ノートPCでUnreal Engineを使ったNeRF検証! テクノロジー型クリエイター集団、THINK AND SENSEが「AERO」のミドルスペックノートPCをレビュー
エンジニアやデザイナー、アーティストだけでなくダンサーやミュージシャンなど多彩な人材が集う株式会社ティーアンドエス。高度な映像表現とインタラクティブ技術が融合した体験創出を得意とする同社において、XR技術を軸とした先端技術を用いたインタラクティブコンテンツを担当するのがTHINK AND SENSE部だ。今回は同社のクリエイターがGIGABYTE AERO 16 OLEDを徹底レビュー。スペック面の評価に留まらず、大型4Kディスプレイや静音性が現場にもたらすメリットについて語ってもらった。
AERO 16 OLED
Unreal EngineをメインにXR事業を手がける「テクノロジカル・クリエイティブファーム」
――まずは自己紹介をお願いします。
大河原綾人氏(以下、大河原):プログラマーの大河原綾人と申します。プログラマーとは名乗りながらも、空間全体のデザインなどを行う関係で使用するツールは多岐にわたります。案件によってはBlenderやTouchDesignerなどを用いたデザイン業務も並行して行いますし、disguiseを用いてプロジェクションマッピングを行うこともあります。
引田祐樹氏(以下、引田):テクニカルアーティストの引田祐樹です。エンジニアとCGデザイナーを両立しており、業務内容はリアルタイム、プリレンダーを問わず映像表現が中心になっています。使用するツールはTouchDesignerとHoudiniを基本として、近年ではUnreal Engine(以下、UE)でフォトリアル調の画づくりを行うことが多いです。
大河原綾人/Ayato Okawara
THINK AND SENSE(ティーアンドエス)
プログラマー
引田祐樹/Yuki Hikita
THINK AND SENSE(ティーアンドエス)
テクニカルアーティスト
――お2人が所属するTHINK AND SENSEについて教えてください。
引田:THINK AND SENSEは「テクノロジカル・クリエイティブファーム」を名乗るクリエイター集団です。私の解釈では、1人のクリエイターとして決められた仕事だけでなく己のクリエイティブと真摯に向き合い、これを発揮できる場所という認識です。コンサルティングファームのように、強い個人の集団というニュアンスが含まれています。
最近では当社ティーアンドエスと集英社の合同レーベルである"集英社XR"としてのプロジェクトの一環で、漫画の世界に没入する体験を生み出す「マンガダイブ」を制作し、『ダンダダン』、『チェンソーマン』、『ONE PIECE』3作品をテーマとしたイマーシブ作品を「ジャンプフェスタ2023」でティザー展示しました。
大河原:「マンガダイブ」は投影プログラムをリアルタイムで、漫画をプリレンダーで制作するなど、両方の特性を活かした制作を行っています。ここ最近までは全員が手を動かすクリエイター集団でしたが、本作では30名近いメンバーが関わった関係で、現在はディレクション業務のプロフェッショナルを採用するなど事業拡大フェーズに入っています。
引田:このほかにも、ドイツで開催された「Bright Festival Connect 2022」に出展した「Stillness」など、アート作品の制作も行なっています。インタラクティブ、リアルタイムを中心に、ユーザーの体験創出を組織全体で行なっています。
リアルタイム案件に求められるGPU性能を重視し、デスクトップとノートPCを使い分け
――HoudiniやUEによるリアルタイム3DCG、あるいはdisguiseを用いた高解像度映像の送出など、PCスペックが求められる業務も多いものと思います。普段の制作環境について教えてください。
大河原:普段の業務マシンは13世代Intel Core i9 CPU、メモリ 64GB、GeForce RTX 4090搭載機です。ただ、案件によってはノートPCを使うこともありますし、iOSアプリケーションを開発する際はMacBook Proなども使います。当社の場合は入社するときに使いたいOSを選ばせてもらえるしくみがあり、併用するクリエイターも少なからずいる印象です。ただ、プリレンダーの案件は現状Macでは難しいため、全体としてはWindows中心です。
ノートPC側のスペックは人によって大きく異なりますが、Intel Core i9 CPUとGeForce RTX 3080の組み合わせや、Ryzen搭載機種も使われています。ここは自由度が高いですね。
――メインマシンのGPUがRTX 4090ということで、非常にハイスペックな環境で作業をしていると感じています。PC選定をする際、特に重要視するところがあれば教えてください。
引田:リアルタイムの3DCG業務を行う関係上、ハイエンドなGPUは必須になります。UEならNiagara、UnityならVisual Effect Graphなど、エフェクト関連の業務は特にスペックが顕著に出る印象です。ほかにもシミュレーションを多用する案件、例えば初音ミクとテックダンスフュージョン集団「CONDENSE」とのコラボレーションライブ企画「MIKU BREAK ver.1.0」では、Kinnectで録画した点群データをHoudiniで解析しながらモデリングを行う等の作業もありましたが、こうした際もGPUが重視されます。また、ソフトウェア全体の動作の観点から、GPUの次はCPUのクロック数を重視します。
