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「文字として読めなくてもいい」-イワタによる"東亜重工フォント"制作プロセスと、グラフィックデザインにおけるフォントの在り方

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『シドニアの騎士』や『BLAME!』など、弐瓶 勉作品をまたいで登場する架空企業・「東亜重工」。作中では詳しく語られることがないにもかかわらず、非常に大きな存在感を示している理由のひとつは、そこで使われる独特なフォントデザインにある。実際、作品を飛び出してこのフォントを使ったグッズも多数制作されている。そんななか、フォントデザインの老舗企業であるイワタが、改めてデザインした約7700文字の東亜重工製フォント『東亜重工』(以下、東亜重工フォント)を2020年12月に発売した。このフォントが制作された経緯から使い方、そしてフォント業界におけるプロシージャルの行方について、イワタ・デザイン部の坂口ゆかり氏と日本デザインセンター・クリエイティブディレクターの有馬トモユキ氏に対談で語っていただいた。

記事の目次

    「東亜重工フォント」は歴史あるフォントメーカー・イワタの新しい挑戦

    CGWORLD(以下、CGW):「東亜重工フォント」について、グラフィックデザイナーとして活躍される有馬さんにデザイナーからの視点で、制作を担当された株式会社イワタ・デザイン部の坂口さんとお話をしていただければと思います。まず、有馬さんは東亜重工フォントについて、どのような印象をお持ちになりましたか?

    有馬トモユキ(以下、有馬):驚きでしたね。イワタという会社は100年以上も歴史がある、出版社に例えるならば岩波書店のようなイメージでしたので、そこが漫画やアニメ作品に登場した、しかも非常に尖ったデザインのフォントを発売したことに仰天しました。そしてこれが安心信頼のイワタのクオリティでつくられていることに嬉しく思いました。僕からまず坂口さんに伺いたいのはこのフォントを発売するまでの経緯です。どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか?

    坂口ゆかり(以下、坂口):東亜重工有限責任事業組合(※)から、権利をクリアした上でなおかつ本格的なフォントをつくってほしいということで、当社の方に依頼が届きました。その経緯というのも面白くて。2009年に放送されたTV番組の「タモリ倶楽部」の「知られざる書体の世界 フォントにあった怖い話」という企画にイワタが出演したのを、弐瓶先生がご覧になっていたからだそうなんです(笑)。それが2018年11月のことで、私ともうひとりのデザイナーと協力しながら、2年間弱の制作期間を経て2020年12月に発売しました。

    ※ 東亜重工有限責任事業組合
    マンガ家・弐瓶勉氏と、株式会社ポリゴン・ピクチュアズ・ホールディングスが、2017年に共同で設立。オリジナル作品やプロダクトの企画・デザイン・制作、既発作品の監修・ライセンス管理などをおこなっている。
    https://toahi.net/

    イワタ
    デザイン部
    坂口ゆかり氏

    京都精華大学デザイン学部を卒業後、2017年イワタに入社。これまで「イワタ福まるご」、「イワタアンチック体OTF版」の制作に携わる。「東亜重工フォント」制作担当。現在は新作フォントの制作中。

    日本デザインセンター
    ポリローグ研究室
    クリエイティブディレクター
    有馬トモユキ氏

    1985年生まれ。青山学院大学経営学部卒 / 朗文堂・新宿私塾第9期修了。2009年日本デザインセンター入社。現在同社ポリローグ研究室・クリエイティブディレクター。コンピューティングとタイポグラフィを軸として、グラフィック、Web、UI等複数の領域におけるデザインとコンサルティングに従事している。著書に「いいデザイナーは、見ためのよさから考えない」(星海社)がある。

    有馬:イワタは新聞書体や教科書体、電子機器への組み込みフォントといった非常に真面目なフォントをデザインされている“お硬い”イメージでしたので、こうした案件を引き受けられることも意外でした。どのような理由からだったのでしょうか?

    坂口窓口となった営業部の杉山の「単純に面白そうだし、売れるだろう」という想いが理由の1つ。当社をご存知の方は、有馬さんのように「なぜイワタが?」と驚いてくれますし、ご存知ない方には当社のことを知っていただくきっかけになります。また、イワタの新たなイメージを打ち出すことにも繋がります。

    そして当社ではお客様のご要望に合わせて作る特注フォントも手掛けているので、デザインはチャレンジでしたが、今回のようにゼロベースから要望に合わせたフォントを作るという土壌はもともとあったことが2つ目の理由です。

    弐瓶 勉氏のラフをもとに、約7700字を制作


    有馬:実際の制作はどのようなプロセスで進んでいったのですか?

    坂口:最初に弐瓶先生から20~30文字ほどラフをいただいて、それを見ながら基本となる文字をつくり、その後ほかの文字をイメージしながら増やしていきました。全部で約7700文字です。ほとんどはGlyphsという書体制作ソフトでつくっていきました。

    ※弐瓶氏のラフスケッチと製品版フォント


    有馬:Glyphsは形をつくることに特化しているツールですよね。

    坂口:はい。私は学生時代からGlyphsを使っているのですが、ハンドルの扱い方がAdobe Illustratorよりも優れていて、パスをいじるという意味ではとても使いやすいツールだと思います。

    有馬:サンプルが30文字で製品が7700文字というと、ほとんどの文字は弐瓶先生の原図をもとに坂口さんが解釈をされて、ああいったジオメトリック(幾何学的)な造形に置き換えていったんですか?

    坂口:そうですね。つくる際には整合性を取りすぎないようにすることも意識しました。同じパーツでも、漢字によって形が違っていることもあります。異なる形のスペースに無理に同じ形を収めようとすると文字全体のバランスを崩すことに繋がってしまうからです。あとは既存の文字で使われていたパーツを別の文字の別の部分に転用したりもしています。

    「『田』のデザインは、フォント化以前に単発的に使用されていた『鹵』の下部の米みたいな箇所から応用しています。このように他の文字からイメージをもらって他の文字に置き換えることはさまざな場所で行なっています」(坂口)

    ドットフォントを参考に、イワタの技術が詰まった制作のこだわり

    有馬:なるほど。僕もちょっと触らせていただいたのですが、文字によって解釈が微妙に異なりつつも文章を組んだ時に違和感がないのは、バランス感覚がとても秀逸だからなんでしょうね。つくっていて大変だったことは何でしょうか?

    坂口:先ほど、形を変えることを申しましたが、つくっていくとどうしても矛盾が出てくるので、それを直したり上手くまとめていったりするのが結構大変で、作業にはかなりの時間を費やしました。

    有馬「物」の中の部分など、斜めの線や「はらい」がなかったりしますよね。そこは坂口さんのなかに弐瓶先生の思考を下ろすかのような考え方で取り組んだんですか?

    「物」

    坂口そうですね。新たに日本語ではない別の言葉をつくってるような感覚でしたね。でも弐瓶先生のチェックはほとんどNGが出なくて、私としても驚くほど自由に作らせていただいたという印象です。

    有馬:解釈に対するリファレンスはありましたか? 僕はヘルムートシュミットさんが大塚製薬のポカリスエットとかの商品で作られた直線系のゴシック体に近いものを感じたのですが。

    坂口:ゴシックではありませんが、ドットフォントでの省略の仕方は参考にしました。一般販売はされていないものなのですが、例えば「榮」のように、狭いスペースに「火」を2つ重ねる部分などで参考にしました。

    CGW:有馬さんからご覧になって、「ここはこだわっているな!」と思われたところを教えていただけますか?

    有馬:これはフォントを仕事で使うデザイナーか、よほどのマニアしか気づかないようなところなのですが、先端と末端で実は太さをかなり変えているんです。そういった視覚調整をされているのは、これまでのイワタでの書体デザインの経験が活きているのではないかなと勝手に想像しています。たとえば丸ゴや明朝をつくられるときは、ストロークを常に変えると同時に視覚補正も意識をされると思うんです。今回の東亜重工フォントの場合はどのくらい意識しました?

