東京・恵比寿に校舎を構え、声優からゲーム・アニメ・3DCGまで、広くアミューズメント業界の人材を育成するアミューズメントメディア総合学院(以下、AMG)。慢性的な人材不足が叫ばれている3DCG人材、特にモーションデザイナー、VFXデザイナー、コンポジッターを育成するため、同学院は2025年4月、「VFX・CG動画クリエイター学科」を新設する。
本記事では、AMGの滝本佑治氏と実写VFX業界で活躍するデジタル・フロンティアの土井 淳氏のふたりによる、業界の課題や学科新設の経緯と展望について語り合った対談の様子をお届けする。
また、記事の最後には学科新設に向けてアニメーション、VFX、コンポジットなどを手がける企業からの期待をよせるコメントとクリエイターを目指す方へのメッセージを掲載しているのでそちらにも注目してほしい。
プロの現場で学べるAMG
土井:本日はよろしくお願いします。初めてお目にかかりますが、お互い企業としては、映画『青鬼 ver.2.0』で配給がAMG、VFXが弊社という、間接的な関わりがありますよね。
土井 淳氏
株式会社デジタル・フロンティア VFXスーパーバイザー。大学卒業後、1年の専門学校期間を経て同社に入社し、現在26年目。特に実写作品のVFX SVやCGディレクター、VFXデザイナーを担当することが多い。佐藤信介監督作品ではVFX SVを10年以上務めている。
滝本:こちらこそよろしくお願いします。AMGは学校ですが、私がディレクターを務めている「AMG GAMES」や、出版や音楽、スタジオやホール運営など、AMGグループというくくりで10の事業部(部署)を持っていて、商業コンテンツにも関わっているので、繋がりがあるんですよね。
滝本佑治氏
アミューズメントメディア総合学院 ゲームクリエイター、アニメ・ゲーム3DCG学科およびVFX・CG動画クリエイター学科の統括リーダー。本校OBで現在16年目のベテラン。本校卒業後はゲーム会社に就職し、『ガンダム』関連タイトルを中心にモーションデザイナーとして勤務。ほどなくしてチーフデザイナーへと昇格後、約5年の勤務を経て本校の教職として転職した。現在は学科業務を務める傍ら、学内の商用ゲーム開発機関「AMG GAMES」のディレクターも兼務する。
土井:学生が産学共同プロジェクトとして商用コンテンツ制作やビジネスに直接関われるということで、その経験は就職後も必ず役に立つと思います。制作過程で積極的に他学科の学生と交流できるので、自分の見識も拡がりますし。
滝本:学生はプロと同じ目線で苦労しながら、現場で生きた教育を体験できる。しかも、学生としてではなく、いちスタッフとして、ギャランティの発生する“仕事”としてです。市原隼人さん主演の『おいしい給食』に、本校の声優・俳優学科在校生5名がキャストとして出演した例もあります。
土井:教育機関としてのAMGも老舗ですよね?
滝本:今年で30周年になります。東京と大阪にキャンパスがありまして、学生数は1年生・2年生合わせて3,000人、卒業生はだいたい2万人ぐらいです。
土井:2万人は多いですね。学科はCG関連が多いんですか?
滝本:現在、ゲームクリエイター学科、アニメ・ゲーム3DCG学科、アニメーション学科、キャラクターデザイン学科、マンガイラスト学科、小説・シナリオ学科、声優・俳優学科があります。
土井:そしてそこに今回「VFX・CG動画クリエイター学科」が新設されると。
モーション、VFX、コンポジットに特化した新学科
滝本:今回新設する「VFX・CG動画クリエイター学科」についてですが、映像や動画のスペシャリストを目指す学科として、中でもモーションデザイナー、VFXデザイナー、映像編集のコンポジッター、この3つの職域を中心に学ぶ科として準備中です。
土井:既存の兄弟学科にアニメ・ゲーム3DCG学科がありますよね?
滝本:はい、アニメ・ゲーム3DCG学科のほうは主に造形、モデリングとリギングを中心に勉強していく学科です。それに対して、新設のVFX・CG動画クリエイター学科ではモーション以降の作業を学んでいくというイメージです。
土井:これまではモーション以降の工程は教えていなかったのですか?
