XRやメタバースなどの表現分野で最先端技術を使ったコンテンツ制作を得意とするカヤックアキバスタジオは、アニメーション制作においてもその技術力を発揮し、新たなワークフローに挑戦している。今回は、今年公開された劇場版アニメーションの制作で意気投合したアニメーション監督の錦織 博氏と同社のCXO天野清之氏に、新しいアニメーション表現を生み出すために何が必要なのかを語ってもらった。
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⑤プロダクションマネージャー
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⑧プロデューサー
⑨コンポジター
最適なワークフローが変化し続けるアニメーション制作の現状
錦織 博氏(以下、錦織):天野さんとはもともと劇場版アニメーション制作の現場でお会いしていて、そのときはバーチャルカメラシステムによるプリビズ撮影などをご一緒させていただきました。
錦織 博氏
アニメーション監督
天野清之氏(以下、天野):6、7年前に『宝石の国』のオープンニング制作をしていたころは社内でもニアミスをしていて、以前から面識はありましたよね。私は日頃から映像制作やフルCGアニメーション制作、あるいは体験型のコンテンツなど、とにかく見境なく提案をしてきたのですが、その中に「ジャンヌ・ダルク」というVRデバイスを活用した撮影システムがあって。錦織監督には、これを新しい撮影ワークフローとしてお見せした経緯があります。
天野清之氏
カヤックアキバスタジオ CXO
akiba.kayac.studio
錦織:2Dアニメーション制作のワークフローは、かつてセルに絵の具で色を置いていた時代から大きく変わっておらず、未だにツールがデジタルに置き換わっただけです。ところが、ある時から3DCGを作品の中に同居させるようになって、異なるつくり方が1つの作品に混在するようになりました。両者はつくり方のプロセスが本質的に異なるので、ワークフローも昔に比べて複雑になりがちです。こうした理由から、私自身はもともと「いかに作業者に負担をかけずクオリティを上げるか」がアニメーション制作における課題と感じていました。
天野:私はアニメーション監督ではないですし、アニメーション専門の人間でもありません。もちろん見るのは大好きですが、そういった立場から言えば、アニメーションの監督というスペシャリストからわれわれの提案するワークフローに対してフィードバックをいただいたり「こういうことができないの?」と提案をいただいたりすることは本当に嬉しいんです。先ほどのバーチャルカメラで言えば、ドローン撮影やドリーなどを実現する際のスピードの微調整を撮影現場で調整したり、緩急をつけたり、システムを拡張しながら、まさに一緒にアニメーション制作をさせていただいたような感覚がありました。
錦織:VRデバイスを使用して、バーチャル空間でカメラワークをするというのは初めての体験でした。キャラクターが目の前で動いているところをカメラで拾い上げる意識で制作できたのは、まさにジャンヌ・ダルクが生み出した新たなプリビズの手法だと思います。カヤックアキバスタジオさんとの協業はすごくポジティブで、これからつくろうとしている作品に対して、システムの提供に留まらずクリエイティブな相談まで含めて一緒に対応していけたという感覚があります。一緒に作業していた時期は楽しかったですね。
カヤックアキバスタジオらしさは「技術だけでないポジティブな雰囲気」
天野:錦織監督が新しいツールやワークフローを試そうと思ったり、実際に採用したりする判断基準などはありますか? 私自身もカヤックアキバスタジオの文脈で、デジタル分野におけるアニメーション制作のワークフローを研究していますが、ハードウェアの進化やアニメーション表現の多様化によって進化の方向性が広がっているような感覚をもっています。
錦織:見せたい演出と使う技術が一致することが重要で、技術だけが先行することはないんです。新たな技術から生まれる企画もありますが、私はあくまで見せたいものありきで考えています。逆に、ここが一致して、「この作品だからこそできるワークフロー」が選択できると、一気にクオリティが上がるんですね。自分は技術全般を「新しいアニメーション表現を発明していく」という意識で見ているんです。再生産の連続は面白くないですから。新しい手法を探す旅というか、ジャンヌ・ダルクに関しても私たちの方が新しい使い方を発見するぞ、という気持ちで使っていました。
天野:それこそ、来年登場するApple Vision Proなどを使ったワークフローがアニメーション表現を拡張することもあるかもしれません。生成AIを活用した設計も考えられます。新しいものができたらまた錦織監督に見ていただいて、一緒にものづくりを進める中でフィードバックを得ながら表現の拡張を模索していきたいと思っています。監督の思い描くビジョンを技術で実現することは「面白い」ですし、カヤックアキバスタジオは面白いことを追求していくのが得意な会社ですからね。
錦織:その意味では、カヤックアキバスタジオの皆さんがつくる現場の雰囲気には助けられました。日々ベストな撮影方法を探る中で、常に前向きに、具体的かつ有機的に対応していただいたのが印象的でした。手探り状態のスタート地点から最終的なアウトプットまで楽しく仕事ができたのは、カヤックアキバスタジオの社風によるところかもしれませんね。より良い作品をつくるために、これからもぜひ相談させていただきたいと思います。
天野:そう言っていただけると嬉しいです。カヤックアキバスタジオがXRなど最先端の技術を追求しているのも、われわれ自身が見たことがないものをつくりたいと願っているからこそです。カメラシステム以外にも面白いことをたくさん試している会社ですし、メンバーそれぞれがワクワクするものを見つけて追求する文化もあります。私たちの技術を面白がってもらったり、楽しいと思ってもらったりすること自体がクリエイティブに直結すると感じていますし、挑戦しがいのある環境をつくっていただける関係者の皆様には本当に感謝しています。
独自開発のバーチャルカメラシステム「ジャンル・ダルク」とは?
カヤックアキバスタジオが独自に開発した、VR空間内でのリアルタイム撮影を可能にするUnityベースのバーチャルカメラシステム「ジャンヌ・ダルク」は、XRやライブコンテンツを数多く手がける天野氏自身が、制作現場でほしかった機能を詰め込んでいる点が最大の特徴だ。VRデバイスを装着した上でコントローラをカメラとして手に持ち、バーチャル空間内に描画されたキャラクターの周囲を歩き回るかたちで撮影するほか、ドリーやドローンなど物理空間上のカメラ挙動もシミュレートする。
光学式モーションキャプチャシステムなどを使用し、マーカーを装着したアクターがその場で演技を撮影する形式はもちろん、事前に用意したアニメーションデータを取り込むこととも可能。このため、満足のいくまで何度もカメラワークを検討できるほか、アニメーション尺自体を変更することも可能になる。出力形式も後工程で使用するDCCツールに合わせてカスタムできる。
アニメーション制作全体のワークフローが長期化するなか、監督自身が演出意図をアニメーターに直接伝えられることの意義は大きい。「社内に開発メンバーがいるので、監督の声をシステムに反映させることは柔軟に対応できます。今後も現場の要望に呼応するかたちで機能拡張を続けていきたいです」(佐川卓也氏)
佐川卓也氏
株式会社カヤックアキバスタジオ デジタルアニメ事業部
CGディレクター/CGラインプロデューサー
akiba.kayac.studio
■求人情報
株式会社カヤックアキバスタジオ
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〒101-0021 東京都千代田区外神田 3-1-16 ダイドーリミテッドビル 603
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TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota