CGコンテンツを扱う企業の現場スタッフに、1.基本情報(ツールやチーム構成)、2.仕事内容(ワークフローやスキル)、3.文化(スタッフの一日の過ごし方や学び方など)の3項目を伺う、連載「比べて分かる!CGの職種紹介」。インタビューを通して見えてくる、業界・職種・企業ごとのちがいを明らかにしていこう。
今回は、個性的なブランドで業界内でのポジションを確固たるものにし、作品を手がけるたびに「さすが」「これぞ」という声が聞こえてくるクリエイティブスタジオの有限会社 神風動画。2024年5月21日(火)に創立21周年を迎え、新作『ニンジャバットマン対ヤクザリーグ』の制作が発表されるなど、ますます勢いに乗っている。
2023年11月に開催したCGWORLD 2023 クリエイティブカンファレンスで神風動画は、「20周年!神風式アニメスタジオのブランディング術」と題して、広報活動の側面からCGプロダクションを考えるというユニークなアプローチのセッションを担当。
そのながれを受けて本稿では、ディレクター陣やクリエイター陣ではなく、彼らのクリエイションを後ろから支えるバックオフィスチームにスポットライトを当てる。これを読めば、CGプロダクションにとっていかにバックオフィスの存在が重要か、その認識が一変するはずだ。
▼<1.基本情報> 神風動画のコンテンツと人員構成
実績紹介
社内の人員構成
正社員38名と 業務委託者が5名。そのうちの女性4名で構成されるバックオフィスチームは、総務・人事・経理・労務・財務・システム管理・広報などを一手に引き受けている。
▼<2.仕事内容> 「クリエイターが安心して働ける環境づくり」
神風動画のバックオフィスチームの大きなミッションは「クリエイターがものづくりに集中できる土台づくり」。社員が安心して働けて、もし卒業してしまったとしても、「神風にいる時は楽しかったな」「仕事は厳しかったけど面白かったよね」と思ってもらえるような場所にしたい。バックオフィスチームの面々はそう考えている。
人事畑で10年ほど経験を積み、神風動画に入社。現在2年目。管理業務全般に精通し、経営企画から財務・経理、人事・労務、法務まで、バックオフィス全般を統括する。
「水﨑(淳平氏、代表兼クリエイティブディレクター)は社長業とクリエイティブがコンフリクト(競合)する場面が多いので、私は今、水﨑を経営面でサポートできるようにいろいろと吸収させてもらいながら、人事評価システム(後述)の構築にも力を入れています」
2020年新卒入社した、いわゆる広報担当。XやInstagramを中心としたSNS運営やYouTubeによる情報発信をはじめ、会社が対外的に発信する全ての情報や表現物をコントロールする。
「水﨑のこだわりを汲み取って表現物に反映したり、クリエイターの皆さんがつくった作品を、一番のより良い形で出していくのが仕事です」
CM制作会社の制作管理として3年半経験を積み、2017年に神風動画としては初の専任事務スタッフとして入社。経理、総務、人事を担当する。
「クリエイターに『居心地が良い、働いていて楽しい』と言ってもらえる場所をつくるのが仕事」。
神風動画の手がける作品に惹かれ2018年に入社し、クリエイターの勤怠管理から請求書の処理、社内の環境整備まで、社内全体に気を配る。
「勤怠を見ながら、さりげなくスタッフの体調にも気を配ったり。バックオフィスですが、自分はミーハーなので(笑)、作品に携わっている感覚が楽しいです」。
仕事内容・ワークフロー
バックオフィスの業務は多岐にわたるが、いずれの業務も水﨑氏の考えである「クリエイター自身の生活が充実すると良いものがつくれる」をサポートするためにある。
世界を見据えた評価制度
神風動画の特徴として、クリエイターがひとつのポジションだけに固執せずフレキシブルに挑戦できる強みがある。少数精鋭だったこともあり、あえて部署を職種別に分けておらず、スキル面での明確な評価制度を敷いていなかった。しかしここ数年でスタッフ数が急増したことに伴い、全スタッフのスキルや志向を把握し、最適なプロジェクトにアサインできる機会を最大限に拡げるためにも、評価制度は喫緊の課題となっていた。
その状況は川村氏の入社により一変。クリエイターのスキルを「技術評価」として39項目リストアップし、“神風基準”の10段階で評価する仕組みを昨年度より取り入れた。その評価のポイントは“世界で戦える日本の映像制作会社”。そのため、社内のトップクリエイターに対しても10段階中10点の評価を付けることはなく、8点までの評価に留めている。世界に出て評価された暁に10点の評価を得られる、という伸びしろを用意しているのだ。
「うちには、それこそ『○○さん指名で!』とクライアントさんからご指名をいただくような選りすぐりのディレクターやクリエイターが何名も在籍しています。でも、『まだまだここで止まらないでしょ!』という願いも込めて、あえて2点の余白を残しているんです。もちろん、この評価制度はまだ1年回しただけなので、これからも調整をかけていきますが、この制度がクリエイターが安心して仕事に打ち込める“土台”になると思っているので、かなり力を入れています」(川村氏)
水﨑淳平の考え・思いを代弁する広報活動
