます。パーティクルイベント内にデフォルトで組み込まれているオペレータ[Speed]ではコントロールできるパラメータが少なく、どうしても均一な動きになりがちなため、代わりに指定したオブジェクトのサーフェスを基にパーティクルの速度と方向をコントロール可能なオペレータ[Speed By Surface]を適用します。3 の円マップが貼られた平面オブジェクトを複数オペレータに適用し、各自飛散する四方へ配置。面の角度を個々で調整してパーティクル発射角を決めます。さらにマップのグレースケールを基にした速度の調整、パーティクルの分散を司るDivergenceでは小さな石粒がランダムなシルエットになるよう数値を調整していきます。そのほか、動きに関連するオペレータとして[Force]にスペースワープ[Gravity]と[Drag]を使用して重力と空気抵抗をかけることでより自然な動きに近づくようにします。そうしてできたのが下の最終結果となります。


Speed By Surfaceを用いて、自然なバラつき感のあるシルエットになるよう調整します

石粒の動きができましたので最後に衝突の設定を行います。はじめに指定したオブジェクトに衝突判定を可能にする[UDeflector]を用意し、土台となっている破砕元の岩を選択します。パーティクルイベント内にはパーティクルに衝突判定を加えることができるテスト[Collision]を組み込み、先ほどの土台の岩が適用されているU Deflectorを指定して石粒が土台の岩に対して衝突判定が行われるようにします。これで土台の岩に向けて飛んだ小さな石粒にバウンドしたり岩の面を滑ったりといった、衝突による石粒の振る舞いを加えることができました。小さな石粒だけの最終結果が下画像になります。

  • U Deflectorにより、石粒と岩に衝突判定を適用します
  • 石粒のみのレンダリング結果

STEP 04:「岩の煙」を考える ~破砕の煙を再現する~

砂粒の煙の挙動を考え動きを付ける

破砕の石粒と同様に大切な要素のひとつである「破砕の煙」を再現していきます。この煙は焚き火やガスの燃焼時に発生するような煤や水蒸気ではなく、破砕された粒が粉末状となって空気中に漂っているものです。砂の粒の集合なので煤や水蒸気よりも重く、上空に拡散することなく岩に沿うように地面に落ちながら流れていきます。


削岩機の煙は砂粒の集合であるため重く、地面を這うような挙動になります

制作にはお馴染みのFumeFXを使用し、シミュレーションソースはSTEP03と同様に大きな石の破片を発生源にしたパーティクルをベースに行います。特徴となる地面に落ちていく動きはParticle Source内のTemperatureを下画像のようにマイナスの数値に入れてグリッド内の温度を下げ、地面方向へ煙の動きを誘導することでモクモクと上部へ上がらず地面の岩に沿うような振る舞いを再現することができます。


FumeFXを使用して、大きな石の破片を発生源に設定します


Temperatureをマイナス値に入れた場合(左)とデフォルト値の状態(右)の挙動の比較です

完成

削岩機はブレーカーだけではなく用途によってほかにも「ハンドハンマ」、「ストーパ」、「レッグドリル」、「オーガ」などがあります。筆者には馴染みのない業界なので調べれば調べるほど専門用語が飛び出し、まだまだ世界には知らないことが星の数ほどあると実感した次第です。


用途からサイズまで実に多種多様な削岩機が存在しているのですが、現在ネット上は他テーマと比べて詳しい解説がちょっと少ない印象。最終的に取扱説明書を読んで事なきを得たのでした



Profile.

  • 近藤啓太(ジェットスタジオ)
    エフェクトを中心に映像制作をしております


  • JET STUDIO
    ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
    www.jetstudio.co.jp


  • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.
  • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.


    定価:3,000円+税
    サイズ:B5変型/フルカラー
    総ページ数:288
    ISBN:978-4-86246-395-1

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