変身シーンを盛り上げる背景たち
ここでは、変身シーンの背景に注目したい。7人の中から逢坂壮五さん、大和さん、一織さんのシーンを紹介しよう。
▲逢坂さんの変身シーンの背景美術。舞台となるこのような城の場合、建築上このサイズの窓ガラスに枠が入っていないことはないのだが、逢坂さんの顔に枠が被らないように、本MV仕様としてあえて窓枠のないデザインにされた。背景美術ならではの「絵の嘘」が活きている
▲実際のカット。窓枠をなくしたことで、逢坂さんの演技を邪魔せず、ガラスだけが美しく飛び散る神秘的なシーンとなった。なお、このガラスについては、撮影時は危険を考慮してべっ甲でできた板を使用し、VFXで割れるガラスに差し替えたとのこと
▲二階堂さんの変身シーンの背景美術。このシーンは背景モデルの形に合わせて背景美術を描いているのだが、同じレンガを並べるだけでは整いすぎたいかにも作り物のチープな印象になりがちだ。そこで背景モデルの形と大きくはズレないようにしつつも、背景美術側で絵を崩して抑揚をつけている。「綺麗に違和感がないように崩してあげるのも、美術の大事な役割だと思います。自然な感じを出すには、人の目で描いた方が独特の味が出て上手く仕上がります」(赤木氏)
▲完成したカット。リアルに描かれた背景の中、炎を通り抜けるという非現実感が、このシーンをより印象的にする
▲一織さんの変身シーンの背景美術。一織さんは生け垣に穴を空ける演出があったため、奥の生け垣【上】、手前の生け垣の穴なし【左下】と穴あり【右下】の美術素材が用意された
▲【左】と【右】は手前と奥の生け垣を合成した状態だ
▲完成カット。実際に生け垣に穴を開けることなく、地球に優しい形でカッコ良いかシーンが出来上がった。なお、こちらの羽のエフェクトについては連載第2回で解説しているのでそちらもチェックしていただきたい
美術目線から舞台を効果的に補う
山中にひっそりとそびえ立つ古城。四方を囲む豊かな自然や山々が北欧の空気を感じさせるが、この山々には実は技術的な意味合いも隠されている。周囲を山にすることで、地平線を隠し、その後ろの空間を省いているのだ。先に紹介した橋の上のカメラワークや、氷の湖のシーンでも効果を発揮し、不要なコストを削減しつつ、安心して自由なカメラワークをつけている。そうした様々な面で重要な役割を果たしている山にも工夫が施されている。ざっくりとした周りの背景モデルはあるが、平面で描いた美術素材を3DCG側で丸く配置して上手く立体感を出した。
3D的なカメラワークのあるカットの場合、レイアウトと形が異なる美術素材にしてしまうと、背景モデルに貼り込む際に素材がずれてしまうため、基本的にはレイアウト通りに描かなければならない。しかし「人の目で見たときの感覚を大切にしている赤木氏は、不足していると感じる箇所は補うという方針を採っているそうだ。
▲【上】の3Dレイアウトから山の形を変更し、その代わりに川を入れることで、スケール感を演出している。描かれた背景美術が【中】で、完成カットが【下】だ。レイアウトから変更して、背景美術で寄り精度を上げている
赤木氏の作業机を直撃!
最後に、赤木氏がアナログで使用している道具を一部紹介しよう。
▲赤木氏の作業机。様々な道具が用いられている
▲ポスターカラー。アナログの背景描画で必須のアイテムだ。棚にも様々な色の予備を保管。作業机にはいつでも使えるようによく使う色が並べられている。各容器にはプラスチック製のスプーンが差してあるが、これは固まったりカビが生えたりしないようにかき回すためのもの。容器にサイズがピッタリだ
▲筆。こちらもありとあらゆる種類が取り揃えられている。描くものによって適宜使い分けているとのこと。どの筆を選ぶかも背景美術職人の経験がものをいう
▲ソフトパステル。こちらも赤木氏の愛用品だ。様々な画材を駆使し、さらにデジタルツールと組み合わせて作品の世界・舞台を構築する背景美術職人のアトリエを垣間見た
連載第4回はここまで! 本誌では扱っていない、初出しの情報ばかりをお届けした今回、いかがだっただろうか。メンバーの演技を支える舞台に隠された熱い情熱や苦悩を知り、改めて観返したい気持ちに筆者はなった。ときにぶつかり合いながらも、助け合い、支え合い進化していく姿は、これまでのIDOLiSH7の姿に重なるような気がする。仲間となら、どんな今日も越えられる。そして、完成する奇跡の結晶。次回も、そんな奇跡の裏側に隠された熱い想いを別視点からお届けするのでお楽しみに!