記事の目次

    今回は戦闘機の防衛兵器のひとつ、「エンジェルフレア」を取り上げます。大きく広がる美しい羽根の形にも きちんと理由があります。そのしくみを理解して、再現に取り組みましょう。

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 202(2015年6月号)からの転載となります

    TEXT_近藤啓太(ジェットスタジオ
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    好奇心をもつことの大切さ

    11回目となる本連載のテーマは「エンジェルフレア」です。筆者もそうですが、兵器や軍事ジャンルにあまり興味がない方には耳慣れない言葉ではないでしょうか。フレアとは誘導ミサイルを回避するためのいわゆる「防衛兵器」のひとつになります。戦闘機には、ほぼ全てと言ってもいいくらいこのフレアという兵器が装備されているのですが、数あるフレアの中でもひときわ異彩を放つのが今回のテーマであるエンジェルフレアなのです。上の完成画像をご覧の通り、まるで天使の羽根のように上空に大きく広がる煙と光が印象的ですよね。もちろん、ただ綺麗なだけではなくちゃんとした理由があってこの形になっているのですが、詳しい話は次項へ任せるとしましょう。

    本連載第5回で挑戦し、書籍にも掲載した「戦車砲」もそうですが、普段自分に馴染みのないものをテーマにすると興味のあるもの以上に多くの発見をすることができます。それは技術や科学的な情報はもちろんのこと、そのテーマに派生する歴史や生まれた経緯など、今まで知る機会がなかった「知識」が得られることです。デザイナーの心得としてよく言われる「好奇心をもつ」ということは、あらゆる知識をもつことで、普通に過ごしているだけではなかなか気づかない驚きや感動を、制作物を通して伝えることができるようになるからだと思います。なかなか興味がもてないものに飛び込んでいくのは億劫ですが、自分でも気づかなかった楽しさや面白さを発見したときの喜びは、きっとデザイナーとしての表現にも厚みをもたらすのではないかと思います。

    主要な制作アプリケーション
    ・Autodesk 3ds Max 2013
    ・Adobe After Effects CS5.5
    ・FumeFX 3.5.5
    ・Optical Flares
    ・V-Ray 3.10.01

    STEP 01:「フレアのしくみと発展」を考える ~羽根の形にも理由があった~

    誘導ミサイルの対策として発展した天使の羽根

    まず「フレア」とは何なのかということから説明します。ミサイルの中には、熱から発する赤外線を感知して誘導する「赤外線誘導ミサイル」があります。このタイプのミサイルは、動力源であるエンジンやその排気口めがけて飛んでくるので撃墜される可能性も高く危険です。そこで登場するのがフレアです。フレアとは混合した金属の粉を燃焼させ、高い熱と強烈な光を出すものを言います。このフレアを発生させることで先ほどの「赤外線誘導ミサイル」の目標を、機体本体からフレアへと転嫁することができるというわけです。

    エンジェルフレアも同様にミサイル回避に使用するのですが、羽根の形をしているのにもれっきとした理由があります。ミサイル側にも対策が施されており、単発のフレアだけでは騙されないように赤外線+目標のシルエットまで認識するようになりました。そのためフレアは今までのような「点」の動きではなく、大量のフレアを射出することで飛行機のシルエットに近い「面」を作ることで、対策されたミサイルも回避できるようになりました。ただ美しいというだけではなく、しっかりと形に理由があったのですね。


    STEP 02:「フレアの光」を考える ~発光が重要な役割を担う~

    Optical Flaresでフレアの発光を再現する

    STEP 02ではフレアの先端から発生する強い光を再現します。フレアとしての重要な機能を担う発光は、After EffectsのプラグインOptical Flaresで制作します。Optical Flaresはハイライト部分にグローを加えることができるプラグインです。筋のある光も表現することができるので、今回のフレア表現にはうってつけのプラグインでもあります。


    Optical Flares適用前後の例。ハイライト部分に輝くグロー効果を追加することができます

    まずは光源の基となるハイライト素材を用意します。フレアの煙の先端が光るようにしたいので(STEP 03で後述)、煙のシミュレーションで使用したパーティクルフローを流用してハイライト素材を出力します。素材が用意できたらAfter Effectsに読み込み、Optical Flaresを適用します。光の大きさや筋の長さや数をパラメータ内で調整して、動画の発光に近づけていきます。


    煙のシミュレーション用のパーティクルソースを流用し、ハイライト素材を出力します


    素材ができたらAEに読み込んで見た目を調整していきます

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    STEP 03:「フレアの煙」を考える ~煙の形が大切だった~

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    STEP 03:「フレアの煙」を考える ~煙の形が大切だった~

    後方乱気流による渦巻く煙はSpiral Gravityで再現

    STEP 03では、エンジェルフレアを形成する上で最も大切な「フレアの煙」に挑戦します。煙の作成には定番のFumeFXを使用するのですが、パーティクルをベースにシミュレーションを行いたいので、まずは実際のフレアが射出されている部位にパーティクルの発生源を配置していきます。エンジェルフレアはAC-130と言われるアメリカ製の大型飛行機によって射出されたフレアのことを指します。


    フレアはフレアディスペンサーと呼ばれる射出口から発射します。そこからマグネシウムを主とした混合金属の粉末が入ったカートリッジを射出、燃焼し、激しい熱と強い光を発します。結果、燃焼したマグネシウムは大量の白煙を発生します

    この機体から射出するフレアの発生源は主に両翼の下部、機体の底面の計3箇所になるので、この3箇所の部位にパーティクルの発生源となるアイコンを配置していきます。配置が完了したらリファレンス動画を見ながら射出のタイミングや量、動きを見極めパーティクルを発生させます。パーティクルの調整が終わったらFumeFXで煙のシミュレーションを行います。パラメータでは[Gravity]の影響を減らし[Velocity Multiplier]によって煙がパーティクルの進行方向に推移していくよう調整をしていきます。



    • フレアの主な発生源である両翼下部、機体底面の計3箇所に、パーティクルの発生源を配置します



    • 立ち昇るような動きをさせたくない場合は[Gravity]の数値を0にし、パーティクルの進行方向に動きの推移をコントロールできる[VelocityMultiplier]で煙の流れる方向を調整します

    次に天使の羽根と言われる理由でもある、煙で特に印象的な羽根の付け根部分に注目します。リファレンス動画では、左右にある煙の発生箇所を中心に渦状に回転しているのが見て取れました。この現象は本連載第4回「小屋の破壊」で紹介した「スリップストリーム」から派生する「後方乱気流」によって引き起こされているものと思われます。スリップストリームとは、物体が高速で移動したときに起きる物体後部への空気の引き込み現象のことで、後方乱気流はその空気の流れに付随し左右両翼先端から生まれる渦状の気流のことを言います。


    飛行機の高速移動により機体後部に空気が引き込まれ、両翼の先端から渦状の「後方乱気流」が発生します

    この気流の動きを再現するには、外部プラグインのスペースワープ「Spiral Gravity」を使用します。Spiral Gravityは空間内を限定して渦状の力を加えることができるスペースワープで、パーティクルイベントだけでなくFumeFXにも適用できるため直接シミュレーションに影響させることができます。このスペースワープを両翼に配置し、後方乱気流のような動きをするように調整をくり返していきます。少しわかりづらいかもしれませんが、機体中央付近の筋煙が内側に引き込まれるように回転している動きをしています。後方気流という現象は今回のエンジェルフレア発生時に限らず、飛行機全般で必ず起きている現象です。このような知識をあらかじめ知っておくことは、エンジェルフレアだけではなく様々な現実のエフェクトに応用できたり、制作の糸口になったりすることがあります。


    スペースワープ「Spiral Gravity」を両翼に配置し、後方乱気流の動きを再現するように調整していきます


    テスト用のシーンでシミュレーションした結果。Spiral Gravityの影響範囲だけ煙が渦を巻いているのがわかります

    STEP 04:「フレアの照り返し」を考える ~照り返しを綺麗に出すには~

    VRayLightMtlでパーティクルを光源に

    最後にフレアによる照り返しを再現します。V-Rayを使用している場合は[VRayLightMtl]を活用します。このマテリアルを適用したオブジェクトやパーティクルは光源として扱うことができるようになるので、大量の光源を配置する必要がある場合に効果を発揮します。



    • VRayLightMtlの設定画面



    • VRayLightMtlを適用したオブジェクトやパーティクルは、光源として扱うことができます

    今回はフレア煙で使用したパーティクルと同じイベントに適用して照り返しを制作します。こうすることで常にフレアの射出と同じタイミングで照り返しを発生させることができるようになります。次にマテリアル内のパラメータ[Direct illumination]にチェックを入れて、VRayLightのMeshモードと同じ直接光源として扱えるようにしておきます。GIを必要とせず綺麗な照り返しが出るので、レンダリングコストも削減できR&Dをくり返す場合は重宝します。使用の際は、照り返しを受けるオブジェクトには必ずVRayMtlを適用しておくのを忘れないようにしましょう。こうしてフレアの照り返しも完成しました。

    【3】[Direct illumination]にチェックを入れ、煙用パーティクルを直接光源として扱えるようにします/ 【4】Direct illuminationあり(GIなし)の状態とDirect illuminationなし(GIあり)の状態の比較。GIなしでも照り返しが綺麗に出ているのがわかります/ 【5】オブジェクトにはStandardマテリアルではなく、必ずVRayMtlを適用しましょう。そうすると、VRayLightMtlの照り返しが綺麗にレンダリングされます


    完成した照り返し

    完成

    「エンジェルフレア」いかがでしたでしょうか。軍事に関わる資料はあまり詳細が開示されていないのか、はたまた筆者の情報収集能力に問題があるのか、なかなかフレアの情報が見つからず苦労しました。やっと見つけたとしても別の資料ではちがうことを言っていたりとインターネット上にある情報の取り扱いの難しさを感じることも。




    Profile.

    • 近藤啓太(ジェットスタジオ)
      エフェクトを中心に映像制作をしております


    • JET STUDIO
      ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
      www.jetstudio.co.jp


    • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.
    • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.


      定価:3,000円+税
      サイズ:B5変型/フルカラー
      総ページ数:288
      ISBN:978-4-86246-395-1