長編アニメ『メイクアガール』劇場映画化プロジェクトのクラウドファンディングが大詰め! アニメ作家・安田現象氏インタビュー
「ryo (supercell)」や、「ずっと真夜中でいいのに。」のアニメーションミュージックビデオを手掛ける一方で、100本以上の自主制作ショートアニメを各種SNSで公開し、総フォロワー数560万人(2023年10月時点)を誇る気鋭のアニメーション作家・安田現象氏。そんな彼がスタジオを立ち上げ、自身初の長編アニメーション映画『メイクアガール』を制作している。
2024年中の公開に向けて追い込みの最中、さらなる映像制作・音響制作のためクラウドファンディングを実施し、大きな期待をもって迎えられた。今回は制作真っ最中の安田氏にインタビューを実施し、作品にかける熱い思いを聞いた。
人気アニメーション作家がスタジオを構えた理由とは?
CGWORLD(以下、CGW):まずは現在制作中の劇場アニメ『メイクアガール』とは、どういった作品なのかを教えてください。
安田現象氏(以下、安田):はい。今回のプロジェクト、『メイクアガール』は僕が3年ほど前に自主制作したショートアニメ『メイクラブ』の約90分の長編版になります。
安田:内容としては、主人公である天才科学者が「彼女をつくる」と言って、本当に科学的に人造人間の“彼女”をつくってしまうというお話から始まりますが、実はその裏側にはある大きな野望が渦巻いていて、衝撃のラストに繋がるという作品です。
『メイクアガール / Make a Girl』
本編尺: 90分
公開予定: 2024年中
原作・脚本・監督:安田現象
制作:安田現象スタジオ by Xenotoon
企画・製作:株式会社ゼノトゥーン
配給:調整中
※10月31日(火)まで、クラウドファンディング実施中
安田:もともと僕はライトノベル作家になりたかったのですが、並行して食い扶持のためにCGアニメーターとして活動をしておりました。ある程度のキャリアを重ね、ちょっと自分の創作の原点をふり返ってみようと思い、自主制作で映像のかたちにしたのが『メイクラブ』でした。
それまでは制作したものに対して、視聴者の方から直接的に反応をいただけることはなかったのですが、「続きはどうなるの?」とか「原作を読みたい」など、非常に大きな反響をいただき、とても励みになりました。これをつくったことによってやはり、作品というものは人に観ていただいて完成するのだと強く実感した経験でした。
アニメーション作家・安田現象氏
TikTokでフォロワー数290万人、YouTubeチャンネル登録者数182万人、SNS総フォロワー数560万人以上を誇る新進気鋭のアニメ作家。現在は安田現象スタジオにて、監督として自主制作アニメ『メイクラブ』(2020)をベースとした長編アニメ『メイクアガール』を制作中。
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CGW:作中の世界観はどのようになっていますか?
安田:基本的には現代と地続きの近未来感になっています。現代が発展していった場合にプラスアルファされる端末が存在しているようなバランス感でつくっています。これは実際に『メイクアガール』の脚本を書く過程で、自分の中で積み上がっていったノウハウでした。キャラクターの物語上の動かし方についても、当初考えていたよりも、「このキャラクターは、もっとこうあるべきだ」というふうに変わっていったこともありました。その意味で、解像度が上がって見えてくる部分もありましたね。
CGW:いわゆる、「キャラクターを勝手に動き出す」という経験ですか。
安田:はい。まさにそんな感じで、本当にそういうことがあるんです。これも商業作品として、しっかり時間をかけて向き合ってつくったからこそ起きた出来事だったと思います。
CGW:プロデューサー陣からそういった部分でのアドバイスなどはありましたか?
安田:むしろ逆に自分の好きなようにつくらせてもらっていました。ただ、途中から自分の中で感じた違和感や客観的な意見が欲しいときは、こちらから聞きに行くようにしていました。
CGW:今、おっしゃったようなことも「安田現象スタジオ」を構えた結果なのではないかなと思います。1人で自主制作をしてきたときと、チームで作る現在を比べてご自身の中で何か変わったことはありますか?
