名古屋ならではの特色を強みとするソアズロック、作業効率を上げる制作環境と求めるPCとは?
製造業が盛んな愛知県名古屋市で、さまざまな広告映像の制作を一手に担うソアズロック。東京とは異なる地域性や文化を持つ名古屋では、CG制作の状況や顧客からのニーズなどにどのような違いがあるのか。ソアズロックの寺村太一氏にその土地ならではの特徴や独自の制作スタイルを教えてもらうとともに、同社がマウスコンピューター製のデスクトップPC「DAIV」を選ぶ理由なども聞いた。
名古屋特色のゼネラリスト経験が東京での評価に
CGWORLD(以下、CGW):最初に、貴社の概要を教えてください。
寺村太一氏(以下、寺村):名古屋はモノづくりが盛んな土地柄ですから、弊社の場合は広告代理店に加え、メーカーやサプライヤーとのやり取りが多い状況です。そのため、ゲームやアニメといったエンタメ系のコンテンツ制作よりも、企業の広告等にまつわるプロモーション映像の制作がメインとなっています。そういった点を踏まえると、カテゴリー的にはCG制作会社というよりも映像制作会社に近く、その中にCG制作部門が設けられているイメージです。
社員数は12人で、自分を含めたそのうちの3人がCGデザイナーになります。なお、コロナ禍におけるリモートワークの状況は半々といった感じでしょうか。ただ、CGチームはロケなどで実際に出社する必要性はほとんどないので、概ねリモートワークでの作業となっています。
ソアズロック
愛知県名古屋市に本拠地を構える映像制作プロダクション。モノづくりが盛んな土地で、CMや商品、サービスなどのプロモーション映像をメインに制作する。映像の企画から撮影、編集までをトータルに手掛けるほか、CGとモーショングラフィックスを専門とするCG制作部門を社内に有する点が特徴だ。
http://soarzrock.co.jp/
CGW:顧客にメーカーやサプライヤーが多いというのは、名古屋ならではの特徴ですね。一方で、制作会社側にも、土地ならではの特色みたいなものはあるのでしょうか?
寺村:弊社も含め、名古屋の広告CG制作会社は“分業化されていない”というケースが非常に多いと感じます。例えば、東京でゲームやアニメを作っている会社では1つの作品に多くの人が関わっているため、モデラーやアニメーター、エフェクターなどが分業制になっていると思います。しかしこちらでは、そもそもの話として1つの案件に携わる人数が少ないので、CG制作に関連する作業の多くを1人でこなすケースがほとんどです。そのため、名古屋で広告系のCGデザイナーといえば、ほぼゼネラリストと言えるでしょう。
CGW:携わる人が少ないからこそ、必然的に何でもできないと仕事が回らないというわけですね。となると、映像づくりのワークフローでも、手掛ける領域は広いのでしょうか。
寺村:絵コンテはもちろん、その前段階の企画段階から入ることも多くあります。その点でいくと、弊社は制作会社の中にCG制作部門があるので、「CGをからめた企画を提案しやすい」という点が、強みの1つになります。また、弊社の場合はCGデザイナーが映像の作り方も理解しているので、CGデザイナーがプレビズを制作し、事前にシミュレーションをしてから実際の撮影に臨めるという強みもありますね。
CGW:そういった強みを活かして、東京の企業とやり取りすることもあるのでしょうか?
寺村:それはあります。CGデザイナーが1人で幅広い領域を柔軟にこなすからでしょうか、東京の企業には「レスポンスの速さ」などを高く評価していただけている印象です。もちろん、多くの人手と時間をかけたハイクオリティな仕事と比べれば見劣りする点もあるでしょうが、スピーディかつリーズナブルでクオリティも兼ね備えた仕事を提供できる点や、デザイン等も含めて幅広く提案できる点なども重宝がられていると感じます。
CGW:逆に、名古屋だから困ることなどはありますか。
寺村:弊社の場合は可能な限り内部で完結するようにしているのですが、いざというときに「仕事を頼める協力会社が少ない」という問題は1つあるでしょう。また、「人材不足」も苦労している点の1つです。もちろん、名古屋にも専門学校はたくさんありますし、働き口も決して少なくはないでしょう。しかし、学生の大半は卒業すると上京してしまうほか、学生の興味がどうしてもアニメやゲームに偏っているため、広告系のCGデザイナーを育てるのが難しいというのも課題として感じますね。
CGW:たぶん業務内容はそれほど変わらないはずですが、アニメやゲームの業界には憧れても、広告業界にはなかなか憧れてくれないと・・・。
寺村:CGは実写と違い、制作工程のすべてを1人でやることが出来る世界です。個人的にも、1つの作品に対して「企画からデザインまで、すべてを自分がやりました」というプライドを持ってやっていますし、そこに面白さがあると感じています。そういった点にも魅力を感じてくれれば、と思う限りです。
あえてCinema 4Dを選択するとともに、作業効率を上げる環境も用意
CGW:メーカーやサプライヤーの案件を1人でこなすことが多いためゼネラリストがとのことでしたが、DCCツールは何を使っていますか。
寺村:3DCG制作のメインとなるのはCinema 4Dで、その他に2D用としてAfter Effectsも使っています。3DCGの制作だと、普通はMayaや3ds Maxを選ぶケースが多いでしょうし、名古屋でも3ds Maxを使っている会社は多いと思います。しかし、先ほども話したように弊社の場合は幅広い作業を1人でこなすため、グループワークでの作業がほぼありません。そういった背景も踏まえて、ゼネラリストが短時間でハイクオリティな映像を制作することに長けたCinema 4Dを、あえて選んでいます。
さらに、そういった部分はレンダラー選びにも共通しています。例えば、弊社はGPUレンダラーをメインに使っているのですが、3ds Maxを使っているのであれば一般的にArnoldやV-Rayを組み合わせるケースが多いと思います。しかし、弊社は3ds Maxではないので、作業効率の観点からレンダリング速度が速いOctaneRenderとRedshiftを採用しています。
こういった選び方ができるのも、1人のゼネラリストが案件のほとんどをこなすソアズロックなればこそでしょう。他のデザイナーなどに気を使うことなく、細かな仕様までも自分たちの都合を優先して決められることが、作業時間の短縮につながっているわけです。そういった点も、ソアズロックの強みになるのかなと感じています。
CGW:そういったDCCツール選びは、まさにソアズロックならではという感じがします。そういった点も踏まえて、作業に使用するPC選びのポイントはどういった点にあるのでしょうか?
寺村:まず、3Dと2Dの両方の業務に携わるので、どちらにも対応できる構成が前提となります。例えば、3Dでは先ほども少し触れましたが、基本的にGPUレンダラーしか使わないので、GPU性能を意識します。また、2Dやコンポジットではストレージの転送速度がポイントとなるので、出来るだけ転送速度の速いストレージを選択。さらに、プレビューなどではメモリも必須なので最低でも64GB、可能であれば128GBを選ぶようにしています。このあたりが譲れないポイントですね。
あと、これは後付け装備になりますが、弊社では社内に10GBASE-T(10GbE)のLANネットワークを構築し、NASを使ってデータを共有していることもあり、10GbE対応LANカードも必須となります。
CGW:10GbE対応LANカードを利用する目的は何でしょうか?
