自動車部品メーカーがオリジナルキャラクターでPR!「マツオちゃん」をはじめ、グループ会社のキャラクター制作を担う松尾製作所傘下のエルフィン エンターテインメント部とは?
読者の皆さんは「松尾製作所」をご存知だろうか? まずは公式サイトをご覧いただきたい。ページのトップを彩る可愛らしいキャラクターイラストに、コミックのコーナー、そしてオリジナルVTuber「マツオちゃん」。
まるでキャラクターコンテンツ企業と見紛うばかりの充実した内容だが、実は松尾製作所は1948年創業、名古屋に本社を構え、世界各国にも拠点をもつ有数の自動車用の精密部品製造メーカー。その社内やグループ各社の広報をVTuber活動を通じて行なっているのがマツオちゃんだ。
聞けば、2021年に松尾製作所グループに入った株式会社エルフィンの「エンターテインメント部」がこれらをプロデュースしているという。秋葉原に拠点を構え遊技機映像制作などを手がける企業が、どんな経緯でこの取り組みを始めたのか、キーパーソンに話を聞いたところ、グループ全体での柔軟かつ真摯な姿勢が見えてきた。
Information
グループへの参加を機に公式キャラクターを制作
CGWORLD(以下、CGW):まずはお2人から自己紹介をお願いいたします。
濱本一聡氏(以下、濱本):株式会社エルフィンのエンターテインメント部コンテンツグループで、リードアニメーションデザイナーをしております。前職はアニメの制作会社で、エルフィンに入社後はパチンコ・スロットでの絵コンテ・演出、イラスト制作やキャラクターグッズの制作・監修などの仕事をしてきました。
社長の木下(崇氏)が、遊技機以外にも事業の柱を作りたいというところから新部署が設立し、スタートメンバーとして親会社である松尾製作所の公式キャラクターの企画に携わり「マツオちゃん」を制作しました(イラストクリエイター:大崎シンヤ氏)。マツオちゃんのプロジェクトではキャラクターデザインや監修を行なったり、他にもグループ会社のマスコットキャラクターの企画制作などを行なっています。
清水聡太氏(以下、清水):濱本と同じくエンターテインメント部で、制作グループのアシスタントディレクターを務めています。前職はTV番組の制作会社でNHK-BSのアニメ系番組の制作に携わっておりました。現在はマツオちゃんの公式YouTubeチャンネル「マツオちゃんねる」の番組制作や運営、他にグループ企業のリクルート動画の制作を担当しています。
CGW:お2人が所属されているエンターテインメント部について、詳しく教えて下さい。
濱本:現在は私たちを含め7名(エルフィン全体の従業員数は約100名)ですが、他の部署と異なりそれぞれの得意分野を活かした働き方をしています。先ほどお話ししたように、私はキャラクターのデザイン周りで、清水ともう1人のディレクターが「マツオちゃんねる」の番組制作を行なっています。他にも会社の公式サイトの制作・管理などを担当しているメンバーもいます。
当社は2021年5月に松尾製作所のグループ企業になったのですが、最初は松尾製作所がイベントに出展する際に何か企業マスコットになるようなキャラクターを作りたいという話を松尾(基)会長からいただき、そこで企画したのが「マツオちゃん」でした。
濱本:出展したのはロボ デックスという、工場・物流のロボットや部品を扱う展示会で、お堅いブースが並ぶ中、松尾製作所だけは美少女VTuberキャラクターが彩り、大きなインパクトを残しました(笑)。
CGW:それはねらい通りだったんですか?
濱本:はい。そもそもエンタメ系に関わりの少ない業界ですと、マスコットキャラクターがいるだけでとても存在感が大きくなるんです。ブースのデザインやレイアウトまで携わらせていただき、キャラクターグッズも制作したところ好評でした。以降、松尾製作所グループの他の各社のマスコットキャラクターも制作するようになり、新規事業のかたちになりました。
CGW:マツオちゃんを含め、これらはブランディングに繋げる意図で企画されたものなのでしょうか?
濱本:はい、その通りです。企業の広報活動としてZ世代をはじめ若い方に向けたブランディングを意識したおかげで、松尾の採用活動でも例年の倍以上の採用実績につながりました。さらに松尾のお付き合いのある企業様からも興味を持っていただき、自社以外にも広がっています。
地元ではマツオちゃんのラッピングバスも走らせているのですが、それを行政の方が地方振興策の事例のひとつとして広めてくださり、また別の企業様からお声がけをいただきました。
マツオちゃんのラッピングバスを紹介〜プードンドンパフパフー
— マツオちゃん (@matsuo_chan0401) May 26, 2023
毎日朝と夕方に社員のみんなを乗せて走ってるんだよ!
みれたらラッキー〜 pic.twitter.com/PUpPxbatmw
企業の特徴を盛り込んで魅力的なキャラクターをつくる
CGW:松尾製作所さん以外のグループ企業のキャラクター制作はどのように行なっていくのでしょうか?
濱本:まずはお話をいただいた会社様の創業の歴史や地域の特性などの情報を収集して、そこからキャラクター設定を考えていきます。そこで方向性を一度ご確認いただいた後、イラストレーターさんに発注をしてラフを作成し、先方からOKをいただいた後に制作に入っていきます。
CGW:マスコットキャラクターだからビジュアル優先かと思いきや、企業の特徴を設定に盛り込むことを優先されるんですね。
濱本:はい。マツオちゃんの場合は髪飾りをモーター関連ユニットにしたり、ハンマーに基板が刻印されていたり、タイツや靴はネジをモチーフにしたものを履いているといったように、パーツの随所に企業のモチーフを入れ込んでいます。
相手の企業様を取材させていただく際に、創業したころの状況や想いを伺って、それを設定に反映することもあります。例えば、現在3Dプリントなどをされている企業様では、創業時はインクやペンキの事業から始まったというお話を伺い、それをキャラクターのモチーフに盛り込んだこともあります。
CGW:キャラクター設定をする上で気をつけるポイントは?
濱本:一般に広く受け入れていただけるようなキャラクターづくりを意識しています。例えば「毒吐きキャラ」という設定は、普段から様々なコンテンツに触れている人にとってはキャラクター性のひとつとして理解できるものかと思いますが、そうでないお客様にとっては面食らって誤解を生みかねないキャラクターになってしまいます。そうしたつくりは避けるようにしています。
CGW:キャラクターの絵柄がそれぞれの企業で被らないようにイラストレーターさんを変えていますが、どのようにご依頼をされるのでしょうか?
濱本:同人誌即売会や展示会に足を運んで、交流してお願いをしています。私自身も同人活動をしているので、ここぞとばかりに好きなイラストレーターさんに声をかけてお仕事をしていただいています。趣味が仕事になった感じですね(笑)。
YouTube「マツオちゃんねる」の番組制作フロー
CGW:YouTubeチャンネル「マツオちゃんねる」の番組制作はどういったフローになるのでしょうか?
清水:まずは番組1つずつの企画を立てるところからスタートします。こちらから提案することもありますが、松尾製作所側からリクエストをいただくこともあります。
松尾製作所には40以上の部署があり、その中には社内でも謎に包まれている(?)セクションも存在したりするので、そこに光を当てる企画もあったりします。
清水:企画が決まった後、月に一度、1泊か2泊で実際に愛知の松尾製作所に伺って撮影、インタビュー取材を行います。もう1年以上続けているので、先方でも顔を覚えてもらい、気軽に話しかけていただけるような関係性を築けております。
取材後は別のディレクターが編集を行い、台本をつくって濱本にチェックしてもらい、声優さんのアフレコ、3DCGのモーション付け、テロップ制作を行い、最終チェックの後アップロードします。
CGW:「マツオちゃんねる」の更新頻度はどれくらいですか?
