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第1回:宮下善成先生(トランジスタ・スタジオ)

第1回:宮下善成先生(トランジスタ・スタジオ)

本当に極めたいなら、本質の理解が欠かせない

トランジスタ・スタジオの代表取締役として若手と接する場合には、基礎を重視しているとのこと。「今年は3人の新卒を採用しましたが、全員基礎はできていますね。1人はHoudini使いで、"Houdini愛"があります」。自宅で無料版を使ってみて、もっと使いたくなった。だからそれを仕事にしたいという、熱意を評価したと宮下氏は語る。
「実力はまだまだなので、今はHoudiniの本質を勉強してもらっています。最近のHoudiniは進化していて、例えばオブジェクトに煙のアイコンを関連付けると、煙を発生させることができます。そういう簡単機能のお陰でHoudiniのしきいが下がったのは良いことだと思います。ただし本当に極めたいなら、そこから本質の部分に向けて、徐々に機能を解読していくことが必須です」。
かつては、本質的な部分から辛抱強く機能を積み上げていかないと、煙を出すことはできなかった。逆のアプローチが可能になったことで、随分としきいが下がったそうだ。

「先生に聞く。」第1回・宮下善成先生02

先に紹介した今年の新卒採用者のうち、他の2人はアニメーターで、違和感の少ない動きを付けられるという。
動きを見て、"何故そうなっているのか"を理解する、観察力が備わっていると思います。モデラーにしろ、アニメーターにしろ、観察力は大切な基礎なので学生のうちから培ってほしいですね」。

今回の取材では、宝塚大学 東京メディア芸術学部で実施されたMayaの講義を見学した。ボールが床の上でバウンドするアニメーションをつくるにあたり、全員にゴム製の小さなボールを配り、まずはその動きをよく観察するようにと指導している様子が印象的だった。
「想像だけでつくっても、往々にして現実の動きは全然ちがうものなのです。わかっているつもりのことが、実はわかっていない場合が多い。それを体験してもらえたら良いなと思っています」。ソフトのオペレーションを教えるだけに留まらず、観察し、理解し、表現するという、基本的なアプローチ方法が自然と身に付くように工夫しているというわけだ。

「プロと学生のちがいは、作品の到達点の高さだと思います。"自分は学生だから、このくらいで良いや"と思っている人が多い。でもプロに要求される到達点は、もっと上の場合が多い。デッサンでもアナログでも良いので、1つの作品の到達点を高く設定して、実際にそこを目指す経験を学生のうちにしておくと、プロになってからもがんばれると思います」。

「先生に聞く。」第1回・宮下善成先生03

宮下氏は、教壇に立つことを"社長の良い暇つぶし"と謙遜するが、講義の様子やインタビューを通してその真摯な姿勢が伝わってきた。3つの教育機関で実施する様々な講義も、自身が経営する会社での新人育成も、基礎と本質を重視するという哲学は共通しているようだ。宮下氏のこれまでの貢献に敬意を表すると同時に、今後の引き続きの活動にも期待していきたい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

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