記事の目次

    月刊「CGWORLD + digital video」vol. 227(2017年7月号)まで月刊誌で続けられた本連載。今回から装いも新たにCGWORLD.jpにて展開していきます。ジェットスタジオ「リファレンス動画の模写」をテーマに、3ds Maxとプラグインを活用したフォトリアルなエフェクト制作法について詳しく解説!

    TEXT_近藤啓太(JET STUDIO
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

    紀元前から存在する「ガス溶接」

    CGWORLD本誌で連載していた「JET STDIO Effects Lab」ですが、今回からCGWORLD.jpに移行することとなりました。誌面に載らないのは少々寂しくもありますが、「Effects"動画"Lab」とも統合しいつでもどこでも記事と動画が併せて見ることができるようになりましたので今までより見易く便利になって筆者としても嬉しい限りです。

    さて、記念すべき移行後初となる第36回テーマは「ガス溶接」です。誌面連載7回目に「アーク溶接」を取り上げましたが同じ溶接でもアーク溶接は電気を利用するのに対し、ガス溶接はその名の通りガスを燃料どが確認でき、見た目は全く異なるためテーマに取り上げることにしました。溶接の始まりは古く、紀元前3000年頃の鉄製品にも作業の跡が見て取れるものが存在します。金属同士を熱して接合させる溶接の代名詞である「ろう付け」はもちろんのこと、棒状の金属の端を潰して繋ぎ合わせる「リベット接合」や金属同士を重ねて叩き強度を上げる「鍛鉄」のような、現在も行われているような高度な技術もすでにこの時代から存在していることが確認されています。本記事では一般的なガス溶接の構造としくみの紹介をはじめ、物理現象や実際に起きている事象から推測しそれらを元に<3>DCG制作でのアプローチ方法を紹介しています。

    3年目の節目となる回に本連載がCGWORLD.jpに移行したのも何かの縁。今まで紙の雑誌で読んでいた方々に加え、初めての人やエフェクトに興味がなかった人にも目に触れやすくなったわけなので、これをきっかけに連載とエフェクトに興味をもって&楽しんでいただければ幸いです。

    主要な制作アプリケーション
    ・Autodesk 3ds Max 2016
    ・FumeFX 3.5.5
    ・Adobe After Effects CS 6.0

    STEP 1:「特徴と手順」を考える 〜ガス溶接を調べてみた〜

    ガス炎を利用して金属を接合・溶断する工法

    溶接といえば本連載 第8回(本誌198号)に「アーク溶接」にも挑戦していますが、今回は「ガス溶接」の挑戦となります。ガス溶接とは酸素と可燃性ガスを混合し、そのガス炎の熱と圧力によって金属同士を接合・溶断する方法のことを言います。可燃性ガスはアセチレンをはじめ、水素やLPG(液化石油ガス)などが主に使用されており、ガス炎の燃焼温度は最大約3,300℃に達します。これはアーク溶接の最大温度の約半分なのですが、温度が低い分金属が溶ける時間が遅いのでゆっくり確実に作業ができること、ガスの調節が容易なので厚みのない薄板にも対応できることが大きな特徴となっています。ガス溶接使用の手順はおおまかに説明すると、

    1.酸素ガスボンベと可燃性ガスボンベの元栓を開く
    2.圧力調整器のバルブを適した圧力になるまで開く
    3.各ホースを溶接トーチに繋げたら可燃性ガス、酸素ガスの順にバルブを開き着火
    4.トーチのバルブを青白い炎(中性炎)になるよう調整したら完了

    と、なります。


    STEP 2:「ガス溶接の火花」を考える 〜火花を再現する〜

    2種類の火花のふるまいをPFlowを用いて制作する

    STEP 2では、溶接から発生する火花を再現します。アーク溶接の回でも説明しましたが、<1>溶接を行うと熱によって溶け出した金属や溶接棒が液体状となって周囲に飛散します。こうした火花のことを「スパッタ(spatter)」と言います。今回のガス溶接でも少量ですが火花が発生していますので再現していきたいと思います。

    <2>まずは発生源を決めます。元の動画を見ると最も高い温度の状態で浴びている部分、つまりトーチから鉄に始めに当たっている部分から特に火花が発生しています。図のあたりに発生源となるオブジェクトを配置したら次に火花となるパーティクルを用意します。パーティクルの動きは元の動画を見ると2種類のふるまいが見て取れます。1つ目は周囲に拡散して重力によって下に落ちていく火花。2つ目はスピードが速く寿命が短いために下に落ちる前に一瞬だけ発生して消えていく火花となります。この2種類の火花をイベントごとに用意していきます。<3>火花となるパーティクルは[Scale]オペレータ内[Relative Successive]で1fごとに縮小するように設定し、火花が小さくなっていくふるまいを再現します。

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    STEP 3:溶接の炎を再現する/「ガス溶接の炎」を考える

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    STEP 3:「ガス溶接の炎」を考える 〜溶接の炎を再現する〜

    炎の色によってシミュレーションを分割して制作

    ガス溶接のメインとなるガス炎を再現していきます。<1>ガス溶接の炎はSTEP 1で説明したように酸素と可燃性ガスの混合ガスに着火することで成り立ちます。その際、両ガスの混合比が溶接に適した炎を「標準炎」と言います。STEP 3では、この標準炎の炎を再現していきます。使用するツールはお馴染みのFumeFX。火口から出る炎は白心と言われる青白い炎となっていますが、金属に当たったあとは温度や酸素供給の変化により赤い炎に変化していきます。後ほどカラーの微調整ができるように「青白い炎」と「赤い炎」に分けて制作していきます。

    まずは「青白い炎」の制作です<2>。火口から出てくるため、発生源となるパーティクルを火口のオブジェクト内から出るように配置し、金属と火口のオブジェクトを衝突判定素材として適用します。カラーと主なパラメータは図のように調整して炎の色と動きをコントロールしていきます。次に「赤い炎」です<3>。炎が赤く変化していく境界線となる部位は元の動画を見ると金属のちょうど中心位置から始まっているようです。この辺りに火花と同様にパーティクルの発生源用オブジェクトを配置し、そこから赤い炎用のパーティクルを発生させます。炎の動きは青い炎よりも大きく揺らめいてるのでパラメータもより動きが強くなるようturbulenceの数値を上げるなどして動画の動きに近づけていきます。そうしてできた「青い炎」と「赤い炎」のレンダリング結果と、2つを組み合わせた最終結果が<4>となります。

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    <3>



    <4>


    完成

    ガス溶接いかがだったでしょうか。偶然社内に溶接経験者がいたこともあって、構造や用語の確認ができ安堵。インターネットを活用して情報を収集するのも効率的で良いのですが、やはり実際に経験のある人に聞くのが一番です。それでは、また次回!



    Profile.

    • 近藤啓太(ジェットスタジオ)
      エフェクトを中心に映像制作をしております。三十路を超えてから定期的に体調不良が続いております。「無事是名馬」とは昔の人も言うように、元気が一番であります。元気があれば何でもできる!


    • JET STUDIO
      ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
      www.jetstudio.co.jp