中学校のパソコンクラブが母体となった「ese-club」(イーエスイークラブ)がBlenderユーザー向けにセレクトした、ユニットコムのクリエイター向けデスクトップPC「iiyama SENSE∞」の4モデルが登場した。
今回はese-clubの顧問を務める久野孝光氏にBlenderで使用する機材選びのポイントを聞くとともに、その4モデルの性能や使い勝手などを伺った。
ese-clubとは
中学生の校外課外活動からスタートした映像制作集団。Blenderを使った3DCGの映像作品づくりに取り組んでいる。1期生の10名は高校に進学し、中学生の4名が2期生として加入。現在は長編アニメーション『未来中学』を鋭意制作している。
X(旧Twitter):@club_ese
YouTube:www.youtube.com/@eseclub12345
モチベーションが上がる性能を備えた機材を選ぼう
CGWORLD(以下、CGW):近年、機材選びに悩むBlenderユーザーも少なくないと感じます。機材選びのポイントは?
久野孝光氏(以下、久野):重要なのは「作品づくりのモチベーションを維持できるか」という点です。例えば、低価格で性能の低いPCでBlenderを使用すると、簡単なオブジェクトをつくる程度なら問題ないかもしれません。
しかし、ポリゴン数の多い背景を扱うと、視点を回転させるだけでPCが固まってしまうことがあり、レンダリング時間も非常に長くなります。
CGW:それだと作業が進まず、作品も完成しませんね。
久野:その通りです。特に初心者の学生は、それだけで制作のモチベーションが下がり、途中でやめてしまうこともあるでしょう。創造力を生かして素敵な作品をつくれる可能性があっても、「PCのスペック不足」でそれが台無しになるのは非常に残念です。だからこそ、「モチベーションを上げられる機材」、すなわち快適に作業できるスペックを備えたPCが必要だと考えます。
検証機材と検証結果
①初心者向け(SENSE-M3P5-R56X-RL2X-ese)
- 値段
172,800円
- CPU
AMD Ryzen 5 5600X
- メインメモリ
32GB(16GB×2) DDR4-3200 DIMM (PC4-25600)
- グラフィック機能
GeForce RTX 4060 8GB GDDR6
- ストレージ
1TB NVMe対応 M.2 SSD [PCIe 4.0×4]
- ワイヤーフレームモード
◎
- ソリッドビューモード
⚪︎
- マテリアルビューモード
△
- レンダービューモード(サンプル数32)
×
- 物理シュミレーションのベイク時間/レンダリング時間
△/約26時間
②中級者(SENSE-M37M-144F-ST1X-ese)
- 値段
216,800円
- CPU
インテル® Core™ i5 プロセッサー 14400F
- メインメモリ
32GB(16GB×2) DDR5-4800 DIMM (PC5-38400)
- グラフィック機能
GeForce RTX 4060 Ti 16GB GDDR6
- ストレージ
1TB NVMe対応 M.2 SSD [PCIe 4.0×4]
- ワイヤーフレームモード
◎
- ソリッドビューモード
◎
- マテリアルビューモード
⚪︎
- レンダービューモード(サンプル数32)
△
- 物理シュミレーションのベイク時間/レンダリング時間
△/約18時間
③上級者(SENSE-F079-LC147KF-UT2X-ese)
- 価格
407,800円
- CPU
インテル® Core™ i7 プロセッサー 14700KF
- メインメモリ
64GB(32GB×2) DDR5-4800 DIMM (PC5-38400)
- グラフィック機能
GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16GB GDDR6X
- ストレージ
2TB NVMe対応 M.2 SSD [PCIe 4.0×4]
- ワイヤーフレームモード
◎
- ソリッドビューモード
◎
- マテリアルビューモード
◎
- レンダービューモード(サンプル数32)
△
- 物理シュミレーションのベイク時間/レンダリング時間
⚪︎/約6時間
④プロ(SENSE-F079-LC149KF-XL3X-ese)
- 価格
694,800円
- CPU
インテル® Core™ i9 プロセッサー 14900KF
- メインメモリ
128GB(32GB×4) DDR5-4800 DIMM (PC5-38400) ※実際の動作はDDR5-3600となります
- グラフィック機能
GeForce RTX 4090 24GB GDDR6X
- ストレージ
2TB WD_BLACK SN850X SSD / NVMe M.2 [PCIe 4.0×4]
- ワイヤーフレームモード
◎
- ソリッドビューモード
◎
- マテリアルビューモード
◎
- レンダービューモード(サンプル数32)
⚪︎
- 物理シュミレーションのベイク時間/レンダリング時間
◎/約4時間
検証1.Blenderでの操作性能の評価
オブジェクト数146個、頂点数326万個、辺886個の検証素材を使用。Blenderでの各モード(ワイヤーフレームモード、ソリッドビューモード、マテリアルビューモード、レンダービューモード)による操作性能を評価。
➀初心者モデルでスムーズに動作するのはワイヤーフレームモードのみだったが、➁~➃とスペックが上がるほど快適に動作するモードが増加した。
検証2.ミュレーションのベイク時間とレンダリング時間
宇宙船を爆破させる物理シミュレーションをBlender上で実行。ベイク時間を計測。さらに、その爆破シーンを使った映像(約3分)をCyclesでレンダリングし時間を計測。
ベイク時間は、➃i9モデルのみが快適、体感としては十数秒程度という早さ。レンダリング時間は、➀Ryzenモデルが約26時間、➁i5モデルが約18時間、➂i7モデルが約6時間、➃i9モデルが約4時間という結果だった。
コスパに優れた2モデルは 「GPUメモリ」の差に注目
CGW:今回、ese-clubがパーツ選定などに協力したユニットコムのクリエイター向けデスクトップPC「iiyama SENSE∞」の4モデルを検証してもらいました。性能や使い勝手はいかがでしたか?
