これまで首都圏を中心に都市部への集積が続いてきた日本のCG業界だが、近年、地方行政における誘致活動の動きと相まって、新拠点を検討をするコンテンツ企業・クリエイターも増加中だ。本連載では、自分たちが好きな場所で働くクリエイターにフォーカスをあて、その暮らし方や業務スタイルを紹介する。
第4回は熊本市在住のCGクリエイター・まめたろう氏を取材。熊本を選択した理由から熊本独自の魅力、日々の暮らしまで、様々な観点から、熊本で働くということについて語っていただいた。
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なぜ熊本市に?
――まずは自己紹介をお願いします。
まめたろう:RED所属のCGクリエイター、まめたろうです。代表作は「ぽよんぽよん動画とすれすれ動画」です。僕はもともと熊本県出身で、福岡と東京で働いて、また福岡に戻って、そこから現在の熊本へと戻ってきているという流れです。RED自体は東京の会社なんですが、フルリモートで熊本で働かせてもらっています。
――そもそも出身地が熊本なんですね。
まめたろう:はい、なのでUターンということになります。ただ現在の住まいは熊本市なんですが、出身地は合志市というところです。
――就職してから現在に至るまでの経歴についてお聞かせください。
まめたろう:もともとは漠然と映画監督になりたいと思っていました。そこで色々と調べてみたら、何十人何百人のチームで協力してやらなきゃならないと知って、それは性に合ってなさすぎるなと断念しました(笑)。それで1人でやれることはないかと姉に相談したら、CGなら1人でもできるんじゃないかと言われて、そこからCGの道に進むことに決めて、福岡のデジハリに入学しました。
就職のきっかけとしては、デジハリの卒制発表会を福岡の映像プロダクションの方が見に来ていて、うちで働かないかとスカウトされたんです。TV番組系CGのバイトからスタートして、その後福岡の会社に就職しました。さらに、デジハリ時代の先輩が働いている別の福岡の会社へと転職し、その次に東京のWOWという、僕がCGをやり始めた頃から憧れていた会社へと転職しました。そこで三年働いていたんですが、結婚もして子供のことも考えた時に、九州でスローライフな生活を送りたいなと考えたんです。そこで、先輩がいた福岡の会社に出戻りさせていただくかたちでいったん福岡に戻ってきました。その後、ビジュアルマントウキョーが熊本オフィスを立ち上げるタイミングで参加させていただいたんです。数年間お世話になった後、現在のREDへ転職して引き続き熊本で仕事を続けることができています。
――現在のお仕事の内容としてはどのようなものなんでしょうか。
まめたろう:会社としては、広告や展示物などにおける映像演出・制作、特に近年ではイマーシブコンテンツの企画制作や、新規IP開発などを手掛けています。また、僕個人としては、SNS経由で依頼をいただいて、自分が得意な表現であるぽよんとしたものや、すれすれな動きの案件をやらせていただいています。
熊本での暮らし
――続いて、熊本での暮らしについて伺います。九州に戻ってきたことで、東京との違いは実感されましたか?
まめたろう:やっぱり九州は凄く肌が合うと思いました。気候からしてだいぶ違います。九州はカラっとしていて、風通しが良くて、東京の籠もったような暑さとは違うなと。それに人が少なく自然に囲まれているので、とてもリラックスできますね。
――熊本に住むことで、クリエイターとしての仕事関係で困ったことというのはありませんでしたか?
