
2月15日(土)、西新宿住友不動産新宿グランドタワーにて「クリ博ポートフォリオ相談会@西新宿」が開催された。デザイナーを採用したい企業と志望の学生がポートフォリオを軸にコミュニケーションを取ることを目的としたイベント。就職活動を迎えた学生が自身のポートフォリオをゲーム・CG業界のプロに見せ、アドバイスをもらい、レベルアップを図るためのものとなる。
※参加企業:Aiming/オルカ/グッド・フィール/コナミグループ/サイバーコネクトツー/ドリコム/ニンテンドーキューブ/バンク・オブ・イノベーション/ラセングル
6年ぶりのリアル開催。ゲーム関連企業9社が学生のポートフォリオ相談会でレビュー

主催はクリ博を運営するデジタルスケープ。同イベントとしてはコロナ禍以来の初開催となった。しばらくぶりの開催であったにも関わらず、土曜の午前から会場には学生たちが詰めかけ、盛況の中、イベントは開始。短い謝辞と説明が行われたあとは、各企業が自社と自社タイトルの紹介を行った。
今回の参加企業は全9社。そのいずれも誰しもが目にしたことがある有名タイトルを手がけるゲーム企業だ。
イベントが開催された会議室では、これらの企業が机をずらりと並べブースを設営。学生たちはクリアファイルやノートPC等各々の形で持ち寄ったポートフォリオ片手にブースを訪れ、1回10~15分程度の持ち時間でコメントやアドバイスをもらっていく。
待機中の落ち着かなさもあり、最初は緊張した面持ちの参加者たちだったが、企業担当者と言葉を交わすうちに次第に力みがとれ、活発に質問する様子が見られた。午前の部の3時間をすべて使った参加者であれば、概ね3社か4社程度の企業からポートフォリオにコメントやアドバイスをもらえたようだ。
また、イベントの合間を縫って、参加した学生たちに話を訊いてみた。
当然ながら、そのほとんどは20歳前後。現在就職活動中で、春から最終学年を迎えるという。参加のきっかけは「クリ博ダイレクトやCGWORLDでの告知記事を見た」が1番多く、他には「専門学校の講師から勧められた」「ポートフォリオオンライン選考会にも参加したのでそのままこちらにも参加した」というものから「専門学校ではない四年生大学の文学部に通っているがゲーム・CG業界への就職に関心があってコメントを聞いてみたかった」までがあった。


また、参加者の多くは東京・神奈川・埼玉などの関東圏在住だったが、長野のような遠方からポートフォリオ相談会のために遥々訪れたという参加者も珍しくなかった。地方在住者の場合、地元にゲーム・CG系の企業がなく、専門学校の講師以外にポートフォリオへのコメントやアドバイスをもらえる人や場所が乏しいというのが参加のきっかけになっているようだ。そうした遠方からの参加者は午前の部だけでなく午後の部まで参加し、合計6時間をかけてポートフォリオに反応をもらって帰る、という計画が多かった。
企業からもらったコメントやアドバイスについてどう思ったかも併せて尋ねると、「できる限りクオリティを突き詰めたつもりだったが、自分とは異なる視点からの要望を聞いて、目から鱗が落ちた」「作品を絞り込んできたが、むしろもっといろんなものを見せて欲しいと言われて驚いた」「自分の好きな作品や影響を受けたものを見抜かれた上でより幅広いインプットとアウトプットを求められた」などの答えがあったほか、「企業によってまったく逆のアドバイスをもらってしまったので困った。一日一個ペースで作品をつくりとにかく手数を鍛えてみるように言われたと思えば、もう一方ではこれまでにも増してもっと時間をかけて制作をしてみてクオリティの天井を上げる挑戦をするように言われた。どちらを選ぶべきか考えたい」というある種のジレンマを感じるものもあった。こうした意見が出てくるのも、複数の企業からそれぞれコメントやアドバイスを受け取れるイベントならではだろう。
学生側の動き出し時期が二極化している印象。選考枠が埋まる前に早めのポートフォリオ作品の完成を
イベント終了後、数年ぶりの開催を振り返って主催のデジタルスケープ・世羅氏に話を伺った。
――お疲れ様です。コロナ禍以来のポートフォリオ相談会になりましたが、イベント開催の背景、どんなことを目標していたのか教えてください。
世羅:クリ博では約5年前に同イベントを実施していたのですが、コロナ禍以降実施ができておらず、学生が目の前で企業にポートフォリオを見てもらえる機会が少なくなったと感じていたことから、改めて本企画を実施することとなりました。目標としては、まずは東京で実施をして近隣の学生達に参加をしてもらい、今の時代でもこの企画が有益であるのかを見極めることとしておりました。
――5年振りのリアル開催を終えて、手ごたえはいかがでしょう?
世羅:140名近くの学生にご参加を頂き、大盛況な現場となりました。待ち時間の制限はありますが、学生の皆さんが自身の作品に対するフィードバックを長めにもらえる場にできた、と感じています。
――今回来場していた’26卒学生たちの印象はどうでしたか?
世羅:現場にわざわざ来てくださるような学生さんだけあり、非常に熱量の高い方が集まっていた印象です。帰り際にご挨拶いただける方も多く、運営側としても気持ちよく実施ができたと感じております。
――学校種別や出身など、どういった層の方が来られていたのでしょう?
世羅:学校種別としては、専門学生6割、大学・大学院生4割といった結果でした。遠方から来られた方も多く、中には鹿児島からお越しいただいた方もいらっしゃいましたよ。意欲の高さが伺えます。
――企業側ではどれくらいの人数と面談ができた様子でしたか?
世羅:企業様によりばらつきはあるのですが、各社30~60名くらいの方々とやり取りをされた結果となりました。
――今回のイベントに限らず、今年の就活・新卒採用傾向に関して感じていることなどあれば教えてください。
世羅:今回のポートフォリオ相談会の対象であるデザイナー採用に関して感じていることとしては、学生側の動き始める時期で二極化が広がっている印象を受けます。作品が完成するまでポートフォリオが完成せず、動き始められないという事情があると思うのですが、学生にはなるべくポートフォリオ完成の期日を明確にして動いていくことをオススメしたいです。
どうしても、企業側としては早く応募してくれた学生から選考することになりますので、その時点で採用枠が埋まってしまうことも多い印象です。学生の皆様には、後悔のないように作品制作と企業研究を進めて頂ければ幸いです。
――次回以降の開催予定があれば教えてください。
世羅:26卒での次回開催は検討中ではございますが、ゆくゆくは全国展開をしていきたいと考えております。
――ありがとうございました。
企業側は採用に求められる能力や要件を学生に指し示し、学生側は自身の達成度に対する多角的な評価を経て今後の課題や進路を確認する、というそれぞれの目的を果たしつつ、数年ぶりに開催されたポートフォリオ相談会は幕を閉じた。
TEXT_稲庭 淳
PHOTO_弘田 充