「CG/映像制作のプロフェッショナル」として2013年に設立され、広範囲のエンターテインメント映像を手がけてきたComposition。10年後の2023年には「世界を創るプロフェッショナル」としてVirtual Studio MOOVが同社内に起ち上がり、次世代バーチャルエンターテインメントの旗手となっている。
最新テクノロジーによる、誰も見たことのない景色。Composition / MOOVがライブ現場でスクリーンに映し出す仮想世界の演出には、機動性・安定性・生産性の全てに優れたPCが欠かせない。同社はその相棒としてマウスコンピュータのクリエイター向けPC「DAIV FX」シリーズを選んだという。ここでは、Composition / MOOVの仕事とワークフロー、そこに介在する制作環境について伺い、同社が選んだ「DAIV FX」シリーズの魅力を紐解いていく。
「今出せる一番美しい映像を、ライブで出したい」
CGWORLD編集部(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします。
緒方達郎氏(以下、緒方):Composition代表の緒方です。MOOVのプロデューサーも兼務しています。
Compositionは2013年に、フリーランス集団のような体裁で誕生したCG制作会社です。軸はエンタメ系の映像コンテンツ、テレビやライブ映像、MVなどでした。そこにやってきたコロナ禍が、大きなターニングポイントになりました。
ライブエンタメは激減する一方で、キャラクターを扱うゲームのPVなどはむしろ好調になりまして。ちょうどVTuberやバーチャルタレントが出てきたタイミングだったこともあって、うちがこれまでバラバラにやってきたいろんな仕事の点が繋がって線になり、MOOVが生まれたんです。キャラクターを扱うエンタメかつ音楽系のコンテンツ制作を行うバーチャルスタジオです。
CGW:いわゆるバーチャルプロダクションでしょうか。
緒方:大きなくくりはそうですが、MOOVの立ち位置は、世界観やストーリーをきちんとつくるバーチャルプロダクションです。フィジカルなライブの代替手段ではない、さらにその先の表現です。
CGW:単なるライブの代替ではない、と。
緒方:はい。バーチャルならではの世界観と、ストーリーで肉付けされたライブをつくり出すことを指向しています。つくり手としては「今出せる一番美しい映像を、ライブで出したい」という衝動に従ってものづくりをしています。
CGW:技術的にもかなり高度かと思います。
緒方:これまでのライブ演出で培った制御技術を派生させつつ、最新技術にその都度適応して、PBRベースのリアルな表現をするので、かなり高度です。僕たちのバーチャルプロダクションが目指すのは、「もうひとつの世界をつくること」。技術とビジュアルを良いバランスで発展させて、総合的なプロデュースとディレクションを進めています。
CGW:最先端の技術を扱う関係上、現場でのコミュニケーションも重要になりますね。
緒方:その通りです。僕たちは新しいジャンルの仕事をやっている関係上、技術がたくさん混ざり込んでくるんですが、そうした技術をしっかり理解したうえで、各所とやりとりしないと仕事が成立しません。広範囲に技術的なコミュニケーションを取りながら実際に組み立てていく。そうした、すごく重要な役割を担っている中心人物がこちらの小笠原さんです。
小笠原優樹氏(以下、小笠原):バーチャルライティングアーティストの小笠原です。Unityのタイムラインを使ったバーチャル制作のリーダーと、コンテンツ制作のメインの作業者を兼務しています。バーチャル空間内のライティング作成、モデラースタッフさんたちのデータの取りまとめと進行もやっています。
CGW:バーチャルライティングアーティストとはどんな業務でしょうか。
小笠原:ひとつはUnityの中、3Dアーティストだけで完結する演出という意味でのライティング。もうひとつはリアルの照明さんの信号をUnityのシステム側で受け取って、バーチャル内で連動するように繋ぎ、制御するという作業です。
バーチャルプロダクションの制作&運用フロー
CGW:バーチャルプロダクションの制作フローを紹介してください。
緒方:一例として、ある配信者寄りのタレントがいて、これからは歌手として活動するためのライブを演出したいというオーダーがあったとします。我々はライブが始まったときから、それまでとはちがう、凛とした歌手らしい見え方になるように世界観や演出プランを組み立てるんです。そしてセットや曲ごとの演出、幕間映像の提案、アートの提案、モデル制作チームによるセット制作の順にフローが進んでいきます。
CGW:スケジュール感としてはどのくらいですか?
