©川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会 ©柴・伏瀬・講談社/転スラ日記製作委員会 ©Bandai Namco Entertainment Inc.
『ヘブンバーンズレッド』、『アナザーエデン 時空を超える猫』などストーリー性の高いスマホゲームを多数世に送り出し、ユーザーからの熱狂的な支持を集めるライトフライヤースタジオ。
同社は今年、配信中の人気タイトルであり今年10月に2周年を迎えた『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚(まおりゅう)(配信:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)』(以下、まおりゅう)のアニメーション開発における進捗管理にAutodesk社のShotGridを導入。作業の効率化に成功し、社内スタッフからも好評を得たという。
そこで今回、ShotGridの導入と開発に携わった同社Art部の4名に、導入経緯、活用方法などを伺った。
ライトフライヤースタジオ
「新しい驚きを、世界中の人へ。」というビジョンのもと、新しいゲーム体験を生み出し、多くの人に楽しんでもらえる、最高のゲームを生み出すことを目的に設立した株式会社WFSのゲームブランド。代表作に『ヘブンバーンズレッド』、『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚』(配信:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)、『アナザーエデン 時空を超える猫』、『消滅都市』、『ダンまち〜メモリア・フレーゼ〜』など。
HP:https://www.wfs.games/
CGWORLD(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。
井上 竜太氏(以下、井上):マネージャーの井上です。『まおりゅう』では開発スタートからリリース後1年半頃まで、マネージャー兼アニメーションリードとして進行管理やクオリティチェックを担当していて、今年からシニアマネージャーとしてアートスタッフのマネジメントや開発用ツールの選定などにも関わっています。今回、ShotGridの選定にも携わりました。
井上 竜太
Art部 Art6グループ シニアマネージャー
コンシューマーゲームメーカーで3DアニメーターとしてPSタイトル、3DSタイトルなどの制作を経験し、2019年にWFS入社。
CGW:『まおりゅう』のアニメーションチームは何名ですか?
井上:社内のアニメーションチームは私を含めて10名弱で、2名のテクニカルアーティスト(以下、TA)と日々連携を取りながら作業をしています。アニメーターは外部の協力会社と分担してカットシーン、インゲーム、イベントのエモートなどの作業をしています。最近ではアニメーションチームも絵コンテを描いて、カメラ&レイアウト、アニメーション仕上げまでをやるというフローもできつつありますね。
チェック・フィードバックの効率化のためShotGridを導入
CGW:ShotGridを導入した経緯を教えてください。
井上:『まおりゅう』でのアニメーションチームのモーションチェックはそれまで、Slackでやりとりして、Confluenceに担当者がつくった動画をアップしてチェックした後、フィードバックするというフローでした。ただ、Slackは即時性はあってもコメントがながれてしまいやすく、Confluenceは最新のデータがわかりにくくてメンバー同士の進捗も見えにくい。スタッフの入れ替わりで引き継ぎもしにくい。こういった課題がサービスインして1年ほど経った頃、浮き彫りになってきたんです。
CGW:なるほど。それで代替案を探したのですね?
井上:はい。それで、今年の春に外部の進捗管理ツールを検討し始めて、ShotGridが候補に挙がってきました。すぐに試用を始めてゴールデンウイーク過ぎに本格運用をスタートさせました。ですので実はまだ使い始めて3~4ヶ月といった状況です。
CGW:ShotGrid導入の決め手は何でしょうか?
井上:やはりカスタマイズ性の高さと、当社のTAチームに導入・サポート実績があったというところが大きかったです。
CGW:『まおりゅう』ではShotGridをどのように使っているのですか?
伊澤雅都氏(以下、伊澤):アニメーターの伊澤です。『まおりゅう』では、カットシーンやイベントのモーションをキャラ単位で管理していて、ディレクターのチェックやフィードバック、各スタッフの作業の進捗管理といった部分でShotGridを使っています。ShotGridはチェック動画のログが見やすく、前回のチェックとの比較が得意なツールですし、TAチームにカスタマイズしてもらったおかげで作業が進めやすくなっています。
伊澤 雅都
Art部 Art6グループ Art3チーム アニメーター
アプリ開発会社での2DCGアーティスト兼プランナー、遊技機の2Dエフェクトアーティスト、映像業界での3Dアニメーターを経て2023年2月にWFS入社。『まおりゅう』では主にカットシーンやインゲームモーションの制作を担当している。
TAチームによるShotGridのカスタマイズ
CGW:『まおりゅう』の特性に合わせてShotGridをカスタマイズしたのですか?