先述のセッション「20周年!神風式アニメスタジオのブランディング術」でも扱った通り、神風動画のブランディングはとても個性的だ。その背景にあるのは、水﨑氏の「他社があまりやっていないやり方で会社の良さや魅力を出していきたい」という考え方。水﨑氏がクリエイターとしての側面を強く持つことから、対外的なアウトプットには全て氏のチェックが入る。そうした水﨑氏の考えを慎重に汲み取り、全ての発信物や表現物を担当するのがCI/VI室の蒲氏である。
「Xにアップするちょっとした画像でも、テキストの大きさや配置、見やすさ・読みやすさなど、細かなところを指摘していただいて、それを受けてブラッシュアップしていきます。そういうやり方でSNS、ホームページ、暑中見舞い、年末のグリーティングカード……。外に出るものは全部私から水﨑を通って出て行くようになっています」(蒲氏)
「水﨑は自分でやりたくて、他の人に任せられないタイプなんですが、それをやっていると代表の業務が止まってしまいます。だから蒲の存在は大きいんです。最近では水﨑のこだわり、“水﨑イズム”みたいなものをかなり吸収してくれていて、かなり打率が上がっています(笑)。『蒲さんがつくったやつだったら良いんじゃない?』と水﨑が言うケースも増えてますね」(川村氏)
細やかかつ丁寧な仕事ぶりで社内からの信頼が厚い蒲氏。メイキングや途中のデザインを広報素材として外部に出すような場合にも、クリエイターに寄り添い、事前にクリエイターと相談するほか、クライアントに対する許諾確認も丁寧に行う。今後は、神風動画が世界を見据えるフェーズに入ることもあり、英語による広報活動にも力を入れていくという。
社内イベントの充実
木村氏と太田氏は総務部として社内のイベントを多数企画・運営する。月1回、編集室の大きなスクリーンを利用した映画鑑賞会は、スタッフ同士がお酒を飲みながら交流するイベント。先日はディレクターの水野貴信氏も飛び入りで参加したそうだ。また、スタッフの気軽な交流に繋がる週1回のおやつ会もある。
実用的なものとしては、講師を呼んでのクロッキー会(月1回)や夕方のラジオ体操、「運動不足解消部」による軽い運動(現在は月1回の卓球)なども。その他、忘年会や納涼会、お花見などの大きめのイベントももちろんある。
また、後述の駄菓子販売コーナー「木村商店」もユニークな施策だ。
▼<3.企業文化>
スタッフの働き方
定時は10時~19時で、バックオフィスのメンバーはおおむねそのスケジュールで働く。クリエイター陣は基本的に時差出勤をしているが、残業はあまりなく、11時出社なら20時、12時出社なら21時に退勤している。
月曜と金曜はクリエイターのフルリモート勤務が認められているが、総務部の木村氏か太田氏のどちらかは必ず会社にいる。そのため、クリエイターが自席のPCの電源を落としてしまっているような場合でも安心だ。
「月初・月末は忙しいです。1日のスケジュールとしては、午前中はメールや電話対応、来客対応が多くて、午後からは勤怠とか雑費をまとめるような事務作業が中心。午後からはバタバタしがちな毎日ですね」(太田氏)。
インプット方法
「気を遣っているわけじゃないんですが(笑)、CGWORLDを読んで業界の情報を知るようにしています。他社さんはどういう風に仕事をやってるんだろうとか、クリエイターはこういうふうに仕事をしてるんだとか、知っているだけで動きやすい時があるんですよ」(木村氏)
「水﨑との会話の中でなんとなく出てきた映画とか、直接勧められた作品とか、そういうものはなるべく追いかけるようにしてるんです。そうすると、神風動画がつくる作品の裏にあるものがだんだんわかるようになってくるというか……」(蒲氏)
『SAND LAND』の広報活動の一環として、水﨑氏にレクチャーを受け、プラモデルの制作も行ったという蒲氏。それを見ていた川村氏は、「水﨑が好きなことを通じて会話を重ねることで、より深く水﨑の考えを理解できるようになりますし、その作品への愛情も醸成されますから、広報活動が一段上のレベルに引き上がっていて、すごくありがたいなと思います」と話す。
「私の場合、XとかSNS界隈で何が起こってるのか、論戦や炎上を中心に、気をつけて見るようにしています。そういった情報は蒲に共有しますし、CI/VI室のミーティングにもアドバイザーとして参加させてもらってるんです」(太田氏)
神風的手づくり文化
木村氏を中心に企画・運営されている、手づくりの福利厚生も神風ならでは。駄菓子やスナック、カフェコーナー、さらにはアイスクリームまで品揃えした「木村商店」がオフィス内に開店している。
「会社としてまだそれほど大きくなくて、仕組みがキッチリあるわけでもないので、みんなが手づくりでやっています。この『木村商店』もそうですが、部活も福利厚生も、スタッフがやりたいって言ったことは否定せず、やりたいようにやらせてくれるのが神風文化なんです」(太田氏)
中途採用は通年で募集をしている神風動画。
現在、バックオフィスのメンバー募集は行っていないが、バックオフィスメンバーが企画したクリエイター向けの会社説明会の実施が予定されているという。
「バックオフィスは人ありき。個性あふれる社員ひとりひとりに気配りすることを心がけているので仲間入りしたいクリエイターの方はぜひ会社説明会に参加してみてください」(太田氏)
「うちはバックオフィスもクリエイターも、提案しながら切り込んでいきたいと思っている人は向いてるように思います。クリエイターさんが挑戦できる環境をバックオフィスで整える連携の仕方が面白い職場だと思いますね」(川村氏)
TEXT__kagaya(ハリんち)