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    本連載では2018年12月4日(火)∼7日(金)に東京国際フォーラム(有楽町)で開催されるSIGGRAPH Asia 2018の価値を、SIGGRAPH Asiaを愛するキーマンたちに尋ねていく。第4回ではArt Galleryのコミッティメンバーを務める脇本厚司氏(CG-ARTS 文化事業部 事業部長)に話を伺った。

    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    そもそも、Art Galleryとは何ですか?

    ▲Art Galleryのコミッティメンバーを務める脇本厚司氏


    CGWORLD(以下、C):SIGGRAPHの数あるプログラムの中でも、Art Galleryはとりわけ異色の存在ではないかと感じています。「そもそも、Art Galleryとは何ですか?」という基本的な部分から教えていただけますか?

    脇本厚司氏(以下、脇本):確かに、予備知識なしにArt Galleryのエリアへ足を踏み入れると、戸惑う人もいると思います。その「戸惑い」、つまりは「予想外の表現との出会い」がArt Galleryの醍醐味だと思います。ご承知の通り、Technical PapersTechnical Briefs & Postersなどのプログラムは、CGにまつわる研究成果を発表する場です。そういった研究成果やテクノロジーを用いた作品を発表する場がArt Galleryなのです。Art Galleryの審査では、「研究成果やテクノロジーを用いていること」に加え、何らかのメッセージ性や批評性をもった「作品として成立していること」も重視します。

    • 脇本厚司
      Art Gallery
      Committee Member

      1996年、慶應義塾大学環境情報学部 環境情報学科卒業。1999年、同大文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。2002年、同文学研究科哲学専攻美学美術史学分野修士課程修了。2003年、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科助手。現在、公益財団法人 画像情報教育振興協会(CG-ARTS)文化事業部 事業部長。関東学院大学、東京家政大学造形表現学科非常勤講師。文化庁メディア芸術祭事務局 ディレクターとして、同芸術祭の企画・運営に携わる。学生CGコンテスト(CG-ARTS 主催)をはじめ、様々な展示会、イベントのプロデュースも担当。神戸で開催されたSIGGRAPH Asia 2015ではArt Galleryのチェアを務める。SIGGRAPH Asia 2017、および2018では、同じくArt Galleryのコミッティメンバーとして同プログラムの運営を支えている。


    C:「なにがしかのテクノロジーを使いました」というだけでは不十分。一方で、テクノロジーと無縁の作品も対象外。2つの条件を満たしていることが重要というわけですね。Computer Animation Festivalも「作品」発表の場ですが、それとの大きなちがいは映像作品かどうかという点でしょうか?

    脇本:そうですね。最近のArt Galleryは、従来の技法を使った作品もありますが、メディアアートが中心になっています。インタラクティブな作品や、空間性を伴ったインスタレーション作品が多いです。

    ▲バンコクで開催されたSIGGRAPH Asia 2017Art Galleryの様子
    image courtesy of ACM SIGGRAPH


    C:では続いて、脇本さんとSIGGRAPH、およびSIGGRAPH Asiaとの関わりの変遷を教えていただけますか?

    脇本:実はSIGGRAPHとの関わりはそれほど深いものではなく、初参加はSIGGRAPH 2017です。横浜で開催されたSIGGRAPH Asia 2009には参加しましたが、そのときは一般参加者のひとりでした。「学会と作品展を同時にやるのは面白い」というのが最初の印象でしたね。その6年後に神戸で開催されたSIGGRAPH Asia 2015で、まさか自分がArt Galleryのチェアを仰せつかるとは夢にも思っていませんでした。

    C文化庁メディア芸術祭学生CGコンテストの運営を長らく陰で支えてきた功績などから、多くの人が脇本さんを推薦なさったと聞いています。

    脇本:規模はちがいますが、作品募集から始まって、応募受付、審査、展示の実現というながれは、文化庁メディア芸術祭も、学生CGコンテストも、Art Galleryも同じですから、それまでの経験を踏まえての任命だったのだろうと思います。昨年と今年のSIGGRAPH Asiaでも、コミッティメンバーを務めています。

    C:SIGGRAPH Asia 2018のArt Galleryは、チェアもコ・チェアも香港在住(City University of Hong Kong 所属)の方々ですから、日本での作品展運営に精通している脇本さんがコミッティメンバーとしてサポートしているという状況でしょうか?

    脇本:はい。作品の受取や発送、保険関連のコーディネートは私がやらないと前に進まない状況です(笑)。加えて、バンコクでの成果を踏まえ、今年のArt Galleryをどう盛り上げるか、東京ならではの付加価値をどう付けるか、Tobias Klein氏(チェア)やKyle Chung氏(コ・チェア)と相談しながら進めています。

    (メディアアートの先駆者+能面)×CROSSOVER=?

    C:今年のArt Galleryならではのテーマや試みがあれば、教えていただけますか?

    脇本:Art Galleryでは、作品募集に際しチェアが何らかのテーマを設定します。これはSIGGRAPH、SIGGRAPH Asiaの両方に共通する、Art Galleryならではのスタイルです。今年のArt Galleryでは、1975年につくられた『Candle TV』というNam June Paik氏の現代アートと、京都在住の能面師さんがつくった能面を展示します。「これら2つの作品と自分との関わりから、応募作品を導き出してください」というのが、Klein氏とChung氏が設定したテーマです。

    image courtesy of ACM SIGGRAPH


    C:まるで「謎解き」ですね。

    脇本:Nam June Paik氏は、メディアアートの先駆者のひとりです。彼の作品と、日本の伝統芸能のひとつである能のお面が展示された空間に、自分の作品も展示するとしたら、どんなものが相応しいか考えてみてください......という問いかけですね。さらに今回は不思議な図も提示されています。

    Art Galleryの応募ページに提示された図
    image courtesy of ACM SIGGRAPH


    C:これは何ですか?

