就職したら“作家性” は役に立たないのか? 答えはNOだ。高度複雑化するCG映像コンテンツの制作現場では即戦力となるスペシャリストが重用されてきた。しかしツールの高機能化により、作品全体の制作を見渡し、方向性を示せるジェネラリストの経験も重視されてきている。
ここでは、スペシャリストと併せて3DCGジェネラリストも積極的に採用しているexsaの齋藤文仁氏と佐藤勇一郎氏に、現在求められているスキルについて話を聞いた。
exsa
3DCGによる映像制作を核として、ゲーム、アニメ、映画、アミューズメントなど、多岐にわたって活動しているCG制作会社。コンテンツの起ち上げからフィニッシュまでトータルで対応している。
www.exsa.jp
制作実績
最終的な完成形が見えているジェネラリストの需要
CGWORLD(以下、CGW):exsaが積極的にジェネラリストを採用している理由は何ですか?
齋藤文仁氏(以下、齋藤):映像業界では、最終的なアウトプットのイメージが見えている状態で制作できているかが非常に大事です。単一領域のスペシャリストだけでは、なかなか最終的な画づくりの感覚や、完成までのコスト意識がもてなかったりするので、複数領域の知見をもつジェネラリストも必要になります。
特にディレクターのように作品全体を統括するポジションは、全ての領域のことを知っていないと指示が出せないので、若い頃からジェネラリスト的に働いて総合力を身につけることが望ましいと考えています。
齋藤文仁氏
exsa 常務取締役
CGW:若いクリエイターはスペシャリストではなく、ジェネラリストを目指すべきでしょうか?
齋藤:もちろん突き抜けた技術をもつスペシャリストも重要で、当社でもその活躍を高く評価しています。ただ、ひとつの領域で10点満点を取るには、どうしても生まれもった才能やセンスが必要になってくるんです。それなら複数の領域で7点を取れるジェネラリストを目指して、早く戦力になる道筋もあるということを、若手の方は知っておいてほしいなと思います。
ほかの工程を担当することで得た知見がフィードバックされて、得意な領域のクオリティが上がるという効果も期待できますしね。
CGW:ジェネラリストを目指すことが、自分の価値を高めるひとつの方法ということですね。
齋藤:AIの登場によって3DCGの仕事のあり方も今後変化していくでしょう。特定の技術は陳腐化していく可能性があるので、この業界で長く働いていきたいと考えるなら、ジェネラリストのスキルを身につけた方が企業からの需要も高まり、仕事を続けやすいと思っています。
まさに佐藤さんは、「何でもできる」からとexsaへの採用が決まった例です。
デジタルハリウッドで培った「完成までが仕事」という意識
佐藤勇一郎氏(以下、佐藤):私はもともとミュージシャンを目指していたのですが、CGデザイナーをしていた父の仕事を手伝い始めたことがきっかけで、この業界に入りました。やがて本格的にCGを勉強したいと思い、デジタルハリウッドの総合Proコースに入学したんです。卒業制作は自分で絵コンテを描いて、宇宙空間で戦闘機やロボットが戦う映像をつくりましたね。
佐藤勇一郎氏
exsa 執行役員
制作本部 第三制作部 部長/プロデューサー
CGW:当時のデジタルハリウッドにはどんな方が通っていましたか?
佐藤:高卒で入学した人もいれば、ダブルスクールで通っている人、働きながら勉強している人など、幅広い層の人が在学していました。私は入学したときに25歳だったので、もう後がないという思いで通っていましたね。
私がいたコースには、自分がつくりたいもののイメージをはっきりと頭の中にもっている方が多かった印象です。
CGW:デジタルハリウッドで学んだことで、今も役立っていることはありますか?
佐藤:レンダリングまでの工程をひと通り学ぶ中で、コンテンツ制作は一部の工程だけでは完成せず、全てがフィックスしてやっと完結するものだという感覚が身に付きました。私は昔CGスタジオでコンポジットの仕事もしていたので、全体の工程を俯瞰して見る必要があったんです。そのときも重要だった「最終的な画が完成するまでの全工程がひとつの仕事」という意識は、デジタルハリウッドで培ったものですね。
作品づくりの中で自分自身をアピールしてほしい
CGW:就職してからは自分の作家性がスポイルされることを危惧する学生もいます。実際に個人の作家性は必要なくなるのでしょうか?
齋藤:作家性を捨てる必要はありません。どんな仕事でも、やりたいことを入れ込みながら進めることはできますし、さらに叶えたいことがあれば、実現できるように偉くなれば良いんです。そして、上のポジションにいくために必要になるのがジェネラリストの視点です。
CGW:ジェネラリストを育成していくために、社内で行なっていることはありますか?
齋藤:exsaではセカンドスキルの育成を奨励しています。この業界で生き残っていくためには新たなスキルを積極的に吸収して、総合力をつけていくことが望ましいと考えているので、そのサポートをしていますね。
CGW:exsaが求める人材像はありますか?
佐藤:特定のことだけに力を入れているよりも、いろんなことがやりたい人、それを制作のモチベーションに変えられる人は強いと思います。そんな方と仕事ができると嬉しいです。
齋藤:作品づくりの中で自分自身をアピールできる人に来てほしいですね。自分に向けたアートをつくるのではなく、外に向けてクリエイティブを発揮できる人材を求めています。また失敗を避けずに、どんどんチャレンジできるような人は歓迎です。
CGW:今後のexsaの目標を教えてください。
齋藤:これからの時代は、プロダクション自体が表に出て評価されないと生き残れないと感じているので、もっとexsaの名前を出していける仕事をやっていきたいと考えています。会社として、もう一段階上を目指す土台ができてきたと思っているので、グローバル市場にアプローチできる案件を手がけていくつもりです。
INTERVIEWEE
求人情報
求人情報の詳細はこちらINTERVIEWER_池田大樹/Hiroki Ikeda(CGWORLD)
TEXT_オムライス駆
EDIT_李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota