今回は知る人ぞ知る自然現象「火災旋風」を取り上げてみました。先頃リリースされたFumeFX 4.0の新機能を活用して動画を再現していきます。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 211(2016年3月号)からの転載となります
TEXT_近藤啓太(ジェットスタジオ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
ツールとより良い関係を築くには
大きいものでは100m以上もある高さの火の渦を生み出すというこの火災旋風。山火事のような広範囲の火災が起きた際にしか発生しないとあって、資料も少なくなかなか未知の部分が多い挑戦でした。
今回模写にあたって重要な役割を担ったツールであり、今までの挑戦で何度もお世話になった筆者お気に入りのソフトのひとつでもあるFumeFXのバージョン4.0が先ごろ(※2015年10月)リリース! ちょうど火災旋風の再現にピッタリの新機能が搭載されたということでさっそく使用してみました。はてさて、どんな用途で使われたかは記事内を読んでいただくとして......ここでは筆者が思う制作とツールの良い関係について少しだけお話しようと思います。日々進化していくツールと新規ツールの誕生により、エフェクト系に限らず作品のクオリティを高める上で外部プラグインの使用頻度は高まるばかりです。筆者も日々の制作において様々なツールを使用していますし、これからの映像制作ではますます切っても切れない選択肢としてツールの重要性は増していくだろうと思われます。
そんな時代の潮流の中でひとつ気になることは「ツールに頼りすぎてしまうジレンマ」です。ツールの進化は表現力の向上だけでなく、使いやすさという点も含みます。これは「簡易でかつクオリティの高いツールが生み出す表現に頼りすぎてしまう」ことにつながります。ツールを使わないということではなく「どんな状況でも自分の表現力で制作できるか」という問いかけにどれだけ答えられるのかが大切だということです。エフェクトはシミュレーションソフトが台頭し、制作の自動化が著しい職種でもあります。ツールとより良い関係を築くためにも、日々精進に邁進するのみであります!
主要な制作アプリケーション
・Autodesk 3ds Max 2015、2016
・Adobe After Effects CS6.0
・FumeFX 4.0
STEP 01:「火災旋風」を考える ~実は身近な現象だった~
100mにもなる巨大な竜巻状の渦
「火災旋風」、あまり聞き慣れない名前なので今回のテーマで初めて知ったという方も多いかと思います。火災旋風とは、山火事や地震など広範囲で起きた火災により地上近くで局地的に発生する、竜巻状の渦のことを言います。その高さは100mを超えるものもあり、風速80m/s以上のスピードで渦巻くことも相まって震災では激しい火災を引き起こす非常に危険な現象のひとつとなっています。
今回連載で取り上げるために発生のメカニズムを調べたのですが、周囲からの空気の引き込みや上昇気流が影響しているといった渦になる要因までは解明されている反面、火災旋風が発生するきっかけや場所の特定など根本的な発生原因は当日の気象条件のような環境に依存する部分が多く、未だに詳しい理由がわかっていないようです。日本での代表的な事例では、1923年に起きた関東大震災で100ヶ所以上の火災旋風が大小規模を問わず発生したことが報告されており、最近では東日本大震災でも観測されているので認知度とは対照的に身近な自然災害のひとつとなっています。本稿ではテーマである火災旋風のほか、周囲の煙や煙の渦を含めて再現していきます。
STEP 02:「煙の質感」を考える ~山火事の煙を再現する~
[Vorticity]、[Turbulence Noise]で煙の質感をコントロールする
STEP 02では火災旋風を取り巻く周囲の煙を再現していきます。火災旋風の周囲は大規模な火災が発生している場合が多く、リファレンス動画でも広範囲で煙が湧き上がっているのが見て取れます。山火事の煙はガソリンやガスによる爆発の煙とはちがい色が白く、ボソボソとした粉のようなディテールとなっています。これは主な燃料が水分量の多い生の草木であり、煙に含まれる水蒸気の量が多いためです。
この煙を再現するためには当連載お馴染みのFumeFXを使用します。ボヤッとした煙を表現する際には、[Vorticity]と[Turbulence Noise]が主に関わってきます。[Vorticity]は煙の質感を直感的に細かく変化させることができ、[Turbulence Noise]では煙の動きに対して「ノイズを用いてどのくらいのスケール、速さ、詳細さで乱すか」をコントロールすることができます。ノイズのスケールはスペーシングサイズに依存しており、公式によると「Spacing×5=スケールサイズの基準値」となるようです。こちらに加え、[Frames]、[Detail]を調整することでカッチリした黒煙からボソボソとした煙の質感まで表現することができます。
煙の色は、燃料となっている物質や燃焼環境によって変わります。山火事の場合は白い煙が発生します
山火事特有の煙の質感を表現するには、[Vorticity]と[Turbulence Noise]を活用します
ノイズのスケールサイズ基準値はSpacingの値の5倍になります
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STEP 03:「炎の渦」を考える ~渦を形づくるメカニズムが大切だった~
STEP 03:「炎の渦」を考える ~渦を形づくるメカニズムが大切だった~
