今回で12回目を迎えた「CGWORLD 2022 クリエイティブカンファレンス」。2022年11月7日(月)から11月11日(金)までの5日間にわたって全29セッションが行われた。11月9日(水)開催のセッション「海外のアニメ制作ワークフローは日本で可能か?−Storyboard ProとHarmonyの活用事例−」には、シンエイ動画の永田雄一プロデューサーと、フリーランスのアニメーション演出家・監督の津田尚克氏が登壇。Toon Boom Animationのデジタル絵コンテ作成ツール Storyboard Proとデジタルアニメ制作ツール Harmonyが、アニメ制作にどのようなメリットをもたらすのか。実際の作業風景を交えて解き明かした。
イベント概要
CGWORLD 2022 クリエイティブカンファレンス
開催日:2022年11月7日(月)〜11日(金)
※最終日はハイブリッド開催
会場:ベルサール九段
懇親会:11月11日(金) 19:30-21:30
時間:15:30~21:00
※Day1のみ16:50スタート
参加費:無料 ※事前登録制
参加対象:
CG制作に関わる業界に従事している方
業界を目指している学生
その他CG業界に興味のある方
https://cgworld.jp/special/cgwcc2022/
TVアニメ『ちみも』Harmonyを用いたカットアウトアニメーションでキャラ原案を再現
セッションの前半はシンエイ動画の永田雄一プロデューサーが登壇。2022年7月から9月まで放送されたTVアニメ『ちみも』を題材にHarmonyを用いたワークフローを紹介した。
永田氏がアニメ制作ワークフローのフルデジタル化に取り組むきっかけになったタイトルは、意外にも藤子不二雄Ⓐ原作の『忍者ハットリくん』だった。
『忍者ハットリくん』は1981年から1987年にかけてシンエイ動画がアニメ化を手がけ、2000年代になってインドで放送されると現地で大ヒット作に。最終的には過去のエピソードの放送ストックがなくなってしまったため、インドの配信会社を通じて「新作をつくってほしい」という依頼が舞い込み、現地のスタジオと『忍者ハットリくん』の新作『NINJAハットリくんリターンズ』を手がけることになった。
その際に永田氏はインドのスタジオを訪れ、デジタルツールが主流である海外のアニメ制作の現状を目の当たりにする。「タブレットで絵を描くペーパーレス環境が当たり前で、机の上には紙がいっさい乗っていないくらいデジタル化が徹底されていました」と衝撃を受けたそうだ。
そして「シンエイ動画がインドのデジタルなワークフローを制作に取り込む中で、当時日本語版がリリースされたばかりの、世界シェアNO.1と呼ばれるToon Boomのソフトを扱い始めました」とHarmonyの導入経緯を語った。
『ちみも』も『NINJAハットリくんリターンズ』と同じようにHarmonyを使用しているが、その理由はイラストレーターのカナヘイ氏が手がけたキャラクター原案をアニメでも忠実に再現したかったためだ。当初は紙を使った手描きでテストをしてみたが、線が細くなってしまいどうしても上手くいかなかった。
その際に永田氏が「デジタル作画なら線の太さが自在になりますよ」とHarmonyを提案。キャラ原案の雰囲気をそのまま表現できそうだと目処が立ったことで、デジタル作画と研究中のCG技術を取り入れたハイブリッド形式での制作が決まった。
ここでCGと聞くと、3Dで制作した映像をアニメルックにみせるトゥーンレンダリングを想像しがちだが、本作ではカットアウトアニメーションと呼ばれる切り絵アニメの手法を採用した。体の各パーツを細かいモデルにして切り絵のように動かすことで、あくまで2Dのままのアニメーションができる。
セッションではHarmonyでの作業風景を公開。Harmonyは手描きのアニメーションツールとしても使用できるため、まずはデジタル作画での作業から紹介した。
続いてはカットアウトの作業風景に移った。こちらもデジタル作画と同じように動きをつくるところから始めるが、途中でモデルデータを呼び出して、各パーツを動かすことによってアニメーションさせる点が異なっている。
永田氏はペーパーレス環境のアニメ制作の強みとして「何度もプレビューをしながらつくれること」を挙げた。紙の場合もクイックアクションレコーダーでスキャンして確認できるが、手軽にプレビューができる点は得がたいメリットである。
質疑応答のコーナーではセッションの参加者から様々な質問が飛んだ。
「シンエイ動画ではHarmonyの習得のために講習会をしているのでしょうか?」という問いには「定期的に講習会を開催するのではなく、参加するスタッフにその都度覚えてもらっています」と回答。『ちみも』では1人のスタッフにToon Boomのトレーニングなどで学んでもらい、それを他のスタッフに教えていくという方法を取ったという。
「アナログのもつ手描き感をデジタル作画で再現できるのでしょうか?」という質問には「実は紙の手描きも一度はデジタル化されているんです」とコメント。
本物の紙に描いていてもスキャンをして線を二値化する作業を経てから映像になるため、「デジタル作画によって手描き感が損なわれるのかといえば、そうではない気がします。むしろデジタルならペンや鉛筆の種類をたくさん選べるため、もっと手描き風の、アーティスティックな絵になる可能性もあると思います」とより魅力を引き出せるのではないかと話した。