久野:まず、AMD Ryzen 5 5600X搭載の「SENSEM3P5-R56X-RL2X-ese」(以下、①Ryzenモデル)とインテルCore i5-14400F搭載の「SENSEM37M-144F-ST1X-ese」(以下、②i5モデル)は、コストパフォーマンスに優れています。どちらもBlenderの推奨スペックを満たしているので、BlenderのスタートPCやラーニング機としては問題ありません。
CGW:①Ryzenモデルと②i5モデルの違いは?
久野:注目すべきは「GPUメモリ」です。①RyzenモデルのGeForce RTX 4060は8GB、②i5モデルのGeForce RTX 4060 Tiは16GBです。この差が処理性能に影響します。実際、②i5モデルはソリッドビューモードでもスムーズに動作し、レンダリング時間も短縮されました。しかし、本格的な3DCG映像制作には、やや力不足の可能性があるため、ワンランク上のPCも検討した方が良いでしょう。
申し分ない性能を持つi7モデルと無敵のスペックを誇るi9モデル
CGW:残りの2モデルについても教えてください。
久野:インテルCore i7- 14700KFプロセッサー搭載の「SENSE-F079-LC147KF-UT2X-exe」(以下、③i7モデル)とインテルCore i9-14900KFプロセッサー搭載の「SENSE-F079-XL3X-ese」(以下、④i9モデル)は、もはや“プロ向け” といえるほどハイスペックなモデルです。こちらであれば、『LIMIT BREAK』のような3DCGの映像作品も快適に制作できるはずです。
CGW:この2モデルのポイントは?
久野:このクラスになると、一般的な作業であれば大きな差を感じることはないでしょう。推奨スペックと比較すると③i7モデルでも4倍以上の差がありますから作業時の快適性は格段に違いましたし、負荷のかかる物理シミュレーションも十分にこなしてくれると感じました。
また④i9モデルは、GeForce RTX 4090が無敵の性能を見せつけてくれました。操作性能の検証ではレンダービューモードでも実用に耐えるレベルで、レンダリング後の品質を確認しながら作業することも可能。物理シミュレーションもベイク処理が十数秒で終わるなど、あまりの高性能に「むしろ私が欲しい」と思ってしまうほど圧巻でしたね。
CGW:4モデルの中で、これからCGを始める人にオススメなのはどれでしょう?
久野:まずは②i5モデルからスタートし、やりたいことが増えてきたら、例えば「メモリを64GBに増やす」などのスペックアップで対応するのが良いと思います。ただ、もし予算に余裕があれば③i7モデルもお勧めしたいですね。操作性や処理能力が飛躍的にアップしますし、レンダリング時間も短くなりますから。
CGWORLD関連情報
ユニットコムのクリエイターパソコンシリーズ「SENSE∞」が3DCG映像制作集団「ese-club」と共同でクリエイターパソコンを発売!
ユニットコムの SENSE∞(センス インフィニティ)と3DCG映像制作集団「ese-club」(イーエスイークラブ)が共同制作したクリエイターパソコンが発売されたことを紹介した記事。(cgworld.jp/flashnews/2409-sense-eseclub.html)
中学生達がBlenderで制作したカーチェイス動画『LIMIT BREAK』。 作品を手がけた「ese-club」とは?運営方法や学習リソースに迫る。
ese-clubの運営方法や学習リソースについて、チームを代表してリーダーの久野恵吾さんとクラブ顧問である久野孝光さんにお話を伺った記事。
https://cgworld.jp/article/blenderlimit-break-ese-club.html
TEXT_近藤寿成