CG制作にはどんなPCを選ぶべきなのか。PCの基礎情報やスペックによる性能差から選ぶ際のポイントまで、マウスコンピューターの「DAIV」シリーズのDAIV FX-I7G70とDAIV FX-A5G50を例にコロッサスの澤田友明氏に教えてもらった。
ナビゲーターはこの人!
澤田友明氏
コロッサスの現役CGデザイナーで、日本電子専門学校の講師も務める。レンダリングのスペシャリストとして広く知られると共に、PCのハードウェアにも精通する。
http://cls-studio.co.jp/
CG向けPCをきちんと選べている学生はごくわずか!?
CG制作を志して、いざPCを購入しようと思い立ったとき、皆さんは何を参考にして購入するだろうか。私はCGの専門学校で講師をしているが、CG制作に適したPCをきちんと選べている学生はそれほど多くないと感じている。
例えば、PCに詳しい人が周りにいるのであれば、その人に相談すればいい。しかし、そういった人が誰もいなければ雑誌やWebの情報を参考にして自分で判断するか、あるいは学校やお店で勧められたPCをそのまま購入ことになるだろう。もちろん、それも悪くはないが、購入したPCの性能が低すぎると作業に時間がかかってしまうため、やりたい作業がなかなか終わらない(=いつまでたっても作品が完成しない)といった状況に陥ってしまうこともある。しかも、最悪の場合は作業中にPCが止まってしまう、あるいは利用したいソフトウェアが最初から動かないといったケースもあり得るだけに注意が必要だ。
一方で、逆に超ハイスペックなPCを購入すれば何の問題もないのかというと、じつはそう簡単な話でもない。そういったPCであれば、もちろん作業スピードはとても速く、処理が止まったりソフトウェアが利用できないといった問題はまず起きないだろう。しかし、そもそもの問題として値段がかなり高いうえに、初心者ではその超ハイスペックな性能を使いこなせないケースも少なくないからだ。つまり、せっかくの高性能PCが「宝の持ち腐れ」になりかねないわけである。そういった状況に陥らないためにも、将来的にプロのCGデザイナー等を目指すのであれば、ある程度のPCの知識を知っておいても決して損はない。
そこで今回は、マウスコンピューターの「DAIV」シリーズから高性能モデルと初心者向けモデルの2機種をオススメPCとしてピックアップ。その概要を紹介しながら、まずはPCのパーツに関する基礎情報を解説する。さらに、2機種のPCで実際のCG制作に即した検証を実施し、性能のちがいでどれだけ作業効率が変わってくるかを紹介するほか、DAIVシリーズの魅力などについても補足。CG制作に必要不可欠なPCの “いろは” を知ることで、今後自分が利用するであろうPC選びの参考にしてほしい。
また今回は検証に使用したCGデータを配布中。こちらからダウンロード可能だ。
2機種のオススメPCの概要と各PCパーツの役割を紹介
まずは、今回お勧めするデスクトップPCの2機種を紹介。さらに、各PCパーツの機能についても解説する。
プロに負けないハイスペックモデル「DAIV FX-I7G70」
型番:FXI7G70B7ACCW101DEC
価格:359,800円(税込)
- CPU
インテル Core i7-13700KF プロセッサー(16コア【Pコア 8、Eコア 8】 / 24スレッド / Pコア 3.40GHz、Eコア 2.50GHz / 最大ブースト・クロック5.40GHz【Pコア 5.40GHz、Eコア 4.20GHz】 / 30MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 4070
- メモリ
32GB
- ストレージ
NVMe接続SSD 1TB
- OS
Windows 11 Home 64bit
コスパに優れた初心者向けモデル「DAIV FX-A5G50」
型番:FXA5G50B6ADBW101DEC
価格:249,800円(税込)
- CPU
AMD Ryzen 5 7600 プロセッサー(6コア / 12スレッド / 3.80GHz /最大ブースト・クロック5.10GHz / L2キャッシュ6MB、L3キャッシュ32MB)
- GPU
GeForce RTX 3050
- メモリ
16GB
- ストレージ
NVMe接続SSD 500GB
- OS
Windows 11 Home 64bit
各PCパーツの機能
【CPU】
PCの「ブレーン(脳みそ)」にあたる最重要パーツで、システム全体のパフォーマンスをコントロールする。CPUの性能で注目すべき項目は「コア数」と「クロック数」の2点である。コア数は「作業する人間の数」、クロック数は「ひとりひとりの作業の速さ」と考えると理解しやすいだろう。
【GPU】
目に見える情報(グラフィック)を処理することに長けているパーツ。「グラフィックボード」と呼ばれる。計算だけであれば高性能なCPUがあれば問題ないが、3DCGのビューポートに「モデルを表示する」、「ライティングを設定する」といったリアルタイムな画像処理を行いたい場合は、優れたGPUを搭載する必要がある。
【メモリ】
CPUから受け取った情報を一時的に保管する場所。CPUを「作業者」とするなら、メモリは「作業するときにデータを仮置きしておく作業机」と考えると理解しやすい。「GB(ギガバイト)」という単位で表記され、数字が大きくなるほど「作業机が広くなる=一度に処理できる情報量が増える」というイメージになる。
【ストレージ】
処理された結果や成果物を格納しておく場所。CPUを「作業者」、メモリを「作業机」に例えるなら、ストレージは「作業机の引き出し」という関係性になる。種類としては主に「HDD」、「SSD」、「M.2 SSD」、「NVMe」の4種類があり、ストレージを選ぶ際は「転送速度」にも注目しよう。転送速度が速いとストレージ(引き出し)からデータを取り出し、メモリ(作業机)に置くまでの時間が短縮される。
2機種のオススメPCでCGパフォーマンスをチェック! PCパーツのちがいで差はどれだけ生じるのか
【検証1】CPUによるシミュレーションの差は?
