>   >  新人講師がゼロから挑むUnityによる人材教育:No.11:日本のゲーム教育で学校に求められることとは何か?
No.11:日本のゲーム教育で学校に求められることとは何か?

No.11:日本のゲーム教育で学校に求められることとは何か?

ゲーム専門学校の新人講師がUnityを勉強しながら、「ゲームのおもしろさとは何か」について授業を行う泥縄式レポートの第11弾。水先案内人になるのがユニティ・テクノロジーズ・ジャパン(以後、ユニティ)から提供中の無料教材「あそびのデザイン講座」だ。今回は番外編として、ゲーム開発者教育に携わる講師陣を対象とした勉強会の模様をレポートする。

TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

ほかの学校ではどんな授業が行われているんだろう?

皆さんこんにちは。ゲームジャーナリスト兼、専門学校東京クールジャパン(東京ネットウエイブから4月1日に改名)非常勤講師の小野憲史です。それにしても以後、「クールジャパンの小野憲史です!」と自己紹介することになるわけで、いやーびっくりですね。まあ、慣れの問題だと思いますので、はい。改めてお見知りおきいただければ幸いです。

また、今春から自分の仕事もアップデートされました。新たにヒューマンアカデミー秋葉原校でも非常勤講師に就任したのです。これで授業が週2回となり、だんだんと講師業の割合が増えてきました。もっとも、ヒューマンアカデミーでは本職であるライター講座を担当するため、Unityに関する授業は東京クールジャパンだけです。そのため本連載も東京クールジャパンの授業をベースに行なっていきます。

さて、本校(=東京クールジャパン)では毎年4月は準備期間として、学生はPCの基本操作などをはじめとした、様々なオリエンテーションを受けることになります。その後、ゴールデンウィークを経て、5月中旬から本格的に授業が始まります。最初は慣れませんでしたが、連休を過ぎると学生が教室に来なくなる......といったことがないため、こっちの方がいいかも? と感じるようになってきました。そのぶんだけ授業準備に時間がかけられますしね。

というわけで、自分自身も基本に立ち返るため、ゲーム開発者教育(以下ゲーム教育)に関する勉強会を、今さらながらに開催しました。それが3月26日に開催したゲームクリエイター育成会議 オフラインミーティングVol.1「遊びと学びの研究者に聞く、ゲームデザイナーの育て方」です。

勉強会ではナムコ、コーエーでゲーム開発者として活躍され、東京工科大学メディア学部の特任准教授を経て、現在は「遊びと学び研究所」主催者として、幅広く活躍されている岸本好弘氏にご協力いただきました。前半で岸本氏の過去のキャリアや、授業内容に関する振り返りを語していただき、後半を参加者によるラウンドテーブルという構成にしたのです。その結果、大学や専門学校でゲーム教育に携わられている方々を中心に20名程度に参加いただき、様々な議論が繰り広げられました。


ちなみに、本勉強会を企画したのもまた、自分自身の必要性に迫られてのことです(ここでも泥縄式!)。というのも、2017年に非常勤講師を始めたとき、授業の間がもたなくて、けっこう大変だったんですよ。

実はそれまでにも何度か大学でゲスト講師をしたことがあるのですが、専門学校で年間講義をもつようになって実感したのが、座学と演習を適切に組み合わせる重要性でした。というのも座学だけだと、自分の力不足もありますが、総じて学生が飽きちゃうんですね。それでも座学を続けていくと、学生の私語が増えたり、スマートフォンをいじりだしたり、居眠りを始めたりして、教える側の自分の心が折れてしまう。それに自分自身、90分間も講義をするのが、体力的にしんどかったんですね。喉がガラガラになっちゃいますし。

その一方で個人演習やグループ演習を行うと、とたんに学生の目が活き活きとし始めることに、驚かされました。普段、あまり喋らないような学生が場を仕切り出したり、学生同士で教え合ったり、こちらが思いもしなかったような発想で課題をこなしたりと、座学だけではわからない、一人ひとりの素顔が覗けるようになりました。しかも、こっちは喋らなくてすむ。これはいい、と思ったんですよ。

ただ、問題は演習のネタが自分にほとんどないことでした。そもそも自分はゲームジャーナリストであって、ゲームデザイナーではありません。そのため毎回、授業内容に即した演習を考えるのが、けっこう大変でした。また、あまりにいろんな演習を行なった結果、学生は楽しかったようですが、内容が体系的ではなかったという反省点もありました。そこで、ほかの先生方がどのような授業をされているのか、非常に気になりました。なお、2017年度の授業振り返り資料はこちらで公開しています。

もっとも、こうした問題意識は多かれ少なかれ、ゲーム教育を行われている先生方であれば、共通してもたれているのではないでしょうか? 実際問題として、専門学校の先生(特に非常勤)って、意外なほど横の接点がないんですよ。大学の先生には学会というコミュニティがありますが、専門学校にはないですからね。

そこで、わからないなら聞いてしまえばいいということで、2018年から始めたのが対談誌の企画・制作です。本分野で先駆的な活動をされている先生方と対談して、授業づくりの参考にするだけでなく、自分で本をつくって売ってしまおうと考えたわけです。株式会社 聖地会議から現在、下記5冊が刊行されています。

Vol.1 ゲームデザイナーの育て方(上) 馬場保仁/株式会社ファリアー
Vol.2 ゲームデザイナーの育て方(下) 馬場保仁/株式会社ファリアー
Vol.3 ゲームデザイナーと教養の重要性 山本貴光
Vol.4 工学系大学でゲームデザイナー教育を行う意味 中村隆之/神奈川工科大学
Vol.5 遊びと学びの研究者オランダをゆく 岸本好弘/遊びと学び研究所

ただ、紙面で伝えられることには、限りがあるんですよ。せっかくおもしろい話を聞けても、紙幅の都合でカットせざるを得ないこともあります。そこで誌面で伝えられなかったことを補足してもらったり、その内容を基に参加者で意見交換ができたりする場が必要だな......と感じるようになりました。そこで今回、岸本氏にご登壇いただいたというわけです。

社会人学生の経験者だからわかること

というわけで勉強会の前半では、大きく「ゲーム開発者だった岸本氏が、なぜ大学に転身されたか」「大学でどのような授業を行われていたのか」という2点についてお話しいただきました。中でも後者のトピックについては、岸本氏が所属していた東京工科大学 メディア学部のカリキュラム紹介を中心に、詳細な説明がありました。


ゲーム開発者として『ファミスタ』シリーズなどのヒット作を手がけられ、ナムコからコーエーを経て、2010年に51歳で退職した岸本氏。転機となったのが退職後、ニュージーランドに半年間、語学留学をした経験です。「世界中の若者たちと一緒に生活し、英語を勉強して、本当に楽しかったですね。日本に帰ってからも若者と一緒にわいわいしたい。それができるのはゲーム教育だなと考えました」(岸本氏)。

また、授業を行う上で「語学留学を通して、学生側の視点をもてた強みがあります」とも振り返りました。「学生をやってわかったことは、学生は先生を選べないということです。ニュージーランドでは総じて先生方の場を盛り上げようとする意識が高く、楽しく英語を学べました。ただ、中には図書室で自習した方がいいような授業をする先生もいました」(岸本氏)。だとしたら、やはり楽しい方がやる気になるし、学びやすいというわけです。

実際問題として、ひとたび教える側になると、学生だったころの気持ちを忘れがちです。自分もいろいろな勉強会に参加していますが、学生として受講したことはありません。一方で参加者の中には、業務のかたわら社会人学生となり、学び直しを実践された方も少なくありませんでした。中には大学院で学び、博士号をとられた方も......。そうした体験があれば、たしかに授業を行う上で幅や奥行きが出そうです。自分も俄然、学生になることに興味がわいてきました。

続いて授業の振り返りでは、学生を指導するのではなく、学生が挑戦できる「環境」をつくることの重要性が強調されました。

東京工科大学 メディア学部でゲーム教育が始まったのは2004年のことです。同学部では当初から理系の学士力をベースに制作経験と基礎技術力を兼ね備えた人材、ひらたく言えば「次世代のゲームを生み出せる人材」の育成を掲げていました。これにはグループ校に専門学校の日本工学院があり、先行してゲーム教育が行われていた事情があります。カリキュラムを組む上で、大学ならではの独自性が求められたのです(※)。

※詳細は下記記事を参照。
ゲームエンジン教育活用セミナーで語られたゲーム制作教育の現状と課題

岸本氏が直接担当されていた授業「ゲームデザイン演習」も、そうした科目のひとつです。岸本氏はこの授業に加えて、研究室での研究活動などを通して、学生がアイデアを企画書にして発表したり、任意のテーマで5分間ずつ授業を行なったり、夏休み明けに成果発表会を行なったり、学園祭で模擬店を出店したり、オープンキャンパスで模擬授業を行なったり、ゲームジャムに挑戦したりと、様々な取り組みをしてきたと言います。

中でも興味をそそられたのが、学生が「ペラ企画」と呼ばれるA4用紙1枚程度のゲーム企画書を作成する演習です。作例されたペラ企画は学生間で相互評価され、1位は5点、2位は3点、3位は2点......と点数がつけられます。授業は1回で終わらず、前期の15回を通して総合優勝が決まるしくみです。授業は1年生から3年生までが履修でき、1年生がいきなり高評価を得るなど、様々なドラマが見られたといいます。


もっとも、学生が相互評価を行うためには客観的な指標が求められます。岸本氏はそのために使われるチェックシートを学生自身で考えさせたり、その内容を基にした30枚の「ペラ企画・パターン」カードを制作させたりといった授業も行なっていたと説明しました。また、ゲーム開発者会議のCEDECで開催されるペラ企画コンテスト「PERACON」に応募させたり、学生の企業見学などと組み合わせて、社会人の前でプレゼンを行なわせたりといった授業も実施したといいます。

これらの授業を通して岸本氏は「社会・教育・人生など、世の中全てのものを面白くするゲームデザイナー」の育成に取り組んでいたと語りました。これは同学部の「次世代のゲームを生み出せる人材」の育成とも符合します。その上でゲームデザイナーに必要な力として「企画力・プレゼンテーション力・プロデュース力」を挙げ、これらの能力を伸ばすための授業を行なっていたとまとめました。

その一方で仕様書制作やツールの使い方といった実践的なスキルは、特に教えなかったと言います。「本を読むなどして、必要に応じて自分たちで学べと、割り切っていました」(岸本氏)。もっとも、より実践的なスキルが求められる専門学校で教えていたら、ちがう内容になっていたと、岸本氏は補足します。そしてこの大学と専門学校のちがいについては、後半のディスカッションでも主要テーマのひとつとなりました。

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トップを伸ばす大学と、底上げを目指す専門学校

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