滝本:いえ、アニメ・ゲーム3DCG学科でモーション以降も教えていました。ただ、クラスの中が、モデリングを中心にやりたい学生とモーションを中心にやりたい学生で二極化してしまって……。
土井:なるほど。学生としても、興味のあるなしで身の入り方が変わるでしょうし。
滝本:まさにそうで、特に卒業制作ではそれが顕著に出ました。モデリングが中心の学生は、キャラや背景はしっかり制作できるのです。でも、モーションの質が低くて、カットやシーンの考え方も乏しく、作品としては不完全燃焼でした。教える立場としてそれがとても残念で、1本の映像をしっかりつくっていける学校にしなくてはという思いが、学科新設に繋がっています。
土井:VFXに関しても力を入れている学校はほとんどないですからね。エフェクト制作が入学の動機になる学生は少ないかもしれませんが、そこに力を入れると就職で有利になる場合もあると思います。3DCGは分業化が進んでいますから。
滝本:そこはカリキュラムでもサポートしています。「共同制作」と呼ばれるチーム制作プロジェクトを2年間に8回ほど、カリキュラム内に織り交ぜていまして、分業しながら座学で学んだことを実践できるようにしています。
土井:そういう経験は大切ですね。例えば、「自分が担当するのは質感だけだから」と言って、ネットで拾った画像をリファレンスにつくっても、やっぱり上手くいかないものです。撮影現場に行って実際に本物を見て、カメラとか照明を見て、ものを触って写真を撮って、広い視野をもってモノづくりに取り組んでほしいです。そうじゃないと良いものにはなりません。
滝本:それと、AMGには元々「転科」システムがあるんですが、今回VFX・CG動画クリエイター学科を新設することで、アニメ・ゲーム3DCG学科の学生がモーションやVFXを勉強したいとなって転科したり、その逆も増えることを予想しています。
土井:自分の方向性が定まった時点で最適な学科にシフトできるんですね。ちなみに、転科せずに特定の授業だけ受けることもできますか?
滝本:はい、もちろん。席に空きがあれば、聴講は誰でもいつでもできます。
土井:VFX・CG動画クリエイター学科の卒業生の就職先はどのあたりを想定していますか?
滝本:大きくは実写映画業界とアニメ業界、ゲーム業界の3つ、特に実写映画が多くなると思いますね。
土井:講師陣はどういった方々を予定しているのですか?
滝本:AMGの方針として、講師は現役のクリエイターの方々が基本です。その方針に沿って現在交渉中です。一例として、企業に所属しているVFXデザイナーやNukeのコンポジター、カメラの扱いからライティング・編集・VFXまでやっているフリーランスの映像作家、フォトグラファーの方々に声をかけているところです。加えて、アニメ・ゲーム3DCG学科の講師陣にも授業を持って頂く予定です。
業界課題と求める人材について
滝本:CG・映像業界として今どんな人材的な課題がありますか?
土井:VFX SVとしては、VFXをやりたいという人があまり多くないというのがまず大きな課題としてあります。『ゴジラ-1.0』がオスカーを獲ったので今後に期待ですが、まだまだ日本のVFXの認知度は高くないと思います。
滝本:確かにそうですね。逆に、アニメやゲームには世界的に評価されているタイトルが多数ありますから、やりたいという人も多い。
土井:そうですね。だからこれから世界で評価される日本のVFX作品が増えれば目指す人材も増えるように思います。
滝本:現場としてはどういう人材に来てほしいですか?
土井:実写のVFXで歓迎されるのは、技術とセンスの両面を持った人材です。例えば、シミュレーションでつくった“リアル”なエフェクトも、その作品の演出に合ってなければ必要とされない。だから、シーンのながれを読んでデフォルメや誇張をかけるような、アニメーション的なセンスも必要になるんです。
滝本:AMGは大卒や社会人経験者が多くて、卒業後は就職がマストと考えている学生が多いです。そういう学生は勉強熱心ですし、1年生後半から2年生になるころには、自分の希望職種を決めて、専門的な授業を学んでいく学生が多いです。
土井:それは期待できそうですね。
CG・映像業界を目指す学生へのメッセージ
滝本:AMGは「この業界を目指したい!」という夢を叶えられる学校だと自負しています。本気で夢を叶えたい方は、ぜひAMGに来てください!
