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No.13:メカニクスとレベルデザインの接続

No.13:メカニクスとレベルデザインの接続

ランゲームで一気にクオリティが向上

続いての演習は、連載 第10回でも紹介したランゲームワークショップです。ピンボールとのちがいは、ゲーム画面が2Dから3Dになったこと。ジャンプやエフェクトといった要素も加わり、より体験がリッチになった半面、レベルデザインの手間も増していきます。昨年度の経験から、今年度はカメラの動きに幅をもたせ、「一画面ステージ」「横スクロール風のステージ」「縦スクロール風のステージ」という3種類のサンプルステージを用意して、自由に選んでもらう形にしました。

▲6月28日~7月5日 第7・8回 ランゲームワークショップ1・2で提示したサンプルと課題提出


この頃になると学生も次第にUnityに慣れてきたのか、「ピンボールワークショップ」とは比べものにならないくらい、多彩なステージが見られるようになり、驚かされました。中でも注目を集めたのが、多彩なエフェクトでステージを飾った吉川慶祐君の作品です。連載 第10回と同じく、本サンプルにも 「Unityのパーティクルシステムで爆発を作る_からあげ編」で紹介されているエフェクトを組み込んでおいたのですが、そこをめざとく見つけてフル活用。これには多くの学生が驚いていました。

また、ピンボールワークショップで斜め上の作品をつくってきた白偉亨君は、今回もカメラのスクリプトを改造してFPS風の作品をつくってきました。こちらで何も教えていないにもかかわらず、です。シンプルなレベルデザインですが、ほかにFPS風のカメラがなかったため、非常に目立ちました。上に乗ると、自キャラを上方に跳ね上げるスクリプトがついたオブジェクトを床一面に伸ばし、ピョンピョンとジャンプアクション風の移動を可能にしている点にも感心させられました。

ほかにも、円柱型の自キャラをボールに変更したいと提案してきた王金融君。くるくる回転する板を垂直に立て、マテリアルの属性を透明にした上でコリジョンを削除し、大量のオブジェクトを回転させた須藤汰知君。2つの自キャラを同時に操作し、「ピタゴラ装置」のような仕掛けまで考案した白杰君など、一気にクオリティが向上しました。立体的なステージをデザインした易然君、何も教えていないのに、マテリアルにテクスチャを活用した馬君やヨハン君の作品も秀逸でした。

今や大量の動画チュートリアルがネット上に存在し、独学で様々な事柄を学べる時代です。その上でわざわざ授業料を払って、大学や専門学校に通う意味は何でしょうか。集団での学びや、同世代の友人から刺激を受ける機会を得ることなどが、答えとしてあげられるでしょう。にほかなりません。こうした中、「こちらが教えた以上のことに、自発的に挑戦する」というのは、なかなか良い兆候のように感じられます。学生同士でテクニックについて教えあう光景も見られるようになり、次第にエンジンがかかってきました。

▲授業風景


一方で授業の進行では、ランゲームワークショップから本格的にテストプレイの時間を取るように心がけました。自分の作品を改善するには、開発中に他人に遊んでもらって意見を聞いたり、他人の作品を遊んで刺激を受けたりといった行為が欠かせませんが、開発に夢中になると、ついつい億劫になりがちです。そこで2回目の演習で冒頭に15分ほど、教室をいろいろ動き回って、他人の作品をチェックする時間を設けるようにしました。これが作品の底上げにつながったのかもしれません。

ペアワークによるレベルデザインで一苦労

最後の演習では「あそびのデザイン講座」から離れて、オリジナルのサンプルを提示してみました。Unity公式の「玉転がしワークショップ」をベースに、2人で対戦できるようにしたものです。これを用いてペアワークショップを行い、対戦ゲームに適したレベルデザインを考えてほしかったのです。もっともGitやUnity Collaborateなどを用いて、作業内容をオンライン上で共有させるのは、いろいろな意味で敷居が高かったので、ひとつのPCを使用し、15分ずつ交替で作業させるようにしました。

