高品質なイラストを動かせる快感
Live2Dによる映像表現の進化を追う!

「劇場アニメーション向けクオリティ」を到達目標のひとつとして掲げ、日進月歩で進化するLive2D。
このたび、Live2Dを用いて映画制作を目指すためのプロジェクト「TR3」がスタート、その最初の成果である『CubismM Movie demo』がリリースされた。本作は同社のツール開発チームとクリエイティブチーム「Live2D Creative Studio」による共同体制によって産み出されている。同社のクリエイティブの進化や目標の変遷、そして「TR3」にかけた思いについて伺った。
Live2D Creative Studio 発足の経緯と大いなる目標
VTuberやアプリゲーム、サイネージ広告などで幅広く使用され、もはやイラストを動かす技術の代名詞となったアニメーション技術「Live2D」。2Dイラストをパーツ分けし、レイヤーごとに変形・動作をつけることで、緻密な描き込みの状態のままキャラクターを動かすことができる。作画アニメーションとも3DCGとも異なるこの手法は、その技術の独自性ゆえに使い方自体を自社で広める必要があった。Live2D社の代表取締役で開発者の中城哲也氏は「Creative Studio(以下、CS)のデザイナーが実際にLive2Dを使って映像作品を生み出すことで、Live2Dにはどんな機能があるのかをユーザーの皆さんにデモンストレーションしていこうと考えました」と、発足の経緯を話す。
CSに在籍するスタッフは現在43名。これは Live2D社内においてエンジニアに匹敵する人数だ。ここからもデザイナーにエンジニアと同じだけの力を入れていることが伺える。CSは4つのチームに分 かれており、映画制作に向けた研究・トライアル作品制作、PVやアニメーションの受託制作を行なうのが “Movie Team”だ。Live2Dモーション監督を務める雲井聖司氏は、「CSのメンバーはいずれもアニメやゲームといったものづくりが好きで新技術への情報収集にも積極的で情報交換も活発です。僕自身も手描きのアニメ業界出身で、この新たな技術を活用し た既存にない表現を目指して参加しました」と話す。
映像制作をする企業は世界中に数多くあれども、その根本技術から開発している企業となると数が限られる。中城氏がロールモデルとしているのがピクサーだ。「ピクサーも技術者をトップに据え、自らレンダリングソフトを開発しながら映像制作を進め、最終的 には映画をつくり上げました。私たちも独自の技術を開発して映画制作を目指すという点で、彼らへの憧れがあります」。映画制作によってLive2Dの表現力を高め、技術を理想に近づけることができる。これは創業時から構想していた「大回りの最短ルート」だったという。中城氏は「Live2D制作映画でのアカデミー賞受賞を目標としています。そうすることでソフトウェアとしても世界標準を目指すことができます。日本発で両方とも獲れたら素晴らしいことになります」と、大いなる野望を語る彼の眼差しは真剣だ。
Live2D社では、

Live2D社は国内外のゲーム・アプリ制作に利用される「Live2D」を開発・販売している。これまでにない全く新しい映像表現でのアニメーション作品制作に取り組んでおり、「Live2D」による長編アニメーション映画の制作プロジェクトも進めている。
進化と共にあった作品
『Beyond Creation』
Live2D開発の思いを込めた 作画アニメ的な映像演出
CSのオリジナル短編アニメーション第2弾『Beyond Creation』は、中城氏が Live2Dの開発に込めた「描きたいように描き、動かしたいように動かす」をテーマ に、CSのスタッフがそれぞれアイディアを出し、当時のCS約20人が総出で半 年間で制作した。前作から大きく変わった点も多く、キャラクターはシンプルなものから、少年少女のポップな作風へ。また、従来のLive2Dのフルアニメーション表現から、コマを抜くことで作画アニメのようなタメツメの動きの気持ちよさ を表現。さらに、“振り向き”のような可動域が大きい動きをつくるなど、技術的にも大きな挑戦が行われ、作画アニメ業界にも大きくアピールした。
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スケッチをしている少年が謎の少女から力を与えられると、絵が紙から飛び出して具現化する。さらに空中に描画できるペンを手に波や雲を描き出し、描いた絵を動かす楽しみを覚えていくなか、二人は心を通わせていく。 -
少年はペンで彼女に翼を授け、完成したスケッチの鳳凰が紙から飛び出し羽ばたくさまを、彼女と共に追いかけていく。
少年はユーザーの象徴であり、彼に力を与える少女はLive2Dを示している。
『ヒーローベータ』
仮想アニメ映画のCMは 映画制作に向けた第一歩
従来ではWeb中心のPR活動を行なってきたLive2Dが、より広範囲の反応を獲得するために制作した30秒の自社テレビCM。CM用の企画ではあるが、Live2Dが目指す長編映画に向けたトライアルという側面も大きく、本格的なアニメ制作のスタイルをとっている。キャラクターデザインと世界観構築に外部イラストレーターの南野あき氏を迎え、『BeyondCreation』よりも一気に密度を 高めた映像づくりを目指した。また、商業作品と同様に納期を設定、実際の制作案件を想定し、そのスケジュール内で完成させている。さらにこの映像は映画館でのCMとしても上映された。「自分たちのつくった映像がスクリーンの規模で映し出された経験は映画制作に向けた大きな一歩でした」(雲井氏)。
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幼馴染として育った栄斗と芽衣子。高校生になり新たな環境に馴染めずにいた栄斗の前にある日、パラレルワールドから来たもうひとりの“メイコ”が現れ、平行世界を崩壊から救う助けを求める。 -
南野氏のイラストはブラシの質感を残したようなグラデーションがかかっており、それがレイヤー状になっている複雑な構造。Live2Dエディターの新機能である高度で複雑なマスク処理をフル活用し、原画をそのまま映像に再現した。