安田:大きく2点あります。1つ目は僕の作業領域です。2つ目はそれに伴う表現の開拓です。1人で作る場合は自分一人でオーダーに沿って納品までしていたのですが、この劇場アニメの制作にあたり、自分以外にアニメーター4人、モデラー3人の体制で制作しています。そこで自分は意図的にカット作業をしないようにして、脚本開発や演出指示など、監修の部分になるべく注力して取り組むようにしています。それによって制作物の内容を深掘りすることができ、この先も含めてどう組み上げていくのかベストなのか、都度考える時間をもてるようになりました。
逆にカット作業者にとっては、画づくりやノウハウの新規開拓を進めていただくことができます。僕が見えていなかったつくり方や効率的な方法など、クオリティアップができる方法の発見があったりと、長編からショート動画に活かすことができるものも見つかりました。
CGW:環境や作業領域が変わったことで作品自体への影響はありましたか?
安田:実はあまりないんです。僕自身はあくまで物語づくりを磨いていきたいタイプなので、BlenderでつくってAfter Effectsで仕上げていくというつくり方も、よく独特と言われますが、この方法に固執するつもりはありません。今はやはり第1作目ですから、思想的な部分も共有することを含め、画づくりを任せられるチームメンバーを育成しつつ、制作している最中です。
個人作家からディレクターへの転身「つくり込みすぎないように!」
CGW:育成しつつ制作するのは時間的な意味でも、作家からディレクターへのマインドチェンジという意味でも大変そうですね。
安田:大変でしたね。最初はどうしても速度やクオリティ面が足りてなくて、成果物を自分にとっての最低限まで修正して引き上げて、共有することを半年から1年以上の時間をかけて行なっています。
僕自身、つい不要なところまで丁寧につくってしまうクセがついてしまっていましたが、個人クリエイターとしてリソースが限られている以上、仕上げることを最優先にする必要がありました。つまり、つくり込みすぎることを封印したわけです。今回、携わってくれたクリエイターたちにも、そこの考えを理解してもらうまでに、なかなかの時間がかかりました。
CGW:完成に向けてのリソース配分と、作品の完成度を両立するためにはどのように考えれば良いのでしょうか?
安田:ある作業をグラフで示す場合、横軸に時間を縦軸に完成度を取るとします。そうすると、ある程度の時間になると完成度の傾きが緩やかになってしまうんです。これは多くのものに当てはまると思います。つまり、時間をかけても完成度がわずかしか積み上がらない状態に達してしまいます。自分の場合はそこで作業者に止めるように指示をします。それは作業者の自己満足になって視聴者に伝わらないからです。
CGW:なるほど。
安田:それどころか、画的にディテールアップすることは視聴者のためにならないことすらあります。ディズニーやジブリの作品を見ていただければわかるように、マスを目指す場合はデザインの時点でディテールがゴテゴテしてはいませんから。
自分が目指すのはそちらの方向なので、やたらにディテールの多い画面をつくり込むことが必要なのかというと、それは疑問なわけです。これは常々思ってきたことでした。今回はその試金石という意味でも、ルックは自分のロジックになぞらえたものをつくっているのがポイントです。
CGW:広い間口を目指す画づくりの考えと、現在の制作体制の状況を一致させたつくり方を実践されているんですね。作業工程はどんな様子でしょうか?
安田:僕の仕事としてはまず脚本に1ヶ月、絵コンテに2ヶ月をかけてつくっていきました。そしてこの段階で3Dスタッフがスタジオに加わることが決まっていたので、出来上がっているものから作業をしてもらっています。でも、後からシナリオ細かく手を入れて修正を重ねたりしています。
キャラクターモデラーは数少ないBlenderユーザーだったので、まず先行してキャラクターモデルを1体つくってもらって、それをすべてのキャラクターの仮モデルとして、背景のレイアウトモデルが上がる段階からアニメーションをできるだけ進めてもらって、その間に別のレイアウトモデルを用意してもらうといった効率化を図り進めていきました。
CGW:採用されたスタッフの方はどんな方でしょうか?
