SIGGRAPHは世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ関連技術のカンファレンス、および展示会だ。その関連イベントであるSIGGRAPH Asiaは、2008年から昨年までの間にシンガポール、日本、韓国、中国、タイなど、アジア各国で開催されてきた。昨年の模様はこちらの記事を参照いただきたい。今年のSIGGRAPH Asiaは、2018年12月4日(火)∼7日(金)に東京国際フォーラム(有楽町)で開催される。2009年の横浜、2015年の神戸に続き、日本では3回目の開催だ。2018年4月現在、公式サイトでは各プログラムの応募を受付中で、6月∼8月にかけて段階的に応募締め切りが設定されている。
本連載ではSIGGRAPH Asia 2018の価値を、SIGGRAPH Asiaを愛するキーマンたちに尋ねていく。キーマンたちの話は、SIGGRAPH Asia 2018をより深く楽しむための羅針盤になるだろう。第1回ではStudent Volunteers(学生ボランティア)のChair(チェア)を務めるRianti Hidayat(リアンティ・ヒダヤト)氏に、SIGGRAPH Asia 2018の学生ボランティアについて伺った。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
合格率39%の選考を経て、高いポテンシャルの学生が国内外から集結
CGWORLD(以下、C):手始めに、SIGGRAPH Asia 2018での役割を教えていただけますか?
リアンティ・ヒダヤト氏(以下、リアンティ):学生ボランティアのチェアとして、学生ボランティアのプログラムを統括しています。SIGGRAPHやSIGGRAPH Asiaを主催するACM SIGGRAPHはボランティアによって運営されている組織で、SIGGRAPH Asiaの運営もまた、多くのボランティアによって支えられています。昨年のSIGGRAPH Asia 2017(バンコク)では、159名の学生ボランティアがカンファレンスと展示会の運営を支えました。
-
リアンティ・ヒダヤト
(Rianti Hidayat)
Student Volunteers Chair
インドネシア出身、日本在住。Institut Teknologi Bandung (バンドン工科大学)在学中に、SIGGRAPH Asia 2008(シンガポール)に学生ボランティアとして参加。SIGGRAPH Asia 2010(ソウル)では学生ボランティア チームリーダー、SIGGRAPH Asia 2013(香港)では学生ボランティア 運営委員を務め、SIGGRAPH Asia 2018(東京)では学生ボランティア チェアとなる。平素はガンホーオンラインエンターテイメントに勤務し、2Dアーティストとしてコンセプトアート、キャラクターデザイン、イメージボードなどの制作を担当している。
▲SIGGRAPH Asia 2017(バンコク)の学生ボランティア集合写真。Student volunteers(学生ボランティア)159名、Team leaders(チームリーダー)16名、Student volunteers production(学生ボランティア プロダクション)10名、Student volunteers committee(学生ボランティア 運営委員)6名、Student volunteers chair(学生ボランティア チェア)1名で構成された、総勢192名の大所帯だ
※本記事内のSIGGRAPH Asia関連の写真はリアンティ氏にご提供いただきました
C:驚くほど多いですね。SIGGRAPH Asia 2018も同様の人数になるのでしょうか?
