漫画や小説、雑誌など、出版事業で巨大な存在感を示してきた講談社が、新時代のメディア展開に向けてより幅広いジャンルのクリエイターと出会い、支援するために始まったのが「講談社クリエイターズラボ」であり、その中でもアニメ、実写、CGなどの映像クリエイターを発掘・支援するのが「シネマクリエイターズラボ」だ。
第1期の募集では1,000を超える企画書が集まり、その中から選ばれた優秀賞 受賞者四名に各1,000万円、特別賞受賞者一名に200万円の賞金が支払われた。今回は来るべき第2期の募集(企画書締切:11/30)に向けて、担当者である永盛拓也氏をお招きし、CGWORLD読者が1000万円を目指すためのアドバイスをうかがった。
01:漫画と同じように、CGは特殊技能。物語を作るアドバンテージは十分にある
CGWORLD(以下、CGW):まずは「講談社シネマクリエイターズラボ」がどういったものなのか教えてください。
講談社 永盛拓也 氏(以下、永盛):はい、講談社がゲームやメタバースなど様々な新しいジャンルのクリエイターを発掘・支援するために新設したR&D(研究開発)プロジェクトが「クリエイターズラボ」なんですが、その中でも、特に映像分野のクリエイターを支援するためのチームが「シネマクリエイターズラボ」です。
実写、アニメ、CGといった表現のジャンルを問わず、あらゆるジャンルの映像クリエイターを発掘するため、ショートフィルム企画を世界公募して、選出された優秀な企画には制作費として1000万円を支援しています。完成作品は国内外のあらゆる映画祭に出品し、最終目標としてはアカデミー賞を目指しています。
講談社 クリエイターズラボ 永盛拓也氏
2013年講談社入社。週刊少年マガジン編集部、モーニング編集部を経た後、2022年よりクリエイターズラボでシネマクリエイターズラボや漫画家と編集者のマッチングサイト「DAYSNEO」の運営などを担当
CGW:1000万円の支援とはかなり太っ腹ですね。その金額からも講談社の本気度合いがうかがえますが、そもそも出版社である講談社が映像分野のクリエイターを発掘しようとするに至った理由はどういったものなのでしょうか?
永盛:講談社はこれまで主に漫画や小説といった、紙媒体のジャンルで様々な作家さんたちと作品をつくり続けてきました。もちろんこれからもそういった作品を手掛けていきたいと考える一方で、これから先の時代に、映像やゲームなど、新たな分野にも手を広げていきたいという思いがありました。
そこで我々講談社の強みとは一体何だろうと改めて考えた時に、それは漫画家や小説家といったクリエイターたちに伴走していくなかで蓄積された、編集者としての作品づくり、作品プロデュースのノウハウだという結論に至りました。講談社の持つクリエイティブをサポートするノウハウを、実写、アニメ、CGの映像クリエイターに提供し、映像分野でも新たな作品を作り、発信していこうというのが「講談社シネマクリエイターズラボ」の基本理念となっています。
CGW:弊誌の読者は特にCGクリエイターが多いのですが、そういった方々にもチャンスはあるのでしょうか?
永盛:はい、もちろんです。我々は実写作品も支援していくつもりですが、世界市場を目指す上で、日本の強みはやはりアニメやCGにあるのではないかと考えています。
それにCGをつくれるというのは、漫画家が絵が描けるのと同じく、誰でもできるようなものではない、ある種の特殊技能だと思います。漫画家にとって絵が上手いのが大きなアドバンテージなのと同じで、ハイクオリティなCGがつくれるというのは大きなポイントになり得ます。色んな企画書を読んでいく中で、やっぱりビジュアルで伝わるものというのは非常に大きいので、その点でも活字だけの企画書より有利にはたらくことはあると思います。
02:"売れる"企画はどう作る?編集者が教える魅力の押し出し方
CGW:「講談社シネマクリエイターズラボ」では、映像作品そのものではなく、(受賞したら制作する)映像作品の企画書で応募できるんですよね。
永盛:はい、応募規定さえ守っていれば、ペライチの企画書でも問題ありません。
CGW:そうなると、受賞するためにはなおさら企画としての強度が重要になってくると思います。永盛さんは現在の部署に配属されるまでは漫画編集者として数多くのヒット作を担当されたそうですね。そんな永盛さんに「良い企画の立て方」をうかがいたいです。
永盛:まず自分の強みをちゃんと把握した上で、その強みを最初に訴えかけてくれる作品は評価しやすいですね。僕は漫画を読むのには3つの段階があると思っているんです。それは「読み始める」、「読み進める」、「読み終える」で、一番難しいのが読み始めてもらうことなんです。
街を歩いていて、知らない人からいきなり「私の作品を読んでもらえませんか?」と声を掛けられても、なかなか読もうとは思わないですよね。だから読んでもらうためには戦略が必要で、そのひとつが、自分の強みを最初に入れることなんです。
たとえば可愛い女の子が描けるということが強みなんだったら冒頭から女の子の絵を入れていったほうがいいし、サスペンスなら最初に衝撃的なシーンを入れたほうがいい。これは漫画の話ですが、映像作品の企画書も同じだと思うんです。それに強みというのはストーリーのことだけではなく、たとえば絵やCGが強みの人ならビジュアルで訴えかける企画書にしたほうがいいし、プロデューサー的な立場から企画を作る人は、それまでの経歴だとか、こんな人たちを集められます、といったことなどを最初にアピールしたほうがいいと考えています。
CGW:確かに初めて接する作品だと「どういうところが魅力なのか」が最初にわかるというのは大切ですね。ただ、実際に読み始めてもらえたとしても、やっぱりそこから先のクオリティでも差は付いてきますよね。優れた物語を作るコツというものはあるんでしょうか?
永盛:優れた物語というものがどんなものかというと、僕は読者が「感動」する物語だと思うんですね。ただ「感動」と言っても、何も泣くようなものだけでなく、笑ったり、興奮したり、キュンとしたりと、読者の「感情」が「動く」ならば、それは全て「感動」です。
ただし、Aさんは泣いた、Bさんは笑った、Cさんは興奮した、というように読者の「感動」がバラバラだと、やっぱりそれは表現としては失敗です。
そうならないように、つくり手として自分が読者のどんな感情をどう動かしたいのかというゴールから考えて、そのためにはどんなキャラクターがどうすればいいのか、そこを明確にしてから作品をつくるのは1つの方法だと思います。 作者の狙い通りに多くの読者が感動してくれて、さらにその感動をまだ作品を読んでいない誰かに伝えたくなる、というのが優れた物語だと思います。
03:プロフィールと企画書 ペライチでも応募は可能
CGW:第一回の募集では五名のクリエイターが受賞されたそうですね。選考の基準はどういったものだったのでしょうか?
永盛:講談社の企業理念を表す言葉として、創業以来の「おもしろくて、ためになる」というものがありますが、それと同時に近年、世界に向けたパーパスとして「Inspire Impossible Stories」という言葉が発信されています。
これは「読者に新たな発見や創造性を提供し、見たこともない物語を紡ぎ出す」といった思いが込められた言葉です。そういった理念に沿った作品を、そして我々は編集者として「物語」をつくってきたので、やはりそこにストーリーがある企画を選んでいきたいですね。ただし、ここで言うストーリーとは物語の面白さだけではなく、キャラクターのバックグラウンドの奥行きや世界観の魅力なども含めてです。
CGW:選考過程では面接もあるそうですが、どういったところに着目されていますか?
