ストーリーテリングの多様性を体感できるVR Theater
C:VR Theaterは既にチケットが完売しているそうですね。
石丸健二氏(以下、石丸):1回あたり12席しかご用意できないので、会期全体を通しても視聴できる回数は限られてしまいます。完売は嬉しいですが、希望者全員にチケットがいきわたったわけではないと思うので、申し訳ない気持ちもあります。
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石丸健二
講談社VRラボの代表取締役で、映像やVRコンテンツのプロデューサーとしても活動。代表作は、アイドルVRコンテンツ『Hop Step Sing!』、『シドニアの騎士』シリーズ、『げんきげんき ノンタン』OVAシリーズなど。SIGGRAPH Asia 2018ではVR Theater ディレクターを務める。
C:VR TheaterもSIGGRAPH Asiaで実施するのは初めてですが、どういう経緯で実施が決まったのでしょうか?
安生:最初に「やりたい」と言いだしたのは私で、Computer Animation Festival(以下、CAF)チェアの塩田周三さんも「やらなきゃならないでしょうね」と同意してくれたので、実施を決めました。ここ数年、SIGGRAPHでもSIGGRAPH Asiaでも、VR関連のプログラムはすごく人気があるので、VR Theaterの実施は必然だろうと思いました。とはいえ、まだまだVRは試行錯誤中の表現方法ですから、ディレクターの石丸さんにはご苦労をかけています。
▲SIGGRAPH Asia 2018の、CAFの概要を紹介するスライド(SIGGRAPH Asia 2018記者会見(10月24日実施)時の資料より)
C:上映される4作品は、公募作品とキュレーション作品の中から選ばれたそうですね。
石丸:私がディレクターになったのは公募期間の終了直前で、応募数は13作品に留まっていました。しかもVR Theaterの視聴環境だと上映できない作品が多数含まれていたのです。そのためほかの審査員とも相談して、キュレーション作品を加えることにしました。
C:視聴環境に左右されるというのは、VRコンテンツならではの課題ですね。
石丸:ハードウェアの問題だったり、権利の問題だったりで、泣く泣く上映を断念した作品がいくつかありました。それでも審査員のTuna Boraさんには「すごくいい作品が揃ったし、バリエーションも豊かだし、アジアらしさも出ている」と喜んでいただけたので、少し気が楽になりました。
▲【左】SIGGRAPH Asia 2018のVR Theater応募作品審査会の様子/【右】VR Theaterの審査員を紹介するスライド(SIGGRAPH Asia 2018記者会見(10月24日実施)時の資料より)。「審査員を全員日本人にすることは避けたかったし、女性の意見もほしいと思い、Boraさんに審査員を依頼しました。彼女は『Pearl』というアカデミー賞にノミネートされたVR作品のアートディレクションを担当していたので、適任だと思いました。待場勝利さんは私よりはるかに目が肥えており、最新の「VR作品の世界標準」を知っている方だったので、とても頼りになりました」(石丸氏)
▲SIGGRAPH Asia 2018の、VR Theater上映作品を紹介するスライド(SIGGRAPH Asia 2018記者会見(10月24日実施)時の資料より)
▲『Google Spotlight Stories: Sonaria』トレーラー
▲『結婚指輪物語VR』PV
▲『Shennong: Taste of Illusion』トレーラー
▲Hop Step Sing!『覗かないでNAKEDハート』PV
C:先ほど安生さんが「まだまだ試行錯誤中の表現方法」と語っていましたが、どんな点で苦労がありましたか?
石丸:一般的な映像は再生さえできれば何とかなりますが、VR作品はプログラムを基にリアルタイムに描画するコンテンツなので、HMDやPCとの相性などに問題があると正常に視聴できません。4作品をスムーズに連続視聴できるようにするだけでも、それなりの調整が必要です。
C:従来のCAF以上に、本番上映中のトラブル発生率が高そうですね......。
石丸:実際、SIGGRAPH 2018のVR Theaterでも機材トラブルで再生をやり直すケースがありましたね。だから予備の機材も用意してあります。4作品をベストの状態で上映し、「VRっておもしろい」「自分もつくりたい」と思ってくださる人を増やし、VR市場を活性化できるようベストを尽くしたいと考えています。
特に今回は、VRにおけるストーリーテリングの多様性を体感できる貴重な機会です。例えば『Google Spotlight Stories: Sonaria』は、VRの機能を最大限に活用し、最上級の心地良いストーリーテリングを展開しています。一方で『結婚指輪物語VR』はマンガのコマ割りを応用し、VR空間の中でのカット割りを実現しています。4作品とも、ほかとはちがうストーリーテリングをしているので、VRの幅広い可能性を感じていただけると思います。
▲SIGGRAPH 2018のVR Theaterの様子
© 2018 ACM SIGGRAPH
C:どの作品も、トレーラーやPVを見ただけではサッパリその良さが伝わってこないので、逆に興味をそそられますね。
石丸:そこがVRの難しさであり、面白さでもありますね。HMDをかぶって実際に体験すれば、そのクレバーな表現に感動すると思います。
安生:いいですねえ。
C:でもチケットは完売なんですよね?
安生:そうでした(苦笑)。ただ、VR Theaterの視聴が叶わなかったとしても、Virtual & Augmented Reality(VR/AR)やEmerging Technologiesをはじめ、VRを体験できるプログラムはほかにもあります。加えて、会期中は世界各地のVRの専門家が集まります。VRにおけるストーリーテリングやナラティブ表現は世界共通の課題なので、その知見を広げる良い機会になると思います。
▲【左】SIGGRAPH Asia 2018の、Virtual & Augmented Reality(VR/AR)の概要を紹介するスライド/【右】Emerging Technologiesの概要を紹介するスライド(いずれも、SIGGRAPH Asia 2018記者会見(10月24日実施)時の資料より)