アートディレクター、映像監督、3DCGアーティストとマルチに活躍し、多彩なコンテンツで独自の世界観を表現するYUKARI氏。“実写”と“CG”を融合させたファッションスナップや映像で注目を集め、世界的ブランドのプロモーション映像や人気アイドルのCGジャケットなども手掛けているが、その魅力的な作品群はどのようにして生まれるのか。CGを始めた経緯や作品づくりの秘密を語ってもらった。
さらに、数々の作品を生み出すYUKARIさんの作業環境にも注目。個人的なこだわりや、インテルのハイエンドCPU「インテル® Core™ i9-13900KF プロセッサー」などを搭載する現在のデスクトップPC「DAIV FX-I9G90」の使い勝手などについても聞いた。
コロナ禍で3DCGにチャレンジ、YouTubeなどを使って独学で習得する
CGWORLD(以下、CGW):初めに、これまでの経緯を教えてください。
YUKARI氏(以下、YUKARI):私は中国の上海出身なのですが、元々ファッションに興味があって来日しました。その後、現在所属するクリエイティブコレクティブ「OFBYFOR TOKYO」(以下、OBF)の代表である森惇平と出会い、彼が手掛けていた音楽映像の編集などを専門学校に通いながら手伝うようになりました。
そのなかで、最初に興味を持ったのがAdobe Premiere Proを使った映像編集でした。自分の手で映像が格好良くなっていくことに達成感を感じ、映像制作にどんどんハマっていきましたね。さらに、専門学校卒業後は自身のファッション好きも活かしたいと考え、OBFでもファッションの案件に多く携わらせて頂いています。
CGW:3DCGを始めたきっかけは?
YUKARI:2018年にOBFを設立されたのですが、そのあとすぐにコロナ禍に見舞われたことで、リアルな撮影を必要とする映像系の仕事が一気に止まってしまったんです。そこで「撮影なしで作品を制作するためにはどうすればいいか」を考え始め、海外の作品などをリサーチしていくなかで3DCGの“自由度の高さ”に惹かれました。ゼロからの挑戦でしたが、一念発起して3DCGにチャレンジしたという感じです。当時は本当に大変でしたが、自由度の高い3DCGによって自分が思い描く世界観を100%表現できるようになったことは、とても良かったと思っています。
CGW:いくつかあるDCCツールの中でCinema 4Dを選んだ理由は?
YUKARI:リサーチの際に自分が気に入った作品についていろいろ調べてみると、多くの作品がCinema 4Dで制作されていたことが大きな理由の1つです。また、レンダラーにOctane Renderを使用している理由も基本的はこれと同様です。ただOctane Renderについては、金属の反射やガラスの透け感などのクオリティを追求するために選んだという理由もあります。
CGW:Cinema 4Dなどの使い方はどのようにして覚えたのでしょうか。
YUKARI:すべて独学です。YouTubeや中国の動画配信サービス「bilibili」を活用し、そこにアップされているチュートリアル動画などを見て地道に勉強しましたし、それは現在も基本的に変わりません。昔はコンテンツ自体が少なかったので勉強をするのもひと苦労でしたが、いまはSNSにたくさんのチュートリアル動画がアップされているので、本当に助かっています。
CGW:参考にしている、あるいは注目しているCGアーティストなどはいますか?
YUKARI:以前からずっと注目しているのは、デジタルアーティストの888VAMPIRES さんや、Ines Alphaさんなどですね。自分とは違う表現でたくさんの人を魅了しているので、リファレンスとして参考にすることも多いです。
CGW:3DCGを使ったデジタルクリエーションで気を付けている点などはありますか。
YUKARI:1つは「遠近感」ですね。2Dとは違う“3Dの良さ”を出すために遠近感は欠かせないので、そこは毎回意識しています。
これに加えて、毎回必ず1つでも新しい要素を作品に入れるように心がけています。例えば「新しいエフェクトを入れる」とか「CGの形状やテクスチャを変えてみる」とか。あまりに小さい変化だと誰も気づいてくれないケースもありますが(笑)、自分のモチベーションを上げる意味でもそこをきちんとやろうと決めています。
ただ、それらの取り組みはかなり感覚的にやっているところがあるため、もし「以前作った作品のココと同じように作ってほしい」と言われても、そこが新しく入れ込んだ表現だったりすると再現できない可能性が意外と高かったりします。例えば、チュートリアル動画を見ながら新しいエフェクトを試すときも最初は動画の通りに作業を進めていきますが、途中から感覚的にオリジナリティを入れてしまうため、最終形がかなり変わってしまうことも少なくないのです。そういうやり方をしているから「再現できない」という事態に陥ってしまうんですよねぇ(汗)。
さまざまなコンセプトや実写と3DCGが入り混じる魅力的な作品を本人が解説!
CGW:これまでに手掛けてきた作品について、それぞれのコンセプトやポイントなどを紹介してください。まずはOBFでのアートワーク『NEO TOKYO SNAP』から
YUKARI:これは自主制作で、3DCGとストリートスナップの組み合わせたビジュアルになります。
コンセプトは、自分の好きな表現の1つである「反射のある金属」のイメージをテーマに表現しました。自主制作といっても自分だけでテーマやコンセプトを決めてしまうと方向性が偏ってしまうので、そのあたりは森とも相談し、これまでの作風とは異なる作品にも取り組むようにしています。
CGW:制作工程はどんな感じでしょうか。
YUKARI:まずはモデルのストリートスナップを実写で撮影し、そこに私が3DCGを入れ込んでいく流れです。モデルのポーズは私が撮影時に指示しており、CGを追加することを考慮して初めからダイナミックなポーズを取ってもらうようにしています。
CGは、私が“曲線好き”でそれをトレードマークにしているところもあるので、まずは曲線のオブジェクトを制作しつつ、モデルのポーズや雰囲気に合わせながら全体を構築していきます。また、曲線のオブジェクトをモデルの腕や足の間に通すことなどで、実写とCGの一体感を出すような工夫もしています。
CGW:次はファッションのコンセプトムービーの中から、Dr.Martens(ドクターマーチン)のタイアップ作品『Dr.Martens×WWD JAPAN』について教えてください。
YUKARI:制作にあたり、まずはドクターマーチン本国のビジュアルイメージを事前打ち合わせで見せてもらい、そこから「金属的でサイバーな世界観」や「ブルーやグリーンの照明」といったコンセプトのイメージを得ました。これに加えて、この作品に出演したモデル・イラストレーターのLauren Tsai(ローレン・サイ)さんのInstagramなどをチェックし、ローレンさんが描いているイラストや世界観を確認しました。すると、ローレンさんの美しく柔らかな見た目とは裏腹に、イラストはどことなく不気味でダークな雰囲気を漂わせていたので、そのギャップを全体のストーリーに組み込んでみました。さらに、これらのイメージから自分の頭に浮かんだのが「曲線」「花」「金属」というキーワードだったんです。
CGW:この作品ではローレンさんとイラストのギャップや、実写とCGとイラストという異なる要素の融合が重要なポイントだと思いますが、それらを1つの世界観に落とし込むための工夫とは?
YUKARI:例えばムービーでは、モデルとして世間が感じているローレンさんの一面を映像の前半で表現。逆に後半(18秒~)からは、クリエイターとしての一面を出すように意識しました。
また、静止画での異なる要素の融合については、普段の取り組みとあまり変わらない感覚でしたね。イメージとしては「実写のローレンさん」と「イラスト」を2人の人物として扱い、その2人に対していつものようにCGを入れ込んでいった感じでしょうか。その意味では、ローレンさんのポーズや衣装とともに、イラストのポーズや配色にも気を配りながら一体感を探っていきました。
CGW:最後は、4人組のアーティスト「bala」のオフィシャルミュージックビデオ『barla』をお願いします。
YUKARI:まずきっかけとして、以前に女性アイドルグループ「FRUITS ZIPPER」と仕事をした機会があり、その評判が良かったことからbalaの依頼につながったという経緯があります。また、balaの第一印象は「ネオン」だったり「女の子ながらクレイジー」というイメージだったので、直感で「これは自分と合うかも!」と思いましたね(笑)。
CGW:映像では東京と思われる風景が多く出てきますが、どの時代の東京をイメージしたのでしょうか。
YUKARI:特に年代などは決めておらず、「外国人が見たときにわかりやすい東京」というオーダーがあったので、エフェクトを追加しながら「自分的にもわかりやすい東京」をイメージしながら制作しました。また、ビデオ中には3DCGで構築した東京の街も入っているのですが(3分17秒付近)、それは「近未来の東京」を想像しながら作りました。
自分の感覚として、東京は「元気で無限の可能性があり、どんな人でも受け入れてくれる街だ」と印象があります。また、ロケの撮影では渋谷をよく利用するのですが、渋谷にはストリート色の強い場所もあれば近未来を感じさせてくれる場所もあるので、「とても多様性がある街だ」と感じていますね。
レンダリング時間は約半分に! 無駄な手間をかける必要もなくなり試行錯誤もスムーズ
CGW:クリエイティブにおいて作業環境はとても重要だと思いますが、使用している機材でこだわりなどはありますか?
YUKARI:キーボードは「タイピング音」にこだわっていて、とにかくタイピングしたときの音が好みの製品を常に探しています。だから新製品が出るとプロモーション動画などまでしっかりチェックしており、わりと短期間で買い替えることが多いですね。一方で、マウスはそこまでのこだわりがないので、デザイン的に気に入っていて機能面でも満足している現在の製品を3年ぐらい使い続けています。
あとディスプレイは、これまでは大画面の製品1つでこなしてきたのですが、リファレンスの画像などを映しながら作業する際にちょっと使いづらさを感じていたので、少し前に小画面の製品を追加してマルチディスプレイを実現しました。ただ、小画面の方はリファレンスを表示させるなどのサブ的な利用だけなので、特に画質などにはこだわっていませんね。
CGW:現在の作業用PCについても教えてください。
YUKARI:いまはマウスコンピューターのクリエイター向けデスクトップPC「DAIV FX-I9G90」を使っています。次世代のクリエイターを支援するインテルの取り組み「インテル Blue Carpet Project」の一貫として貸与された製品なのですが、高性能なハイエンドモデルとあって本当に快適です。
CGW:以前のPCと比べてどれぐらい快適になりましたか?
YUKARI:あくまで個人の感覚ですが、例えばOctane RenderでのGPUレンダリングは半分ぐらいの時間で終わるようになったと感じます。After Effectsでの切り抜きやエフェクト追加の作業も以前のPCではカクつくなどかなり重く感じていたのですが、DAIV FX-I9G90ではそういったことも起きずにスムーズです。
また、以前はOctane RenderでGPUレンダリングをしながらAfter Effectsで別の作業をしようとすると止まってしまうこともあったのですが、DAIV FX-I9G90では同時並行の作業も問題なく可能になりました。これもうれしいポイントです。
CGW:YUKARIさんが行う作業の中で、特にPCに負荷かかかっていると感じるものは何でしょうか。
YUKARI:私は反射のある金属や透け感のあるガラスといった素材・質感が好きなので、ライティング関係の設定変更には時間がかかると感じています。とくに金属は反射で雰囲気が決まるところもあるため、曲線オブジェクトの光や色味をそこで決めているんですよね。例えば、制作の工程では最初に背景を決めて曲線オブジェクトを制作し、その後に背景ライティングのHDRI設定でオブジェクトの質感を調整するようにしているため、その処理は負荷が高いと思います。
CGW:レンダリングはどうでしょうか?
