賞金総額100万円!プロ限定 2日間のモデリングコンテスト「3D Fusion」をどう戦う? 主催者に訊く、開催意図
株式会社サイバーエージェントが開催するプロ限定のモデリングコンテスト「3D FUSION」のお題がいよいよ11/4(金)19:00に発表される。賞金総額100万円、プロ限定という新しいコンテストスタイルが早くも業界内で話題を集めている。今回は主催者と審査員にコンテスト開催意図や、2日間のコンテストをどう戦うべきか、お話を伺った。なお、審査結果は11/7(月)~11/11(金)開催される、CGWORLDクリエイティブカンファレンス2022のDAY3にて発表される。ぜひ、リアルタイムで結果発表を楽しんでもらいたい。
賞金は「1点=1万円」得点者分配方式。 プロ同士のモデリング対決の行方は?
CGWORLD(以下、CGW):「賞金付き、2日間限定のプロ向けコンテスト」ということで、SNS上などで早くも話題になっています。このあたりの反響についてはいかがお考えでしょうか?
よし、戦いだ https://t.co/B8GnpxhfpG
— Kouji Tajima 田島光二 (@Kouji_Tajima) October 13, 2022
プロ限定のモデリングコンテスト。ちゃんと賞金出るの含めて珍しくて面白い https://t.co/lA7sE14GU2
— Hirokazu Yokohara (@Yokohara_h) October 13, 2022
庄司 拓弥 氏(以下、庄司):Twitterでの反応を見る限り、少しざわついてくれてるのかなと。ただ、まだ内容がよくわからないだとか、2日間のタイムトライアルがどんな感じなんだろうとも思われている方も多いようです。なので、今日は具体的なイメージをもってもらえるようにお話していきたいと思います。
庄司拓弥 氏/クリエイティブディレクター
2009年株式会社サイバーエージェントに新卒入社。複数のゲーム開発を経て現在はゲーム事業部の3Dの責任者兼、株式会社QualiArtsの執行役員、Creativeの責任者としてゲーム開発、組織づくりに従事。
今回のコンテストでは、今まで僕らが接点を持てなかったような層までリーチ出来るようにしたいと考えています。例えば、純粋な3Dモデラーだけじゃなく、自由な発想でデザインができるような方にも参加してもらえたらいいなと思い、「AIが描いた空想上の生物」といったテーマ設定をしました。
CGW:テーマ設定に対しても反応が良かったですよね。そもそも、今回のコンテスト開催に至った理由をお聞かせください。
庄司:理由としては、まず去年3D CROSSという学生向けのコンテストに取り組ませてもらって、そこでの反響、手応えみたいなものを感じたということがありました。そこで、次は「社会人向けにどれだけ盛り上げて貢献できるだろうか」ということが出発点になっています。また、今はメタバースなどが業界全体で盛り上がってきているので、そこでサイバーエージェントとしても何か残したいという考えから、今回のプロ向けコンテスト開催に至りました。
「CG Grand Prix “3D Cross“ powered by CyberAgent」
専門学校生、大学、大学院生など教育機関在学中の方を対象とした、次世代を担う3Dデザイナーを発掘するCGコンテスト
詳細はこちら
邑上貴洋氏(以下、邑上):著名なクリエイターの方々からも「祭りが始まったぞ」という感じでリアクションしてもらっています。ビジネスとしてものづくりをする場合は、まずオーダーがあって、そこに合わせてクオリティを上げていくということが多いんですが、コンテストではそういうところから逸脱して、普段の仕事で出来ないようなことを、仕事で培ってきた技術でやれれば、面白い作品が生まれるんじゃないかと思います。
邑上貴洋 氏/シニアエフェクトアーティスト
WEBディレクター、FlashDeveloperとして映像系WEB制作会社に従事。2013年にサイバーエージェントグループの株式会社アプリボットに転職し、2Dアニメーションチームリーダーを務める。2015年から3Dのプロジェクトが立ち上がり、3Dエフェクト制作を開始し、「BLADE XLORD―ブレイドエクスロード―」や、新規開発プロジェクトのエフェクト仕様策定からテイスト制作に携わっている。
「3D CROSS」では学生さんが対象でしたが、応募者の方の作品を久し振りにTwitter等で見ると、コンテストの時よりさらにクオリティが上がっていたりすることもあって、そういうことも面白いと思いますね。3D CROSSは反響が非常に大きかったので、今年も実施します。今回のコンテストは学生さんだけでなく、社会人の方にも活躍して貰いたいというのがあって、開催に至りました。学生さんなら三ヶ月、夏休みとかである程度の時間をかけて作品作りに取り組んでいただけるのですが、社会人は仕事で忙しいので、48時間という期間の中でタイムトライアルで集中してもらうのがいいのかなと。