安田:先ほど申し上げた自分の思想に共感してくれて、この先も続けて画づくりの発展系を一緒に探せそうな方を積極的に採用したつもりです。3〜5年のキャリアのあるゼネラリストだったり、未経験のアニメーターだったり、加わってから2年数ヶ月で、僕よりもいいものを上げてくれるまでに成長しました。
そうした技術力をもった上で、さらにその分野でより良いキャラクターを表現していくにはどういったアプローチをすればいいかといったところまで踏み出してくれているので、この映画の画づくりについては安心して全面的にお任せできている状態です。
CGW:そうした教育的な考えを実践されていたということは、今作だけでなくその先を見据えているということでしょうか?
安田:そうですね。スタジオ化したのも、やはりその先の2作、3作とつくり重ねて新海 誠さんや細田 守さんみたいな存在になっていけたらという思いがあります。もちろん一作目がどうなるかで大きく変わってくることではありますが、少しずつ規模を大きくしていって、自分の代わりに絵づくりを見てくれるリーダー的なポジションの方の育成も考えております。
今作のデザインワークはイラストレーターさんにお願いしたのですが、つくっていく過程で、アセットに必要なデザインが出てきたら背景メンバーが都度上げてくれたり、キャラクターも画力やセンスのいいメンバーが育ち、2作目以降を制作できるのであれば、デザインワークからスタジオ内でやっていけそうな感じです。トライアンドエラーをしやすい環境をつくることが人を育てることに繋がるのだと、身をもって実感しました。
クラウドファンディング成功による作品への影響とは?
CGW:そして、今年9月には映画制作のクラウドファンディング第2弾の募集をされ、たった3日間で目標を達成されました。2023年10月31日までストレッチゴールを目指されていますが、まずは今回の募集に至った経緯を教えていただけますか?
安田:はい。主に2点ありまして、1つは追加の映像制作費です。現状でも完成できなくはないのですが、いかんせん少人数で制作しているので、速度を優先するとどうしてもクオリティとして諦めざるを得ない部分が生じていました。そこでもう少しブラッシュアップを含めて制作期間を延長したかった。
もう1つは音響制作費です。劇場映画としてのクオリティとして5.1ch対応、自分が希望するキャスティングなどを積み上げていくと、音響制作費が想定以上になってしまい、これはマズいということで再度クラファンプロジェクトを実施させていただきました。
CGW:3日間で目標を達成したことはファンの期待の現れかと思います。この結果を監督はどのように受け止めましたか?
安田:そこは非常に強い励みになりました。約3年間ショートアニメを制作してきましたが、直接的に自分の映像をマネタイズしたことは、これまで一度もなかったんです。無料だから見てくれるのか、それとも僕の作品にお金を出す価値があると思ってくれるのかには大きなちがいがあると思っていて。そこで今回、皆さんに熱烈な支援と温かい応援をしていただけたことを、大変ありがたく思っております。
CGW:現在のところ『メイクアガール』はどの程度の仕上がりですか?
安田:約80%を超えたところで、来年の春ごろには画面を仕上げられそうな見通しです。
CGW:CGWORLD.jpの読者向けに、クリエイター視点での見どころを、もう少しお話いただけますでしょうか?
安田:先ほど、「こだわらないように」というロジックのもとにつくったと申し上げましたが、全く手を抜いていないルックになるように工夫していますので、「こだわっていないこだわり」を画面から感じていただけて、驚いてもらえたら嬉しいですね。
CGW:では最後に、クラウドファンディングをお申し込みされた方や、公開を楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。
安田:僕がアニメーション監督になるきっかけとなった『メイクラブ』や、その後のショートアニメーションでいただいた反応、そして2回のクラウドファンディングの支援への恩返しとして、全力で制作に取り組んでおります。これまでつくってきたショートアニメをご覧いただいけた方には、ソルトというロボットのキャラクターが、物語の主軸ではない部分で登場していたり、ショートアニメの小ネタを作中の細かなところに登場させていたりするので、そのあたりを探してもらえると楽しみが増えるのではないかと思います。
クラウドファンディングのページには追加リターンもご用意させていただきました。10月31日(火)まで引き続き募集をしております。完成・公開は2024年中を予定しています。そのあかつきには、ぜひともご覧になっていただけると嬉しく思います。何卒、よろしくお願いいたします!
TEXT_日詰明嘉
PHOTO_弘田 充
取材・編集_阿部祐司(CGWORLD)、海老原朱里(CGWORLD)