「キャリアの転機は採算度外視の全力投球」 インディーアニメ作家3名に聞く、 キャリアの作り方と高知アニメクリエイターアワードのススメ。
高知アニメクリエイター聖地プロジェクト実行委員会が2024年、新たな才能を発掘するべく賞金総額最大3000万円の「高知アニメクリエイターアワード」を開催する。インディーアニメ作家が次々にメジャーな舞台で作品を世に送り出す現在、このアワードが新たな才能を発掘し、業界を活性化することは間違いなさそうだ。
そこで、本アワードの運営に携わるスタジオエイトカラーズ(以下エイトカラーズ)代表宇田英男氏と、第一線で活躍するインディーアニメ作家の土海明日香氏、植草航氏、ぽぷりか氏の3人に、このアワードがクリエイターにとってどんな価値を秘めているのか、これまでの自身のキャリアを振り返りつつ語ってもらった。
<INTERVIEWEE プロフィール>
第一線で活躍するインディーズアニメ作家たちのキャリアパス
CGWORLD(以下、CGWORLD):これまでのキャリアについて教えてください。どのように映像作家の道に入られましたか?
植草航氏(以下、植草):僕は『ポケモン』や『デジモン』の世代で、高校生の時からネットのお絵かき掲示板でイラストを描いていました。お絵描き掲示板でタイムラプス機能を使った疑似的なアニメやGIFアニメなどを作っていましたが、その後進学した東京工芸大学のアニメーション学科で授業の課題で制作したのがきちんと映像ソフトを使って制作した最初のアニメーション作品です。
もともと音楽が好きで、卒業制作では音楽の構成と密接に関わった作品を作ってみたいと思って、制作した作品をネットにアップしたところ反響をいただきました。今思えばそれが最初で、現在はその延長線でお仕事をさせてもらっています。
土海明日香氏(以下、土海):私も植草さんと少し似ていますね。私は美大で映像を学んでいて、実写、人形のコマ撮りなど様々な手法で制作していたのですが、やっぱり手で描くのが楽しくて手描きアニメーションを作っていました。卒業後はアルバイトをしながらフリーランスとして映像を作り、また作画アニメーションに立ち返り、そこから規模が大きくなり今に至ります。
ぽぷりか氏(以下、ぽぷりか):僕の場合、実は映像作家になろうとは最初、考えていなかったんです。むしろ公務員を目指していたくらいでした。でも、高校生の頃に最初期のニコニコ動画で初音ミクのMVを観て元気づけられて、映像を作りたくなって美大を目指しました。それで入学した後に、クラスで隣の席だった、おはじきと2人で作ってみたところ、結構観ていただくことができました。
それで調子に乗って今度は一人で作ってみたところ、これがしんどくて。今度は10人くらい人数を増やしても、やっぱりしんどいし、何より楽しくない。それで、やっぱりおはじきとだなと思って、一緒に作ったら、このバディ感も含め楽しめたんです。
卒業後は「これを仕事にしよう」と思い、ディレクターができる会社に入ったのですが、しばらくすると管理側に回ってしまって.....やっぱり自分で作りたいと思い直して在職中に、おはじき、学校の後輩のまごつきと共に「Hurray!」を立ち上げ、独立しました。
「採算度外視で全力投球!」クリエイターにとっての転機とは?
CGW:皆さんは従来のインディーズのクリエイターの枠には収まらないような大きな案件を手掛けていますが、そういったお仕事はどのように獲得されていったのですか?
土海:実は「営業向いてないな〜」と思いながらフリーランスをしていました(笑)。その頃は作画アニメーションよりも、After Effectsを使ったモーショングラフィックスの仕事が多かったですね。
幅広く何でも受注していたのですが、一度自分の作りたいものを採算度外視で全力投球してみたいなと思って2021年に作ったのが「すばらしい新世界」(トベタ・バジュン)だったんです。以降、この作品をご覧になった方からお声がけをいただくことが増えたので、振り返るとこれが自分としての転機だったのかなと思います。
ぽぷりか:採算度外視で全力投球をしなきゃという意識は僕も持っていました。明らかにコストと合わないMV案件でも、時間が許すなら作品の完成度にこだわることが最重要で、それをしないと結局自分達の映像の良さは出せない。
僕の場合の転機になったのはヨルシカさんのMV制作でしたね。人づてに「MVを作ってくれませんか?」とお話をいただき、まだヨルシカとして活動する前のn-bunaさんとお会いして、映像のプランを出したところ気に入っていただけました。以降、『だから僕は音楽を辞めた』や『花に亡霊』でもご一緒することになりました。
植草:僕も最初は先輩の手伝いで作画の仕事をしていて、その後卒業制作が評価され、制作した作品がまた次の仕事に繋がっているような感じですね。駆け出しの頃に依頼をしてくださったアーティストさんは今でも繋がりがあるし、その時に作った作品が次の作品を呼んでくれている感じですよね。
僕も卒業制作を見てくださったsasakure.UKさんからMV制作のご依頼が届きました。今もお仕事をご一緒する方の中には卒制をご覧いただけた方もいますし、sasakure.UKさんのMVがキッカケでお仕事を頂いたりします。
ぽぷりか:やっぱり、全力を尽くした仕事が次の仕事を呼び続けていくからこそ、一番新しい作品を一番の「いいね!」にしなきゃいけない。だから僕が作る上で、「コストは考えず、与えられた時間の中でフルスイングしましょう!」みたいな意識はかなりあります。
その作品が後々になって、そのとき頂いたもの以上の自分の名刺となって、業界内や自分のキャリアとしてプレゼンスを発揮してくれることもありますから。
土海:それ、すごく共感します!