寺村:最大の目的は、作業効率や生産性の向上です。例えば、弊社にはCGチームの作業部屋以外に編集室もあるのですが、作業ファイルは10GBレベルになることもあるので、従来は外付けストレージを使って作業ファイルのやり取りを行っていました。しかし、現在はNASに作業ファイルを保存してLANネットワーク経由でアクセスできるようになったので、作業効率は格段に上がりました。さらに、編集途中のシークエンスを作業部屋にいるスタッフに確認してもらったり、最終的なブラッシュアップをお願いしたりすることもできるので、そういったスムーズなやり取りができる点も非常に助かっています。
また、複数のCGデザイナーが1つの案件を共同で作業することもないわけではないので、そういった際に作業ファイルをやり取りすることなく、NASに保存したまま各自が直接アクセスして作業できるのも魅力です。正直、これで作業時間を圧倒的に短縮できているので、この仕組みがなかったらもう仕事にならないでしょう。
CGW:例えばの話ですが、同様の仕組みをクラウドで行うことは難しいのでしょうか。
寺村:ファイルサイズが数GBになるので、現状の転送スピードではまず不可能です。特に動画ファイルでは読み込みスピードが足らず、仕事にならないでしょう。この点については、LANネットワークに一般的な1000BASE-Tではなく、上位の10GBASE-Tを選んでいる点も同様です。
ちなみに、NASには自動バックアップ機能があり、すべてのデータがクラウド上に自動でバックアップされるようになっています。そのため、万が一NASにトラブルが起きても大丈夫なように対策を取っています。
CPUでAMD Ryzenを選べる点や持ち運びがしやすい筐体がポイント
CGW:そういった環境を用意しつつ、現在はマウスコンピューター製のデスクトップPC「DAIV」を利用しているとのこと。マウスコンピューターやDAIVを選ぶ理由は何でしょうか。
寺村:1つは、やはり「コストパフォーマンスの高さ」です。もちろん、DAIVシリーズ自体もコスパは高いですが、個人的なポイントは「CPUでインテルのCore iシリーズだけでなく、AMDのRyzenシリーズも選択できる」ということ。Ryzenシリーズはコストパフォーマンスに優れているので、この点はとても評価しています。
ちなみに、CPUに関しては「シングルコアの性能」にも注目しています。というのも、例えば2Dの作業ではAfter Effectsを使っていますが、Adobe製品はマルチスレッドに対応していないケースもあるため、シングルコア性能に優れている方が有利だからです。
CGW:コスパ以外には何があるでしょうか。
寺村:弊社の場合は、基本的に「導入したPCをほぼそのままのスペックで使い切る」というケースが多くなっています。さらに、PCのカスタマイズやメンテナンスには「あまり時間をかけたくない」というスタンスです。そのため、購入時に選べるバリエーションの広さであったり、メーカー製PCとしての安心感、さらには充実したサポートも、マウスコンピューターの魅力だと感じています。
たぶん、PCに詳しい人であれば、カスタマイズ性の高さなども重視するのでしょう。しかし、弊社では使える時間を可能な限り「モノづくりに使いたい」という考えなので、そういった方向性にもマウスコンピューターは合致しているところがあり、DAIVを選んでいるという感じです。
CGW:「モノづくりのために時間を使いたい」という考えは素晴らしいと思います。では、筐体デザインなどで気に入っている点はありますか。
寺村:持ち運びを前提とした上部の取っ手や下部のキャスターは、まさに弊社が求めている用途に合致していると思いました。なぜなら、クロマキー合成で撮影をするような案件では、外部の撮影スタジオに作業用のデスクトップPCを持ち出し、その場で背景CGを合成してクライアントにチェックしてもらうこともあるからです。そういった意味では、筐体の壊れづらさという点も少なからず重視しているわけで、総合的な判断としてDAIVが一番だと感じています。
そのほか、ゲーミングPCのように光ることがなく、シックで落ち着いた筐体デザインも良いですね。弊社のクライアントは非エンタメ領域が多いので、ゲーミングPCだとどうしても“遊び感覚”みたいな雰囲気が出てしまいます。その点、ビジネス的な雰囲気をしっかりと出せる筐体デザインはとても有難く感じています。
導入したデスクトップPC「DAIV」の機材構成とポイント
ソアズロックが2021年に導入したDAIVは、第3世代Ryzenの最上位クラスCPU「AMD Ryzen 9 3900X プロセッサー」とミドルクラスGPU「AMD Radeon RX 5700」を搭載するデスクトップPC。Ryzen 9 3900Xは、高いシングルコア性能と12コア24スレッドの優秀なマルチコア性能を両立しており、最新モデルと比較しても見劣りしない実力を発揮する。さらに、コストパフォーマンスに優れている点も魅力だ。また、メモリは64GB、ストレージは1TB SSDを搭載し、総合的に見ても隙のないオールラウンドなスペックを兼ね備えている。
デスクトップPC「DAIV」
- 価格
約21万円
- CPU
AMD Ryzen 9 3900X プロセッサー(12コア / 24スレッド / 3.80GHz /最大ブースト・クロック4.60GHz / L3キャッシュ64MB)
- GPU
AMD Radeon RX 5700
- メモリ
64GB
- ストレージ
1TB SSD
- OS
Windows 10 Home 64bit
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)