CGW:藤田さんが、今回のコンテストの審査を引き受けていただいた理由をお聞かせください。
藤田 祐一郎 氏(以下、藤田氏):賞金総額100万円というのを聞いて、ガチのコンテストなんだなと思いました。正直これまでのCGコンテストって、名誉のために応募するというところがあったと思うんですが、賞金総額100万というのは運営側の本気を感じたので、それも審査を引き受けた理由の一つですね。その賞金がどういう配分で受賞者に配分されるのかも気になっています。
藤田祐一郎 氏/Senior Character Artist
2012年立命館大学映像学部卒業後、株式会社ジェットスタジオにてプリレンダCG制作でキャリアをスタート。その後株式会社カプコンにてゲーム制作を経験したあと、SAFEHOUSE Inc.にてキャラクターモデリングスーパーバイザーとしてリアルタイム映像制作に携わる。現在は渡米し、Blizzard Entertainment において新規IPのサバイバルゲーム制作に参加。
庄司:今のところ、100万円を分割してそれぞれの審査員の持ち点として配分して、「1点1万円として採点」していくということを考えています。
藤田:ということは応募者全員に賞金獲得のチャンスがあるってことですね。あと、期限が二日というところも面白いですね。それに、テーマに「AI」って入ってるじゃないですか。AIの作品って細かいところを見るとグチャグチャだけど、パっと見の印象がめちゃくちゃいいですよね。2日間という短い期間を考えると、重視したいのはモデルのクオリティとか細かいディティールとかより、フォーカルポイント以外をコントラスト下げたりとか見せたいところをいかに見せるかといった工夫が必要になりそうですね。そして、そういうのをやっちゃったのがAIの凄いところだと思うので、プロの方の作品もぱっと見の印象を大切にしたいなと思っています。
庄司:あと、コンテストのテーマとなる「AIが描く絵」について少し触れていくと、今回僕らが描いて欲しいのは、「幼児が描いたようなAIの絵をどう解釈するか」というところなんです。落書きみたいなゴリラをすごいゴリラに造り替えるだとか。
邑上:昔ドラクエが作られたときに、堀井雄二さんが描いたラフな絵を元に、鳥山明先生がクオリティの高い絵に作り変えたというエピソードがあります。そういった、ヒントをもとにアイデアを加えて新しい作品を作るということに期待してます。そういう意味では、AIの絵に捕らわれすぎないほうがいいかもしれないですね。
藤田:邑上さんがおっしゃるように、デザイン力のあるコンセプトアーティストの方が、今回の課題にはマッチするかもしれませんね。
コンテスト優勝者副賞「Endeavor MR8400」
2日間のタイムアタック、どう戦う?
CGW:それではお話変わって、藤田さんのBlizzard EntertainmentにSenior Character Artistとして入社されるまでの経緯をお聞かせください。
藤田:元Blizzard Entertainmentの小池洋平さんや鈴木卓矢さんの講演に参加して、彼らに憧れを持ち始めたのが、Blizzard を目指すようになった最初のきっかけですね。『オーバーウォッチ』というゲームにドハマりして、それでさらに憧れが大きくなっていき応募にいたりました。ただ、実は2020年に入社直前まで行ったんですが、プロジェクトの関係で残念ながらその時点では不採用になってしまったんですね。縁あって、SAFEHOUSEに声をかけていただいたんですが、そこの面接でBlizzardにずっと入りたかったという話をしたところ、「それならBlizzardに入るまでSAFEHOUSEで一緒に働きましょう」という形で応援していただけました。その後も様々な協力を経て、今年の6月にBlizzardにとうとう入社できたという感じですね。夢を応援していただいた方々に感謝の思いでいっぱいです。
CGW:会社の垣根を超えて、アーティストのキャリアを応援するってなかなかできないことですね。藤田さんの今後の展望についてお聞かせください。
藤田:作品をつくるときって、「他者承認欲求」と「自己承認欲求」のどちらかで作る感じなんですけど、これまではほぼ他者承認欲求型の人間だったんですね。Blizzardに来るとか、ArtStationで評価されるとか……。ただ、他者承認欲求ってどこかで限界がくるというか、そこはもう満足できたので、これからは自分が作りたいものは何かなとか、そういう自己承認欲求を原動力にする方向に行けたらと思っています。
CGW:クリエイターのキャリアを形成していく上で、コンテストというものをどう捉えていますか?