永盛:企画内容が一番ですが、やはり編集者というのはクリエイターさんと一緒にものづくりをする仕事なので、そこからその人とやっていけそうか、コミュニケーションはちゃんと取れそうか、という人柄のところも見させてもらっています。もちろん、クリエイターにとって「自分の"好き”を極める」ことはもちろん大事なのですが、「自分のやりたいことだけをやりたいんだ」という人より、ちゃんと編集者の言葉に自分の考えを打ち返してくれるクリエイターさんのほうが一緒につくる作品を想像を超えた領域にもっていける可能性が高い、と考えています。
また、企画書や作品を見ただけの段階ではコミュニケーションの面で不安があったクリエイターさんでも、実際に会ってみたらまるで印象が変わって、むしろその人柄に惚れたなんていう事例もありました。
CGW:第1回の受賞者と受賞企画について紹介してください。
永盛:それでは優秀賞から2名、特別賞1名をそれぞれ紹介させてください。
Mauricio Osaki氏
Mauricio Osakiさんの『A Dream for My Son』は、ベトナムを舞台に、移民と貧困問題をテーマに描いた作品です。Mauricioさん自身が日系ブラジル三世で、自分自身が持っていた問題意識を映像作品として表現しようとしています。
Mauricioさんが、イギリスに不法入国しようとしたベトナム人がコンテナの中で氷漬けになって発見されたというニュースを見て、その時に感じた思いが出発点だということです。彼はたまたま講談社シネマクリエイターズラボのことを知り、担当編集と議論しながら作品作りができるという点を魅力に感じてくれたようです。実際に、完成までに意見交換を重ねて十回ほど脚本を直していきました。日系ブラジル三世の監督が日本の出版社と協力してベトナムで現地スタッフと制作し、さらに彼のニューヨーク大学の恩師がそれをロンドンで編集するという、世界展開を目指すクリエイターズラボの理念にも合致した国際色豊かな作品となりました。
瀬名 亮氏
瀬名亮さんの『美食家あさちゃん』は、「もっとかわいくなりたい!」という気持ちがどんどんエスカレートしていく女子中高生のストーリーです。
瀬名さんは応募当時18歳で、企画書もプロフィール一枚、企画書二枚の合計三枚だけでした。それでも企画内容に魅力を感じて面接をしてみたら、ルッキズムというテーマについて本人が深く考えていること、その上でそれが自分自身の思いも重ねた企画であるということも伝えてくれて、受賞に至りました。作家自身が作品の強みを客観的に理解した上で、企画書の最後に「でもやりたい一番の理由は面白いと思ったからです」と書いてあったのも印象に残りました。ルッキズムや食の問題といったテーマ的にも、世界に通用する作品になる可能性があると思っています。
崎村宙央氏
崎村宙央さんの『Warmth in a Puddle』は、作者である崎村さん自身が日頃から感じている「生きづらさ」を映像として表現した作品です。崎村さんは大学生でありながら、手描きアニメや3DCGを独学で学びつつ、映像作品を作っていた方でした。
とは言え企画書に印象に残る3DCGが使われていたというわけではなく、自分が描きたいものと絵コンテだけ。それでも受賞に至ったのは、彼が自分の強みとやりたいことをちゃんと理解した上でそれを企画書に落とし込めていたことと、その世界観が面白いものだったこと、そして面接でもそのやりたいビジョンを明確に我々に伝えることができたからです。
CGW:受賞者のお話をうかがっていると、一口に企画書と言っても様々なタイプがあったんですね。それこそ、プロフィールとペライチでも受賞に至れると。
永盛:はい、僕たちがそのクリエイターさんと世界を共有するに足る内容であればどんな形式でも構いません。最低限、経歴と企画内容の二つさえ書いてあれば大丈夫です。
CGW:最後に、応募を考えている読者にメッセージをお願いします。
永盛:前回の応募総数は1,103企画で、数を見ると尻込みしてしまう方もいるかとは思うんですが、アニメ作品に限ると100作品ちょっとでした。ここだけの話、僕らは毎回アニメ・CG作品を1本以上選ぶつもりなので 笑、そう考えるとそこまで倍率は高くないと思います。ぜひ気軽にご応募いただければと思います。
TEXT_オムライス駆
EDIT_池田大樹(CGWORLD)