土井:AMGで過ごす2年間はその先の人生を考えれば超短期間です。その時間は集中して基礎を固める期間だと思って、やりたいことを絞って突き進みましょう。就職はゴールではなくて始まり。先の先を見据えてキャリアパスを考えて取り組んでください!
3DCG・映像業界からの応援コメント
AMGのVFX・CG動画クリエイター学科新設に期待をよせる、アニメーション、VFX、コンポジットなどを手がける企業からのコメントをご紹介しよう。
白組
代表取締役社長
小川洋一 氏
shirogumi.com
▼白組からの新学科へのメッセージ
日本の2Dアニメは今や世界中でリスペクトされる確固たるコンテンツに成長しましたが、3DCGアニメの分野は歴史も浅く今だ発展途上にあります。特にモーションキャプチャーを使わず、手作業によるアニメーションを作る3DCGアニメーターは、まだまだ不足しています。さらにアニメだけでなく映像業界ではあらゆる分野でCGの活用が必要不可欠になってきました。そうした実践に沿ったデジタル技術を使いこなせるクリエイターを育てることがとても大切だと思います。
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
日本では2Dアニメの手書き質感を再現するセルルックCGが全盛ですがリアルを追求するVFXの分野も大きく発展しています。セルルックとリアルなVFXの間にもさまざまなテイストのCGが存在します。学生の皆さんは自由な発想で色々な映像を作って欲しいと思います。
オムニバス・ジャパン
代表取締役社長
丸井庸男 氏
www.omnibusjp.com
▼オムニバス・ジャパンからの新学科へのメッセージ
この度はVFX・CG動画クリエイター学科の開設おめでとうございます。今日の3DCGは、映画、広告、ゲーム、アニメーション等、映像制作のみならず、医療、建築などあらゆる産業において運用は拡大しており、映像作品の完成度、製造プロセスにおける進行にも深く影響をもたらします。CG技術は表現できることが増えたことによって、より専門性も高まっています。NUKE、Houdiniなどプロの現場で使用されているツールを導入し次世代のクリエイター育成されることに、大きな期待を寄せています。
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
CG業界は映像表現の主役になり得るポジションです。オムニバス・ジャパンは、技術力と創造力、情熱で映像に新たな価値を生み出すクリエイティブプロダクションです。映画・ドラマ・配信コンテンツ・広告をはじめ、多種多様な映像作品を世に送り出し、あらゆる映像クリエイティブで企画制作を手掛けています。世界中のクリエイターの中心地となることを目指し「CREATORS HUB」をコンセプトに掲げ、弊社を起点に社内外のクリエイターが交差することで、未来のクリエイティブが生み出されていく、あらゆるクリエイターのために開かれた場となる事を願っています。クリエイター志望の皆さんが、我々と共に未来の映像業界の中心になることを期待しています。
神央薬品
代表
ノブタコウイチ 氏
zinou.jp
▼神央薬品からの新学科へのメッセージ
多くのCG・VFX業界の将来を担ってくれる若い人材を解き放てるような学科になってくれることを期待しております!
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
自分で志した道への一歩踏み出した皆さん、大変な事も多いですが色んな人達に自分たちの仕事を見て頂ける素晴らしい職業だと思っております!皆さんといつの日か一緒に作品を作れることを願っております!頑張ってください!