性能そのままではないが大きな差がつく結果に
Mayaのプラグイン「Bifrost」を使用し、MPM(Material Point Method)シミュレーションで雪のオブジェが崩れていくシミュレーションを240フレームで実行。処理完了までにかかった時間を計測した。この検証ではCPUのパフォーマンスが結果に大きく影響するのだが、結果はDAIV FX-I7G70が「2分」、DAIV FX-A5G50が「2分54秒」と約1.5倍の差となった。CPUのコア数の差(Core i7-13700KFは16コア/24スレッド、Ryzen 5 7600は6コア/12スレッド)がダイレクトに反映されたわけではないが、大きな差になったことはまちがいない。
・Mayaとは?
リアルなキャラクターやエフェクトなどの作成に利用するオートデスクの3Dソフトウェア。アニメーション作成、モデリング、シミュレーション、レンダリングなどの作業ができる。
・Bifrostとは?
Maya用のプラグインのひとつ。煙、火、爆発、砂、雪、インスタンスなどのシミュレーションを実行し、簡単かつ迅速に本格的なカスタムエフェクトを作成できる。
【検証2】レンダリングスピードはどこまで変わる?
CPUは1.5倍、GPUは2.5倍もの差となった
Maya+ArnoldでCPUレンダリングとGPUレンダリングの処理時間を計測した。素材には検証1で作成したBifrostでの雪のシミュレーション結果を使用し、レンダリングの設定は「Sample 3/2/2/2/2」とした。こちらも検証1同様240フレームで実行。検証の結果、CPUレンダリングではDAIV FX-I7G70が「2時間5分」、DAIV FX-A5G50が「3時間16分」となった。検証1のCPUによるシミュレーションと同じく約1.5倍の差が出たことから、こちらも順当にCPUの性能差が結果に表れたかたちとなる。さらに、GPUレンダリングではDAIV FX-I7G70が「22分」、DAIV FX-A5G50が「51分」と約2.5倍の差となった。こちらもGPUの性能差が大きな差となって表れたと言える。
・Arnoldとは?
CG・映像業界で広く使われている標準的なレンダリング専用ソフトウェアのひとつで、レイトレーシング法によるレンダリングを採用する。CPUを使ったレンダリングと、GPUを使ったレンダリングの両方を選べる。
【検証3】GPUでのリアルタイムシミュレーションもチェック
GPUレンダリングを上回る結果で動きもスムーズ
GPU性能を検証すべく、最新のVFXツールである「EmberGen」を使用して240フレームの燃焼シミュレーションを実行。シミュレーション完了までにかかった時間を計測した。この検証ではDAIV FX-I7G70が「2分10秒」、DAIV FX-A5G50が「6分29秒」という結果となった。GPUレンダリングよりも大きい約3倍の差となり、よりGPUのパフォーマンスを発揮する検証だったと言える。さらに、画面上でオブジェクトの向きなどを変えた際の動きも、DAIV FX-I7G70ではスムーズだったのに対し、DAIV FX-A5G50ではカクつく印象だった。この点でもGPUの性能差が影響していると感じた。
・EmberGenとは?
2023年3月にリリースされた最新のリアルタイムVFXツール。炎や煙、爆発などのボリューメトリックな流体シミュレーションを、GPUベースでリアルタイムに生成できる。
自分のPCと比較できる「検証データ」を用意
検証データのファイルはこちらからダウンロード!
DAIVシリーズが学校にもオススメの理由とは?
POINT 1
「USB Type-Cが使いやすい」
筐体上面のフロント側にUSBポートがあるのだが、そこにUSB Type-Cポートも含まれている点は◎。USB Type-AとType-Cが揃っているため各種デバイスとの接続が容易だ。また、使用していないときはスライド式のカバーを閉じることで、ホコリやゴミの侵入を防げるのもポイント。
POINT 2
「可搬性に優れている」
初期装備として底面にキャスターを備えると共に、フロント上部が持ち手になっているため、持ち運びや移動を楽に行える点は非常に嬉しいところ。PC導入時の初期設定やソフトウェアの再インストール時などでは複数のPCを同じ場所に集めて作業するため、可搬性の高さはPC担当者にとって大きなメリットとなる。
まとめ
01、PCはCPU、GPU、メモリ、ストレージの役割を理解して選ぼう
02、CG制作ではCPUで約1.5倍、GPUで約3倍の性能差が出るケースも
03、DAIVシリーズは可搬性の高さや使い勝手の良さも魅力になっている
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/
TEXT_近藤寿成(スプール)
EDIT_山下一貴 / Itsuki Yamashita(CGWORLD)