専門学校への講師派遣で補助金が倍に!?岡山市がデジタルコンテンツ企業を誘致する理由とは?
近年、大都市に集中していたCG・ゲーム・映像制作などのデジタルコンテンツ分野の企業のうち複数の企業が、都市部の地価・物価の上昇や、働き方の多様化、リモートワークの定着など様々な理由から、地方へとその軸足を移しつつある。一方、地方の各自治体も、今後大きな成長が期待される分野であるデジタルコンテンツ企業の集積による地域経済の活性化や、就職を理由に若年層が都市部へ流出していくことを食い止めることを目的とした企業誘致を進めるための様々な施策をおこなっている。
岡山市は、進出企業に対する手厚い補助金に加え、企業が専門学校へ講師の派遣をおこなうと、補助金の限度額が2倍になるというユニークな制度を設け、地方進出を検討している企業にアプローチしている。しかしながら企業側の立場としては「岡山市に進出したとして、都市部と同様に優れた人材を確保できるのだろうか」という疑問もあるだろう。
そこで本記事では、企業誘致を担当する岡山市職員と、岡山市内の専門学校である中国デザイン専門学校、専門学校 岡山情報ビジネス学院の2校の講師へのインタビューを通じ、岡山市の企業誘致の目的と現状、そしてデジタルコンテンツ業界を目指す学生たちを育成する教育現場の実情を紹介する。
講師派遣で補助金の上限額や補助率が2倍に
――よろしくお願いいたします。本日は、岡山市が注力している、デジタルコンテンツ分野の企業誘致について、岡山市産業振興課 企業立地推進係の皆様にお話を伺います。まずは岡山市がなぜこのような取り組みを始めたのか、その理由からお聞かせください。
天野洋介氏(以下、天野):岡山市はデジタルコンテンツ企業の誘致に注力するために、令和2年度から補助制度を設け、令和3年度からは専門学校との連携事業を開始しています。その背景には、どの地方都市でも抱えている、若い人材の流出という問題があります。岡山市には、CGやデザインを学べる専門学校が充実していますが、その一方で、CGスタジオなどの就職の受け皿がほぼないため、地元で就職したいという学生の思いに応えられず、人材が県外へ流出してしまうという課題がありました。以前から専門学校の方からも「岡山にいたいという学生はいるけれど、就職先がない」という声があったのですが、コロナ禍を経て、学生さんも親御さんも就職に対する意識が変わり、地元就職への要望はさらに高まっているようです。
天野:しかし前述のとおり、岡山市にはデジタルコンテンツ企業がほとんど無いという現状にあります。そのため、我々行政が企業誘致を進めていくことで、企業側は優秀な人材を確保でき、学生は地元で就職できるという、「三方よし」の関係を築きたいと考えています。
――補助金制度を使って岡山に進出した企業について、具体的に教えてください。
天野:例えば、ゲームや遊技機の映像制作などを手がけているアティック様は、令和7年4月に岡山市に事業所を開設されたので、現在で進出からちょうど1年くらいですね。アティック様には岡山市への進出前に専門学校で講師をしていただいたのですが、その際に熱意のある学生が多いことを高く評価していただきました。それが進出の決め手の1つになったと伺っています。
――進出前から、専門学校への講師派遣を通じて岡山とのコネクションがつくられていたのですね。岡山市では「専門学校へ講師を派遣すると補助金が最大2倍になる」という制度があるとも伺いましたが、その点についても詳しく教えてください。
西村慶哉氏(以下、西村):まず、県外の企業様が専門学校へ講師を派遣してくださる場合、交通費や宿泊費、謝礼金を岡山市が学校を通じて補助します。この制度によって、企業様には実質負担なく学校とのコネクションを作り、地域の学生の能力を直接見ていただくことができます。
西村:この講師派遣を行なっていただいた企業様が岡山市内に事業所を開設される場合、進出時の補助金限度額が「2倍」になります。具体的には、設備補助費の補助上限が通常500万円のところ、最大1000万円になります。また、オフィスの賃料補助も補助率負担割合が1/4から1/2へ、限度額は年間300万円から600万円に倍増し、これが3年間適用されるので、トータルで限度額が最大1800万円まで拡大されます。
――補助金を活用することで、進出のための初期コストが大きく抑えられるのは、企業にとって非常に魅力的ですね。補助金交付のための要件はどういったものなのでしょうか?
西村:補助金の交付要件として、基本は新規常用雇用者が5人以上となっています。事業所がオープンしてから1年半の間にこの人数を満たせば、補助金の交付申請が可能です。また、県外に本社があり、岡山市に初めて事業所を設置する場合は3人以上からでも対象となり、スモールスタートを切りやすい制度設計となっております。ただし、その場合は少し補助の限度額が下がります。
――補助金以外で、進出される企業に対してのサポートはありますか?