宇田:植草さんとは長い付き合いですが、出会った時から、自分の作品の制作をしたいんだろうなという印象がありましたね。やりたいことの土台がある人なので、別の作品の一部の工程を担ってもらおうという感じではないんですよね。クリエイターって、やっぱりそれぞれに仕事のポジションというものがあるなと、植草さんを見ていても思います。
お三方は、まさに個人や少人数のチームで活躍されている人達なので、そういう世界をもっと広げていきたいなというのが、開催の趣旨のひとつとしてあります。
高知アニメクリエイターアワードが提供するのは“場”と“機会”
CGW:改めて「高知アニメクリエイターアワード」のねらいや特長について教えてください。
宇田:今回のアワードは高知県をクリエイターにとって魅力的な場所にするための一環です。高知県はクリエイターにとっての“場”と“機会”を提供したいと思っています。受賞した方が集まって交流したり、展示会、現在活躍されているクリエイターのトークイベントなども開催できたらなと考えています。
植草:自主制作アニメを大画面で上映するだけでも、とても魅力的なものになると思いますし、やっぱり展示を観に行くと、そこでしか見えないものがある。メイキングの資料があれば嬉しいし刺激になるし、イベントがあるとさらにモチベーションが上がりますよね。
宇田:文化庁メディア芸術祭では植草さんは作品の映像だけでなく、いろいろ展示されていて、面白かったですね。すでに有名なクリエイターだけでなく、まさに今後さらに活躍していくであろう気鋭のクリエイターであったり、普段なかなか話を聞く機会がない人の話を聞けるという意味でも貴重ですよね。
CGW:ちなみに皆さんは「高知アニメクリエイターアワード」のようなコンテストに出展をしたことはありますか?
植草:僕が学生の時代は、映像作品をネットにアップロードするハードルが高く、コンテストに出すことの方が、同じコミュニティーにいた作家同士では主流でしたね。『デジタル・スタジアム』というNHKの番組があったり、文化庁メディア芸術祭、学生CGコンテストなど、イベントとして開催されるものだと、そこでクリエイター同士の交流もできたりしました。
土海:私も、とりあえず映画祭一覧をバーッと調べて、とにかく出すみたいな、趣味みたいにしていました(笑)。応募するのも楽しいし、実際現地に行って上映会を観たり、いろんな人とお話したりするのもスゴく楽しかった思い出です。植草さんにお会いしたのもそこでしたし(笑)。
植草:そうでしたね(笑)。後々、大活躍する人たちが同じ空間にいたりして。
土海:私は石田(祐康)さんと同じコンペで、自分は賞を取れず、石田さんはW受賞みたいなこともありました。今でも悔しくて覚えています(笑)。
植草:石田さんの作品をみて衝撃を受けた同世代の人は、大勢いると思いますね(笑)。
CGW:コンテストでのクリエイター同士の出会いが制作に影響を与えることはありますか?
土海:ありますね、刺激はすごく受けると思います。
「大作を作りたい」 賞金総額は最大3000万円
CGW:“機会”という側面で「高知アニメクリエイターアワード」で驚きなのは、賞金総額が3000万円だということです。皆さんがもしこの制作費を手にしたらどんな作品を作りたいと思いますか?
