古都・京都に「アトリエ」としてスタジオを構え、京都ならではの日本的な雰囲気を表現や作風に漂わせるチドリグラフ。多くの人を惹き付ける魅力の一端はどこにあるのか。京都を選んだ理由や作品へのこだわりなどを聞くとともに、導入しているマウスコンピューターのクリエイター向けデスクトップPC「DAIV」シリーズの印象や使い勝手についても語ってもらった。
文化と雰囲気に魅せられて京都へ移住、不安もあったが意気込みの方が強かった
CGWORLD(以下、CGW):最初に、会社の概要を教えてください。
上野あきのり氏(以下、上野):私自身は以前、東京の企業や制作会社で働いていたのですが、独立に際して2012年に京都へ移住。最初は1人でやっていましたが、2016年に法人化しました。現在は、自分も含めた3人体制になっています。
CGW:あえて東京を離れ、京都を選んだ理由は?
上野:いくつか理由はありますが、1つは「自然や文化がすぐそばにあること」ですね。例えば、江戸時代の有名な画家である伊藤若冲の作品が、ちょっとした画廊に普通にかけてあったりします。近場にも文化があふれていることを面白いと感じて、この場所を選びました。また、周囲には近代的なマンションやホテルが増えつつありますが、昔からある町家もかなり残っており、伝統的な日本の雰囲気を感じられる点も気に入っています。
美樹氏(以下、美樹):あと、京都は某ゲーム会社が有名ですが、リアルなCGをやる会社はあまりなかったので、会社としての“違い”を出せていると思っています。さらに、世界へのアピールという観点で見ると、「京都」はやはり強いですよね。
CGW:京都に拠点を構えることに対して、不安はなかったですか。
上野: CG業界はやはり東京中心ではあるので、「どれくらい仕事ができるのか」という不安は当然ありました。ただ、最初のころはこれまでのつながりで仕事をいただけましたし、その後も幸いなことに何とか継続できています。
CGW:とはいえ、10年前に「京都でやっていこう」と決心するには、かなりの勇気が必要だったのではと推察します。
上野:それは、そうですね。ただ、最初のころは「自分さえ食べていければ特に問題はなかった」というのはあります(笑)。だから、どちらかというと不安よりも、むしろ「やってやる!」ぐらいの意気込みの方が強かったですよ。
株式会社チドリグラフ
京都の古民家を拠点に活動するクリエイティブカンパニー。CG映像を基盤としたイベントや空間演出の企画、映像ディレクションなどを担うと共に、CMや映画などのハイクオリティーなVFX制作も手がける。また、絵画を中心とするアーティストも在籍する。
HP:www.chidorigraph.com
twitter:twitter.com/chidorigraph
イメージ・世界観の構築力の高さや「京都らしさ」を求める依頼も
CGW:京都に住んでいるということで、土地柄にちなんだ依頼などはあったりしますか?
上野:ないこともないですが、そこは波がありますね。一方で、例えばイベントや個展などに携わるとそれを見た方から依頼がきたりしますし、ライブ映像を手がけると、それ経由で別のライブ系の依頼がきたりもします。
弊社としては、綺麗なものやイメージ・世界観を構築するものが好きで、そこをアピールしている部分もあります。そのため、そういった特色を期待して「チドリグラフにお願いしたい」と依頼していただけることはあります。あとは、これまでの付き合いで信頼を築き上げた企業などから、継続的に依頼していただけている感じです。
CGW:なるほど。では、貴社ならではの作品を教えてください。
上野:京都の企業関連では、箔印刷の箔をつくっている「ニッカテクノ」のCMを、「化学で未来をキラキラに」というキーワードで制作しました。ちなみに、制作会社も京都の会社だったのですが、編集等が入らなかったため完パケで納品しました。
上野:また、弊社が京都にあるということで、ある女性向けアイドルアニメの「和風ユニット」のライブ映像を手がけたことがあります。これは大町が関わった作品の1つで、入社してからわずか4ヵ月程度で担当してもらい、以前に在籍していた先輩スタッフと2人で2曲分を制作しました。
CGW:どんなところにこだわりましたか?