西村:専門学校との連携事業をやっています。具体的には、企業様の情報を学校に紹介し、オンライン面談の日程調整、面談への同席を行なっています。そこから実際に学校訪問のアテンドや講師派遣の実施に向けた調整をさせていただきます。こうした取組みを通じて、学校との関係作りを全力でサポートさせていただいています。
岡山市の連携教育機関
・岡山情報ITクリエイター専門学校
・専門学校岡山情報ビジネス学院
・専門学校岡山ビジネスカレッジ
・中国デザイン専門学校
・岡山科学技術専門学校
・岡山商科大学専門学校
西村:また、オフィス探しのサポートも行なっています。どのエリアにどんなオフィスが空いているのかという空室情報も定期的に管理・更新をしていて、物件情報や不動産業者の紹介、内見の同行までお手伝いさせていただいています。
――最後に、市外の方に向けて、岡山市の生活環境や魅力について教えてください。
赤木咲耶氏(以下、赤木):雨や雪が少なく、気候も安定していて「晴れの国」と呼ばれています。地震もほとんど起こらず、安全快適な暮らしができる地域です。
交通の利便性がとても良いことも魅力ポイントです。中四国地方の交通の拠点となっており、新幹線も全便停車するため、大阪や東京、九州方面へのアクセスも抜群です。大阪や広島から通勤で岡山市に来ている人も多いです。
天野:岡山市はコンパクトな街ですので、移動が簡単で、買い物も便利ですし、また物価や家賃も東京に比べると安く、生活で不便を感じることはありません。
それに岡山城や岡山後楽園、桃太郎伝説の遺跡など、魅力的な文化遺産も数多くあります。
また、岡山市はもともと待機児童が全国で2番目に多い市だったんですが、ここ10年でゼロにまで改善されていますので、子供さんがいる家庭、共働きの家庭であっても移住しやすいと思います。暮らしやすく魅力的な街ですので、企業・クリエイターの皆様は、ぜひ岡山への進出をご検討ください。
岡山市の3DCGの教育・就職事情は?地元専門学校にインタビュー
【中国デザイン専門学校】
――本日は、岡山市のデジタルコンテンツ企業誘致の流れを受け、岡山市と連携されている教育機関として、中国デザイン専門学校様にお話を伺います。まずは自己紹介をお願いいたします。
宮脇成也(以下、宮脇):ビジュアルデザイン科という3年制の学科で教員をしております、宮脇です。1年生の基礎授業や、2年生のイラストレーションやグラフィックデザイン、DPTの授業を主に担当しています。
学校法人第一平田学園中国デザイン専門学校
ビジュアルデザイン科
キャリア・サポーター
宮脇成也氏
――宮脇先生が担当されている、ビジュアルデザイン科の人数やカリキュラムについて教えてください。
宮脇:ビジュアルデザイン科の全体人数は、1年生から3年生まで合わせて約90名ほどです。
1年次にはデッサン、クロッキー、色彩構成、レタリングなどの基礎を固めます。さらにデザイン概論、コンセプト基礎、それから提案技術といった、つくるだけではなく他者に伝えるための考え方も学んでいきます。
2年生になると「ビジュアルデザイン専攻」「イラストレーション専攻」「キャラクターデザイン専攻」「アニメ・マンガ専攻」という4つの専攻に分かれ、学生がそれぞれの適性や職業イメージに合わせて選択します。2年生から3年生では専攻は変えられないので、2年生に進級してから2年間は自分が選んだ専攻で学んでもらい、卒業していきます。
――デジタルツールについては、どのようなカリキュラムが設定されていますか?
宮脇:1年次から、IllustratorやPhotoshop、2年次から、Live2Dなどについて学ぶ授業があります。また3Dに関しては、BlenderやZblushの授業があります。そういったスキルを身に付けながら、2年次のうちから就活のためのポートフォリオに載せる作品をつくっていきます。
――学校として、学生の就職支援の取り組みなどはされているのでしょうか?
宮脇:2年生の夏に、学生には自作のポートフォリオと履歴書を携えて、企業へインターンシップに行ってもらうことになっています。また同じく2年生の11月には、中国デザイン専門学校の頭文字のCと、カンパニー、地域コミュニティの頭文字のCを取って、CtoCと呼んでいる、学生と企業様との交流会も設けています。
――それぞれの専攻を卒業した生徒の進路を教えてください。
宮脇:ビジュアルデザイン専攻の学生は、広告や出版、web業界に進んで行く子が多いです。一方で他の専攻に関しては、今回、岡山市さんに協力いただいている県外企業誘致にも繋がってくる話なんですが、これまで地元にはデジタルコンテンツ関係の企業がほとんどなかったんです。
過去の成功事例として、東京や大阪の企業に就職できた生徒もいたのですが、多くの生徒は自分の望んでいた職業に就けませんでした。DPTオペレーターとして就職したり、イラストは趣味として、イラストやデザインとは関係のない一般企業に就職していくといった生徒が多かったですね。
――地元で就職したいけれど、志望する系統の企業がないからできない、というお話は様々な地方でうかがっています。そんな中で、岡山市が企業誘致の活動に取り組み、御校とも連携を始めたことで、就職状況に変化はありましたか?