『つながる、ひろがる』
Live2D公式マーケット「nizima」ユーザーをアニメ化
ユーザーがオリジナルイラストやLive2Dの自作アセットを販売・オーダーメイドできるLive2D公式マーケット”nizima”のプロモーション映像。ユーザーがLive2Dの魅力に出会って制作を楽しむようすを実際のLive2DのエディターやnizimaのUIを画面に登場させて直接的に描いている。映像制作においてはLive2Dの全社的なブランディング構築を目指し、nizimaチームの意見を取り入れながらCSで制作を行なった。
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主人公が描いたイラストがLive2Dによって動き出すというお馴染みの展開に加え、それをnizimaでアセット販売し、購入したユーザーがVTuberとなって活躍するという、nizimaで実際に起きていることをLive2Dによって再現したプロモーション映像。 -
クリエイターの主人公が直面する、創作における産みの苦しみから、完成して動き出すというLive2Dならではの喜び、さらにnizimaでの展開をテンポよく表現している。
『CubismM Movie demo』の制作とワークフロー
映画に向けた「CubismM Movie demo」での 達成感と次なる目標とは
『TR3』は、社内スタッフを中心に据えたLive2Dを用いて映画制作を目指すためのプロジェクトだ。「CubismM Movie demo(Step1)」と題された本作は、まずは効率を度外視して達成すべき品質の映像づくりを目指した。こうした映像制作を行なう理由について、中城氏は「Live2Dは多彩なイラスト表現に対応できますが、どんな表現でもできる機能を開発するのは効率がよくありません。我々が当面の映像制作で達成すべき表現品質を定めることで、必要な機能の開発に絞って最大限効率化を図ることができます」と、映像制作の目的を語る。
プリプロに際してはLive2Dらしいイラスト表現に「アニメらしい動きをしっかりつけること」を前提にキャラクターデザイン案や内容について社内の全部署から募集し、さらに著名なアニメ・ゲームスタジオからもアドバイスを貰い、絵コンテ、レイアウト、色彩設計などを社内のメインスタッフで詰めて決定した。映像表現については、効率的でありながらも見応えのあるリッチな動きを目指した。アニメーション工程と質感工程の分業化がその一例。「最初に線画でアニメーションを付け、それに対して陰影工程が着色を行なう。質感工程にはスムースメッシュといった複雑な作業もあるため、専門スタッフを置いた方が制作効率が良くなると考えました」(雲井氏)
「『Step1』ではLive2Dが得意なイラスト表現と、Live2Dが苦手とする自由な動きを両立できたと思います」と、総括する中城氏。つづいて開発中の「Step2」ではある程度ストーリーをもたせてより作品らしく仕上げる予定だ。「TR3のように映像向け機能を強化しており、スタジオとしてもアニメーション制作に力を入れていきます。Live2Dだから実現できる高品質なイラストが動く映像作品が様々な企業、クリエーターから産み出される土壌を作っていきたいと考えていますので、ぜひアニメーションやPVなど映像でもLive2Dを活用いただきたいと思います」(中城氏)。
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キャラクターデザインは約2ヶ月かけて行われた。ベースデザインは入社1~2年の若手スタッフが上げて、そこから社内のスタッフでブラッシュアップしていった。ビジネス的な達成も考慮に入れ、人気絵師などのマーケティングもしてデザインされている。厚塗り風の塗りや左右非対称デザイン、プリーツ細かめのスカートなど、従来のLive2Dモデルでは技術的・コスト的に避けていた要素を敢えて入れ込んでいる。 -
黒い線と白い塗りの状態。アニメーション担当者はアニメーション作業だけに集中するための分業体制をとっており、この「主線」の段階で動きをつけている。瞳はテクスチャを使用している。