大町捷貴氏(以下、大町):歌の世界観などを踏まえて「紅葉」「和風」「祭」をキーワードに作成しました。個人的には、なかなか上手くイメージできたと感じています。
CGW:使ったツールは何でしょうか。
大町:メインはCinema 4Dで、あとはMayaも使いました。制作期間は1ヵ月半ぐらいかかったでしょうか。かなりの数のライトを設置したので負荷が高くなってしまい、PCが落ちることはなかったものの、レンダリングにはちょっと時間がかかってしまいました。
CGW:入社後わずか4ヵ月で任せるにはかなり大きな案件だと思いますが、その判断基準は?
上野:先輩スタッフに教えてもらうこともできたので、1人1曲という枠組みでやってもらいました。もちろん、我々も相談に乗りつつという感じではありましたが、本当に頑張ってくれたと思います。
美樹:何かあれば、そこは代表である上野のほうでしっかりサポートするつもりでした。ただ、最初のうちに大変な経験をしておくと作業のやり方や流れなどが見えてきますし、それが今後にもつながるということもあって、積極的にチャレンジしてもらいました。
上野:仕事では言われた通りのものだけをつくるのではなく、「考えてつくる」ことも重要だと思っています。実際、作品のイメージなどをつくる際には、技術だけでなく様々なことを考えてつくっていくことも求められます。だからこそ、大町にも様々な作業を経験していくなかで、「考えてやる」ことを少しでも意識してもらうように話しています。
CGW:貴社の場合は大手のような分業制が難しいので、「ゼネラリストを育てていく」という方向性が窺えます。その他の作品も紹介してもらえますか?
上野:祇園祭ぎゃらりぃに展示させていただいている『現代の洛中洛外図屏風』という、ディスプレイを屏風に見立てた映像作品を担当させていただきました。こちらは、京都らしさにあふれた作品にすることができたと感じています。
美樹:この作品では、実際に日本画材を使ってベースとなる絵画を制作し、それを撮影してデータとして取り込んでCG作業を進めるという手法を採用しました。ちなみに本作品は、京都デザイン賞2021にて大賞を受賞することができました。
上野:また、茨城県にあるお茶屋「のむらの茶園」のカフェに併設された茶室「三笠庵」の床の間を利用した映像インスタレーションを担当したこともあります。茶室に掛け軸が2本かけてあり、そこに3Dのプロジェクションマッピングを投影するもので、「春」「夏」「秋」「冬」で4つの映像を制作しました。
美樹:この作品も私が関わっており、にじみなどの水墨画的な表現をはじめ、着るものや鯉、ススキ、椿などの部分を担当しています。
DAIVのデザインがお気に入り、使い勝手の良さやサポート体制も評価
CGW:多彩な作品を手がけていますが、ツールは何を使われているのでしょうか。
上野:基本はMayaですが、案件によってCinema 4DやHoudini、Blenderなども使用します。例えば、モーショングラフィックスの作業が多ければCinema 4Dを使いますし、クロスシミュレーションをやるときにはBlenderを使う、といった感じですね。また、レンダリングにはRedshiftを使用しています。そのほか、将来的にはゲームエンジンを導入し、リアルタイムレンダリングやインタラクティブなコンテンツの作成などにもチャレンジしてみたいと思っています。
CGW:ゲームエンジンの導入を検討する理由は?
上野:1つは「解像度の大きい案件が出てきたこと」が挙げられます。例えば、以前に「7K(約6900×2000ピクセル)×5分尺」という映像コンテンツをつくったことがあるのですが、その際は「素材を分けて出力する」などの工夫はしたものの、どうしてもレンダリングコストが上がってしまいました。そこで、このようなケースに対して「ゲームエンジンでレンダリングを高速化できれば」と期待しているところです。また、ゲームエンジンを使えるようになれば「ライブ演出などで幅が広がる」とも考えています。
CGW:となると、今後はGPUのニーズがさらに上がりそうですね。では次に、CG制作で使用している機材について教えてください。
上野:作業用とレンダリング用のデスクトップPCが、それぞれ3台ずつあります。あと、ノートPCも2台ありますが、これは打ち合わせなどで外出する際に持ち出すもので、仮に作業で使うとしても基本的にはリモートデスクトップで利用しています。
CGW:PCの構成や選定の基準などは?