宮脇:はい、最近では、例えば近年岡山に進出されたアティック様とは親しくさせていただいていて、卒業生が2名お世話になっています。また、岡山市に紹介していただいたテラエフェクト様をはじめとする企業様をお招きして、講座を開くなど、次第にデジタルコンテンツ系の企業様との繋がりが強化されています。また、そういった講座開設時の金銭的なサポートを、岡山市さんの補助金で補うことができているのもありがたいです。
――岡山市との連携が、いい結果に結び付いているのですね。これからも岡山市と連携して様々な企業と繋がっていかれるのだと思います。そこで最後に、岡山に進出した企業、またこれから進出を検討している企業に向けて、改めて、中国デザイン専門学校の生徒はここが優秀だ、というアピールポイントを教えてください。
宮脇:本校の特徴として、デジタルツールの前に、まず美術としての基礎を1年間しっかり学んでもらうカリキュラムが設けてあるという点があります。先述のテラエフェクト様からも、デッサンなどのアナログスキルを授業に取り入れていることを、高く評価していただきました。
――確かにデジタルスキルも重要ですが、その土台となるアナログスキルの力がないと困るということは、様々な企業様の求人担当の方も仰っています。
宮脇:岡山市へ進出を検討されている企業様方には、これまで岡山にデジタルコンテンツ系の企業がなかったことで、県外へと就職したり、非クリエイティブの分野へ就職せざるを得なかった優秀な若者たちの才能の受け皿になっていただけることを期待しています。
【専門学校 岡山情報ビジネス学院】
――岡山市のコンテンツ企業誘致の流れを受け、岡山市と連携されている教育機関として、専門学校 岡山情報ビジネス学院様にお話を伺います。まずは自己紹介をお願い致します。
鈴置勝信(以下、鈴置):本校でCGデザイン学科を担当しています、鈴置勝信です。
学校法人三友学園専門学校岡山情報ビジネス学院 教育部 スペシャリスト 教務二課 CGデザイン学科 教師
鈴置勝信氏
――まずは岡山情報ビジネス学院のカリキュラムの全体像や学科の構成について教えてください。
鈴置:本校は校名にもあるとおり、情報ビジネス系の学校が母体です。二十数年前にグラフィックデザインの学科ができて、そこからの派生で様々なデジタル系の学科・コースが設けられていきました。現在は「ビジュアルデザイン学科」の中に「イラスト・アニメーションコース」「映像・動画コース」「Web・グラフィックコース」が、「ゲーム・VRクリエイター学科」の中に「3DCGデザイナーコース」と「プログラマーコース」が設けられています。
――コースそれぞれの在籍人数を教えてください。
鈴置:「ビジュアルデザイン学科」には約60名、「ゲーム・VRクリエイター学科」には約50名が在籍しています。
――ビジュアルデザイン学科の授業内容や、教育の上で重視しているポイントについて教えてください。
鈴置:カリキュラムの長さは全部で3年間なんですが、そのうち2年間はデッサンをやり続けます。美術的な基礎が全くない状態で入学してくる学生も多いので、ゼロから教えるようにしています。それに、3DCGクリエイターにとってのデッサンとは、質感を見る能力を身に付けるための基礎でもあります。
学生には、「絵が上手くなるためのデッサンではないんだよ」という話を最初にします。例えば同じキューブでも、素材が石膏か木かで見え方は違いますし、触った時の質感もツルツルとザラザラでは違う、光が当たればどういうツヤが出るかも違う、そういった対象の質感を的確に見るための観察眼を養います。
――まずはデッサンを通じて、CG制作に必要な観察眼を養っているのですね。
鈴置:今の学生は、質感を再現するときに、ネット上で資料を見つけてくることが多いです。それはもちろんいいんですが、できたら実物を触って欲しいと考えています。例えば車が走るサーキットをつくる時に、「アスファルトを触ったことがある?」と聞いてみたら、大体の生徒が「ない」と答えます。だから外に出て実際に地面を触らせてみたり、次は「アスファルトが濡れたらどう見える?」と言って、濡れたところを観察させたり……。
質感のことだけではなく、ジャンプするモーションをつくる時は、実際に生徒をジャンプさせてみて、その様子を動画で撮って、スローで見てみて、想像していた動きと実際の動きの違いを比べさせたりもします。そうやって実際に見たり、触ったり、臭いを嗅いだり、現場に行って直接感じた情報が大切だと教えています。自分の中のデータバンクが狭いと生み出されるものも少ないですから。
1年生の間はそうやって観察眼を磨いたり、デザインの基礎を身に付けたり、IllustratorやPhotoshopといったツールの使い方を学んだりしていきます。
――実際に作品づくりをするのはいつからでしょうか?