緒方:本格的に動き出してからはトータルで5~8ヶ月ぐらいですね。理想的なスケジュールは、4~5か月前にアートが固まって、1~1.5ヶ月でモデル制作を進めながらセットの連動部分を仕込み、1ヶ月前ぐらいに照明類が通しで見えてきて、本番の調整です。
CGW:いちばん忙しいのはどの工程ですか?
緒方:ダントツで直前から本番です。機材を会場に持ち込んで、実際に映像を繋いで本番運用をしますから、かなり緊張感があります。こちらが止まれば全てが止まりますからね。バーチャルプロダクションセットの場合も、ドーム会場で横50mある巨大LEDに画を出したりするので、PCがクラッシュしたら真っ暗です。もちろん、PCを複数台用意したりなど、できる限りのリスクヘッジはしますが、緊張感はすごいです。
CGW:現実の照明さんとの打ち合わせもあるのですか?
小笠原:あります。僕が中心になって、リアルの照明さん、電飾さん、レーザーさんとやり取りをして、バーチャルとリアルがスムーズに繋がるように調整しています。
緒方:現地ライブとの連動は本当に重要です。僕らはライブプロダクションでは新参者ですから、従来のやり方を邪魔せずに新しい表現ができるように、気を遣います。
小笠原:言ってみれば、僕らは新しいセクション、「バーチャルさん」みたいなものですから。
現場での激しい運用を見越してつくり込まれたDAIV FXのケース
CGW:ここからは制作環境について伺います。直球ですが、なぜDAIVを選んだのですか?
小笠原:現場で使えて、持ち運びができる高性能なPCを探していて、DAIVが条件を満たしていました。特にリアルタイム映像を扱う現場が多いので、安全性・信頼性、故障などトラブルに対するサポート体制も重視しました。
緒方:持ち運ぶと揺れで消耗しますからね。過去に他社PCで、大型のグラフィックカードがケースの中で暴れてPCI Expresスロットが壊れてしまったなんてこともありました。
小笠原:DAIVのすごいところはそこの信頼性です。グラフィックスカードなど拡張カードを固定するサポートバーがケースと一体化しているので、かなりの安定感と堅牢性があります。輸送と積み下ろしの際や、運送中悪路を走る場合など、どうしても揺れは発生してしまうので、梱包されていてもPCの中がしっかりしていないとマズいんです。
緒方:この取っ手とキャリーも良いよね。
小笠原:本当に助かってます。DAIVはどこを持っても安定して持ち運べるので、移動がスムーズです。中の配線もシンプルかつ綺麗につくり込まれていて、掃除や拡張といったメンテナンスがしやすいです。BTOでケースまでしっかり考えてつくっているという会社はなかなかないので、購入の決め手のひとつになりました。
緒方:うちのバーチャルライブのシステムは、1台の制御PCから別のPCにいろんな通信信号を並列で出力できるようになっています。だから、例えばカメラのアングルちがいとかARとか、ちがう画をたくさん出す場合は、複数のPCを用意する必要があるんです。その点、DAIV FXなら制作環境としても使えるし、堅牢性やサイズ感、持ち運びのしやすさからライブ現場にも持ち込みやすい。重宝しています。
大量のデータを高速処理できるスペックと拡張性を重視
CGW:バーチャルプロダクションではどういった作業で負荷がかかるのでしょうか。
緒方:ライブ用のコンテンツ制作の場合、ゲーム開発のような最適化処理には力を入れていなくて、アーティスト主導でゲームエンジンの性能を最大限使い切るような使い方をしています。なので、制作中もライブ中も、全般的に高負荷です。
小笠原:GPUは常に利用率100%で張り付いてますね(笑)。
CGW:ちょうど2月に4台、「DAIV FX-I9G90」を導入されたそうですが、そうした高負荷に応えるスペックのものを?
