©カラー
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』Blu-ray&DVD
キングレコードより発売中
気鋭の映像企画制作会社 スタジオカラーが進めるリモートデジタルアニメ制作環境
株式会社カラーは、2006年に設立された映像企画制作会社である。同社は、2020年春から新型コロナウイルスの流行が始まり、出社率を下げる必要が生じたため、画面転送型のリモートデスクトップソリューションを導入した。このリモート化に手応えを感じた同社は、さまざまな職務の人が自由に働き方を選べるようなリモート業務基盤を導入したいと考えた。
そこで同社が選んだソリューションが「VDI」(仮想デスクトップ)である。それも単なるVDIではなく、GPUも仮想化できるvGPU対応のVDIである。実際のソリューションの提案や導入は図研ネットウエイブが担当し、2021年末に導入がほぼ完了した。現在は順次業務をVDI上に移行している最中だが、そのパフォーマンスや管理のしやすさは期待通りであり、今後は映像制作業務も移行していく予定だ。
システム導入の契機はコロナ禍による出社自粛
庵野秀明氏が代表取締役社長を務める株式会社カラーは、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズを制作し、「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」の制作にも関わった、映像企画制作会社である。映像制作業務は、その性格上、作業に関わる人員や必要なリソースの変動が激しい。
そのため、同社の技術管理統括を務める鈴木慎之介氏は三澤一樹氏とともに、2019年より柔軟にリソースを変更できる新たなシステムの導入の検討を開始した。
しかし、翌2020年春に、新型コロナウイルスの流行が始まり、出社率を下げるように要請されたことで、画面転送型のリモートデスクトップソリューションを急遽導入し、大半の業務をリモートから行える環境を実現した。「コーポレート系の管理職については、問題はありませんでした。クリエイティブ職の方は、さらにモデラーとアニメーターに分けられますが、モデラーの方々もそんなに問題ありませんでした。シビアになるのは動きのあるアニメーションですね。だからアニメーションの方々に関しては会社に出社して作業をしてもらっていました。」(鈴木氏)
画面転送型のリモートデスクトップソリューション導入が一定の効果をあげたことで、鈴木氏と三澤氏は、さまざまな職務の人が自由に働き方を選べるパフォーマンスの高いリモート基盤を導入したいと考えた。
リモートでの作業については、セキュリティの担保も重要だと、鈴木氏は語る。「映像制作全般に言えることですが、上映前や情報解禁前の制作物の取り扱いというのはすごく慎重に考えています。漏れてしまってはとんでもないことになりますので。セキュリティに関しては力を入れて取り組んできました。」
リモート制作環境を実現した NVIDIAの仮想GPU技術
そうした同社の要望に応えて、図研ネットウエイブが提案したのが、NVIDIAの仮想GPU技術 「NVIDIA vGPU」を採用したVDI環境の構築である。
鈴木氏は以前からVDIについて関心を持っていたという。「なぜ仮想デスクトップを選んだかというと、画面転送型のソリューションをどうしても使いたかったからです。我々は3DCGを取り扱っていますが、その3DCGを作るにはいろいろなソフトウェアが必要になります。
会社で業務を行う際は、ライセンスは会社だけ持っていればよかったのですが、自宅や外出先でも作業を行うことになった場合、そのライセンスを拠点ごとに用意するのはとてもコストがかかります。それなら、画面転送で会社にある仮想デスクトップに対してリモート接続するソリューションのほうがコストパフォーマンス的にもよいと判断しました。」(鈴木氏)
また、作業によってデスクトップ環境を分けたいという要望もあり、管理面でも仮想デスクトップの利便性は高い。
要望を受けて、図研ネットウエイブが提案したシステムは、システム拡張が容易な Dell Technologies の HCI (ハイパーコンバージド インフラストラクチャ)サーバーに、仮想化ソフトとしてVMware vSphereを採用したものだ(下図参照)。
サーバーにはNVIDIAのハイエンドGPU「NVIDIA A40」が搭載されており、NVIDIAの仮想GPU 「NVIDIA vGPU」と組み合わせることで、GPUメモリを仮想的に分割してGPUコア性能は最大限効率的にシェアしながら、複数台の仮想デスクトップで仮想GPUを利用できる。仮想デスクトップツールとしては、VMware Horizonが採用されている。
A40を選んだ理由について、三澤氏は次のように語った。「保守期間が5年ありますので、その間性能が不足しないように、それに見合った性能のものを選びました。」(三澤氏)
変革する映像制作業界クリエイティブ バーチャルワークスペースが秘める可能性
図研ネットウエイブが提案した仮想基盤は、2021年末に導入が完了し、順次業務をVDI上に移行しているところだという。「まずは、マシンスペックを必要としない管理マネージメント系、我々のシステム系が先行してVDIに移行しました。次に、Adobe Creative CloudなどもVDI上で利用を開始してクリエイティブな作業にも十分に使える感触を得ています。移行もスムーズに進んでいて、利用者からの反応も良好です。」(鈴木氏)
今回のシステムの導入は、クリエイター、マネージメント、エンジニアのそれぞれにメリットがあったが、中でも大きいのがエンジニア、管理者側のメリットだと二人は声を揃える。「PCのキッティングが不要で、セキュリティも担保されており、リモート作業ができるということを考えると、我々管理者のコストを大幅に下げるという意味では最高のソリューションだと思います。」(鈴木氏)
「物理パソコンだと、在庫があればキッティングして設置できるのですが、今のこの御時世ではパソコンもなかなか入ってこず、最大で3ヶ月くらい待ってもらう状況でした。VDIを導入してからは、数十分あればキッティングまで完了しますので、この時間と管理コストの削減は大きなメリットです。」(三澤氏)
今後は、クリエイターもVDI上で作業を行うように順次移行予定とのことである。クリエイターは、Mayaや3ds Max、Blenderなどのクリエイティブツールを使って業務を行うが、こうしたツールは処理の負荷が高く、GPUによって高速化される。カラーが導入したVDI環境には、NVIDIAの仮想GPU技術が採用されているため、こうしたクリエイティブツールが快適に動く環境を実現できる。カラーは、本システムの本格導入の前に試験的な導入を行ったが、その際、行ったクリエイティブツールの動作検証においても、十分満足できるパフォーマンスが得られたという。
鈴木氏は今回実現した「リモート制作環境」の次の目標として、「レンダリングを行うレンダーノードの統合と集約化」とリモートでの共同作業を加速する「クリエイティブ バーチャルワークスペースの実現」の二つを挙げた。「我々は映像を作る際にレンダリングを行いますので、その処理を行うレンダーノードを保有していますが、その数も変動させたいという要望があります。
NVIDIAのソリューションとして、GPUを複数枚搭載したGPUレンダーサーバーがあると伺っております。GPUレンダーノードを統合、今回採用したvGPUを活用して、時期によってはリソースを変動することも可能です。そして、今回のvGPUのVDI環境と一緒に利用すれば、リモートでデータを外部に出さずにより高速にレンダリングを行えるようになると思います。絵作りでは一度出してみて、それを見てまた直すということが多いので、時間短縮により制作期間中に何度もレンダリングを実行できる機会を増やせるということがとても重要です。それによってクリエイティブのクオリティが向上します。」
クリエイティブ バーチャルワークスペースは、リモートで複数のクリエイターが同じ仮想空間に入り、リアルタイムで共同作業を行うというものであり、NVIDIA Omniverseを利用することでそうした環境が実現できる。「日々クリエイターと話をしていますが、現在は分業制にしていることが多く、それぞれのパートを繋ぐツールも開発はしていますが、それがすごく効率がいいかという議論もあります。やはり、仮想空間にクリエイター達が入って、リアルタイムにコラボレーションして視覚的に作り上げていけるというのはとてもいいなと思います。」
バーチャルワークスペースは色々な業界で使われるようになってきており、アニメ業界、映像制作業界でも注目を集めている。そこには大きな可能性があると鈴木氏は語る。
「アニメ業界、映像制作業界では、どういうイメージでこういったものが、使えるようになるのかとても興味がありますので、業界の人たちと一緒に推進していきたいですね。」
導入ソリューション
NVIDIA vGPU(仮想GPU)について
ケーススタディ|スタジオカラー
https://resources.nvidia.com/ja-jp-grid-case-studies/khara-ss
ケーススタディ|日本電子専門学校
https://resources.nvidia.com/ja-jp-grid-case-studies/jec-ss#page=1
ケーススタディ|スクウェア・エニックス
https://resources.nvidia.com/ja-jp-grid-case-studies/square-enix-ss
ケーススタディ|トヨタ自動車
https://resources.nvidia.com/ja-jp-grid-case-studies/toyota-ss#page=1
ケーススタディ|名古屋市役所
https://resources.nvidia.com/ja-jp-grid-case-studies/nagoya-city-ss#page=1
公式サイト:NVIDIA vGPU(仮想GPU) について
https://www.nvidia.com/ja-jp/data-center/virtual-solutions/
公式サイト:NVIDIA ブログ
https://blogs.nvidia.co.jp/
取材協力
株式会社カラー https://www.khara.co.jp