VortexとFumeFX 4.0の新機能「Spline Follow」で火を形づくる
STEP 03は火災旋風による炎の渦を再現していきます。STEP 01で説明したように、火が渦状になるには周囲から空気の引き込みや上昇気流が大切な要素となります。
火が渦状になるには、空気の対流からの上昇を再現することが重要です
この要素を3DCG上で再現するためにFumeFX 4.0から追加された新機能[Spline Follow]を軸に制作します。この機能の主な特徴は、適用したシェイプに火や煙が沿うような動きをシミュレーションに反映できるようになることです。今までのようにレンダーワープなどの後処理で強制的に変化させるのではなく、シミュレーションから形をコントロールすることができるので破綻なく意図した動きを実現できるようになり、今回の火柱のような形状を目指すにはまさにうってつけの機能と言えます。
FumeFX 4.0の新機能[Spline Follow]は、適用したシェイプに沿って火や煙のシミュレーションを行うことができます
さて、さっそく[Spline Follow]を用いて火の渦となる部位の形状をコントロールしていきます。ランダムにうねり続けることを考慮し、シェイプのポイントを動画の火の動きに合わせてアニメーションを付けていきます。次にシェイプのながれがシミュレーションに影響するよう[Inf.Radius]、[Along Axis Force]の[Strength]の値を調整し、シミュレーション時に火がどれくらいシェイプに忠実に沿うか、シェイプ方向にどれだけ重力の影響を与えるかを設定します。そうしていったんシミュレーション結果を確認したものが下の画像になります。パラメータ調整によって結果が大きく変わるので、理想の形になるようトライ&エラーをくり返します。
Spline Followを用いて、シェイプの頂点を火柱の動きに合わせてアニメーションさせていきます
形状がある程度完成したら火に回転を加えていきます。渦を再現するために今回使用するのはスペースワープの[Vortex]です。このスペースワープは適用したものに対して渦状の動きを付けることができる機能です。普段はパーティクルの動きに使用することが多いのですが、FumeFXに適用することでシミュレーションの際、火や煙に渦状の動きを加えることができるようになります。主に調整するパラメータは3つ。[Axial Drop]では軸方向による速度、[Orbital Speed]は回転の速度、[Radial Pull]はアイコンの軸を中心に回転を行う距離を指定します。この[Vortex]と[Spline Follow]を組み合わせて微調整したのち、再度シミュレーションしたものが適用結果の画像となります。画像だけでは少し伝わりにくいかもしれませんが、柱状の形を維持したまま火にうねりを加えることができました
中心の火柱が完成したら地上付近で燃え上がっている火を制作します。こちらも同じくFumeFXを使用してパーティクルをベースにシミュレーションを行います。この地上で燃えている火も火柱と同様、火災旋風により引き込まれていますので柱状とはいかないまでも中心部に吸い込まれているような振る舞いをさせるため、先ほど火柱のために用意した[Vortex]を適用しておきます。
火柱、地上の火のレンダリングが完了したらコンポジット上で組み合わせ、モーションブラーをかければ火災旋風による火が完成となります。
火柱と地上で燃える火のレンダリング素材をコンポジットし、火の完成です
STEP 04:「砂煙」を考える ~引き込まれる砂煙を再現する~
発生ソースの特徴を活かして砂煙を再現する
リファレンス動画では炎の渦とは別に、砂煙が渦状に巻き上がっているのが見て取れます。STEP 04ではこの煙を再現していきます。この砂煙も炎の渦と同じように周囲の煙を中心部に引き込むことで巻き上がっているようです。さて、制作にあたって要素を2つに分けて再現することにしました。1つめは火災旋風に引き込まれて竜巻状になった煙。もう1つは中心部に引き込まれていく地上の煙です。
火柱の周囲に巻き上がる砂煙は、竜巻状の煙と地上の煙の2つに分けられます
両要素ともFumeFXで制作するのですが、竜巻状の煙は回転スピードやシルエットが調整しやすいオブジェクトべースで制作。地上から引き込まれる煙は自然な動きや質感を調整しやすいパーティクルべースで制作していきます。地上の煙は竜巻を中心に左右に流れる煙をシミュレーションし、コンポジット上で竜巻状の煙に挟み込むことで煙が中心部に集まっているように見せます。
竜巻状の煙はオブジェクトべース、地上の煙はパーティクルべースで制作します
最後に竜巻と地上の煙が馴染むようにカラー調整を行なったら完成となります。
完成
「火災旋風」いかがだったでしょうか。この自然現象の恐ろしいところは、竜巻と同じように一点に留まらず空気のある方へと移動をくり返すため被害が増す一方だということ。これが都市部に発生したらと思うと、身震いしてしまいます。遭遇する日が来ないことを祈りつつ、次回またお会いしましょう。
Profile.
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近藤啓太(ジェットスタジオ)
エフェクトを中心に映像制作をしております
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JET STUDIO
ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
www.jetstudio.co.jp