業界有数の慣性センサー式モーションキャプチャとして知られるXsens。このたび11年ぶりにセンサー・スーツ・ボディパックのすべてのハードウェアのアップデートが行われた。
どのような変化があったのか、アップデート後の使い心地などを実際に長年同システムを使用し、バーチャルライブの案件を多数手がけるアイ・ペアーズにインタビュー。単純な機能面だけでなく、メンテナンス時の細やかな部分までも考慮されたアップデートの数々をご紹介しよう。
前列左より、佐藤直哉氏/取締役、CTO、映像・音楽クリエイター(アイ・ペアーズ)、大河内美玖氏(女性スーツアクター)、池田隆行氏/センシング事業部部長、石原優佑氏/センシング事業部(以上、HELTEC)
リアルライブなどの「実環境」と省スペース運用にも強いXsens
CGWORLD(以下、CGW):Xsensについて開発の動向や特徴を教えていただけますか?
HELTEC 池田隆行氏(以下、池田):Xsensの開発元はオランダにあり、2007年あたりから人体用のモーションキャプチャ開発をスタートしました。Xsensは慣性センサー式のモーションキャプチャとして専用のスタジオ内ではなく実環境でモーションキャプチャを実現できる点が優れています。
使用されている分野としては、ゲームや遊技機をはじめとしたエンターテインメント分野はもちろんですが、スポーツでの動作分析やリハビリテーション、医学療法、その他にも製品デザインといった分野などでも使われていて、マーケットは広がりを見せています。やはり実環境で収録できる点が評価されています。近頃は産業DX化の波で、製造業を始めとする産業分野での利用が高まってきています。人の動きの可視化・数値化という目的での使用が多いですね。
Xsens製品の大きな特徴は、実環境で収録ができるという以外にも、簡単に少人数でかつ省スペースでオペレーションができる点です。アニメーターツール的な立ち位置でデスクサイドなどでモーションキャプチャしていただいても良いかと思います。今では慣性センサー式モーションキャプチャは複数ありますが、その中でもXsensはもっとも簡単にセットアップができて、かつ一番精度が高く、様々な環境用途の中でも一定のクオリティでデータが取れる。そこが非常に大きな強みになっている製品です。
CGW:Xsensをどういったプロジェクトで使用されていますか?
アイ・ペアーズ 伊藤 衛氏(以下、伊藤):弊社では2015年からXsensを使用しています。様々なジャンルのプロジェクトで利用してきましたが、代表的なものとしては、スーパー戦隊シリーズ『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』におけるリアルタイムモーションキャプチャ運用が挙げられます。それ以外ですと、動作解析やライブ関連での使用が中心になります。我々はライブビジュアライゼーションという事業の範疇でモーションキャプチャ収録サービスを提供しておりまして、多種多様なステージ、バーチャルライブ、3DCGライブ等でXsensを活用しています。
先ほど挙げた実績以外にも、様々な特撮作品において当時先進的であったバーチャルプロダクションを用いた制作を手がけてきました。これまで多様なジャンルで新しい制作フローにチャレンジしてきましたが、最初に導入したXsensがその根幹にあったといって過言ではありません。Xsensの導入がなければ弊社事業のこれまでの拡大はなかったと思っています。
また、自社開発している「n-Links Retarget」というソフトウェアについても、Xsensを使っていたからこそ生まれたソフトでして、HELTECさんの多大なご協力のもと、開発を進めております。
CGW:Xsensを導入された経緯を教えていただけますか?