上野:購入する時期によって種類は異なりますが、基本的にストレスなく作業ができるようなスペックを選択。CPUもGPUも最上位モデルではないものの、コストパフォーマンスを踏まえつつハイエンドクラスのモデルを選んでいるイメージです。さらに、メモリは最低でも64GBを搭載。価格の目安は30万円前後で、2年おきに1台ずつを買い替えています。
CGW:他のCGプロダクションなどと比べると30万円は「やや高め」かと思いますが、その理由は何でしょうか。
上野:まず、買い替え前提なので、例えば50万円はさすがに高すぎます。逆に、低スペックの格安マシンを選ぶと作業効率が下がってしまう可能性が高いため、それも問題です。そのため、バランスを考慮してこの価格を目安にしています。
CGW:作業用マシンはマウスコンピューターの「DAIV」シリーズを導入しているそうですが、DAIVシリーズの魅力や気に入っているポイントなどがあれば教えてください。
美樹:デザインはとても好きです。シンプルかつスタイリッシュでありながら、しっかり考え抜かれている感じがしますね。
上野:あと、BTOに関しても気に入っています。例えば、レンダリング用のマシンは自分でパーツを交換すると「相性の問題」で不具合が発生する可能性もあるため、選別された相性の良いパーツで構成してもらえる点は、安定性の面で嬉しいポイントです。
CGW:使い勝手などについてはどうでしょうか。
上野:ケースの下面に付いているキャスターは非常に便利です。掃除の際やVRゴーグルを背面に取り付けるときなど、意外に動かすことも多いのでとても快適です。また、サポート体制もしっかりしているので、その点はとても安心です。実際、以前に故障したことがあったのですが、速やかに修理・交換してもらえたのでとても助かりました。
チドリグラフが導入した「DAIV」シリーズのポイント
チドリグラフでは、ストレスなく使用できる作業用マシンを、30万円前後を目安にして構成。例えば、CPUであればCore i7やRyzen 7を、GPUであればRTX 2080 TiやRTX 3070 Tiを採用している。また、メモリはすべて64GBとなるが、その理由を上野氏は「32GBだとCGソフトとAfter Effectsを同時に起動して作業したり、コンポジットをしたりすると落ちることもあるため」と説明。さらに、今後は「128GBも検討範囲かなと感じています」と付け加えた。ちなみに、レンダリングはRedshiftのGPUレンダリングで行なっているため、レンダリング用マシンでは「高性能なGPUを2枚搭載している」そうだ。
DAIV-A9(購入時モデル構成、カスタマイズあり)
- CPU
AMD Ryzen 9 3900X プロセッサー(12コア / 24スレッド / 3.8GHz / ブースト時最大4.6GHz / L3キャッシュ64MB)
- GPU
GeForce RTX 3070 / 8GB
- メモリ
64GB(16GB×4)
- ストレージ
NVMe接続1TB SSD+4TB SSD
- OS
Windows 10 Pro 64bit
DAIV-A5(購入時モデル構成、カスタマイズあり)
- CPU
AMD Ryzen 7 3800XT プロセッサー(8コア / 16スレッド / 3.9GHz / ブースト時最大4.7GHz / L3キャッシュ32MB)
- GPU
GeForce RTX 2080 Ti
- メモリ
64GB(16GB×4)
- ストレージ
512GB SSD+500GB SSD+2TB SSD
- OS
Windows 10 Pro 64bit
DAIV-DGX750X1-SH5(購入時モデル構成、カスタマイズあり)
- CPU
インテル Core i7-6700T プロセッサー(8コア / 16スレッド / 3.60GHz / TB時最大4.30GHz / 11MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 3070 Ti
- メモリ
64GB(16GB×4)
- ストレージ
512GB SSD+3TB SSD
- OS
Windows 10 Pro 64bit
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)
PHOTO_大沼洋平
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)