井上:導入して素の状態で使うのはやはり取り回しがしにくいので、導入を決めた段階で、当社が誇るTAチームと協力体制を築きました。
小原延之(以下、小原):TAリードの小原です。『まおりゅう』は開発初期から携わっていまして、井上や伊澤と協力して、ShotGridをより効果的に使えるようにカスタマイズしました。
小原 延之
Art部 Technical Artチーム リードテクニカルアーティスト
ゲーム制作会社、遊戯機メーカーにて3Dアーティストを務め、TAに転向。2015年の入社以降、多数のプロジェクトにおいてアートの技術領域全般を担う。
CGW:なるほど。ライトフライヤースタジオのTAチームについてもう少し教えてください。
小原:業務内容としては、DCCツールやゲームエンジンのツール開発や技術サポート、パイプラインの整備、技術選定・検証といったところです。
井上:TAチームは当社の自慢です。既存タイトルと新規タイトルを横断して見てくれているんですが、いつもアーティストからの要望に真摯に対応してくれて、話に耳を傾けつつ、どういうところを最優先すべきかを考えながら動いてくれています。
CGW:ShotGridは過去に運用経験があるとのことですが。
小原:はい。いくつかのプロジェクトで導入していました。ただ、その時はアセットのリスト管理のために使うことが多くて、プロジェクトによっては活用度があまり高くなかったんです。それに対して今回、『まおりゅう』のアニメーションチームの大きな課題は「チェック・フィードバックを効率化したい」というところだったので、以前よりもShotGridを導入する動機が強かったと思っています。
CGW:『まおりゅう』ではどのようなカスタマイズをしたのですか?
毛 雅萱(以下、毛):TAの毛です。伊澤と協力してShotGridのカスタマイズや自動化ツールの開発を行なっています。『まおりゅう』ではこれまでに、Python APIを活用したデータのアップロード自動化や、Slackと連携してShotGridの更新情報をSlackのチャンネルに自動投稿するツールなどを開発しました。
毛 雅萱
Art部 Technical Artチーム テクニカルアーティスト
2018年、新卒TAとして入社。2DタイトルのTA業務を数作務めた後、3Dタイトルの制作を経て2022年から『まおりゅう』のTAとしてジョイン。
CGW:Slackへの自動投稿ですか。便利ですね。
毛:あるキャラクターのモーションデータのバージョンが更新されたときに、担当者だけにメンションを送り、該当キャラのShotGridのページリンク付きのメッセージが送信される仕組みです。このおかげで担当者はページを探す手間も減りますし、関わっていないスタッフは気にせず仕事を進められる一方、参照する必要がある場合は該当のデータを見つけやすくなっています。
膨大なキャラのモーションをShotGridでスムーズに管理
CGW:ShotGridで「キャラ単位」で管理することにした理由を教えてください。
小原:インゲームやカットシーン、エモートといった使用用途で区分けすることもあると思います。ただ『まおりゅう』の場合、主なカットシーンはストーリーを語るムービーパートではなくて、キャラに紐付いたバトルでの必殺技やスキルの演出なんです。そのためShotGridでもキャラ単位での管理がしっくりきます。
伊澤:『まおりゅう』は毎月のように新しいイベントやクエストを実施しており、それに合わせて衣装違いのキャラクターもたくさんリリースしております。アニメーションチームはそうした多数のキャラクターモーションのバリエーションを動画で比較したり、フィードバック内容を確認したりすることが多いんです。例えば、ある人気キャラには20バリエーションぐらいの衣装と演出があり、新しい演出をつくる際には、なるべく過去の演出とは被らないように、リリース済みの演出と比較しながら作業します。ShotGridを使うとそれが見やすくなるんです。
井上:キャラ単位の管理方法が成り立つのは、アニメーションチームの各担当者がインゲームもカットシーンもやるという体制だからでもあります。これは当社の人材育成の方針もありまして、当社のタイトルはここ最近で3DCGにシフトチェンジしており、2Dアニメーターから3Dアニメーターに転向するスタッフをOJTで育てるために、あえてチームを分けていないんです。
CGW:ShotGridの導入前後で変化はありますか?
