記事の目次

    今回は地雷の爆発を取り上げます。以前制作した「荒野の爆発」とはちがい地中での爆発となるため、地面の巻き込み方や破片、煙の種類などよく観察してつくっていきましょう。

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 218(2016年10月号)からの転載となります

    TEXT_近藤啓太(ジェットスタジオ
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    動画制作の裏話はこちら

    地雷の歴史と力

    今回のテーマは「地雷」です。ゲームや戦争をテーマにした映画などで目にする機会も多く、メジャーな部類に位置する軍事兵器のひとつです。地雷の歴史は古く、南北戦争ではすでに現代の地雷と同じように圧力を感知して爆発する地雷が使われていました。現在はこの感圧方式以外にも赤外線センサーによって起爆するものや、わな線と呼ばれる地面と平行に張った金属製のケーブルに引っかかると起爆装置が作動し爆発する地雷など様々なタイプが開発されています。

    地雷には本来の使用目的が2つあり、1つは進行する敵の足止めのため。もう1つはあえて致死量の爆薬を入れずに負傷者を発生させ、救出や治療のための人員コストの増加や、苦しむ仲間を目の当たりにすることでの士気の低下を招くことが目的でした。STEP 01で説明しますが、現在は跳躍地雷や指向性散弾のような広範囲に危害がおよび殺傷能力が高いものが開発されており、その脅威は大きくなる一途となっています。ちなみに日本は1997年に対人地雷禁止条約に署名しており、訓練用の地雷以外は全て破棄しているそうです。

    さて、そんな非常に恐ろしい兵器である地雷の爆発は書籍「イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.」に掲載の「荒野の爆発」とはちがい、地中で爆発することもあって煙の色や形、地面の破片の散乱など特徴のある爆発を見ることができます。今回は爆発の現象へのアプローチだけでなく、普段なかなか知ることのできない地雷の種類と起爆のしくみにも注目していきたいと思います。爆発という現象ひとつとっても爆発物や状況によって様々な表情を見せてくれます。

    主要な制作アプリケーション
    ・Autodesk 3ds Max 2015
    ・Adobe After Effects CS 6.0
    ・Krakatoa MX 2.4
    ・FumeFX 3.5.5

    STEP 01:「地雷の種類と構造」を考える~地雷を調べてみた~

    シンプルな構造と低コストで広く普及する兵器のひとつ

    地雷は、地上や地中だけでなく水深の浅い水辺や湖岸などにも設置され、人や車両の接触により爆発して危害を加える兵器です。構造が単純なため生産コストが低く、現在世界中に約5,000万個の地雷が埋められていると言われています。

    次に地雷が起爆する主なしくみです。各部位の名称は聞き慣れないものが多いですが、構造はいたってシンプル。地雷上部に圧力を加えるとベルビル・スプリングと言われる皿状のバネが押し込まれ、圧縮された刺激により発火装置が点火し内部の火薬が爆発します。

    地雷の種類は主に対人用と車両用に分かれます。対人用では「感圧起爆方式」と言われる一定の重量がかかると起爆するスタンダードな地雷のほかに、地上から約1mほど飛び上がり爆発する「跳躍地雷」、起爆の際、特定方向に鉛球や破片を撒き散らして広範囲に危害を加える「指向性散弾タイプ」など目的別に多くの地雷が存在します。車両用地雷は車体本体やキャタピラの破壊による無力化が主な目的のため、車両重量に合わせて起爆する感圧式がほとんどのようです。


    STEP 02:「地面の破壊」を考える ~破片の種類と動きを再現する~

    地面の破壊による要素のあぶり出しと動きの調整

    STEP 02では爆発による地面の破壊を再現します。地雷は通常地中で爆発していますので、飛散物も小さな石や砂に留まらず、草の生えている地面ごと深くえぐり吹き飛ばしていることが確認できます。この吹き飛ばされた各破片はパーティクルフローを用いて再現するために、まずは先述した石や砂のモデルはもちろん、草の生えた地面のモデルも数パターン用意していきます。


    地雷は地中で爆発するため、地面の破壊による破片にもいくつか種類がみられます


    破片モデルを種類に応じて用意します

    このモデル群がパーティクルとして飛ぶよう適用し、要素ごとにイベントを分けて、量、スピード、回転、飛び上がる高さ等の調整を行います。破片の配置や飛び上がるスピードについては、よりランダム感が出るようマップの白黒の幅によって配置分量や速度がコントロールできるようにしておきます。確認しやすいよう背景と地面の破片だけを表示した完成図が【4】です。


    マップの白黒の幅によって破片の分量や速度をコントロールできるよう設定します


    破片のみを表示した完成図

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    STEP 03:「地雷の爆発煙」を考える ~3つの特徴を活かして爆発を再現する~

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    STEP 03:「地雷の爆発煙」を考える ~3つの特徴を活かして爆発を再現する~

    煙の特徴に分けてシミュレーションし地雷の爆発を形づくる

    地中での爆発は砂利と土で構成され、対戦車地雷のような威力の高い爆発ではない限りはなかなか火が立ち昇ることはありません。今回の地雷爆発もそのほとんどが土煙となって地上に吹き出されています。地上で爆発が起きるよりも圧倒的に不純物が多く様々な挙動で推移していくため、1つの爆発では全ての煙のパターンを再現することは難しく、大きく3つの特徴に分けて制作することにしました。

    1つ目は上空に立ち昇る煙です。以前制作した「荒野の爆発」同様、爆心地を中心に上方向に伸び上がる煙です。注意する点は荒野の爆発のような地上での爆発とはちがい、砂利や土が多い分モコモコとした煙にならないようにすること。FumeFXパラメータ内のTurbulence Noiseを中心に使用して目の細かい質感になるようシミュレーションを行います。


    上空に立ち昇る煙は、[Turbulence Noise]の[Detail]の数値を上げて目の細かい質感を目指します

    2つ目に制作するのはサイドに流れていく煙です。この煙は1つめの立ち昇る煙よりも拡散するスピードが速く、1つめの煙が画面最上部に到達する前にほとんどが拡散して消えてしまいます。そこで、煙の拡散スピードを上げるためDissipation Min. Dens.とDissipation Strengthを調整することで煙が拡散して消えていくスピードを速くしておきます。


    サイドに流れる煙は、[Dissipation Min. Dens.]と[Dissipation Strength]の値を調整して消失速度を速くします

    最後となる3つ目の煙の制作では地中での爆発で最も特徴的な"トゲのある煙"を再現していきます。はじめに説明した通り地中の爆発は不純物が多く含まれるため、煙を突き破る石や砂が内部から多量に弾き出されます。そうした結果、煙にトゲのような大きく筋状に伸び上がる部分ができます。このトゲ状の煙をつくるためには現実と同様に煙の内部から飛び上がる障害物を用意します。パーティクルフローを用いて上空に障害物となるパーティクルを飛ばしたら、コリジョン用に全てのパーティクルをオブジェクト化します。このオブジェクトを衝突オブジェクトとして適用し、SpeedMulで衝突に対する反応を調整し適切なトゲの形になるようにします。各々の特徴をもつ3種類の煙ができたら、最後は1つにまとめてレンダリングします。


    トゲのある煙は、衝突判定用オブジェクトを用意し[SpeedMul]によりトゲの形を調整します


    【1】【3】の煙を合成します

    STEP 04:「粒感のある煙」を考える ~密度の薄い煙を再現する~

    PRT FumeFXで粒感の煙をねらう

    最後のSTEPでは爆発煙の周囲に漂う粒状の煙を制作します。メインとなる爆発煙以外にも、リファレンス動画をよく見ると先行して密度の低い薄い煙が漂っているのが見えます。この煙の特徴は爆発煙のようなフワッとした質感の煙ではなく、薄いながらもひとつひとつの粒が大きく、動きの推移もはっきり見て取れます。


    動画をよく見ると、爆発煙よりも先行して薄い煙が確認できます

    この煙を爆発煙と同様にFumeFXでレンダリングしてしまうと粉っぽい煙になってしまいます。そこで、動きについてはFumeFXを使用して再現し、レンダリングは大量の粒に置き換えることのできるKrakatoaを使用することにしました。はじめにVelocityチャンネルを保存したFumeFXをシミュレーションし、FumeFXのキャッシュをKrakatoaでレンダリングをするためにPRT FumeFXを用意します。このローダーにキャッシュを読み込みKrakatoaのパラメータで粒子の密度を調整して適切な煙の密度になるようにします。これでFumeFXの煙の動きを踏襲しながら粒の煙を制作することができました。


    PRT FumeFXを使用するための準備として、シミュレーション時にVelocityチャンネルの保存を設定しておきます


    PRT FumeFXローダーでFumeFXのキャッシュをKrakatoaに読み込み、粒子の密度を調整します


    爆発煙と合成して完成です

    完成

    現在も毎年数万個の地雷が新たに設置されており、今まで使用された地雷を含めて全て撤去するには1,000年かかると言われています。撤去するか接触するまで半永久的に埋設された土地、生活する人や動物に危害を及ぼし続けるため「悪魔の兵器」と呼ばれています。必ずしもエフェクト制作に必要な知識ではありませんが、こうした背景を知ることで画面から爆発の威力や恐怖がより多く伝えられるのではと思う今日このごろです。地雷ダメ、ゼッタイ。




    Profile.

    • 近藤啓太(ジェットスタジオ)
      エフェクトを中心に映像制作をしております


    • JET STUDIO
      ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
      www.jetstudio.co.jp


    • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.
    • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.


      定価:3,000円+税
      サイズ:B5変型/フルカラー
      総ページ数:288
      ISBN:978-4-86246-395-1