
長野県松本市の風景を元にした、CGによるスナップ写真コンテスト「松本市CGスナップコンテスト」の表彰式が、2025年2月22日(土)開催の「松本市3DCG映像祭」にて行われた。
題材は松本市に関連するものであれば、自然、街の風景、文化財、お店などなんでもOK。CG作品としてのクオリティと、松本市民の心をくすぐる風景かどうかの2点が審査基準となった。
本記事では魅力的な受賞作品の数々と、CGのスペシャリストと松本市総合戦略局DX推進本部長による講評を紹介する。
■作品募集ページ
■松本3DCG映像祭
■作品応募条件・審査基準
3DCGによる静止画
●審査基準
01:CG作品としてのクオリティ
02:松本市民の心をくすぐる風景かどうか
■受賞作品
最優秀賞:薄紅の上高地

長崎悠さん
●使用ツール
Houdini,After Effects,Photoshop
●作品コンセプト
本作は、上高地の風景を通常の色彩から逸脱し、薄紅色で再構築することにより、視覚的認識の再考を促すCGアート作品。 色彩は、知覚において最も即時的でありながら、最も主観的な要素である。本作においては、現実の緑を排除し、薄紅色を介在させることで、鑑賞者の「上高地」という空間に対する記憶や身体的な経験が喚起されることを意図している。 また、本作はランドスケープ・ペインティングの伝統的なリアリズムへの挑戦でもある。本作は「上高地」という具体的な場所を、色の操作によって抽象化し、その形状と地勢が持つ本来の力強さを際立たせる。
●審査員コメント
▼【伊藤より子氏(ビジュアルデザイナー)】
上高地の湖と山の風景が、シュールに表現されています。マジェンタとティールブルーで神秘的な場所が一層シュールな雰囲気を醸し出し、不思議な感覚に引き込まれます。モデリングと配置が非常に丁寧で、手前の林の木々や低い植物に多彩な色が使われて美しさが際立っています。空気感も素晴らしく、神秘性が見事に表現されています。影に緑がかったティールを使うことで、マジェンタが引き立っています。唯一、右側の木が水面に映る際、少し黒っぽく見える点が気になりますが、全体的には非常に完成度の高い作品です。
▼【鈴木卓矢氏(SAFEHOUSE 取締役・背景モデリングSV)】
幻想的な風景で興味をそそられますね。
リアルなCG表現ではあるのでもしかしたらこんな風景が松本市にあるのでは?
と感じてしまうほどよくできていると思います。
心象風景という感じでしょうか?
長野県立美術館にある東山魁夷を思わせるような風景で神秘的な魅力がありました。
その半面松本という部分から少し離れてしまったように思えました。
意欲的な作品ではあるのでどこかに着地点があるともっと身近に感じれるような作品になるのかなと思いました。
▼【秋元純一氏(トランジスタ・スタジオ CGディレクター・取締役副社長)】
言わずと知れた上高地の美しい風景が、CGによって再構築され、まさに桃源郷の如く色彩豊かに表現されていると感じた。最初の印象から引き込まれる様に色彩がレイアウトされており、薄紅色と青空の補色関係もコントラストがあって大変色彩設計が美しいと感じた。樹木や遠景に至るまで丁寧さがあり、非常にディテールも素晴らしい。まさにプロの仕事だと思う。
▼【宮尾穣氏(松本市総合戦略局DX推進本部長 デジタルシティ松本推進機構運営委員長)】
見たことがあるような、ないような、不思議な感覚にさせてもらいました。どんな色だったか思い出す過程で感性が高まり、上高地の美しさを再認識することができました。
優秀賞および松本市賞:2周目

necocafe channelさん
●使用ツール
Blender
●作品コンセプト
レトロな雰囲気と未来的なロボットが交錯するナワテ横丁の夜。ロボットが楽しそうにお店を見て回るシーンを描きました。石畳は特に素敵だと感じていたので一番頑張りました。
●審査員コメント
▼【伊藤より子氏(ビジュアルデザイナー)】
可愛いレトロなおもちゃのキャラクターが、温かい色調と空気感も入れて、おもちゃのようなレトロな街を歩いている様子が上手く描かれています。街の全体の色、赤とメインキャラの緑の補色が美しく調和していますね。一方、左側の赤いキャラクターが赤い暖簾と同じ色と明暗で一体化してしまい、リーダビリティーが低くなってます。そこを工夫して他の色を使ってみるとより良くなるかもしれません。この先も楽しんで、Blenderのスキルを磨いてください!
▼【鈴木卓矢氏(SAFEHOUSE 取締役・背景モデリングSV)】
ナワテ横丁の明月館という焼き肉屋ですね?
未来になっても残っているということは地元の人たちに愛されているのでしょう。
ファンタジーな世界感ですがナワテ横丁のレトロな雰囲気とレトロなロボットが絶妙にマッチしていて雰囲気のある世界観になっています。
技術的にもトイカメラのような表現の仕方がかわいいおもちゃのように見えていいですね。
奥の風景が少し暗いのでもう少し奥の方から明かりが入る様な見せ方にするとにぎわう人気スポットのように見せられると思うのでもっと見る人の心をつかめるのかなと思いました。
▼【秋元純一氏(トランジスタ・スタジオ CGディレクター・取締役副社長)】
ナワテ横丁がスタイライズされて表現されていて、非常に楽しい雰囲気。カメラのレンズのチョイスも秀逸で、レイアウトはまさに箱庭の様。ライトやフォグの使用も効果的で、全体的にまとまった作品に仕上がっていると思う。細かな所だが、こういったミニチュア(意図していれば)の場合、ポリゴンの薄さなどに気を使わないと、途端にその場所からリッチさが抜けてしまう。例えば暖簾にもっと布感を足したり、床などのテクスチャにもう少し立体感をもたせるなど、そういった細かい所にディテールは生きてくると思う。
▼【宮尾穣氏(松本市総合戦略局DX推進本部長 デジタルシティ松本推進機構運営委員長)】
知る人ぞ知るニッチな松本の姿を石畳の小路とともに表現され、夜の松本のディープな空気感も伝わってきました。CGっぽさもむしろわかりやすくていいです。
優秀賞:松に胡桃、白鳥

北野真美さん
●使用ツール
Blender,Substance 3D Designer,Substance 3D Painter, Photoshop
●作品コンセプト
松本市に本店を構える『開運堂』さんの銘菓三種をお茶と共にCGで表現しました。松本の情景が浮かぶ一服の時間をイメージしました。
●審査員コメント
▼【伊藤より子氏(ビジュアルデザイナー)】
美味しそうな和菓子を温かいライトで表現できていますね。和菓子3種とも似たような色合いで明るい色ですが、また載せてある紙の色と同じでここも紙の中に同一化してしまっているのが惜しいですね。紙の明暗を少し変えると和菓子が目立ちより良くなると思います。あんこのロールケーキが少し乾いた感じがするのでもっとそこを工夫するといいですね。
▼【鈴木卓矢氏(SAFEHOUSE 取締役・背景モデリングSV)】
開運堂の銘菓、とてもおいしそうですね。
見ているだけで甘さが伝わるようなリアルさがあります。
それが奥にある抹茶の苦みと相まって甘味のリアリティーを感じます。
餡がぎっしり詰まっていて食べ応えありそうです笑
色味がもう少しあった方が作品としての見栄えが良くなるのではないでしょうか?
なので「白鳥の湖」ではなく「これはうまい」の方にしてあげるともう少し色情報が増えるので見栄えが良くなるかなと思います。
▼【秋元純一氏(トランジスタ・スタジオ CGディレクター・取締役副社長)】
非常にハイクオリティに仕上がっていると思う。ライティングも素晴らしく、昼下がりの柔らかな光が非常に雰囲気があって良いと思う。テクスチャなどのディテールもよくできていて、納得の質感。大きな所では、こういった侘び寂びが欲しいモチーフを選んでいるにもかかわらず、レイアウトで物を画面に詰めすぎていて余白が少ないのが勿体ない。もっと大胆に空間を開けてあげることで、更に高級感を演出できると思う。また、細かい所だが、お菓子の断面のテクスチャや、手前の畳のテクスチャなどはもう少し詰められると、隙のない作品に仕上がると思う。
▼【宮尾穣氏(松本市総合戦略局DX推進本部長 デジタルシティ松本推進機構運営委員長)】
松本土産として必ず候補にあがる開運堂さんのお菓子。おいしそうです。
特別賞:北アルプスを飛ぶFDA

中沢柊葉 / Aspergillus Artさん
●使用ツール
Blender
●作品コンセプト
子供の頃から松本空港のFDAが大好きで、去年の夏休みにFDAで福岡へ向かう時に松本空港上空で撮影した山々の写真と自分で作ったFDAの3Dモデルを合わせて作りました。
●審査員コメント
▼【伊藤より子氏(ビジュアルデザイナー)】
さすがFDAの飛行機ファンならではの美しい飛行機のモデリングとライティングの仕上がりですね。特に飛行機の母体の光の反射デザインが上手です。自分で撮影したと言うナイスショットの山々の写真とも見事に融合しています。遠くに広がる青い高山と、それを背景にしたマジェンタの飛行機が美しく映し出され、デザインが一体感を持っています。写真の中に飛行機をめいいっぱい大きく取り入れた画面デザインに、生き生きと飛ぶFDAを表す努力をしたことが伺えます。全体的に非常に魅力的な作品に仕上がっています。
▼【宮尾穣氏(松本市総合戦略局DX推進本部長 デジタルシティ松本推進機構運営委員長)】
「日本の空港の中で一番美しいともいえる松本空港(FDA曰く)」を、美しさと難易度の象徴である北アルプスとともに端的に表現されていました。欲を言えば往年の松本市観光大使4号機の姿・カラー(グリーン)で見たかったです。
■惜しくも受賞を逃した作品も一部ご紹介
思い出の雨上がりの街

そらまめさん
●使用ツール
Blender,Photoshop
●作品コンセプト
なわて通りや信州の美味しい食べ物、街の風景を参考に、 昔住んでいた松本の街並みをイメージして制作した1枚です。 レトロな建築物や美しい山々、街中の賑やかさが混ざり合った夏の松本は どこか懐かしさを感じるような暖かい街で、 そんな雰囲気を見てくださる方に伝えられたら嬉しいなと思い制作しました。
●審査員コメント
▼【伊藤より子氏(ビジュアルデザイナー)】
夏の街中の清々しく雨上がりの松本の街の風景を青い空と入道雲、スイカなどで懐かしい雰囲気をうまく引き出しています。アニメの背景のような表現が意図されているのが伝わります。細かい点として、入道雲の影の青が空の色と同化しているので、透けて見えるか、穴が空いているように見えて残念です。もう少し白い雲として形を強調すると良いかもしれません。また、奥のビルディングの緑の屋根が、電柱、手前のランプと全て重なってしまい、リーダビリティーが低くなっています。その部分を調整したほうがいいですね。遠くのバスも道の色と溶け込んでしまっているので、バスの下辺りの道路に空をもう少し反射させるといいかも。全体的に、すっきりとしたきれいな絵に仕上がっていますが、雨上がりを感じさせるために、屋根にもう少し濡れた感じを加えると、さらに雰囲気が出ると思います。
▼【鈴木卓矢氏(SAFEHOUSE 取締役・背景モデリングSV)】
高地特有の澄んだ空気の表現がよくできていると思います。
ぶどう、すいか、ももとあるので時期的には8月下旬~9月上旬でしょうか?
打ち水された通りが昭和を思わせるようなノスタルジックな雰囲気がタイムスリップしたような感じに見えます。
その反面、今でもなつかしさが残っているような現在の風景のようにも見えて一度訪れてみたいと思わせてくれます。
作品コンセプトがそのまま伝わりました。
地面以外が同じ質感で描かれてしまっているのでもう少し質感の情報量が増えると映えるとおもいます。
▼【宮尾穣氏(松本市総合戦略局DX推進本部長 デジタルシティ松本推進機構運営委員長)】
松本らしい青空、下原スイカ、山賊焼き、縄手通りのカエルなど、松本のいいところがたくさん散りばめられています。晴れの日が多い天気の良さや夏のさわやかな暑さを、雨上がりの清々しい映像表現でとても美しく伝えてくれていると感じました。
かっぱ日和

やまざきひかるさん
●使用ツール
Blender,Photoshop
●作品コンセプト
おじいちゃんとカッパたちが上高地の清流で涼んでいる風景をイメージして作りました。大自然を前に食べる岩魚の塩焼きは最高です。上高地へ遊びに行かれる際は、ぜひカッパたちが木陰で涼んでいないか探してみてください!
●審査員コメント
▼【鈴木卓矢氏(SAFEHOUSE 取締役・背景モデリングSV)】
今回の作品の中で一番雰囲気があるなと思いました。
CGの技術的な部分はまだまだ改善の余地があると思いますが、
この上高地の清流の涼し気な感じ、カッパも出てきそうな神秘的な風景、
自然と人とのつながりを感じるような雰囲気が出ていて良いと思いました。
作品にストーリー性もあり涼しげな風景の中に温かみを感じます。
ただ少し涼しすぎる感じもあるので、もう少し木漏れ日をはっきり描き明るい部分を作ってあげるともっと涼しい表現ができるかなと思いました。
▼【宮尾穣氏(松本市総合戦略局DX推進本部長 デジタルシティ松本推進機構運営委員長)】
絵本のワンシーンみたい。ストーリー性が高いです。
AgataForest_Break room

KeNtOさん
●使用ツール
Blender、Substance 3D Painter、After Effects
●作品コンセプト
旧松本高等学校跡地で現在は公共施設として利用されているあがたの森の校長室をベースに松本家具や松本てまりなどの工芸品をあしらった休憩室をイメージして制作をしました。
●審査員コメント
▼【宮尾穣氏(松本市総合戦略局DX推進本部長 デジタルシティ松本推進機構運営委員長)】
松本市が誇る工芸品にスポットライトをあて、「工芸のまち松本」とともに「学都松本」を表現してくれていると感じました。このような落ち着いたオトナの社交場が実際にあるといいなと思いました。
■審査員紹介・総評

伊藤より子氏
ビジュアルデザイナー
www.school.yorikoito.com
【総評】
それぞれの長野県の思い入れを表現した作品が揃い、作品のコンセプトを読みながら楽しく講評させて頂きました。自分も長野県には訪れたことがあり、自然や街を身近に感じながら拝見できて楽しかったです。ブレンダーでの作品が多かったですね。そしてまだ3Dの初心者の方も多く、これから自分の好きな題材を選んでドンドンチャレンジしてほしいですね。

鈴木卓矢氏
SAFEHOUSE
取締役・背景モデリングSV
safehouse.co.jp
【総評】
皆さんの松本愛の詰まった作品を拝見させていただきました。
それぞれが違った視点の松本市のPRというか「推しポイント」があり僕の知らない松本市を知れました。
今回、僕の審査基準としてCGの技術的なポイントもそうですが「作品を通して松本市に行きたくなるかどうか」という基準も盛り込ませていただきました。
松本城や自然風景も素敵だったのですが、あまり知られていない松本市の魅力が伝わるような作品に点を入れさせていただきました。
松本市に行った際はぜひ足を運んでみたい場所がこのコンテストを通して増えました。
今後もっともっとこういったイベントが増えてCGを通して皆さんの地元愛を多くの人に伝えられると素敵だなと思います。

秋元純一氏
トランジスタ・スタジオ
CGディレクター・取締役副社長
www.transistorstudio.co.jp
【総評】
テーマが土地にあるコンテストという事もあって、作品の意図が全体的にまとまっており、非常に楽しんで見させてもらった。ファンタジーなものから写実的なもの、コメディなものまで大変バラエティに富んでおり、選ぶのが難しいと感じた。私も長野松本は何度も足を運んでおり、特に中心にその居を構える松本城は、日本でも屈指の城郭で、中でも広い堀にそびえる天守閣は、まさに松本を象徴するものと言えよう。今回のコンテストでも、当然に天守閣をモチーフにしている作品もあり、それぞれ個性があって非常に面白いと感じた。ただ、城郭ファンの一人としては、せっかく大量のリファレンスが存在するモチーフなので、どうしてもリアリティを追求して欲しいと思う。松本には歴史や自然が色濃く残り、モチーフに事欠かない。新しいものと古きものとのコントラストなど、効果的に取り入れた作品なども、欲を言えば見たいと感じた。こうした地方にフォーカスしたコンテストは、普段近くに居ない人間からの視線を集める為にもってこいだと思うし、我々アーティストやデザイナーは、マインドフルネスの一環として、そうした普段の視線からあえて逸脱する事も重要な事なのだと思う。

宮尾穣氏
松本市総合戦略局DX推進本部長
デジタルシティ松本推進機構運営委員長
【総評】
「松本」をテーマに、プロから生徒さんまで幅広い属性の方にご応募いただきありがとうございました。
それぞれ、様々な松本の魅力をそれぞれの視点で切り取り、豊かな発想でアレンジして表現されていました。
これって写真?映画のワンシーン?と錯覚するほどの出来栄えに驚いています。まるで現実に「そこにある」姿のように感じました。
3DCGの魅力を改めて知ることができました。
EDIT_遠藤佳乃 / Kano Endou(CGWORLD)