drawiz
CGスーパーバイザー
粉奈太一 氏
www.drawiz.co.jp
▼drawizからの新学科へのメッセージ
学科の新設おめでとうございます。知識、技術の教示はもちろんのこと、生徒達にとって仲間との協力や切磋琢磨する”場”、また、かけがえのない”時間”となることを期待しています。
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
「思考」をするのを止めないでください。知識、技術を学ぶのはもちろん重要ですが、それらをかみ砕いて解釈し、発展させるにはどうしても思考が必要です。また、「会話」を大切にしてください。自分なりの解釈や思考を、仲間に共有・議論をすることで学びはより深いものになります。仲間と有意義な時間を共有して、様々な作品が作られることを期待しています。
十十(jitto)
Founder/VFX Supervisor
神田剛志 氏
jitto.jp
▼十十からの新学科へのメッセージ
この業界に憧れる多くの若者を育てていただきたいです。他の学校には無い、独自のカリキュラムにも期待してます。
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
夢のある楽しい業界だと思ってます。日本の映像産業を盛り上げて下さい。
コラット
VFXプロデューサー
山元太陽 氏
korat-inc.com
▼コラットからの新学科へのメッセージ
各分社に特化しつつも、3DCG全般を1年生前期に学習したり、また、CG作業のみならずカメラを使用しての学習など単に一部門だけを学習するのではなくCG作業の前工程や基礎を学べる点は素晴らしいと感じます。弊社も分野ごとにセクション分けしており、スペシャリストが多く在籍しておりますが実際の業務では前後/横並びの工程への理解や知識が無いと難しい局面が多々存在します。広い視野を持ったアーティストさんを輩出して頂けると期待しております!
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
学校という場は知識やスキルだけを得る場ではないと考えています。机を並べた同級生が、実際の制作現場へ出た際、仲間であり、クライアントであり、協力者となります。例え、個人フリーランスとして活動されるとしても1人で仕事をすることはできません。CG技術のみならず人脈形成の場とも捉えて『学校』の持つ機能をフルに活かして頂けたらと思います。制作現場でご一緒出来る日を心より楽しみにしております。
MARK
代表取締役
貞原能文 氏
mark-inc.jp
▼MARKからの新学科へのメッセージ
新しい表現や技術が日々次々に登場し、活用領域の爆発的な広がりから、CG業界は慢性的な人手不足です。今回の新学科設立により、基本を押さえつつ、且つ自由な表現の可能性を秘めた人材の登場に大いに期待しています!
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
主に広告関係の多くのCG作品に携わるMARKでは、毎回全く違うテイストの高度なCG表現を求められます。幅広く様々な表現にチャレンジしたいクリエイターには非常に恵まれた環境と言えます。生徒の皆さんにも将来是非チャレンジしていただきたいです!
スタジオ・バックホーン
VFXスーパーバイザー
鹿角 剛 氏
buckhorn.jp
▼スタジオ・バックホーンからの新学科へのメッセージ
VFXにも力を入れた学科が出来るとお聞きし、大変期待しております。特に実写系VFXを目指す人材は少ないと感じていますが、映画や配信系などで、ますますその需要は増えているので、業界に興味を持っていただけるような人材育成を期待しております。
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
日本の人気映像コンテンツと言えば、まずはゲームやアニメを思い浮かべると思いますし、実際に全世界での人気は高いです。ですが、実写の映画やドラマも配信系などで海外での人気が高まっており、業界的にも人材が不足している状態です。実写の世界は、CGスタッフだけでなく、監督やカメラマン、俳優さん等、様々な才能を持った人たちと作り上げていく世界なので、他のジャンルとはまた違った面白さがあると思います。是非一緒に業界を盛り上げていきましょう。
デジタル・フロンティア
ディレクター・VFXスパーバイザー
土井 淳
dfx.co.jp
▼デジタル・フロンティアからの新学科へのメッセージ
日本から世界へ配信される作品にも多くのVFXが使われています。そういう作品に携われるような、新しい才能が、この学科から、開花すること、そして、この学校は、様々な学科も併設されているので、様々なジャンルの人達とのコミニュケーションを取ることができ、幅広い知識、人脈を持った人たちが羽ばたいていけるような環境が作られることにも大いに期待しています。
▼クリエイターを志す方々へのメッセージ
学生のときに得た技術、知識を目一杯詰め込んだとしても、それはスタート地点に立ったに過ぎません。CGの世界は、日々進化しているので、その進化についていけるように日々の努力が必要です。CGはパソコンで作るものですが、パソコンの前にいるだけでは、良いものは作れないと思うので、様々なジャンルの良いもの見たり、聞いたり、色々な人とのコミニュケーションを取ることも自分を成長させる上で、重要な糧になってくれます。皆さんが目指すのは、クリエーターであって、オペレーターではないので、想像力を豊かにするために、楽しみながら、努力し続けてください。
TEXT_kagaya(ハリんち)
EDIT_小倉理生(shushu-kikaku)