小笠原:はい。購入時点でいちばん良いスペックのもので、CPUはCore i9-14900KF、GPUはGeForce RTX 4090/24GB。メモリは64GB、メインストレージはNVMe SSD(Gen4x4)2TBを2台。ひとつはOS起動ドライブのM.2スロットです。それと、データの保存領域として8TB HDDを搭載しました。
DAIV FX-I9G90
- OS
Windows 11 Home 64ビット
- CPU
インテル Core i9-13900KF プロセッサー
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 4090
- メモリ
64GB(32GBx2)
- ストレージ
NVMe SSD 2TB +NVMe SSD 2TB+ HDD 8TB
緒方:ライブプロダクションで特に重要なのは高速かつ大容量のストレージです。取り込む動画とか照明の記録データとか、サイズの大きなデータがたくさんあって、それをバーチャルライブのシーン切り替えに使うので、ロード時間が短くないといけない。だから2TBのSSDを2台搭載しました。それと、データは一度メモリに読み込まれるので、メモリ容量も大事です。今のところ、64GBはないと上手く動かせないですね。
小笠原:拡張性も大事です。Blackmagic DesignのDeckLinkというPCIeキャプチャカードをPCに挿して、安全性が担保されたSDI信号(映像)をリアルタイムで送出できるようにするのはマスト。それと、照明さんからの信号をLANケーブル経由で受け取ったりもする関係上、LANは2口にするので、PCI Expresスロットに余裕があるBTOのデスクトップじゃないとダメです。
緒方:あと、BTOのデスクトップには無線LAN(Wi-Fi)がない製品が多いですが、DAIV FXなら大丈夫です。現場で急ぎネットワークにアクセスしなくてはならない場面も多いので助かります。
CGW:排熱周りはいかがでしたか?
小笠原:最新スペックのPCを使うとどうしても温度のリスクが上がるものですが、このDAIV FXでは今のところその問題はないですね。話題に上らないぐらい気にしていないです。
CGW:DAIVは電源からの排熱とグラフィックカードからの排熱を別々の空間に通して処理しているということで、それが活きているようです。
メタバースとリアルバースが地続きになる世界で
CGW:スタッフの皆さんは、プレイヤーとしてもバーチャル世界で遊んだりされていますか?
小笠原:自分は演者として音楽をやっていた経験があるんですが、Compositionに入社する前、VRのメタバースで遊ぶのにハマっていて、バーチャル世界でのライブ表現を探求しながら活動していました。このCG世界でライブ映像をつくれたら面白いんじゃないかと考えていたんです。そんな自分の活動を緒方さんが見つけてくれて、声をかけて頂き、今ここにいるんですよ。
緒方:バーチャル好きかどうかで言うと、うちのスタッフにはVR Chatユーザーが多いですよ。
小笠原:9割ぐらいそうかも(笑)。福岡からリモート勤務しているスタッフもいるんで、VR Chat飲み会をやったりもしてます。
緒方:先日は会社でリアル飲み会をやったんですが、そのあとVR Chatで続きの飲み会をやってました(笑)。
CGW:それはCompositionならではの光景かもしれないですね。
緒方:それに関連して、僕はここ数年、「CGの手芸化」が進んでいるなと感じています。プロの領域のツールや技術がどんどん手軽に身近になっていて、若いクリエイターがプロ顔負けな作品をSNSに投稿することも増えました。良いPCと良いツール、良い技術があれば、もう何でもできるという、それをポジティブな意味で「手芸化」だなと。すごい良い時代に生きているなと実感しているんです。
オンラインゲームの世界やメタバース、バーチャルタレントも一般化してきていて、日常と地続きになってきている。それは今後もっと深まっていくでしょう。それはつくり手とプレイヤーが表裏一体だとも言えそうで、クリエイターとして未来が楽しみです。
CGW:その通りですね。これからのバーチャルの進化とComposition / MOOVの活躍に期待しています。ありがとうございました。
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www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT__kagaya(ハリんち)
PHOTO_大沼洋平
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)