大河原:アプリケーションのビルドを行う関係で、少しでも時間短縮が可能になるCPUとメモリも重視すべき点です。特にメモリは64GBをひとつのラインとして考えています。
4Kモニタを備え、出先での作業にも適したGIGABYTE AERO 16 OLED
――今回はGIGABYTE AERO 16 OLEDを検証していただきました。まずはファーストインプレッションなどを教えてください。
大河原:薄型かつ4K大画面というのが素晴らしいなと思いました。また、GPU搭載機は排気音が大きい印象がありますが、本機はUE5を動かしていても騒音によるストレスが一切ありませんでした。実はこれがかなり重要なんです。私たちはスライド資料以外に、実際の3Dシーンを使ったプレゼンテーションを行うことも多いのですが、このときにファンがうるさいと進行上の邪魔になってしまうんですね。プレゼンテーションはノートPCで行うことが多いので、もちろんゲームエンジンが動くことが前提ですが、音は静かであれば静かなほど良いんです。
引田:私も4Kディスプレイが気に入りました。Houdiniを使うとき、フルHDだとノードが見えにくいんですよ。また、最終アウトプットが4Kの場合も多いので、画面チェックレベルでも4K解像度が出ているのは嬉しいですね。4Kディスプレイを用意するのではなく、ノートPC1台で完結するのが嬉しいです。
ーープレゼンテーションにノートPCを使用するという話がありましたが、この他にもどのような使用シーンがあるのでしょうか。
引田:思いつくのはライブ現場やインタラクティブ系コンテンツの現場における調整作業です。デスクトップPCを持ち込むのが難しい現場もありますし、場合によってはサーバからデータを持ってくるハブ的用途で使うこともあります。あとは、照明演出などもノートPCでオペレーションすることがありますね。
大河原:展示系コンテンツも、高負荷なものでなければノートPCで行うプランもあります。さすがに大型の映像送出にはデスクトップPCを使いますが、ある程度のスペックがあればノートPCでもとっさの修正対応は行えます。当社の場合は普通の映像制作会社より現場感が強いので、全員何らかのノートPCを使っているはずですよ。
Unreal Engineを使ったNeRFの作業でもfpsを確保でき、操作感も快適そのもの
――改めて、今回の検証内容について教えてください。
引田:今回はUE5による検証を行いました。4月12日にリリースされたOAUのフルアルバム『Tradition』収録曲より、「セラヴィ -c'est la vie-」のMVを題材としています。このMVは全編にわたってNeRF(Neural Radiance Fields)が使用されています。NeRFは異なる角度から撮影した写真データをもとにAIがシーンを構築する技術で、空間内を自由な視点から見ることが可能です。これをMVに活用したのは、この楽曲が国内初めての事例だと思います。
大河原:NeRFは比較的新しい規格であり、検証ツールが豊富ではないため、当時は海外の有志が開発したツールで制作を行なっていました。ただ、2023年4月にEpic GamesがLuma AIで撮影したNeRFデータに対応する「LumaAIPlugin」をリリースしたため、今回の動作検証はUE5上で行なっています。
――UE5シーン内ではどのような作業を行なったのでしょうか。
引田:主にカメラワークとカラーグレーディングです。MVを制作した当初はUE5がNeRFに対応していなかったため、Blenderでカメラを付けていました。UE5で完結できるようになって、随分楽になりましたね。
引田:今回AERO 16と比較したのは、Intel Core i9、GeForce RTX 3090、メモリ64GBのデスクトップPCです。さすがにデスクトップでは60fpsをキープしていましたが、検証機も25~30fpsは安定して出ていました。プレビュー自体は問題なく見えていますし、リアルタイムで作業をする際の速度感は大きく変わっていません。このサイズのノートPCとしてはかなり動いているという感想です。
――fpsとしては問題なく作業できる範疇だと思います。起動のスピードや、キーフレーム入力の際の挙動などはいかがでしたか。
引田:起動時間は約1分ほどでしたが、デスクトップPCと比較しても非常に遅いといった印象はありません。また、カメラ作業自体も体感ベースではデスクトップPCと大きく変わらず、非常に快適に作業ができていました。
大河原:現場で使ってみたくなりますね。4K出力する作品をフルHDモニタでしか確認しないのは論外ですし、オペレーション卓に置いておくディスプレイとしても非常に綺麗です。制作も送出も、本当に1台完結する時代が近づいているのかもしれませんね。
ーーありがとうございました。最後に、本機はどのようなクリエイターに向いているのか、教えてください。
引田:自分たちでプレゼンテーションをしたり、MTG中に即座に修正してパッと見せたり、そういったスピード感のある制作現場に向いていると思います。DCCツールだけを触る作業者というより、全て自分でハンドリングをするような「クリエイター」が使うのが最も良いと感じました。
大河原:クライアント先や現場に持っていくことを考えると、スペックも申し分なく、ディスプレイの見え方も素晴らしいです。インタラクティブコンテンツをつくる際、最近はUnityではなくUE5を使うケースが増えてきています。GPUを使う作業がいつでもできるという環境が手元にある安心感は大きいですし、こういったクラスのノートPCは1人1台持っておくべきだと感じています。
TEXT_神山大輝/ Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii