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    本連載では2018年12月4日(火)∼7日(金)に東京国際フォーラム(有楽町)で開催されるSIGGRAPH Asia 2018の価値を、SIGGRAPH Asiaを愛するキーマンたちに尋ねていく。第5回ではSIGGRAPH Asia 2018のPlatinum Sponsorであるフォーラムエイトを訪問し、代表取締役社長の伊藤裕二氏にSIGGRAPH Asiaを支援し続ける理由を伺った。

    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    Exhibitionで技術を周知し、新しい応用の機会を探る

    CGWORLD(以下、C):フォーラムエイトと言えばVRソフトのUC-win/Roadが有名で、土木、建築、交通、都市計画、防災などのシミュレーションシステムの開発に広く活用されていますね。バンコクで開催されたSIGGRAPH Asia 2017のExhibitionでもこれを基盤とするシステムを数多く展示なさっており、とりわけVRモーションシートは大人気だったのが印象的でした。

    伊藤裕二氏(以下、伊藤):展示会では、来場者自らが体験できるシステムを展示するようにしています。土木や建築にはお固いイメージが付きまとうからこそ、まずは体験、認知してもらい、身近に感じていただくことが重要だと考えています。SIGGRAPH Asiaのように、われわれとの接点が少ない業界の方々が多く集まる展示会では特にそれを意識しますね。バンコクで展示したVRモーションシートには、巨大ジェットコースターに乗車できるコンテンツを搭載しました。このジェットコースターは当社が本社を置く品川駅周辺をスキャンした3Dデータの中に設置したので、かなりスリリングな体験が味わえるコンテンツに仕上がっています。

    • 伊藤裕二
      フォーラムエイト
      代表取締役社長

      神戸市出身。1987年に設立されたフォーラムエイトの創業時メンバーで、大阪営業所長(1989年)、取締役(1992年)、代表取締役副社長(2001年)を経て、2003年より現職。


    ▲【左】SIGGRAPH Asia 2017のExhibition会場/【右】フォーラムエイトのブースにて、VRモーションシートを興味深そうに取り囲む学生たち。会期中はバンコク市内の学生が数多く招待され、ExhibitionやVR Showcaseの展示を楽しんでいた
    image courtesy of ACM SIGGRAPH


    ▲VRモーションシートを体験するバンコクの学生。このシートに座ると、HMDのVR映像に合わせ、前後左右の傾きと上下動が体感できるようになっている
    image courtesy of ACM SIGGRAPH


    C:品川駅前をジェットコースターに乗って急降下、急上昇するという体験は確かにスリリングですし、VRでなければ味わえない体験でもありますね。

    伊藤:コンテンツとして面白くユニークで人目を引くことに加え、HMDに映される品川駅周辺の3Dデータは都市計画や防災シミュレーションにも使える信頼性の高いものです。それをリアルタイムのVRコンテンツとして開発、提案できる点が当社の強みですね。こういった技術を周知し、新しい応用の機会を探る上で、SIGGRAPH Asiaのような展示会への出展は有効だと考えています。

    C:バンコクでの反響は如何でしたか?

    伊藤:350名を超える来場者が当社のブースを訪れてくださいました。ドライブシミュレータや自動運転の研究をしている大学や企業に加え、ゲーム会社からも引き合いがあったと聞いています。500名近くにお越しいただいた神戸(SIGGRAPH Asia 2015)ほどではないですが、まずまずの成果を得たと感じています。

    C:自動運転は国内外の自動車会社が研究しているでしょうから、多くのニーズがありそうですね。

    伊藤:はい。実際に公道で自動運転車を走らせるわけにはいきませんから、当社のシミュレーションシステムが各社で活用されています。ドライブシミュレータを使えば、様々な場所、時間帯、天候、車の混雑具合や車間距離を設定して、その条件下での自動運転の安全性を検証できます。

    ▲【左】SIGGRAPH Asia 2016(マカオ)におけるフォーラムエイトのブース。「中国ではハードウェア開発が盛んな一方、コンテンツ制作者、ソフトウェアベンダーの育成が課題となっているらしく、UC-win/Roadによる直感的なモデリングや多彩なシミュレーション機能に関心をもつ来場者が数多くいました」(伊藤氏)/【右】同じくSIGGRAPH Asia 2015(神戸)におけるブース。Platinum Sponsorとして6コマ(54m²)のブースを展開し、6KデジタルサイネージでのKinect都市空中散歩、新型ドライブシミュレータなどを展示した


    C:ここ数年のSIGGRAPH AsiaのExhibitionには毎回出展なさっていますが、初出展はいつだったのでしょうか?