YUKARI:レンダリングは、とにかくスピード感を求めるというところはあります。個人的に、静止画は数十秒、動画は数分程度でレンダリングを終えたいところ。私は何度もやり直して作品の完成度を上げるタイプなので、1回のレンダリングで1時間あるいは1日待つなんてとても無理です(笑)。
例えば以前のPCでは、時間がかかる場合は事前に解像度を落としてから短時間でレンダリングし、そのあとに別ソフトウェアで改めて拡大していたくらいです。ただし、この工程を踏むと短時間でレンダリングが終わる代わりにノイズが出てしまうこともあり、動画だとそれが気になってしまうケースがあったんです。そのため追加でノイズを除去するのですが、そうすると今度は画面がぼやけて画質が荒くなってしまうことがあり、とにかく非効率だと感じていました。
しかしDAIV FX-I9G90であれば、最初からフルサイズでレンダリングしても短時間で終わるので、そういった無駄な手間をかける必要がありません。全体的な作業効率がアップし、試行錯誤とその確認も素早くできるようになったので、クオリティアップの意味でも本当に助かっています。
CGW:性能面以外で気に入った点はありますか?
YUKARI:丸みを帯びたフォルムや真っ黒な筐体カラーは、自分に合っているかなと思います。スタイリッシュなデザインなので、いまの作業環境にもマッチしていると感じますね。
あと、自分は音楽などを聴きながら作業するタイプではないので、音に対しては他の人よりもちょっと敏感なんですね。その点でも前のPCより静かになったので、静音性が高いという点はとても良いと思います。
CGW:最後に、これから映像制作を始める人に向けたメッセージをお願いします。
YUKARI:CGを始めたら、まずはとにかくたくさんの作品を作り続けること。そして、恥ずかしからずに多くの人に見てもらって評価してもらうことが大切かなと思います。そこは諦めずに続けてほしいですね。
ただし、初心者はどうしてもやり直しが多くて作業時間もかかりがちなので、なかなか達成感が得られないかもしれません。そういった点を踏まえると、作業用のPC選びは「ないがしろにすべきではない」かなと思います。やっぱり高性能なPCの方が“より快適かつ効率的”に作業できるので、そこに対してきちんと投資することも大事なポイントかなと思いますね。
インテルからYUKARIさんに貸与されたハードウェアについて
ハードウェアスペック
DAIV FX-I9G90は、マウスコンピューターが展開するクリエイター向けデスクトップPC「DAIV FXシリーズ」の最上位モデル。CPUには第 13 世代インテル® Core™ プロセッサーのハイエンドモデル「インテル® Core™ i9-13900KF プロセッサー」を採用し、クリエイティブのさまざまなシーンで高い処理能力を発揮する。さらにGPUは「GeForce RTX 4090」、メモリは64GB、ストレージはNVMe接続2TB SSDを搭載。スキのない圧巻のスペックで快適な作業環境を実現する。
- 価格
629,800円(税込)
- CPU
インテル® Core™ i9-13900KF プロセッサー(24コア【Pコア 8、Eコア 16】 / 32スレッド / Pコア 3.00GHz、Eコア 2.20GHz / TB時最大5.80GHz【Pコア 5.80GHz、Eコア 4.30GHz】 / 36MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 4090
- メモリ
64GB(32GB×2)
- ストレージ
NVMe接続2TB SSD
- OS
Windows 11 Home 64bit
- 無線
Wi-Fi 6E(最大2.4Gbps)対応 IEEE 802.11 ax/ac/a/b/g/n準拠 + Bluetooth 5内蔵
インテル® Blue Carpet Projectとは
『インテル® Blue Carpet Project』
インテルによる、クリエイター支援プログラム。クリエイションとテクノロジーの関係がますます密接になっていく中、インテルは創作活動と最新テクノロジーの橋渡しをすることで、クリエイティブの最前線で活躍するクリエイターが主役になれる機会を創出している。具体的には、インテル® Blue Carpet Club 参加クリエイターのワークショップやコンテストを通じた、最新のクリエイティブに対する知見の提供を行っている。
お問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)
PHOTO_弘田充
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)