清水:1回の撮影で2本撮り、翌月にアップするので月に2本ペースです。企業上の様々な確認が必要なため、このペースが現状最速になります。
CGW:「マツオちゃんねる」で気をつけているところは、そうした企業秘密上の事柄が多いですか?
清水:そうですね。あとは、わかりやすく伝えることは意識しています。遊技機の演出ではビジュアル面のインパクトが重要ですが、このコンテンツに関しては松尾製作所に興味をもっていただきたいという目標がありますので、映像の構成やテロップの出し方、専門用語の説明の仕方を工夫することを意識しています。説明のために用語を調べていると、自分自身がどんどん松尾製作所に詳しくなっていきますね(笑)。
視聴者からの反響がやりがいにつながる
CGW:お2人にとってお仕事をする上でやりがいを覚えるのはどんなときですか?
濱本:キャラクター制作ですね。常に自分の考えた最高のキャラクターを作り出せることにやりがいを覚えます。依頼された企業様のことを理解し、その企業様が顔にしたいキャラクターをつくり、喜んでもらう。皆さんに好きになってもらえて反響もいただけると、とても嬉しいです。
清水:TV番組制作をしていたときも視聴率という目安はありましたが、YouTubeはより具体的なので、やりがいを感じますね。何回再生されたとか、1つの動画の中でどこまで見てもらえたとか、ひとつひとつが次の動画の改善点に繋がります。
CGW:清水さんはTV業界からエルフィンに来られましたが、働き方においてはどんな魅力が?
清水:企画から撮影、編集という仕事の工程は変わりませんが、エルフィンはエンターテインメント部と名乗るだけあって、展示会の出展やグッズ制作など網羅的に携わることができるのが一番の魅力ですね。実はマツオちゃんのモーションも自分で収録したりします(笑)。
CGW:モーション収録までご自身でされているんですね!
清水:はい。テンプレート仕事がないぶん、自由に発想できて成長できるチャンスもあるので、入社してよかったなと思いますね。
CGW:今後、企業ブランディング事業を拡大されていくと思いますが、新たにやってみたいことは?
濱本:マツオちゃんとグループ各社のマスコットキャラクターでバンドを組みたいと思っています。アルバムやMVを作って、コミケに企業ブースで参加したいですね……!(笑) 今やコミケには痛車として自動車会社も企業参加しているので、松尾製作所のような精密機器製造メーカーが出展しても不思議ではありません。
清水:「マツオちゃんねる」としては、キャラクターによるゲーム配信などを行なって、より若年層をねらっていきたいですね。これは松尾製作所の採用活動にも役立つと思います。あと、マツオちゃんと松尾会長にスカイダイビングをしていただきたいですね(笑)。
CGW:それは大丈夫なんですか!?
清水:いや、ご本人が飛びたがっているんですよ。そうした会長のお人柄をいじって動画で見せつつ……(笑)。
濱本:ならば当社含めグループ会社各社の社長にもご一緒していただきましょうか(笑)。
また、松尾製作所のサイトトップページのイラストは四季ごとに変えているのですが、すでに名古屋市役所さんや徳川園さんともコラボを果たしているんです。これはイラストレーターさんからの発案によるもので、行政の方も快く応じてくださいました。
松尾製作所公式サイトに使用されたビジュアルの一例
清水:そんな風に活発なキャラクター活動を通じ、一企業のキャラクターの枠を飛び越えて、松尾製作所の拠点である大府市や愛知県など行政の仕事にもゆくゆくはマツオちゃんを関わらせてもらえたらなと思っています。
いかがだっただろうか? 最後に思いがけない話が飛び出したが、こうした姿勢もまたマツオちゃんのような化学反応を生んだ要因かもしれない。
次回はエルフィンの松尾会長(松尾製作所社長)と木下社長に登場いただき、グループに入った経緯やこのプロジェクトの始動について、社長のビジョンで対談をしていただく予定だ。乞うご期待!
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TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
PHOTO_島田健次 / Kenji Shimada
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)