アイ・ペアーズ 佐藤直哉 氏(以下、佐藤):私は大学院(博士課程)時代にキャラクターライブを通じてモーションキャプチャと音楽に関連する研究をしていました。その後アイ・ペアーズの取締役CTOとして就任する際にも、モーションキャプチャを用いた事業を展開することを念頭に、弊社のビジネスに合った機材選定をする必要がありました。
選定の際に考慮したのは、価格とスペースの問題でした。機種によりますが、光学式のモーションキャプチャカメラは大変高価かつ大規模なシステムが中心で、ある程度広い収録スペースを用意する必要がありました。ただ条件として、当時は小規模環境でバーチャルキャラクターライブのためのモーションキャプチャを成立させなければならなかったので、いわゆるブレイクスルーを起こせるようなデバイスを求めていました。そこで目に留まったのがXsensでした。
Xsensは収録データのノイズ処理についても自動で対応してくれます。しかもそのまま正式なモーションデータとして使えるクオリティのものが自動で出てくるというのは、制作フローとしてはものすごく助かります。他のキャプチャシステムでは手動で行う必要がある部分も多く、この手軽さはXsensの魅力のひとつです。
CGW:貴社ではモーションキャプチャでの補正アプリケーションとしてn-Linksを開発されていらっしゃいますが、Xsensと併せて使用されているのですか?
アイ・ペアーズ 川出陽一氏(以下、川出):はい、Xsens以外でも併せて使用できるシステムはありますが、もともと弊社がXsensを長く使用しているため、一番最初にXsensとの組み合わせでn-Links Retargetの開発を進めました。
モーションの補正機能を持つソフトは他にもありますが、リターゲットに特化したリアルタイムで運用できる軽量のアプリケーションというのが弊社の追求したものでした。ライブイベントやVTuberさんのプロジェクトをお引き受けすることの多い弊社ですので、必要な機能や仕様を吟味しながら、特に現場の担当者にとってわかりやすい機能・UIをもたせること、冗長性をもたせて安定して運用できること、かつ軽量に動作することを念頭に開発を進めてきました。
スーツ・センサーともに劇的に進化!
CGW:新型のXsensについて、改良ポイントを教えていただけますか?
HELTEC 石原優佑氏:まずセンサー自体が11年ぶりのアップデートを果たしました。センサーの形状が従来のものから大きく変わり、サイズもコンパクトになりました。あともうひとつはアクタースーツについてで、演者さんが長時間使用しても疲れにくくなっています。着やすさも評価されていますね。
また、新しくなったスーツには内部にセンサ
CGW:新型のXsensを使用してみていかがでしたか?
アイ・ペアーズ 安居顯太朗氏(以下、安居):センサーの形状が変わった点はこれまでとかなり大きい進化だと思います。新型では個別にセンサーの取り付けが可能で、サイズも小さくなっているため現場運用時の取り回しが楽になりました。センサーのマウントがあらかじめスーツに組み込まれている設計なので、アクターさんにセンサー取り付け済みのスーツを着用してもらう、というようなオペレーションも現実的なものとなりました。
また、メンテナンスの観点でも、センサーがひとつずつ全部取れるようになったことで部分的に調子が悪いセンサーを個別に変えて対応することができるようになりました。以前はケーブルやセンサーが劣化した場合、つながっている複数のセンサーやケーブルをまるごと取り換える必要があったので、それに比べるとパーツ交換が手軽になっただけでなく、修理費用が該当部分に抑えられるという金銭面での負担も減ったといえます。
Xsensの一番の強みはどこにでも持っていけることで、弊社で多くお引き受けしているライブ案件などでは特に重宝しています。VTuberさんのライブなど、実際にお客様の声を聞きながらモーションキャプチャを実施する場面も少なくありません。そういった現場は進行も早く、臨機応変な対応が求められる中で、アクターさんの負担が減ったことや、セットアップにかかる時間が短くなった今回のバージョンアップは大きな進化だと思います。
女性スーツアクター 大河内美玖氏:私も実際に着てみましたが、とても着やすいと感じました。以前のモデルではセンサーなどがついていない状態でも着るのにかなり時間がかかりました。新型のスーツはセンサーのマウントなどが付いていても着やすかったです。
スーツの造り自体も改良されていて、以前のスーツは全身一体型でしたが、新型は上下にセパレートするように一新されています。着やすさや動きやすさがとてもよくなっています。以前のものは肩下でキュッとすぼまる分、肩が引っ張られる印象がありましたが、新型では上半身のスーツが前開きができて肩回りのストレッチが効きます。動きやすいのはもちろんですが、長時間スーツを着ていても疲れにくくなった部分はあるかと思います。