鈴置:1年生の間は、基本的に明確なゴールのある課題に取り組んでもらうことになっていて、6~7月あたりに、イルカやクジラのような、継ぎ目のない、押し出しだけでつくれる海洋生物をつくってもらいます。夏休み明けには、2年生の先輩たちと合同制作に取り組んでもらいます。
――1年生の間に、簡単な作品をつくりながら基礎を固めるということですね。では2年生からはどんなカリキュラムになっていくのでしょうか?
鈴置:2年生からは徐々に仮想クライアントの要求などを入れながら、期限もしっかり設定して、実際の現場に近い感覚で課題に取り組んでもらいます。
――在学中から実務に近い環境で制作をするのですね。
鈴置:それどころか、2年生の後半くらいになると、実際に外部の団体や企業から依頼をいただくこともあります。例えば現在3年生が取り組んでいるのは、地元岡山の遊園地のクリスマスイベントへのビジュアル面でのアイデア提供や、Bリーグチームのアリーナビジョンに流れる映像制作です。
それから、1年生が2年生に、2年生が3年生になる春休みの間につくったものを発表する、進級制作展というイベントもあります。その進級制作で、ある学生はMayaとBlenderを組み合わせて活用し、映画『スター・ウォーズ』のミレニアム・ファルコンが飛ぶハイクオリティなCG動画を制作しました。その学生はリアル志向の作品を手がけられているIDENCEさんへインターンシップに行っていたので、そこでもいい影響を受けたのだと思います。
――3年間を通じて、学校の内外で成長するためのカリキュラムが組まれているのですね。では、就職について伺います。学生さんたちが、地元である岡山県内への就職を希望する割合はどれくらいですか?
鈴置:最初はクラスの6割くらいが県内を希望していました。しかし現実として、岡山県内でCG制作を専業としている企業は現時点でアティックさんなど2社くらいしかないです。その2社にインターンに行かせていただいてもいるのですが、毎年求人があるわけでもないですし、求人があっても希望者全員が就職できる枠はありません。結局、関西までエリアを広げてみたり、いっそ東京を目指してみたり……という流れになってしまいます。
――他に、地方ならではの就職事情があれば、お聞かせください。
鈴置:インターン先も岡山では限られているので、東京、大阪などの企業に受け入れていただくことになるのですが、やはり交通費や滞在費がそれぞれの家庭への負担となってきます。また企業側としても、機密情報があったり、受け入れスペースがなかったりといった理由でインターンの受け入れは簡単ではないようです。直近の2月のインターンシップでも、夏頃から120社ほど当たって、インターンの許可をしていただけたのは20社に留まりました。
――就職先が少ないだけでなく、それ以前のインターン先も限られていて、仮に決まったとしても遠距離の企業だと経済的な負担が大きいのですね。
鈴置:そういった状況がありますので、岡山市へデジタルコンテンツ関連の企業が進出していただければ、とてもありがたいです。
――岡山市が始めた、企業が地元の学校と連携して講座を開くことで、企業への補助金の上限が拡大される制度についてはどう捉えていますか?
鈴置:本当に素晴らしいと思います。冒頭でも申し上げましたが、本校は情報ビジネス系の学校が母体となっていますので、プログラマーコースの講師陣は充実しているのですが、一方で、CG・デザインの講師となると、地方ということもあって確保に苦労しています。ですので「企業が学校と連携して講座を開けば補助金の上限が倍になる」という制度は、企業にとっても、我々専門学校にとっても、そして学生にとっても、関わる全員にメリットのある制度だと思います。
――補助金制度を活用することで企業の岡山進出が促進され、同時に教育の質が向上し、企業、学校、生徒が結び付き、地元企業が優秀な学生を採用していく、そんな人材の循環が岡山に生まれれば最高ですね。では最後に改めて、岡山進出を検討されている企業に向けて、岡山情報ビジネス学院の学生の優れているところをPRしていただけますか。
鈴置:「学びを続けないとクリエイターは廃業だよ」と、学生達が1年生の頃からずっと言い続けていますので、彼らはそういったスピリットを身に付けていると思います。本校の学生たちは新しい情報を入れ続け、学び続けることができると思っています。企業の皆様は、ぜひ岡山に進出して、本校の学生たちに向き合っていただければと思います。
TEXT_オムライス駆
PHOTO_大沼洋平
EDIT_中川裕介(CGWORLD)