    伊藤:SIGGRAPH本体も含めると、サンディエゴで開催されたSIGGRAPH 2007が最初ですね。ドライブシミュレータの簡易システムを7台展示し、来場者に体験していただきました。エンターテインメント系の出展が多くを占めていたので、ビジネス向けに特化した内容は逆に目を引き、時間帯によっては幾重にも来場者がブースを取り巻くこともあったようです。その後はSIGGRAPH Asiaに出展するようになり、今にいたります。われわれの主要事業である土木建築系、自動車系以外の分野、例えば映像制作、ゲーム開発、デバイス開発、教育期間といった異業種との接点をもてる点が、SIGGRAPHやSIGGRAPH Asiaに出展する大きなメリットだと感じています。

    地元の強みを最大限に活かし、最新のVRシステムを展示したい

    C:神戸(SIGGRAPH Asia 2015)に続き、東京(SIGGRAPH Asia 2018)でもPlatinum Sponsorとして開催を支援すると伺っています。どのような成果を期待していますか?

    伊藤:SIGGRAPH Asia 2018のテーマであるCROSSOVERという言葉が象徴するように、CGとインタラクティブテクノロジーに関連する産業、アート、研究、教育分野などが混ざり合い、新たな広がりが実感できる場になることを期待しています。当社が得意とするVRシミュレーション技術はあらゆる分野で柔軟に応用できますから、クロスオーバーの促進にきっと貢献できると思います。先ほども申し上げた通り、今は土木建築と自動車が当社の主要事業ですが、エンターテインメント、医療、教育など、ほかの分野に向けたハードウェアやソフトウェアのカスタマイズにも積極的に取り組んでいきたいです。

    C:実際、2015年には3Dコンテンツ・映像制作事業を展開していたCRAVAを子会社化したりと、他分野への展開にも意欲をみせていますね。

    伊藤:はい。CRAVAは電車VRゲームの『鉄道運転士Railroad operator』をSTEAMから配信するなど、VRシミュレーションシステムの応用に取り組んでいます。

    C:今年のExhibitionではどのような展示を予定していますか?

    伊藤:東京国際フォーラムは本社から電車で数駅の距離ですから、最新のVRシステムとソフトウェアを発表、展示する予定です。海外の展示会の場合は、展示物を移送するのに費用も人手もかかるので、展示内容には限界があります。昨年のバンコクの場合だと、タイはハイテク製品の輸入手続きが厳しいため、VRモーションシートの通関にはそれなりの苦労がありました。今年は地元の強みを最大限に活かし、これまで以上に充実した展示にしたいと意気込んでいます。

    ▲SIGGRAPH Asia 2017(バンコク)での展示の様子
    image courtesy of ACM SIGGRAPH


    C:国内であれば、展示物の大きさの点でも制約が少なそうですね。

    伊藤:はい。大きさに加え、壊れやすい展示物を運ぶ点でも制約が少ないです。これもバンコクでの話になりますが、VR用の3Dデータを3Dプリンターで出力した展示用模型は、会場まで社員が手で運びました(苦笑)。壊れやすい上に重かったので大変だったようです。

    C:海外展示は国内以上に苦労がつきまとうわけですね。フォーラムエイトはBS日テレのTV番組「Innovative Tomorrow ~VRが変えるあの業界の未来!~」のスポンサーをしたり、書籍『VRインパクト』(2017/伊藤裕二著/ダイヤモンド社)を出版したりと、VR技術の関連情報を広く一般に伝えることにも力を入れていますね。そこにどんな意図があるのかも教えていただけますか?

    伊藤:今後も日本のVR産業を発展させるためには、VR人材の育成が重要です。VR、CG、インタラクティブテクノロジーなどに精通した、優れたエンジニア、プログラマーを育成するためには、社会の理解が必要ですし、子供向けの教育環境の充実も不可欠だと考えています。当社では小中学校の夏休み、冬休みに合わせ「ジュニア・ソフトウェア・セミナー」というイベントを全国各地で開催したりもしています。このセミナーでは子供たちがUC-win/Roadを操作し、オリジナルの「VRジオラマ」の制作を通して、楽しみながらVR技術を学べるようになっています。子供たちの発想はとても自由で、固定観念に囚われがちな大人では思い付かない表現を披露してくれます。実は、バンコクで展示したジェットコースターのコンテンツは、子供たちの「VRジオラマ」がヒントになって生まれたものなのです。

    C:それは面白いエピソードですね。子供の自由な発想と、フォーラムエイトの技術力がクロスオーバーした結果、品川駅前をジェットコースターで駆け抜けるというVRコンテンツが生まれたと......。

    伊藤:そうです。SIGGRAPH Asia 2018でも、多くのクロスオーバーが起こることを期待しています。その当事者になるべく、社員一同技術開発に励んでいますから、ぜひSIGGRAPH Asia 2018の当社ブースにご来場ください。

    C:フォーラムエイトの展示を期待しています。お話いただき、ありがとうございました。

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