    坂口おっしゃる通りで、一般的なフォントと同じように線が込み入った部分ほど細くなるよう調整しています。できるだけ同じ太さの線でつくって欲しいという弐瓶先生からのリクエストと、このフォントは大きく使われることも多いだろうという予想もあり、なるべく一定の太さになるようにと、ギリギリのラインで考えていきました。こちらの図の右側の「木」が並んでいる部分見ていただきたいのですが、左列は線の太さが一定のもの、右列が調整をしているものです。一定の太さだとはらいの先より根本の方が太く見え、さらに小さくするほど根本が黒く潰れてしまいます。図の左側を見ていただくと調整した部分がお分かりいただけると思います。はらいの他にも縦線と横線の太さを変えたりなどの調整もしています。

    【左】 黒線:一定の太さ 赤線:太さ調整有
    【右】 左列:一定の太さ 右列:太さ調整有

    CGW:東亜重工フォントは実際どのような方がお求めになっているのでしょうか?

    坂口弐瓶先生や作品のファンの方がほとんどだと思っていたのですが、実際は普段からフォントに触れている方の購入がとても多かったです。以前にイワタのフォントを買っていただいた方もたくさんいらっしゃいました。

    有馬:ファングッズという側面があるのはもちろんですが、こういうジオメトリックでストイックな日本語書体でこれだけ質の高いフォントって、実は意外となくて、その意味でもこのフォントって貴重なんですよ。だからたとえ作品のことをご存じない方でも購入されたのではないかと思います。一見すると単純な形に見えるのですが、イワタの技術が詰まっているので、見る人が見れば欲しくなるフォントだと思います。

    坂口:東亜重工フォントは普段からデザイン業務などでフォントを使う人だけでなく、できるだけ多くの方に気軽に使ってほしいので、汎用性を高めるためにTrueTypeフォントで出しています。テプラなどで出力して使っている方もいるようです。

    文字として読めなくてもいい―デザインとしてのフォント使用

    有馬:坂口さんはつくっている時に「こういう風に使われると面白いだろうな」みたいなことを想像していましたか?

    坂口:私自身、想像もつかなかったので、見た時にあっと驚くようなところで使ってもらえたら嬉しいなと思いました。もっと言えば、文字というよりも画的な使い方になるのかなと思っていました。フォントだからといって、必ずしも文字として読めなくてもよくて、じっくりと見てはじめて「ああ、これは文字なんだ」と意味がわかるような感じでも良いと思います。

    有馬:それ、すっごくわかります! 僕はアニメーション作品でグラフィックデザインの仕事をすることがあるのですが、画面の演出として文字を使うことがあるんです。警告画面などで「何だか大変なことが起こっている」と圧力をかけるために大量の文字を出すといった演出です。そういった場合ですと、文字はまったく読めなくていいときもあれば、それでも必ず読めるようなデザインにしてほしいと、オーダーはさまざまです。その点で、東亜重工フォントは一般的なフォントの可読性とは別の軸にあるような気がしています。映像表現とか、さきほどのテプラとか演出のためのフォントとしてさまざまな使い方ができるように思います。

    坂口:弐瓶先生のマンガの中でも宇宙船とか建物に貼られていたりしますよね。あとは実際に購入された方で我々が把握しているのが、ビッグコミックスペリオール連載中のマンガ『フールナイト』の目次に使われていたりしています。他にも個人の方がご自分のグッズに意匠として使っている例もあります。カワイイ系のパーカーとか、結構意外な使われ方もされているんですよ。(※)

    ※ 商業利用の規約については公式サイトに記載
    https://iwatafont.co.jp/toa

    CGW:有馬さんだったら東亜重工フォントをどのように使いますか?

    有馬:文字として単純化している分、試されている感じがあって、使う側で趣向を凝らす必要があるのが楽しいですね。そうだな……、1つは『シドニアの騎士』のような宇宙SFとはまったく別の文脈で使ってみたいですね。たとえば植物園とか。もう1つは完全にツールとして使ってみたいです。このフォントで3行以上の文章を読ませようとはしないと思うのですが、そこで敢えて10ページぐらいこれで行って、読者と困惑を共有したいです(笑)。そういったインスピレーションを沸かせるフォントだと思います。

    坂口:最初に弐瓶先生のスケッチを見た時に、とても大胆な削り方をされているなと感じたんです。それこそ1文字だと意味が分からないのですが、言葉や文章になっていると読めて、認識できるんです。その感覚が絶妙だなと思いましたね。

    有馬:どの言語もそうですよね。たとえば英語で“B”の文字が左右に反転していたとしても単語を知っていれば読めるみたいな。ただ、デザインする側からするとそういった先生の文字に対する解釈を1文字ずつ適用していくのはとても大変なことだと思います。

    今後のフォントデザインについて―自動化の未来はある?

    有馬:よく、「フォントデザインは規則性があるから、ある程度機械学習すれば1万文字くらいポンと出力されるのでは?」みたいな議論があるのですが、そうはならないですよね。CGでいう‟不気味の谷”がそこにはあるんですよ。

    坂口:自動化できたらいいなと思うことはあるのですが(笑)。でも、現実には難しいですよね。

    有馬:だからフォントデザインというのは意外と生っぽい仕事だと思います。読めるか読めないかという、人間的な感性に依拠していますから。僕も自動化についてよく考えるのですが、CGのキャラクターモデルを動かすときの‟不気味の谷”はある程度、超えることができつつあると思います。いまではゲームや映像でも建物をプロシージャルでつくれたりしていますが、それが通るのは背景だからであって、フォントの場合は意味を読み取ろうとしてじっくり眺めるから、アルゴリズムで生成しようとすると強烈な違和感を覚える。そこの誤魔化しが効かなくて難しいのかなと思ったりします。東亜重工フォントはツルっと生成しているように見えて、実は品質感がきちんとある。現在求められている価値があるものだと思うので、ぜひ見てもらいたいところですよね。

    有馬:坂口さんは次にどのようなお仕事をされるんですか?

    坂口:現在新しいフォント制作に取り掛かっていて、まだ詳しいことは申し上げられないのですが、またもや従来のイワタのラインナップにはないような新しいフォントですので、そちらも楽しみにしていただければと思います。

    CGW:有馬さんはイワタさんに今後どんなことを期待していますか?

    有馬:あえて大きい話をすると、イワタさんが目指している世界を示してほしいなと思っています。東亜重工フォントのような面白いフォントをもっと出して、僕らを教育してほしいんですよ。書体の話をするときには、Google、Adobeといった世界的企業のプラットフォームは避けて通れない状況ではあります。でも彼らはプラットフォームであるがゆえに極端な話、書体の品質は必ずしも保証されず、そこに乗っている以上はさまざまな部分で制限がかかります。だからこそ、イワタさんが何を考えているのか、書体メーカーとしてどのようにフォントを使ってほしいと思っているかを知りたいんです。単純に言えば、使用例がたくさん載っているページを作ってくれるだけでも嬉しいです。そこが入り口の一つになると思うし、さらに言えば東亜重工フォントのように漫画やアニメ作品を経由することで、日本語を全く読めない人が購入してデザインとして使うこともあり得ます。日本語フォントでもそうした他言語話者のファンがそろそろ存在してきているので、そうした方がアクセスする手段が開かれているといいなと思います。これからイワタさんがどのような新しいフォントを見せてくれるのか、今後も期待しています。

    製品情報・お問い合わせ先

    【製品情報】
    東亜重工製フォント『東亜重工』・・・¥22,000(税込)

    ・タイプ:TrueTypeフォント(macOS/Windows)
    ・収容文字数:約7,700文字
    (英数字、仮名、JIS第1水準漢字、JIS第2水準漢字、記号類)

    製品情報URL:https://iwatafont.co.jp/toa/


    【お問い合わせ先】
    株式会社イワタ

    〒101-0032 東京都千代田区岩本町3-2-9

    TEL:03-5820-3169

    E-mail:info@iwatafont.co.jp

    URL:https://iwatafont.co.jp/

    TEXT_日詰明嘉
    PHOTO_弘田 充
    EDIT_柳田晴香(CGWORLD)

    INFORMATION

    東亜重工フォント

    東亜重工製フォント『東亜重工』・・・¥22,000(税込)
    製品情報URL:https://iwatafont.co.jp/toa/

    ・タイプ:TrueTypeフォント(macOS/Windows)

    ・収容文字数:約7,700文字(英数字、仮名、JIS第1水準漢字、JIS第2水準漢字、記号類)

    イワタ

    https://www.iwatafont.co.jp/

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