リアンティ:その予定で、2018年7月22日(日)まで(※1)公式サイトにて募集中です。大学の学部と大学院、専門学校の在学生に加え、過去2年以内に卒業した人も応募できます。学生ボランティアとしてSIGGRAPH Asia 2018で合計20時間くらいの支援活動を行うと、フルカンファレンスパスが提供され、自由時間には全てのカンファレンスを見て回れます。
※1 学生ボランティアの応募締め切りは2018年7月22日(日)、チームリーダーの応募締め切りは2018年6月24日(日)となっている。
C:SIGGRAPH Asia 2017(バンコク)のフルカンファレンスパスは早期割引を使っても895ドル(※2)でしたから、大きなメリットですね。
※2 ACM SIGGRAPHのメンバーは825ドル、学生メンバーは245ドルで購入できる。詳しくはこちらを参照。
▲SIGGRAPH Asia 2015(神戸)の学生ボランティアたち。この年は、学生ボランティア全体の約45%が日本からの応募、そのほかは海外からの応募で占められていた。写真下段右から5人目の男性は、学生ボランティア チェア(当時)の久保尋之氏(奈良先端科学技術大学院大学 助教)。下段右から3人目には、運営委員(当時)のリアンティ氏が写っている。SIGGRAPH Asiaでは開催地の民族衣装をモチーフにしたユニフォームを着用するのが恒例になっており、日本で開催するときは半被(はっぴ)がつくられる。この半被には、SIGGRAPH Asiaのロゴに加え、スポンサー企業のロゴも印刷される。「会場内に散らばる約200人の学生ボランティアのユニフォームにロゴが印刷されるため、高い宣伝効果があります」(リアンティ氏)
▲SIGGRAPH Asia 2015(神戸)の学生ボランティアによる、活動開始前のミーティング。運営委員は紫色、チームリーダーは青色、学生ボランティアは赤色のユニフォームを着用している
▲【左】SIGGRAPH Asia 2015(神戸)の学生ボランティア オフィスの様子/【右】同オフィスにつくられた学生ボランティアたちの写真コラージュとリアンティ氏
▲【左】SIGGRAPH Asia 2015(神戸)の学生ボランティアによる展示案内の様子/【右】同じく、宿泊施設の様子
▲SIGGRAPH Asia 2017(バンコク)のComputer Animation FestivalのチェアであるJuck Somsaman氏(The Monk Studios)にインタビュー取材をする学生ボランティア プロダクションの様子。「学生ボランティア プロダクションはSIGGRAPH Asiaのプロモーション映像を撮影・編集するチームで、彼らが制作した映像はYouTubeにアップロードされ、世界中に配信されます。学生のみだとクオリティコントロールが難しくなるので、プロと学生を1:1の割合で混ぜたチームを編成するようにしています」(リアンティ氏)
リアンティ:会場に集まる数千人(※3)の業界関係者と直接会う機会を得られることもメリットだと思います。加えて、学生ボランティアだけが参加できる特別セッションや、デモリール、ポートフォリオ、履歴書のマンツーマンレビューなどの特典もあります。
※3 SIGGRAPH Asia 2017は、58の国から6,500人以上の来場者が訪れた。SIGGRAPH Asia 2018では、10,000人以上の来場者(うち、海外からの来場者1,800人以上)が見込まれている。
C:特別セッションというのは、どんな内容ですか?
リアンティ:過去のSIGGRAPH Asiaでは、ドリームワークス・アニメーション(以下、ドリームワークス)の元人事担当者を招き「どうすれば、高評価のポートフォリオやデモリールをつくれるか?」「面接時に言ってはいけないことは何か?」といったテーマで語っていただきました。今年も学生のスキルアップや就職活動に役立つセッションを企画中です。また、学生ボランティアは200人程度のコミュニティなので、セッション中に限らず個人的な質問や相談をしやすい環境でもあります。私の場合は「日本で働くにはどうすればいいですか?」という相談を、海外の学生から受けることが多いです。
C:日本の学生であれば、「海外で働くにはどうすればいいですか?」「海外の人とコラボレーションするにはどうすればいいですか?」といった質問をしやすい環境だと言えそうですね。
リアンティ:出会いのチャンスは数多くあるので、名刺、ポートフォリオ、デモリール、履歴書などを持参することをお勧めします。
▲【左】SIGGRAPH Asia 2017(バンコク)の学生ボランティアを対象とした特別セッションの様子/【右】同じく、ポートフォリオレビューの様子。過去にはレビューがきっかけとなり採用にいたったケースもあったという
C:これまでのSIGGRAPH Asiaに応募してきた学生は、どんな人たちでしたか?