※参考サイト
Unity チュートリアル「玉転がし」

▲7月12~19日 第9回・10回 対戦球転がしゲームワークショップで提示したサンプルと提出課題


これに対して学生からは、思いがけず「立体的なステージをつくりたい」という要望があがりました。実は処理を簡単にするため、今回のサンプルではボールが上方向に移動することを最初から禁じていました(ボールにアタッチしたRigitbodyのConstraintsで、Freeze PositionのY軸にチェックを入れておきました)。筆者がつくったサンプルでは、ボールに対して外部から力を加えて移動させているため、ともすればボールがステージを飛び出してしまいます。この問題を解決する上で、一番手軽な方法だったからです。

しかし、これではせっかく立体的なレベルデザインを行なっても、ボールの動きが床に張り付いたままです。3Dのステージなのだから、ボールの動きも立体的にしたい......そんな風に考えるのだと驚かされました。また、次第に作品からBGMが鳴りはじめたことにも驚きました。実はサンプルを作成中にフリーの音楽ファイルをGameManagerのAudio Sourceにセットしたまま、チェックボックスをオフにしておいたのを忘れていたのです。これをオンにすればBGMが鳴ることを発見した学生がいて、周りが真似したようでした。

もっともステージの多様性という点では、ランゲームワークショップに軍配が上がりました。ペアをくじ引きで決めたため、気の合わない友達とペアになったチームでは、今ひとつ進捗がはかどらなかったのかもしれません。1人で好きなようにつくり込んだら、もっとおもしろいものができた......そう感じた学生も少なからずいたようです。しかし、それでは対戦&協力ゲームのレベルデザインを進めることはできません。もう少しうまく集団制作を行なわせる仕掛けづくりが必要なように感じられました。

▲授業風景


実際、ゲームはこれまで1人遊びのツールとして進化してきましたが、eSportsを筆頭に「対戦でおもしろいゲーム」の需要が今後拡大することが予想されます。そのためにはメカニクスだけでなく、レベルデザインについても、特殊なスキルが求められることになるでしょう。引退したプロゲーマーがレベルデザインの監修に入る、といったことが増えることも予想されます。学生のうちから対戦&協力ゲームでレベルデザインの経験を積むことが、より求められていくかもしれません。

また本演習では、ランゲームワークショップのように「自キャラをジャンプさせたい」という要望が少なからず聞かれました。ジャンプというメカニクスを組み込むためには、そのためのスクリプトを書いて、オブジェクトにアタッチすることが必要になります。つまり、レベルデザインの範疇からはみ出してしまうのです。スクリプトの作成とメカニクスの実装は後期に行う予定でしたが、こうしたニーズが前期のうちから出てきたことに、心強さのようなものも感じました。

冒頭で説明したように、東京クールジャパンでは本授業をもって夏休みとなりました。その後、8月末に2回の授業があり、そこから1ヶ月の休みを挟んで、10月から後期授業が始まります。そこで夏期休暇中に、これまで行なったワークショップからひとつを選んで、自分なりにレベルデザインのつくり込みを行うように課題を出しました。休み明けの第11回目の授業では、全員でプレイして人気投票を行う予定です。投票結果は本連載でも紹介させていただこうと考えています。 

次回の更新は10月以降を予定しています。お楽しみに。



プロフィール


  • PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
  • 小野憲史
    ゲームジャーナリスト

    1971年生まれ。関西大学社会学部を卒業後、「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲームジャーナリストとして活動。CGWORLD、毎日新聞、Alienware zoneなどWeb媒体を中心に記事を寄稿し、海外取材や講演などもこなす。ほかにNPO法人IGDA日本名誉理事・事務局長、ゲームライターコミュニティ世話人など、コミュニティ活動にも精力的に取り組んでいる。2017年5月より東京クールジャパン、2019年4月よりヒューマンアカデミー秋葉原校で、それぞれ非常勤講師に就任。

本連載のバックナンバー

No.01:「あそびのデザイン講座」活用レポート
No.02:Unityスクリプトに初挑戦
No.03:Unityアセットストアに初挑戦
No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計
No.05:到達度のちがいをどのように捉えるか?
No.06:あそびのデザインとMDAフレームワーク
No.07:「あそびのデザイン講座」の根底に流れるデザイン思想とは?
No.08:遊んで楽しい、つくって楽しい、そして......
No.09:レベルデザインで変わるゲーム体験
No.10:サンプルを魔改造してランゲームをつくる
No.11:日本のゲーム教育で学校に求められることとは何か?
No.12:現実を抽象化・誇張化するとゲームになる

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