ぽぷりか:自分のっていうか今から映像作って生きていくぞっていう人の立場に立っての回答になりますが、全額生活費に当てて制作時間を確保します。数年間、仕事関係なく自分の好きなものだけ作って公開し続けて、それで世間の評価が一切得られなければ仕事にするのはやめるかも。あと作るなら大作じゃなくて数打ちたいですね。
植草:僕はオムニバス作品を作りたいなと思っていて。というのも、今のSNS時代、イラストもアニメーションもどんなに良いものが作られても、どんどん時間とともに流れて消費されていってしまうことが、とてももったいないというか、悲しいんですよね。そういう流行り廃りではなく、パッケージとして残っていると、後から観る方にとっての良いキッカケになると思うんです。
業界全体のシーンを残すぞ、というほど志の高いものではないんですけど、僕の目線で、僕が好きだった作家さんを呼んで、「そう言えば2023年ってこういう作家さんいたよね」みたいに思い出せるようなものを作りたいなと思います。
土海:お二人の話を聞いて、作品づくりの枠組みからして多様な考えがあるんだなと思いました。ただ自分は、やっぱり一つ大作を作りたいという気持ちがあります。
今までのお仕事では、けっこう自分の個性は抑えていて、受けるものにしようという意識で作っていたのですが、せっかくこういう機会を得られるのであれば、やりたいことをやって、たとえまとまりきらなくても大作を作りたいなと思います。今までお仕事でMVを作ることが多かったので、ストーリーまでパッケージングしたいですね。
CGW:ちなみに賞金の使い方として、ぽぷりかさんのおっしゃるように、生活の基盤に投資した上で制作に専念するという方法はアリでしょうか?
宇田:はい。もちろん。それでも構いませんし、何か機材を買っていただいて、作品づくりに活かしていただいても結構です。ただ、「総額」3000万円なので、総取りではないことにご留意ください(笑)。
CGW:今回のコンテストは高知で開催されますが、生活基盤を地方と東京どちらに置くかでどのような違いが生まれると思いますか?
土海:私は現在山形で制作をしているのですが、今は制作過程の全てが基本的にオンラインで完結するので、制作する上での問題はないんじゃないかなと。
植草:たしかにそうですね。僕は地方でも東京でも働いた経験がありますが、制作する上で物理的に問題となるようなことはないかと思います。でも、住む場所が作品に影響を与えているなとは感じることはありますね。
東京にいると、人がたくさんいて、景色を見ていても「みんな同じ景色見ているんだよなぁ」って気持ちになるのですが、地元に帰ると「この景色は自分しか見ていないかもしれない!」というような、錯覚かも知れませんがなんとも言えない嬉しさがありました。
ぽぷりか:確かに住む場所の作品への影響は感じますね。僕も出身が日本海側だったこともあって、天気の良い日がかなり少ない場所で育ったんです。だからこそなのか、自分の作品ではむしろいつも快晴の空ばっかりなんですよね(笑)。
宇田:今後は高知県内でのクリエイターの交流拠点の建設を予定していたり、ワーケーションができる場も増やしていく予定です。作品に変化をもたらす一つの方法としてぜひ活用してほしいなと思います。
CGW:ありがとうございます。では最後に皆様より、参加を考えている方にメッセージをお願いします!
宇田:まず前提として年齢による制限はないのですが、やはりチャンスを与えるという意味では、若くてこれからの方に対して積極的に門戸を開いて行けたらと考えております。自分でアニメを作ることをこれから仕事にしていこうとする方に、ぜひ応募していただければと思います。
植草:僕自身、一度就職をして、やめてまたアニメの方に戻ってきたんですけど、それを無駄だとはまったく思っていなくて。やってみたけど、合わなかったとか、ちょっとここが上手くいったみたいなものの連続なんですよね。
学生時代の自分は「失敗したらこれで終わりだ」みたいな気持ちになってしまうことが多かったのですが、いろんなことに触れて、いろんなことにチャレンジしてみて、それで上手くいかなくても、それがこれからの人生の判断材料になっていくんです。その選択肢を広げるためのアワードになればと思います。あとはイベントとして、会場でのトークとメイキングとかがご自身の体験として残るものになれば嬉しいなと思いますので、ぜひ応募し、来場していただければと思います。
土海:募集要項や賞金を見ると、本当に豪華でチャンスのあるアワードだと思います。自主制作アニメのクリエイター人口がこれだけ増えた中で、こんなに大掛かりなコンペが開催されると、一体どんな化学反応が起きるのか、どんなスゴい作品やクリエイターが見つかるのか、とても楽しみにしています。ぜひ応募してみてください!
ぽぷりか:このアワード、金額以上に取れたら自分にとって凄まじい自信になると思うんですよね。自分の映像で3000万稼いだぜっていう。だからまず、チャレンジしてほしいですね。
僕が時々もらう相談で、「どうやってクリエイターになったらいいか分からない」というのが多いんです。そこでこれ挑んでみてほしい。頑張ってアワードとってやるぜって目標を持って作ったものは、漠然と作ったものより絶対良いものになります。アワード取れなくても能力は上がるし、そしてアワードが取れたら、先ほどの使い道の話ではありませんが道が一気に広がります。
クリエイターとしてどうやって生きていったらいいか分からないという感覚があるならば、なおのことチャレンジしてみほしいなと思います。がんばってください!
TEXT_日詰明嘉
INTERVIEW_山下一貴(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)