今回は、工事現場で活用される「削岩機」がコンクリートを破壊する様子を再現します。高速で動く先端が石を徐々に破砕していく、これまでの破壊エフェクトとはひと味ちがった表現に挑戦しましょう。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 222(2017年2月号)からの転載となります
TEXT_近藤啓太(ジェットスタジオ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
動画制作の裏話はこちら
削岩機の発展と歴史
今回のテーマは「削岩機」です。高速ピストンや回転により、硬い岩盤やコンクリートに穴を開けたり破壊したり剥がしたりと、破壊のことなら何でもござれな工事現場では必ずお目にかかると言ってもいいほどスタンダードな工具のひとつです。今回はその多様な用途の内のひとつであるコンクリートの破壊に挑戦することにしました。破壊と言えば今まで当連載の中でも数多く取り上げてきましたが、材質やスケール、環境によってまったくちがった振る舞いを見て取ることができ、つくるのも見るのも非常に楽しい人気のあるエフェクトです。今回は削岩機という道具を通してどんな新しい破壊の表情を見られるのか、きっと興味深い発見があるにちがいありません。
削岩機の歴史を紐解くと思ったよりも古く、1800年初頭にイギリスで発明されました。1800年中期には現在の削岩機の原型となる打撃式削岩機がアメリカで誕生し、日本でも発明から約30年後に鉱山採掘のために導入が始まります。1900年初期には日本人に適した小型の削岩機が開発され、今では採掘だけに留まらず大規模なトンネル工事や溶鉱炉作業でも活躍の場を広げています。100年以上の時を超えても改良を重ねて発明当時から比べものにならないくらい多くのシーンで使われている削岩機。小さな一歩でもコツコツと長い目で見て前に進めるような人間になりたいものです。
主要な制作アプリケーション
・Autodesk 3ds Max 2015
・Adobe After Effects CS 6.0
・FumeFX 3.5.5
・RayFire Tool 1.6.4
STEP 01:「構造と破砕の原理」を考える~削岩機を調べてみた~
超高速のピストン運動により岩やコンクリートを破砕する
今回のテーマは「削岩機」。使用した経験はなくとも名前は聞いたことがあるという人は多いのではないでしょうか。その名の通り岩やコンクリートを削るための機械ですが、種類も用途も様々。ボルトや爆薬を設置するための穴を開けたり解体による破砕や鉱石の採掘作業を主な用途として、100年以上前から改良を経て現在も使われ続けている歴史ある工具のひとつです。
今回再現する動画で使用されている削岩機は「ブレーカー」といわれる破砕をメインとする削岩機で、おおまかな構造ではエンジン部分となる機械本体、そこにチゼルと呼ばれる非常に硬い金属でできた棒を取り付け、この棒を対象に押し当て機械本体から行う高速のピストン運動(毎分1,500~3,000回)による打撃で対象を破砕することができます。破砕の原理はまさにノミとハンマーと同じ。機械の進化は昔からの工法や知恵にしっかりとつながっていることを感じます。
STEP 02:「飛散の動き」を考える ~石の飛散を再現する~
RayFire Toolで石の接触部を分割
まずは削岩機によって削られた石の飛散を再現していきます。削岩機の先端であるチゼルと石が接触するアニメーションを付けた後、RayFire Toolで石の接触部分を分割しておきシミュレーションの準備を整えます。
削岩機の先端であるチゼルにアニメーションを付けた後、RayFireToolで石との接触部分を分割します
次に同プラグインシミュレーション用のスペースワープであるRF_Bombを適用し、チゼルと石の接触部位に配置したら接触のタイミングに合わせて分割した破片が吹き飛ぶよう設定します。チゼルを中心に破片が四方に飛び散るように微調整をくり返したら、石の飛散は完成となります。
RFBombを適用し、接触のタイミングに合わせて分割した破片が飛び散るよう設定します
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STEP 03:「石粒の動き」を考える ~破砕の石粒を再現する~
STEP 03:「石粒の動き」を考える ~破砕の石粒を再現する~
飛び散る量とスピードにバラつきを出して自然なシルエットを目指す