Live2Dの真骨頂:アニメーション
机に突っ伏している状態から顔を上げ、指で目を擦り髪を撫でながら立ち上がって動き出すという長回しのファーストカット。いくつもの日常芝居を盛り込んだ、コストをかけたカットといえる。つづいて、奥に向かって歩いた後に振り向く動きも丁寧に描かれている。その後、手前に向かって駆け出してくるアクションは遠近感が難しいため、通常のアニメの作劇であればカット割りで避けられがちだが、見事につくりきっている。
『CubismM Movie demo』へのこだわりを実現する機能
スムースメッシュ
滑らかな陰影表現を可能に 実験機能ながら採用を決断
陰影をスムーズに動かす新機能のスムースメッシュは『CubismM Movie demo』における最も重要な機能のうちのひとつで、現在も開発が進められている。陰影の処理は複雑で、「これは実験機能だったのですが使用できるかどうかで制作の品質にかなりの違いがでると感じたため、開発に無理を言って使わせていただきました」(雲井氏)。イラストなどで多用される陰影の階調が深い絵を動かした場 合、従来のテクスチャー技術ではどうしても服に貼り付いているように見えてしまっていたが、この機能を使うことで大きく動かしても劣化することなく、滑らかなグラデーションの作成が可能となった。
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キャラクターの動きに合わせて服のシワの形や色を変化させることができるスムースメッシュ。まるで3DCGで立体構造を計算したかのように自然な動きで、シワの形状やグラデーションの変化を描くことができる。 -
腰の動きと連動したシワの寄り方や肘を張った場所の影の付け方などセーター特有の柔らかさをイラストの質感のまま表現できており、この絵が元々は1枚のイラストをLive2Dで動かしていると忘れてしまいそうだ。
同期編集機能
モデリングとアニメーションを同期させ作業を効率化
従来はモデルをつくってからアニメーションの工程に入る手順を執っていた。だが、モデリングで基本的なパラメータをつくっても、いざアニメーション作業に入ったときに表現上必要な動きの不足があると、モデリングに戻ることになる。その手間を省くために、モデリングとアニメーションが同期する機能が開発された。「アニメーション制作を主軸に置きながらモデリングを作り込めるようにと開発しました」(佐藤氏)。3DCGの制作スタイルと手描きの味わいの深さの両方の良さを備えた機能といえそうだ。
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アニメーターとモデラーのパラメータが同期することで、モーションをさせながら線の修正や陰 影付けが可能になった。
A 陰影の位置調整をしながら線画の気になる部分も同時に調整し、完成させた画像 -
B アニメーターでモーションを確認中の画像

フィルメッシュ
手描き感を出すための アートパス
主線・しわなどの線の表現も手描き感を出すために自在な表現ができるアートパス。その内側領域にメッシュを生成することができるのがフィルメッシュ機能だ。ここではスカートのプリーツを“表ひだ”と“陰ひだ”に分けて作成し、プリーツ内に設定することで、パタパタと展開していくようななびきをつくることを可能としている。
ブレンドモード
イラストの美しさをそのまま アニメーションが可能に
レイヤーのブレンド(乗算など)モードをさらに高度化した機能。レイヤーが1枚の状態でも画像の陰影や彩度を加工できるように調整レイヤー機能を搭載。また、光源による色彩の変化をつけるためのグラデーションマップなど、ペイントソフトにある機能を搭載し、イラストの延長線上でキャラクターをアニメーションさせることを可能にした。この機能はLive2D社のイベント「alive」にて既に発表されているとのことだが、一般公開されたあかつきにはユーザーには待望のアップデートとなりそうだ。

TEXT_日詰明嘉
EDIT_武田香織
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)