まめたろう:仕事で困ったことは特になかったです。ただ、東京と比べて展示や個展といったクリエイティブな催しがないので、そういったインプットのための機会損失は大きいなと思います。Xなんかで見かけて行きたいなと思ったものでも、9割方が東京開催のものなので。クリエイター同士の繋がりも、youtubeライブのチャットで質問するとかになってしまって、実際に会う機会が少なくなってしまっていますね。
でも、僕はもう考え方が仕事よりも家族ファーストになっていて、熊本に帰ってきてからとにかくプライベートが充実するようになったんです。やっぱりクリエイティブに専念するだけなら、刺激のある東京にいたほうが良かったと思うんです。でも、僕は自分が育ってきたのと同じ感じで子供を育てられたらいいな、熊本で子育てできたらいいな、と思っていたので、熊本に帰ってきて良かったです。両親のそばにも居られますしね。それに、結果的にそういったプライベートの充実が、仕事にもいい影響を与えていると感じています。
――熊本でのおすすめスポットなどがあれば教えてください。
まめたろう:イオンですね(笑)。イオンが大好きで、毎週行くんですよ。日曜日に家族でイオンに行って、フードコートやゲームセンターに行ってると、「家族してるなあ」「日曜日してるなあ」って感じるんです。
それに、天草の海にも先週行きました。動植物園もよく行きますし、家族風呂にもしょっちゅう行きますね。それから阿蘇の滝に行ったりとか…。それから県立美術館にもちょくちょく行きますね。自分も子供の頃に親に連れられて行っていたので、自分が子供の頃に行ってた場所に、自分の子供を連れて行けるというのはいいですね。とにかく、熊本にいる理由を毎週思い出すように、東京ではできないことをやっています。
――ショッピングモールに自然に文化施設にと、熊本には家族で楽しめる場所がたくさんあるんですね。おすすめの飲食店や食べ物はありますか?
まめたろう:よく午前休を取って、コナズ珈琲というハワイアンカフェに奥さんと二人で行ってるんですが、そこはかなりお気に入りのカフェです。それから、熊本銘菓の蜂楽饅頭も好きですね。南阿蘇にもお気に入りのカフェがあってケーキやカレーを食べに行ったり、先週は二人であか牛丼を食べにいきました。
地方移住の魅力と東京との対比
――改めて、地方と東京の違いについてうかがいます。東京と熊本で、対人関係に違いはありましたか?
まめたろう:東京って人は多いですけど、みんな人のことを見ていない、気にしてないという点が気楽でしたね。熊本の場合は、誰かしらが自分のことを気にしているという感じです。ただ、お互いに知り合いの知り合いかもしれない、という感覚が、治安の良さなどに繋がっているかもしれないですね。
熊本県人は、同郷の絆が強いと思います。僕自身は熊本出身なので、熊本に戻ってきて住みやすいと感じています。立地的にも、地元からも近く、都市ではあるが周囲に自然も多い熊本市のバランスがちょうどいいなと感じています。
――東京と熊本で、家賃などの生活コストや住環境に変化はありましたか?
まめたろう:東京に住んでいた頃は1LDKで家賃が15万円くらいで、今思うと高かったですね。どれだけ安くなるかは場所によると思いますが、確実に安くはなりますね。物価などは、東京だとスーパーなどは選択肢がたくさんあるぶん、探せば安いところもあったので、そこまで変わらないという印象です。大きく違うのは、車での移動がメインになるという点ですね。この点は人によると思いますが、通勤のための満員電車に乗りたくないという人にとってはいいと思います。
――これから熊本市でクリエイターとして活動していく上で、こんな人と交流してみたいといった希望はありますか?
まめたろう:CGクリエイター同士でというより、webの方だったりとか、ちょっと違った媒体のクリエイターさんたちと絡んでいきたいですね。ちょっと業界の違うクリエイターさんと会うほうが、違う発見がありそうで興味があります。異業種の方の技術的なことというより、アイデアの作り方や仕事のスタンスなどの、もっと根本の発想のところに触れてみたいですね。
――CGWORLDとしても、そういった地方で働くクリエイターさんどうしの交流イベントを企画できればと考えています。それでは最後に、熊本市に限らず、地方へ移住しようと思っているクリエイターに向けてのアドバイスをお願いします。
まめたろう:都会から地方へ行く人って、都会じゃ叶えられない何かを解消したくて行くと思うんです。例えば僕の場合は「家族ファースト」ということと、メンタルが豊かになる環境を求めていました。熊本に移住したことで実際にそれが叶っているし、そこの充実感が仕事にいい影響を及ぼしていると思っています。なので移住したい場所が、自分の叶えたい希望が本当に叶う場所なのかということを、事前にちゃんとリサーチしてみることが大事だと思います。
――今回はありがとうございました。
TEXT_オムライス駆
EDIT_中川裕介(CGWORLD)