    脇本:難しいですよね。僕も最初に見たときは「は?」と思いました。SIGGRAPH Asia 2018のメインテーマである「CROSSOVER」という言葉から導き出される6つの周辺概念「Dialogue(対話)」「Overlap(オーバーラップ)」「Interference(干渉)」「Congruence(適合)」「Rejection(拒絶)」「Island(島)」を表しているそうです。要は「『Nam June Paik』と『能面』という2つの大きな柱を立てますから、それらと自分の作品がどう『CROSSOVER』するのか、その周辺概念も視野に入れながら考えてみてください」というのが今回のArt Galleryのテーマなわけです。

    C:メインテーマの「CROSSOVER」をそのままArt Galleryのテーマにするのではなく、ひとひねりもふたひねりもしているわけですね。深い、深すぎる......。

    脇本:とはいえ、応募する側はこのテーマにそれほどこだわらなくてもいいんですよ。多様な作品が応募されれば、必然的に展示は面白くなります。応募作品をどう組み合わせ、Art Galleryならではの「CROSSOVER」を表現するかはKlein氏とChung氏の腕の見せ所とも言えるでしょう。Klein氏はメディアアートや建築デザインなど様々な領域の作品を手がけるアーティストで、Chung氏はアーティストたちの作品の研究・収集・展示などを担うキュレーターです。対照的な組み合わせの2人だからこそ今回のテーマが生み出されたのだと思いますし、そんな2人がどんなArt Galleryをつくり出すのか楽しみにしています。

    ▲脇本氏がチェアを務めたSIGGRAPH Asia 2015Art Galleryの様子。この年のArt Galleryでは「LIFE ON EARTH?」というテーマが設定された。「『LIFE』は多義語なので『生活』『人生』『生命』『生物』など様々な解釈が可能です。多様なメッセージをもった作品が集まるようにという期待を込めて、このテーマを設定しました。加えてDavid Bowieの『Life On Mars?』という曲のタイトルも意識したのですが、その直後にDavid Bowieが亡くなるという不思議なことがありました」(脇本氏)
    写真提供:脇本厚司氏

    「テクノロジー=作品」ではない

    C:Art Galleryの審査には脇本さんも参加なさいますか?

    脇本:はい。Klein氏とChung氏に加え、コミッティメンバーも審査に参加します。応募数は例年130くらいで、その中から20作品程度を選出します。欧米からの応募が半数以上を占めるのが常ですが、せっかくのSIGGRAPH Asiaですから、日本をはじめアジアからの応募が増えていくことを期待しています。

    C:応募なさる方の所属や職種はどういったものが多いですか?

    脇本:SIGGRAPHは学会が支柱になっているので、Art Galleryでも工学系の研究者からの応募が多いです。もちろんアーティストからの応募もありますが、自身の研究テーマに沿った作品を応募する研究者の割合が多いというのはSIGGRAPHらしい傾向だと思います。どんな分野であれ、最新のテクノロジーはそれを研究している人に付随します。そして、その研究成果でもって社会と関わろうとしたとき、ビジュアライゼーションやロボットなどへの産業応用という選択肢がある一方で、メディアアートという選択肢もあるわけです。

    C:つまり、研究そのものの発表はTechnical Papers、Technical Briefs、Postersなどで行い、その研究成果の産業応用を提示したい場合はEmerging Technologies、メッセージ性や批評性を込めた作品を発表したい場合はArt Galleryに応募するという選択肢があるということでしょうか?

    脇本:そうなりますね。ただし、運営側は各プログラムを厳密に区別しているわけではありません。応募する方が自分の成果をどのように提示したいと考えているかが最も重要だと思います。とはいえ、迷う場合は運営側に遠慮なく相談していただいて構いません。どんなかたちであれ、ご自分の成果を世の中に発表し、フィードバックを受けることはすごく価値があると思います。そこでの出会いが次のチャンスを運んできたりもします。つくるだけで満足せず、ぜひ次の1歩を踏み出してほしいです。そういった機会のひとつとして、Art Galleryのような展示会を貪欲に活用していただければと願っています。

    ▲SIGGRAPH Asia 2017のArt Galleryの様子
    image courtesy of ACM SIGGRAPH


    C:お話を伺ったことで、Art Galleryの意義が私にもわかってきました。テクノロジーと、メッセージ性や批評性、その2つに注目して作品を鑑賞したいと思います。

    脇本:実際、私が審査をするときには「作品として何を提示したいのか?」を必ず見ています。どんなに高度で美しいテクノロジーであったとしても、そのまま見せられるだけでは作品になりません。「テクノロジー=作品」ではないという点は、すごく意識しています。だから応募時の書類、映像、画像などによるプレゼンテーションは重要ですね。他者を納得させられる、客観的で明確なコンセプトの提示が必要だと思います。でも、この記事を読んでいる方々がArt Galleryの会場で作品を鑑賞する際には、まずは作品と向き合ってみて「この作品は何を言いたいんだろう」ということを考えていただきたいです。解説パネルの説明を読むのは、その後でいいと思います。先入観をもたず、自由に作品を解釈した方が、印象に残るひとときが過ごせるでしょう。作品の横に作者が滞在している場合も多いでの、ご自身の解釈を作者に話したり、作者自らに解説してもらうのも楽しいですよ。

    C:確かに、作者と語れるインタラクティブ性も展示会の楽しみのひとつですね。お話いただき、ありがとうございました。

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