ファッション・ビューティー系のブランディング会社anicecompanyが3DCG事業を創設したワケ。自社プロダクトでR&D、他社のブランディングに活用するフローを構築
ファッション・ビューティー系のデザインやブランディングを手掛ける会社でありながら、社内に3DCG事業を立ち上げてデジタルを駆使したブランディングを提案しているanicecompany。マウスコンピューターのクリエイター向けデスクトップPC「DAIV FX-I9G90」を導入し、自社プロダクトをR&Dの場とすることで新たな表現に挑戦している。今回は3DCGチームを率いる笹森匠海氏に事業立ち上げの経緯、導入したDAIV FX-I9G90 の実力について語ってもらった。
プロフィール
anicecompany
ファッションやビューティー系のデザインやブランディングを手掛けるクリエイティブエージェンシー。自社ブランドとして、機能性や実用性にこだわったメイドインジャパンのビューティーケアブランド「SINN PURETÉ」も展開している。
ホームページ:www.anicecompany.co.jp
笹森匠海氏
Technical Director 執行役員
以前は北海道で、デザインやエンジニアリングなどの技術を使ってメディアアートを制作。その後、東京でのWebエンジニアのキャリアを経て、2021年にanicecompanyへ入社。2023年11月からは、執行役員としてデジタルを使ったブランディングソリューションの研究開発を牽引している。
技術はあくまで「手段」、適切な方法を選ぶことが重要
CGWORLD(以下、CGW):はじめに、anicecompanyについて教えてください。
笹森匠海氏(以下、笹森):当社は、ファッションやビューティー系のデザインやブランディングを得意とする会社です。ブランド戦略の策定やブランドリサーチ、ロゴデザイン、パッケージ制作、撮影、編集、Web制作などが主な業務となります。
これに加えて2023年には、ブランド価値を最大化するクリエイティブの実現には「これまで以上のさらなるデジタル表現が必要」と考え、3DCG事業を新たに立ち上げました。
CGW:笹森さんがanicecompanyに入社した経緯は?
笹森:学生時代に専門学校で3DCGを学び、その後、北海道でデザインやエンジニアリング、プログラミングの技術を使って、3DCGのメディアアート制作をしていました。 そこから、エンジニアとしてのキャリアを伸ばすべく上京。フロントエンドエンジニアとしてさまざまな制作会社で活動していました。そんな折、「デジタル部門をもっと強化したい」と考えていた当社の代表取締役である上妻善弘から声をかけてもらいanicecompanyへ入社。現在は、デジタルをメインとしたブランディングソリューションの強化を担っています。
CGW:アートディレクションを得意とする貴社がなぜ今3DCG事業の創設に踏み切ったのでしょうか?経緯を教えてください。
笹森:最近の傾向として「SNSなどを活用したブランディング」、例えば「VFXや3DCGを使った縦型ムービーをアップする」といった形でデジタルでのブランディングに力を入れている海外ブランドが、非常に増えていると感じているからです。さらに、当社は代理店経由ではなく各ブランドから直接案件の依頼を受けるケースが多いため、ブランド側から提示される要望や課題に対して「デジタルのクリエイティブで解決していく」といった姿勢は重要なポイントになるわけです。
ただし、注意すべきはこれらの新しい技術があくまでも「手段」であるということです。派手な演出に頼りすぎることなく、常にブランドが伝えたいメッセージを第一に考え、それを最も効果的に伝えられる方法を選んでいくことが重要だと考えます。
自社プロダクトでR&D、他社のブランディングに活用するフローを構築
CGW:3DCGを使ったクリエイティブは、どのようなコンテンツからスタートしたのでしょうか?
笹森:最初は、自社コスメティックプロダクト「SINNPURETÉ(シン ピュルテ)」の製品ラインナップにあるファンデーション用のイメージムービーでした。そのムービーを制作するにあたり、従来と同じように人間のモデルを使った映像ではなく「3DCGでも制作できるのではないか」と考えてトライしてみたのがきっかけです。
CGW:最初の取り組みとして、自社プロダクトを採用した背景は?
笹森:新しいクリエイティブソリューションをクライアントへ提供する前に、自社ブランドをR&Dの場として活用できると考えたからです。これにより「自社プロダクトでR&Dをする」→「他社のブランディングに活用する」というフローが完成するわけですが、この独自のアプローチにはそれ以外にも重要な利点がいくつかあります。
笹森:まず、新しいクリエイティブ表現やマーケティング手法を「実践的に検証できる」ことが挙げられます。実際の市場環境での反応を測定し、効果を定量的に把握することで、手法の有効性を事前に確認することが可能です。加えて、制作フローやプロジェクト管理における「想定外の課題や潜在的なリスクを早期に発見できる」こともメリットです。例えば、制作スケジュールの最適化やチーム間のコミュニケーション方法の改善、品質管理プロセスの見直しなど、さまざまな観点から実務上の改善点を見出せます。また、CG制作を内製化したことで、コスメ製品のモックアップも自社で作れるようになり、マーケティングだけでなく商品開発の側面でもメリットが大きいと感じています。
そして、このような実践的な経験を通じて得られた知見は、すべてクライアントプロジェクトの品質向上にも活かされています。つまり、失敗のリスクを最小限に抑えつつ、より効率的かつ効果的なサービス提供を実現することで、クライアントの事業成長にも確実に貢献する体制を整えられるわけです。
これらに加えて、シンピュルテでの実験的な取り組みは、社内のクリエイティブチームの技術力向上やイノベーション創出にも大きく寄与しています。最新のトレンドやテクノロジーに常に触れて挑戦し続けることで、クリエイティブの可能性をさらに広げられるわけです。
CGW:1つの新しい表現方法を自社プロダクトでR&Dする場合、どの程度の期間がかかるのでしょうか?
笹森:一般的な制作と同じぐらいでしょうか。制作までの一連のフローを自社内ですべて行うので、VFXを使っても1ヵ月~1ヵ月半といった感じです。ただ、自社プロダクトだとブランドの知識や訴求したいポイントなどを熟知しているので、企画がスムーズですぐに制作に取り組める点は有難いですね。
CGW:3DCGのクリエイティブは基本的にすべて自社で内製しているのでしょうか。
笹森:範囲としては企画から制作の最後まで。具体的な作業としては3DCGのモデリング、アニメーション、キャラクターのリギング、コンポジット、グレーディングまでですね。元々がアートディレクションやデザインが主な会社なので、撮影などはその繋がりでカメラマンさんと協力しています。また、プロジェクトの規模や難易度によっては外部のスーパーバイザーや3DCGクリエイターと協力する事もあります。
CGW:他にも取り組みの1つとして“ゲーム”があるのはかなり興味深いと感じました。その意図は?
笹森:まず前提として、スマートフォンでのコミュニケーションが増えていくなかで、ユーザーとのコミュニケーション方法は非常に幅が広がってきていると感じています。その流れにともない、表現の自由度もさらに高まっていきますから、その意味で「デジタルによってさまざまな角度から提案できる」と考え、ゲームにも挑戦しています。
最近、70周年を迎えたTASAKIのプロモーション映像をVFXで制作しましたが、70周年を記念したホームページ用のWebゲームも制作しました。このようなかたちも含め、ブランディングにまつわることであれば何でもチャレンジしていきたいですね。
レンダリングは約5時間短縮!新人にも「DAIVFX-I9G90」を付与
CGW:3DCGの制作ではかなり幅広い作業を担っていますが、どのようなDCCツールを使っていますか。
笹森:Cinema 4Dをメインツールとして使っています。レンダリングはRedshiftです。案件の性質によっては、Unreal Engine 5や、Houdiniも使用します。
CGW:今回マウスコンピューターの「DAIV FX-I9G90」を導入した理由を教えてください。
笹森:3DCGの制作にあたっては、レンダリングやシミュレーションなど、これまでになかった負荷の高い作業が増えたのが大きな要因です。作業中にPCのスペック不足等が原因で「作業が止まる」あるいは「作業効率が落ちる」という問題は、PCへの投資で解決することができる問題なので、投資は惜しみません。ちなみに、来年春に入社予定のアルバイトの学生も、現在このモデルを使っています(笑)。
CGW:新人でもこのレベルのPCを使わせてもらえるのはうらやましいですね。では、実際のDAIV FX-I9G90の使用感はどうでしたか?
笹森:とても満足しています。最初に1台購入した後、すぐに2台追加で購入しました(笑)。
例えば、VFXを使った10秒程度の映像をレンダリングする場合、以前のPCでは15時間程度かかっていました。GPUはRTX 3090だったのでかなり優秀なマシンだったはずなのですが、DAIV FX-I9G90では10時間程度で完了できるようになりました。ここまで短縮できたのは、GPUのRTX 4090の実力はもちろんですが、それ以外のスペックも含めた総合力の高さだと思います。
また、ファッションやビューティー系の映像ではシズル感を出すために泡や液体の表現をよく使うのですが、そのシミュレーションも5~10分程度で完了してくれます。このスピード感で終わってくれれば、パラメータなどを再調整した試行錯誤も繰り返し可能ですから助かります。
CGW:スペック面以外で気に入った点などはありましたか?
笹森:筐体のデザインはとてもオシャレだと感じています。自分以外のメンバーにも好評ですね。シンプルなデザインなので、一般的なビジネスオフィスはもちろん、デザイン系の会社にもフィットすると思いました。以前使用していたゲーミングPCは、サイズもかなり大きく、内部が光る仕様で、弊社のオフィスには少し合わないかなという印象だったので、デザイン的にも購入してよかったと思っています。
笹森:それから、ケースに標準装備しているキャスターとハンドルも非常に役立っています。デスクの下にしまうのが楽ですし、ちょっとした席替えの際にも大活躍ですよ。
anicecompanyが導入した「DAIV FX-I9G90」のポイント
DAIV FX-I9G90は、CPUとGPUにハイエンドクラスの「インテル Core i9-14900KF プロセッサー」と「GeForce RTX 4090」を採用した、クリエイター向けの高性能デスクトップPC。メモリは64GB、ストレージは2TB SSDを搭載し、デザイナーの快適なクリエイティブ作業を実現するとともに、anicecompanyが取り組むさまざまなR&Dでの試行錯誤を強力にサポートする。
DAIV FX-I9G90- 価格
669,900円(税込)
- CPU
インテル® Core™ i9 プロセッサー 14900KF
- GPU
NVIDIA® GeForce RTX™ 4090
- メモリ
64GB(32GB×2)
- ストレージ
2TB (NVMe Gen4×4)
- OS
Windows 11 Home 64ビット
お問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv
TEXT_近藤寿成
PHOTO_弘田 充
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)