庄司:企業所属のクリエイターとしてキャリアを積んでいくと、段々と競争意識が会社の中だけに向かっちゃうので、コンテストをきっかけに、改めて「市場」に目を向けて競争して欲しいなという気持ちがあります。また、若い子の技術力がツールの進化によっても凄いことになってるので、若い力がキャリアのある人と戦えるというのも楽しみにしていますね。
邑上:自分の力を試してどこまでいけるんだろうか、という腕試しの気持ちでコンテストに出ていただけていると思っています。あとコンテストに出てから、後日どこかの交流会なんかで「あの作品の人なんですね」みたいに、コンテストへの応募が交流の切っ掛けになることもありますね。
藤田:私は審査員の経験はそんなにあるわけじゃないんですけど、応募者として、一時期沢山応募していた時期もあります。そういった個人の経験から感じた意義でいうと、まずはポートフォリオを充実させるいい機会だということがありますね。
仕事以外だと、締め切りがないとなかなか作品を完成させられないということもあるので、コンテストへの応募を作品を完成させる切っ掛けにすることができます。また、会社で作った作品だと、権利関係などでポートフォリオに載せられないことが多いと思うんですが、自分で作ったコンテスト応募用作品だとそこに載せられますから。また、海外を目指されている方だと、プロフィールに受賞歴が書けるようになるというメリットもあります。
CGW:皆さんが出場するとしたら、どのように取り組みますか?
庄司:やっぱり、みんなと全然違うかたちのアウトプットって何かを考えて、できるだけ飛躍してみようというところからスタートすると思いますね。どうしたら差別化できるかを凄く考えて、競争が少なそうなところで自分の強みを活かせないかな、と。参加するからには1万円でも欲しいですし(笑)、審査員の誰かのツボには刺さりたいですね。
藤田:まずお題が発表される前に、PureRefのようなリファレンス置き場みたいなところに色んな生き物の骨格とか筋肉を集めておいて、どんなイラストが来ても対応できるようにセットアップしておきます。ライティングやコンポジット、雰囲気づけのところで作品の質が大きく左右されると思います。モデルは3時間くらいで仮のものを用意し、仮ライトと仮コンポジットで完成形の雰囲気だけ先に確認した後、余った時間でモデリングやテクスチャをポリッシュすると思います。
CGW:それでは最後に、コンテストへ向けてひと言お願いします。
庄司:今回は年齢制限がないので、社会人一年目から大ベテランまで参加資格は平等にあります。3Dの仕事をしてない人でも参加できるので、ぜひ色んな方に参加してもらって楽しんでもらって、イベント自体が盛り上がっていけばいいなと思っています。
その意味ではイベント期間中はハッシュタグ「#3DFusion」をつけて、制作過程をぜひTwitterでアップしてもらえたら嬉しいです。最後まで誰にも見せないのも戦略かもしれませんけど、お祭りなのでぜひ一緒に盛り上がりましょう。
藤田:今回のコンテストはプロ限定というところが楽しみにしているところで、ものすごいクオリティの作品も来ると思うので、審査員として取り組むというよりは「この作品めっちゃすげーな!」というところを言葉でみんなにシェアする立ち回りができたらなという感じです。
邑上:キャリアが上がっていくと、手作業とディレクション職が半分ずつくらいみたいになっていくので、そういう方にこそ、日頃のディレクション職で培ったアイデアとかを、お祭り気分でストレス発散に作っていただければなと思います。
CGW:本日はありがとうございました。
TEXT_オムライス駆
INTERVIEW&EDIT_池田大樹(CGWORLD)