安居:その他にも、旧型をずっと使っていて「もっとこうだったらいいのにな」と思っていた部分が本当に良くなってると感じています。例えば、スーツの洗濯は結構手間がかかっていたのですが、新型では小さなセンサー類を外してしまえば、コード類はついたままでもすぐに洗濯ができてしまいます。収録以外の運用など細かいところまで気を使って改良されているなというのは感じました。
メンテナンス面などでユーザーフィードバックを的確を反映
CGW:新型Xsensではかなり多くの部分で改良が見られるんですね。
アイ・ペアーズ 寺尾昂祐氏(以下、寺尾):その他では、センサーがアップデートしたというところがあり、旧型では肩周りの上下の動きの収録に関して少し弱いと感じていましたが、新型ではそこがアップして収録精度が格段に良くなりました。
また、ハブ(旧称:ボディーパック)の位置に関して、旧型の時は背中側に固定されていたのですが、アクションなどやる時、後ろに倒れ込むような場合にどうしても邪魔になってしまうということがありました。新型になってからは、ハブの場所を足などにも取り付けられるようになったため、寝っ転がって倒れるようなアクションもやりやすくなっています。収録できる動きのバリエーションが増えたという意味で大きなメリットです。
寺尾:ソフトウェアのアップデートになりますが、映像と音を一緒に書き出せるようになったのも便利です。ダンスプロジェクトなどの場合に、作業時にリファレンス映像の音声と合わせてモーションのタイミングを測るような場合、ソフトウェア上で音がしっかり流れて映像として残せるという機能が実装されていて、そういった機能の進化も運用面ではかなり助かっていると感じています。
佐藤:キャリブレーションにかかる速度に関しても非常に早くなっていますし、ハブからオペレーションに関しての音声指示が鳴るようになったので迷いなく操作できるようにもなりました。センサーそのものにバッテリーが内蔵されたことも大きく、ボディーパックも含めてより長時間の運用ができるようになりました。また、ハブのみで3時間収録が可能になり、さらにバッテリーを繋ぐと13時間連続で使用可能になったことも素晴らしいと思います。
キャリブレーション作業そのものに関しても、旧型ではキャリブレーション時にまっすぐアクターが歩かねばならないという制約がありました。そのためにある程度のスペースを確保しなければならないというのが現場では重要になり、スペースとしてはおよそ5~6メートルですが、磁場の影響を考えると、収録スペースの近くに電化製品を置くのを避ける必要もありました。そのような条件を加味すると、それなりのスペースが必要になります。それがソフトウェアのアップデートの恩恵により、その場で歩けば良いといった程度になっていて、どんどんその範囲が狭まって精度良くキャリブレーションできるようになっています。
キャプチャの精度に関しても向上が見られ、以前の収録精度ですと約140mのアクターの移動距離に対して、75cm~100cm程度の誤差が見られました。それがソフトウェアのアップデート等で、新型の機材であれば20cm程度まで低減しています。
CGW:今後、新型のXsensでどういったプロジェクトに挑戦したいですか?
川出:そうですね、弊社ではn-Linksの開発を進めていることもありますので、親和性のあるリアルタイム分野での運用について、今後も伸ばしていきたいです。弊社はモーションキャプチャを用いてどんなことでもチャレンジしたいと考えていますので、新型Xsensでお客様のご要望を実現していけたらと思います。
伊藤:Xsensは慣性センサー式のモーションキャプチャシステムとして、スタジオでなくても高精細なデータを収録できるというのが最大のメリットかなと思いますので、ライブの現場などでの活用を進めていきたいです。
池田:3Dアニメーションの品質を裏側を支えるモーションキャプチャ技術はより広く浸透してきていますが、一方で専門性が高くて特殊なんだろうと思ってる方がまだまだいると思います。そういった方はぜひお問い合わせをいただきたいです。キャプチャ作業のデモや技術的なアプローチについてご提案できれば幸いです。おそらく想像以上に簡便に運用でき、かつ安定したシステムだと感じていただけると思います。
お問い合わせ
株式会社HELTEC センシング事業部
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TEXT & EDIT_小倉理生 / Riki Ogura(種々企画)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota