公開ボタンを押し、URLをコピーしてDiscordに貼るだけ。参加者は次の瞬間、各自のブラウザから同じ3D空間に入っていた……ホスティングの設定もファイル書き出しの待ち時間も不要、ノーコードで3D空間を作成でき、その場で公開・共有まで完結するブラウザベースのエディター「Unity Studio」を、Unity歴9年目のXRエンジニア・ごんびぃー(福田陸弥)氏が実際に操作し、その使い勝手を確かめた。
このセッションは、毎月開催のXRコミュニティイベント「XR開発者集会」にて、実施。チュートリアルから公式テンプレートまで、Unity Editor経験者の目線でどこまでスムーズに使えるかを検証する内容となった。
プロフィール
ごんびぃー(福田陸弥)氏
株式会社GONBEEE-project代表
株式会社KDDIテクノロジー所属
帝京大学冲永総合研究所Innovation Lab 非常勤講師
#XR開発者集会 in VRChat 主催
X:@GONBEEE_project
イベント概要
【イベント名】
XR開発者集会 @ VRChat会場
【開催日】
5月29日(金)
【場所】
VRChat
【参加費】
無料
【対象】
XRに興味のある方は誰でも
ブラウザで動く「Unity Studio」とは何か
セッションはまずUnity Studioそのものの説明から始まった。Unity Studioはコーディングや専門知識を必要とせず、インタラクティブな3Dアプリケーションの作成から共有までを行えるWebベースのエディターだ。C#を書く必要はなく、プリセットされたロジックやノードベースのプログラミング言語を使ってアニメーションやシミュレーションを実行できる。スクリプトに触れずに完結できるシステムとなっている。
「C#を書いたことはないけど、Unityエディターだけは熟知している、VRChatにしばしばいるタイプの特殊なスキルツリーの人にはぴったりだと思います。そんな人がこれを触ると化けるんじゃないでしょうか」(ごんびぃー氏)
「今後、産業領域に進出したい人はぜひ一緒にやってみましょう」とごんびぃー氏は呼びかけ、本編へと入っていった。空のドラフトを選び、シーン名とその保存先となるプロジェクトを指定して作成すると、早速作業するシーンファイルが立ち上がる。
インターフェースはシンプルだ。プロジェクトエクスプローラー、プロジェクトビュー、インスペクター、ヒエラルキービューなど、Unityユーザーには馴染みのある要素や構成が並ぶ。素材の追加を行う「Add Asset」ボタンの周りなど多少特有の部分はあるものの、Unityユーザーなら手を付けやすいつくりであるという。
右クリック長押しでシーンを見渡し、右クリック+WASDで空間を飛び回れる。すべてのドラフトには、あらかじめカメラ、ライト、UIキャンバス、そしてアニメーションディレクターが含まれている。アニメーションディレクターを選択するだけで即座にアニメーション編集モードに入れるのが通常のUnityとは異なるUXだが、その操作も極めて簡潔だ。
ごんびぃー氏がチュートリアルとして、配置したバレル(樽)を選択し、アニメーションディレクターからタイムライン上で樽のマテリアルカラーを変更すると、それがそのままキーフレームになった。白い樽から4秒かけて青い樽へと変化するアニメーションが、わずか数クリックで完成した。「同じことをUnityでやろうとすると、アニメーションコントローラーをつくって、アニメーションクリップをつくって、コントローラーにアタッチして、キーフレームを打ってパラメーターを打って……という作業が必要なのを考えると、これだけの操作でアニメーションがつくれてしまうのはかなり便利ですね」(ごんびぃー氏)
再生したアニメーションが停止しなくなるというハプニングもあったが、画面をリロードすることで解決。Unity Studioが編集内容を逐一自動保存していたため、リロードに伴う作業の巻き戻しも起こらなかった。「VRChatのアバター制作中に停電してプロジェクトが吹っ飛んだ、なんて話をよく聞きますが、これだけ逐一の自動保存がされるとそうした問題も解消しそうでいいですね」(ごんびぃー氏)
続くUI編集モードのチュートリアルでも操作感は一貫している。UI CANVASを選べばUI編集モードに入り、ボタンをドラッグで配置。オンクリックイベントを設定し、アニメーションディレクターの再生を割り当てると、プレイテストでボタンクリックからアニメーションが再生されるのが確認された。
そして最大の見せ場が「Publish」だ。その場でごんびぃー氏がドラフトを公開してリンクをコピーし、Discordサーバーに貼り付けると参加者たちが即座に各自のブラウザからアクセスできた。ホスティング不要、一瞬で共有が完結する。これにはごんびぃー氏も驚きを隠せない様子だった。「すごい……こんな場で言うのもなんですが、正直、Unity Studioをナメてたかもしれないです(笑)。これは、すごいです!」(ごんびぃー氏)
公式テンプレートで遊ぶ――新機能スカイボックスと、車を走らせるまで
チュートリアルを終え、一行は用意された公式テンプレートへ。いずれも完成度の高いサンプルが並ぶ中からごんびぃー氏はCar Reviewを選択。
テンプレートひとつで本格的な車のサンプルシーンが立ち上がる。ドアのインタラクト ポイントをクリックすればドアが開き、運転席に乗り込むことまでできた。ヒエラルキーの階層構造も通常のUnityと同じで、ごんびぃー氏は「右クリックとWASDで何ら違和感なく飛び回れる。Unity9年生からすると大変馴染むいい環境です。」と語る。
ドアの開閉は「Interest Point」と名前がついたインタラクト用ポイントと、回転アニメーションの組み合わせで実現されている。
これはVRChatユーザーのよく知るExpression Menuで衣装を着替えさせる仕組み*とほぼ同じつくりとあり、「VRChatの皆さんは今すぐUnity Studioを始めたほうがいい」とごんびぃー氏は熱を込めた。
(*注:VRChat内で衣装を着替えるには、オブジェクトの表示・非表示を切り替えるアニメーションを別途用意しておいて、そのアニメーションを実行するかたちでアバターの状態を変更するという仕組みになっている)
その後、機能紹介は約1か月前に追加されたばかりのスカイボックスに関わるものへ。シーンセッティングから9種のプリセットを選ぶだけで、外空間のシーンを簡単に構築し、フォトリアルな画をつくることができる。車体への映り込みや太陽光のカラーティントが一変し、ごんびぃー氏は「Webベースとは思えないほど綺麗」と何度も驚嘆した。
テンプレートから一部を差し替えることも簡単で、エディターから数クリックでアセットのトラックを設置することができた。3Dモデルに埋め込まれて編集できないマテリアルも、「Edit Material」ボタンで自動的にエクスポート&再アタッチし、間もなくラフネスやメタリックの調整もできるようになった。
ハイライトは、車を実際に走らせるまでの実演だ。まず車を前方へ移動させるアニメーションを作成。車体にAdd Componentでアニメーションを与え、当たり判定用のボックスコライダーを設定する。間もなく、クリックに応じて車が走り出した。
「こんなに簡単な操作で動き始めることに感動しますね。子供の頃に初めて書いたC言語が思い通りに動いたときと同じ感動があります。」(ごんびぃー氏)
物理演算、外部モデル、そしてUnity Editorへ――広がるUnity Studioの射程
最後に、Distribution Center(物流センター)テンプレートも検証。
こちらでは、フォークリフト型ロボットをWASDで操作し、自由に動かすことができる。ロボットの駆動やオブジェクト同士の衝突には、Rigidbodyを用いた物理挙動が使われており、対象オブジェクトにPhysics系のコンポーネントを付与することで、物理演算の対象として扱える。4つの定点カメラ切り替えや、UIキャンバスによるテキスト連動も用意されており、「これをブラウザでやれているのがすごい」(ごんびぃー氏)という驚きにつながっていた。
外部素材の取り込みも強力だ。GLB, FBX, OBJ はもちろん、例えばUSDZ などのその他のフォーマットに対しても、多くの場合Asset Managerで変換されて使用することができる。画像はJPEG/PNGなどを受け付ける。ごんびぃー氏は自宅を3Dスキャンしたという25MBのOBJファイルをその場でアップロード。
テクスチャ参照が渡らず白塗りにはなったものの、ほどなく家のモデルがブラウザ上に出現した。「家のデータはVRChatにもワールドとしてアップロードしてるんですが、それよりもアップが手軽ですね。もうちょっといじれば僕の家の中をフォークリフトで走り回るアプリも手軽につくれちゃう」(ごんびぃー氏)
また、現状のUnity StudioではWebアプリしかつくることはできないが、Unity Studioからプロジェクトをエクスポートすればそこから先はUnity Editorで編集を行うことができる。VR化したり、VRChat SDKを入れることも可能だ。Unity Studioでさっとプロトタイプをつくり、続きはUnity Editorで……といったフローでの制作も可能であり、ごんびぃー氏も期待を示していた。
ごんびぃー氏はUnity Studioについて「C#を書けないけどUnity Editorは熟知している方が産業領域に参入するにはめちゃくちゃちょうどいいツールなんじゃないか」と説明した。
「こういった方たちの産業領域への参入を後押しできれば、すごい産業革命が起こるんじゃないかとずっと思っていて。XR開発者集会も、もともとVR業界のエンジニアとVRChatの人たちをつなぐのが目的でした。Unity Studioは、そのシルバーバレットになりそうな予感がします。」(ごんびぃー氏)
また、実演を通じてごんびぃー氏自身も「Unity Studioへの理解が急激に進みました。言語化さえできれば誰でも入門でき、Unity Editorの素養があればすんなり馴染めるツールだと思います」と手応えを語った。
今後のUnity Studioの展開に期待を残しつつ、約1時間半のセッションは幕を閉じた。
TEXT_稲庭淳
EDIT_中川裕介(CGWORLD)