海外スタッフとのやり取りに関しては、基本的には英語で、通訳や翻訳を交えながらコミュニケーションを図った。「国によってアニメーションに対するリテラシーやクオリティへの考え方は違います。そこは日本のアニメを例に出しながら入念に説明しました」と制作をふり返り、『NINJAハットリくんリターンズ』でインドのスタジオと一緒に制作した経験も役立ったと話す。
最後に永田氏は「Toon Boomのソフトが『ちみも』にいろいろな成果をもたらしてくれたと思っています」と作品のクオリティアップに貢献したことを伝えた。
Storyboard Proは、演出家が求める映像にリーチできるツール
セッションの後半では、アニメーション演出家の津田尚克監督が登壇。2022年放送のオリジナルTVアニメ『東京24区』の絵コンテを例にStoryboard Proの魅力に迫った。
津田監督がStoryboard Proを仕事に使うようになったのは2013年頃。ディレクターを務めたTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の第1部と第2部を終えて、当時所属していたdavid productionの海外視察に同行したことが契機となった。「アメリカのスタジオをグルッと回ってみたのですが、誰も絵コンテを紙で描いてないということにカルチャーショックを受けました」と津田監督は当時の驚きを語る。
その際に現地のクリエイターからStoryboard Proの存在を教えてもらい、ガジェット好きという性分も相まって、「デジタルで絵コンテを描きたい」と社長に直訴。当時はStoryboard Proの日本語版がなかったため辞書を片手に学び、今では「もう紙では描けないかもしれないです」と思うほど慣れ親しんでいる。
映像の設計図である絵コンテは、シナリオを基に画面のレイアウトやキャラクターの演技、カメラワーク、尺などを描き込むことで完成する。津田監督がカスタマイズしたStoryboard Proのワークスペースでは、左側にシナリオの文字が丸ごと流し込まれており、右側にト書きの「action」とセリフの「dialog」を配置。紙の絵コンテ用紙と同じ感覚で作業をしている。
実はこのカスタマイズはガイナックスの絵コンテ用紙を参考にしたそうだ。通常の絵コンテ用紙は左側に画面、右側にト書きやセリフを配したものが多いが、ガイナックスでは左がセリフ、真ん中が画面、右がト書きというスタイルになっている。
津田監督は「シナリオの内容を見て、絵を描いて、ト書きに落とし込んでいくという、左から右に流れる作業が自分に合っていると思ったんです」と話す。また画面だけを別ウィンドウにしている演出家もいるなど、各々に合ったカスタマイズが容易な点も魅力である。
ただ絵コンテをデジタルで描くだけなら他のソフトでもできるが、津田監督は「Storyboard Proは根本的な思想から違います」と独自性に触れる。紙の絵コンテでは4コママンガのように上から下へ描いていくが、Storyboard Proでは描いた時点で左から右へタイムラインとして表示され、すでに編集された状態で確認できる。
完成した絵コンテはVコンテとしてムービーとして出力可能。大まかな編集がされた状態なので、アニメーターとの作画打ち合わせでイメージを伝えやすく、クライアントなどの絵コンテを読みなれていない人でも理解しやすいことがメリットだ。
絵コンテを描く際にはベクターとビットマップを選択できる。アニメーターではなく制作進行出身の津田監督は「ベクターで描けば途中でサイズなどを好き放題に変えられるのがすごく楽なんですよね。絵が得意ではない人でも取っ付きやすいです」と後から自由に修正できる点が長所だと話す。
紙の絵コンテとの差については、カメラワークが実際にどう動くのかをムービーで確認できる点や、カットナンバーが自動で記入されて数字を変えれば尺もすぐに変更できる点に言及。特に尺をオーバーしてしまったときに調整する「減尺」の作業が非常に楽になったという。
さらに津田監督が手がけたTVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』のOP絵コンテも公開。Storyboard Proはタイムラインにオーディオを取り込めるため、音楽と映像のシンクロが重要になるOPやEDの演出時に役立つ。もちろん本編の作業時にもセリフや効果音を挿入できるため、「凝り始めるとどこまでもできてしまうのでキリがないです。自分で良いポイントを見定めてもらうのがいいと思います」とコツを教える。
津田監督は絵コンテで編集を意識したり、絵を描き込みたかったりと、自分の求める映像を追求したい人にとって、Storyboard Proは貢献してくれるとコメント。特にデジタルネイティブの若い世代に使ってほしいと語り、「自分がつくりたいものにリーチできる、そんなツールだと思っています」と断言する。
またアニメ監督は他の演出家が描いた絵コンテをチェックするのも仕事だが、Storyboard Proを使ってもらった方が修正作業がしやすいという。「だから全員がStoryboard Proを使ってくれればもっと楽になるのに……という気持ちはありますね(笑)。そういった点でも個人的にもっと普及してくれると嬉しいです」と笑みを見せた。
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)