リアンティ:例年、全体の25%がアート関係を学んでおり、45%がCG関係を学んでいます。その中には、コンセプトアーティスト、モデラー、アニメーター、リサーチャー、エンジニアなど、幅広い職種の志望者が含まれます。残りの30%はそれ以外の専門分野をもつ人たちです。合格率39%というハイレベルな選考を経て、高いポテンシャルの学生が国内外から集結するので、スポンサー企業にとってはいいリクルーティングの機会だとも思います。スポンサーになっていただければ、特別セッション、ポートフォリオレビュー、企業訪問、グッズやプレゼント配布など、様々なかたちで学生ボランティアにコンタクトできます。
▲SIGGRAPH Asia 2017(バンコク)のクロージングセレモニーの様子。本セレモニーでは、スポンサー企業から提供されたプレゼントの抽選会が行われる。「会期中にがんばった学生ほど、プレゼントをもらえる確率を高く設定してあります。過去には、ソニーがPlayStation VR、オー・エル・エム・ デジタルが『ポケットモンスター』のグッズを大量にくださったこともありましたね。監督やアーティストのサイン入りアートブックも学生たちに人気のプレゼントです」(リアンティ氏)
SIGGRAPH Asiaは、自分を成長させてくれるコミュニティ
C:リアンティさん自身が最初にSIGGRAPHと関わったのはいつですか?
リアンティ:シンガポールでSIGGRAPH Asiaが初開催された2008年に、初めて学生ボランティアとして参加しました。その会場のジョブフェアでUbisoft Singaporeの人事担当者に出会い、大学卒業後に入社することとなったのです。その後もウォルト・ディズニー・イマジニアリング、ピクサー・アニメーション・スタジオ(以下、ピクサー)、LAIKAなど、様々な企業のアーティストと知り合うことができ、私の作品に対する多くのフィードバックをいただきました。毎年一緒に学生ボランティアをしてきた友達は、今ではGoogle、Facebook、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ、ピクサー、ドリームワークスなどで働いていますから、SIGGRAPH Asiaに関わったことで、本当にいいコネクションをつくることができました。尊敬できるメンターや仲間はもちろん、現在一緒に仕事をしているクライアントともSIGGRAPH Asiaを通して出会えました。
C:すごいネットワークですね。SIGGRAPH Asia 2008以降、就職後も学生ボランティアに関わり続け、今にいたるのでしょうか?
リアンティ:そうです。2010年からチームリーダーになり、2013年からは運営委員をやり、今年はチェアになりました。SIGGRAPH Asiaはこの業界に対して熱い情熱をもっている方々の集まりなので、参加するたびにエナジーをもらえます。だから毎年「戻ってきたい」と思うのです。SIGGRAPH Asiaは、自分を成長させてくれるコミュニティだと感じています。
C:毎年新しい学生ボランティアが入ってくるでしょうから、それもまた刺激になりそうですね。
リアンティ:はい。夢と希望にあふれている人たちなので、ポートフォリオを見せてもらったり、相談を受けたりすると、何かフィードバックを返したいと思います。
▲【左】SIGGRAPH Asia 2008(シンガポール)に学生ボランティアとして初参加した当時のリアンティ氏(写真中央)/【右】SIGGRAPH Asia 2012(シンガポール)でチームリーダーを務めていた当時のリアンティ氏(写真下段右から1人目)
▲現在のリアンティ氏。ご自身にとってのSIGGRAPH Asia2018のハイライトを尋ねたところ、「Real Time Live!」だと答えてくれた。「これまでSIGGRAPH本体でのみ行われてきた「Real Time Live!」が、初めてSIGGRAPH Asiaでも実施されます。最新技術のリアルタイムレンダリングと、その発表とを同時に行うこのプログラムはとても刺激的で、SIGGRAPH本体でも大人気です」(リアンティ氏)
C:では最後に、応募しようかどうか迷っている日本の学生に向けて、アドバイスをお願いします。
リアンティ:今回の開催地は日本なので、日本人の参加者が多いだろうと予想しています。だから英語と日本語の両方を話せる学生ボランティアを広く募集しています。応募時には英語のエッセイの提出を求められるので、英語があまり得意ではない方は不安をおもちだと思います。でも学生ボランティアの応募締め切りは7月22日(日)ですから、準備時間はたっぷりあります。ぜひ積極的にチャレンジして、グローバルなコネクションをつくり、自分を成長させる機会にしていただきたいと願っています。
info.
-
SIGGRAPH ASIA 2018
会期:2018年12月4日(火)∼12月7日(金)
会場:東京国際フォーラム
主催:ACM SIGGRAPH
公式サイト
学生ボランティアの詳細