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復刻・第32回:噴煙

復刻・第32回:噴煙

STEP 03:「噴煙の動きと質感」を考える ~煙の特徴を捉えて再現する~

黒い煙と白い煙の特徴を考え動きと質感を調整していく

STEP 03では噴煙を制作します。噴煙を再現するためには大きく2つの煙の要素を組み合わせていきます。1つめは「モクモクと上がる黒い煙」、2つめは「山肌に沿って流れる煙」です。1つめのモクモクと上がる黒い煙は火口から噴出するガスや上昇気流の勢いで上空数十キロまで高く昇ります。見た目は火山灰や岩石の破片が多く含まれるため色が暗く、さらに煙下部からの押し上げによって煙上部はカリフラワー状の凸凹とした質感がはっきりと見て取れます。2つめの山肌に沿って流れる煙は1つめの黒い煙とは異なり白色に近く、質感もどちらかというとサラサラとした印象をもちます。マグマや山体に含まれる岩石や鉱物にも左右されますが、火山ガスの中に含まれる水蒸気が空気中で冷やされ細かい水滴となったため、前述したような白いサラサラとした煙になったと考えられます。


噴煙は、モクモクと高く上がる黒い煙と、山肌に沿って流れる白い煙の2つの煙から構成されます

以上を踏まえてさっそく制作に入ります。まずは1つめの黒い煙から。煙のシミュレーションにはいつものようにFumeFXを使用します。煙の発生源となる火口付近に煙のエミッタとなるオブジェクトを配置します。オブジェクトには[Noise]モディファイヤなどを利用して凹凸が出るように形状を崩しておきます。こうすることで煙をシミュレーションした際に自然なシルエットの煙がつくられやすくなります。


まず黒い煙は、平面オブジェクトにNoiseモディファイヤを適用したものを発生源とします

FumeFX内パラメータでは煙が多く出るようにObject Src内[Smoke]の[amount]値を多くし、火口部からの煙の突き上げを強くするため[Velocity]の[Object's]や[Extra]の数値を高く調整します。さらにディテールアップのために[Sim]タブの[Vorticity]パラメータにアニメーションキーを付けることで、最大値である1.0を超えた数値を入力します。そのほか、Turbulenceの数値調整をしたら後はひたすらシミュレーションをくり返して質感と煙の動きの良いバランスを目指します。


黒い煙の質感や量などを、パラメータで調整します

黒い煙ができたら2つめの白い煙の制作に入ります。まずは煙の発生源ですが、黒い煙と同様にオブジェクトをベースにシミュレーションを行います。山肌に沿って流れる煙を想定し、あらかじめエミッタのオブジェクトは山に沿うようなかたちで配置します。質感は水蒸気が多い分フワッとした印象があるため、黒い煙よりもTurbulence NoiseのScaleを小さくして細かい顆粒ができるように調整します。最後に山を衝突オブジェクトとして適用したら、こちらもひたすら良い画ができるまでシミュレーションのトライ&エラーをくり返します。2つの煙の動きと質感のバランスが上手く取れない場合はRetimerを用いてスピードの調整を行うのも良いかもしれません。最終的に黒い煙と白い煙を合わせてレンダリングした画像が【5】です。


白い煙は、山の稜線に沿って発生源となるオブジェクトを配置することで表現します


黒い煙と白い煙を合わせたレンダリング結果

STEP 04:「火山雷」を考える ~火山雷と照り返しを再現する~

雷用テクスチャと照り返し素材を制作する

最後のSTEPでは火山雷を制作します。参考にした動画が日中のもののためあまり目立ちませんが、要素を見逃さずできる限り再現していきます。STEP 01でも紹介したように、噴煙内では火山灰を構成している微小な石や灰が無数に飛び交っています。こうした火山灰同士が衝突した際に摩擦が起き、電気が煙内部で溜まり、雷となって大気中に放電されています。リファレンス動画でも火山雷が確認できますので雷の素材と噴煙への照り返しを用意していきます。


火山雷は、火山灰の衝突により火口付近に多く発生する放電現象です

まずは雷ですが、発生時間が1f~2fと非常に短いため通常の動画撮影ではほとんど動きの変化が見られません。そこで今回はシンプルにペイントソフトで描いた雷をテクスチャにして3Dソフト上でレンダリングすることにします。


発生時間が非常に短いため、今回は手描きのテクスチャによって表現します

次に照り返しは雷を配置した場所にオムニライトを配置し、雷が発生している瞬間だけライトが反応するよう[Multiplier]にキーアニメーションを付けておきます。そうして完成した雷と照り返しの素材が【4】です。


雷の配置場所にオムニライトを配置し、Multiplierにキーを打つことで雷が発生している間だけ光るように照り返しを設定します


完成した雷の素材と照り返し素材

完成

「噴煙」はいかがだったでしょうか。煙の規模に注目しがちですが、画では小さく見える噴石も実は大きなものでは直径5mの岩石が落ちてくることもあるそうです。筆者も登山経験がありますが、今登っている山が噴火したらと思うと生きた心地がしません。自然のダイナミックさとそれ以上に惹きつけてやまない魅力を感じつつまたどこかでお会いしましょう。


煙のディテールとスケール感のバランスが非常に繊細。噴煙が夢に出るほどシミュレーションをくり返したのは良い思い出です



Profile.

  • 近藤啓太(ジェットスタジオ)
    エフェクトを中心に映像制作をしております


  • JET STUDIO
    ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
    www.jetstudio.co.jp


  • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.
  • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.


    定価:3,000円+税
    サイズ:B5変型/フルカラー
    総ページ数:288
    ISBN:978-4-86246-395-1

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