STEP 02で大きな石の飛散を制作しましたので、STEP 03ではそれに伴う小さな石粒の飛散を制作していきます。飛び散る方向や初速のスピードは大きな石と変化するところはありませんが、発生する量は画面全体を覆うほどです。小さな石粒は大きな石に比べると非常に量が多いため、大きな石と同様にシミュレーションを用いて動きを付けると処理に時間がかかってしまい、トライ&エラーがままなりません。そこで小さな石粒は動きと量の調整など全てをパーティクルフローを用いて再現していきたいと思います。
大きい石と小さな石粒の飛散は、数や飛距離などそれぞれに異なる特徴があります
小さな石粒は先ほど制作した大きな石の断面から大量に発生していますので、パーティクルフローのオペレータ[PositionObject]で大きな石を選択し、各オブジェクトのエッジ部分から小さな石粒が飛び出すように[Location]内にて発生位置を指定するプルダウンを[Edges]に変更します。
STEP 02で制作した大きい石を、石粒の発生源に設定します
発生源が決まったら次に石粒の動きを付けていきます。パーティクルイベント内にデフォルトで組み込まれているオペレータ[Speed]ではコントロールできるパラメータが少なく、どうしても均一な動きになりがちなため、代わりに指定したオブジェクトのサーフェスを基にパーティクルの速度と方向をコントロール可能なオペレータ[Speed By Surface]を適用します。3 の円マップが貼られた平面オブジェクトを複数オペレータに適用し、各自飛散する四方へ配置。面の角度を個々で調整してパーティクル発射角を決めます。さらにマップのグレースケールを基にした速度の調整、パーティクルの分散を司るDivergenceでは小さな石粒がランダムなシルエットになるよう数値を調整していきます。そのほか、動きに関連するオペレータとして[Force]にスペースワープ[Gravity]と[Drag]を使用して重力と空気抵抗をかけることでより自然な動きに近づくようにします。そうしてできたのが下の最終結果となります。
Speed By Surfaceを用いて、自然なバラつき感のあるシルエットになるよう調整します
石粒の動きができましたので最後に衝突の設定を行います。はじめに指定したオブジェクトに衝突判定を可能にする[UDeflector]を用意し、土台となっている破砕元の岩を選択します。パーティクルイベント内にはパーティクルに衝突判定を加えることができるテスト[Collision]を組み込み、先ほどの土台の岩が適用されているU Deflectorを指定して石粒が土台の岩に対して衝突判定が行われるようにします。これで土台の岩に向けて飛んだ小さな石粒にバウンドしたり岩の面を滑ったりといった、衝突による石粒の振る舞いを加えることができました。小さな石粒だけの最終結果が下画像になります。
STEP 04:「岩の煙」を考える ~破砕の煙を再現する~
砂粒の煙の挙動を考え動きを付ける
破砕の石粒と同様に大切な要素のひとつである「破砕の煙」を再現していきます。この煙は焚き火やガスの燃焼時に発生するような煤や水蒸気ではなく、破砕された粒が粉末状となって空気中に漂っているものです。砂の粒の集合なので煤や水蒸気よりも重く、上空に拡散することなく岩に沿うように地面に落ちながら流れていきます。
削岩機の煙は砂粒の集合であるため重く、地面を這うような挙動になります
制作にはお馴染みのFumeFXを使用し、シミュレーションソースはSTEP03と同様に大きな石の破片を発生源にしたパーティクルをベースに行います。特徴となる地面に落ちていく動きはParticle Source内のTemperatureを下画像のようにマイナスの数値に入れてグリッド内の温度を下げ、地面方向へ煙の動きを誘導することでモクモクと上部へ上がらず地面の岩に沿うような振る舞いを再現することができます。
Temperatureをマイナス値に入れた場合(左)とデフォルト値の状態(右)の挙動の比較です
完成
削岩機はブレーカーだけではなく用途によってほかにも「ハンドハンマ」、「ストーパ」、「レッグドリル」、「オーガ」などがあります。筆者には馴染みのない業界なので調べれば調べるほど専門用語が飛び出し、まだまだ世界には知らないことが星の数ほどあると実感した次第です。
用途からサイズまで実に多種多様な削岩機が存在しているのですが、現在ネット上は他テーマと比べて詳しい解説がちょっと少ない印象。最終的に取扱説明書を読んで事なきを得たのでした
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近藤啓太(ジェットスタジオ)
エフェクトを中心に映像制作をしております
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JET STUDIO
ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
www.jetstudio.co.jp