伊澤:進捗管理もですが、何よりフィードバックがしやすくなりましたね。以前はアニメーターが各自バラバラの形式でConfluenceにチェックムービーをアップしていくというフローになっていました。ShotGridの導入でチェック環境が一本化されて、ディレクターのデータ探しや共有の手間が減り、フィードバックのしやすさが大きく改善しました。指示書や仕様書、絵コンテなどもShotGridにリンクを追加して管理・共有を一元化しています。
井上:先日、伊澤の主導でアニメーターチームにShotGrid導入後の印象についてアンケートを取ったんです。すると、「他のスタッフの進捗具合や、どのようなフィードバックを受けているかが可視化されたことで、自身のモチベーションアップに繋がった」というスタッフもいて。
伊澤:その他にも、アンケートでは「データの置き場所が整理されたので全体の進行状況が把握しやすくなった」、「Confluenceを使っていた時より手数が減って、動画を添付して記録するだけでチームのログが溜まるので、制作物を管理しやすくなった」、「フィードバックを集約できて、後からログを辿れるのも便利」といった、好意的な意見が寄せられました。
ShotGrid導入成功の秘訣は目的の明確化
CGW:良い評価が得られた理由はどこにあるとお考えですか?
小原:最初にどういった構築にするか、目的を明確にしたことが大きかったと思います。今回で言うと、フィードバックや情報の集約のしやすさに絞ったことですね。
井上:導入にあたっては、やりたいことや、こうなっていると良いといった希望をアニメーションチームのスタッフ全員にリストアップしてもらって、それをTAチームに渡すところから始めました。
小原:そのリストをベースに、ShotGridの管理画面にどういう情報をどう並べるのか検討を重ねて、ShotGrid導入の目的を明確にしたというながれです。
伊澤:導入に対してネガティブに感じていたスタッフもいましたが、いざやってみたら、「これまでのワークフローには戻れない、あんな面倒くさいことをしてたんだ」と。先ほど紹介したアンケートのように、「楽になって助かってる」というポジティブな意見がとても多いです。
小原:やはり、目的をもってアートとTAが連携してやれた、それが大きいと思います。
毛:まだ道半ばではあるので、今後も伊澤と連携を取って、さらに便利にカスタマイズを進めていきたいと思っています。
井上:導入から3~4ヶ月でこれだけの成果が出せたことにまずは一安心です。とはいえまだ課題はあります。近いところで言えば、アニメーションと関連の深いエフェクトチームとはまだSlack上でのやり取りで進めていて、ここもShotGridで一本化したいです。ゆくゆくは、モデラーチームなどにも拡げたいですね。
伊澤:実際、僕はエフェクトチームにアニメーションを渡したあと、仕上がりが届くまで進捗が見られないというジレンマを感じています。ShotGridで繋がれば、「今こんな状況なんだな」とワクワクしながら仕事ができそうです。
CGW:ShotGridはスケジュール管理もできるツールですが、そのあたりはいかがですか?
井上:まだそこには手を付けていません。管理場所が数ヶ所に散らばっていることでロスが発生しているのは確かですので、タイミングを見て一本化したいという話はしています。
CGW:課題はありつつも、今回は幸先の良い導入になりましたね。
井上:そうですね。これから会社全体に拡げていけそうな兆しが見えてきていると思います。これから活用事例をどんどん貯めていって、立ち上がってきている新規のプロジェクトなどに知見を共有していけたらと思っています。
CGW:楽しみにしています。ちなみにライトフライヤースタジオさんは今、人材の積極採用も行なっているとか。
井上:はい。当社では新規プロジェクトを含めて3Dプロダクトをこれからも増やしていきますので、3DCGの経験者を絶賛募集中でございます!
小原:TAチームも同様です。いつでも門戸を開いております!
CGW:本日はありがとうございました。
ShotGridについて
ShotGridはVFX・アニメーション・ゲームスタジオのための、安全でスケーラブルなプロジェクト管理&レビューツール。制作のあらゆる側面を最初から最後まで追跡でき、アーティストはクリエイティブな作業に集中できるため、チームの作業効率が向上する。ShotGridは世界の1,400以上のクリエイティブ企業で使用され、日本国内でも約140社が利用している。
>>ShotGridの製品紹介ページはこちら
TEXT_kagaya(ハリんち)、EDIT_小倉理生(shushu-kikaku)