日産自動車の原宿デザインスタジオ・クリエイティブボックスがPC構成を公開!24K・60fpsの動画コンテンツ制作を支える制作環境とは
日産自動車の関連子会社デザインスタジオとして、コンセプトカーのデザインから広報グラフィックまで幅広いデザイン制作を担うクリエイティブボックス。「ラボラトリー(=実験室)」としての役割も担うという同スタジオは、現在制作環境の中心にNVIDIA RTX™ 6000Ada世代を搭載したマウスコンピューターのワークステーション「DAIV FW-X5N60」を据え、さらにNVIDIA® GeForce RTX™ 4090搭載機「DAIV FX-I9G90」を7台導入している。
革新的なデザインを生み出すクリエイティブボックスがどのようなこだわりを持って制作環境を構築しているのか、デザイナーの澤 卓哉氏と姫野翔太氏に伺った。
株式会社クリエイティブボックス
世界に5ヶ所ある日産自動車のデザインスタジオのひとつ。1987年11月に設立され、現在約20名のスタッフが在籍している。自動車にかかわるデザインを主軸に、インテリアや建築など自動車以外のデザインも幅広く手掛ける。
www.creative-box.co.jp
革新的なデザインを生み出す、「実験室」
CGWORLD(以下、CGW):クリエイティブボックスというスタジオの特徴について教えてください。
澤卓哉氏(以下、澤):当社は、日産自動車のデザインスタジオのひとつとして1987年11月に設立されました。自動車の外装・内装・UIのデザインを手掛ける一方で、コンセプトカーのような“従来の自動車とは異なる価値観”を生み出す実験室としての役割を担っています。さらに、最新の技術を迅速かつ試験的に導入する役割も担っています。
CGW:おふたりが手掛けているコンテンツには、どういったものがありますか?
澤:私は現在、デザイン誌「AXIS」に掲載されている日産自動車の広告のデザインを担当しています。制作にあたって日産自動車から提案されるのは概念的なテーマのみで、明確な構図や完成形がリクエストされることはほぼありません。テーマからアイデアを膨らませ、毎月50~60案ほどを制作しています。そこから取捨選択した20~30案ほどを日産自動車へ提出し、決定稿へと絞り込んでいきます。
最終的に採用されるデザイン案は基本的にひとつなので、20案以上提出することが求められているわけではありません。ただ、自分自身が新しく取り入れてみたい表現や、これまでにない遊び心のあるデザインを提案するためには、その分多くのデザイン案が必要になります。新しい表現を追求していると、結果的に制作物の数が多くなっていくんですよね。
姫野翔太氏(以下、姫野):私は動画コンテンツの制作を主に担当しています。と言っても、一般的な16:9の動画制作ではなく、日産自動車グローバルデザインセンターのデザインプレゼンテーションホールで流すための24K・60fpsのプレゼンテーション動画をメインに担当しています。動画でプレゼンする車種については指定がありますが、その他の要素についてはクリエイティブボックスに一任されているので、動画のストーリーをイチから考えてつくっています。
姫野:プレゼンテーションホールのスクリーンは非常に巨大なので、「動画をつくる」というよりは、「空間をつくる」、「インスタレーション作品をつくる」という認識の方が近いかもしれません。一般的な16:9の動画よりも使える表現手法が限られ、「ホールの特徴をどうやって活かすか?」が動画制作における重要なポイントとなります。例えば、車が横からフレームインしてくる演出は、スクリーンが非常に横に長いため使えないので、それに代わるより印象的な表現を模索する必要があります。同じようなスクリーンを有する施設は他にないため、当然前例もなく、ホールの特徴を活かした表現を日々実験しているような状況です。
Unreal Engineの導入に伴い、“GPUレンダリング”が社内のトレンドに
CGW:今回、制作環境のリニューアルにあたりマウスコンピューターの「DAIV FW-X5N60」を導入されたと伺いました。まずは、リニューアルのきっかけについて教えてください。
姫野:きっかけのひとつとして、やはりデザインプレゼンテーションホール用の動画作成を手掛けるようになったことが挙げられます。24K・60fpsの非常に容量の多いコンテンツ制作のためには、どうしても高性能なデスクトップPCが必要でした。
澤:それともうひとつ、Unreal Engineを使いはじめたことも大きな理由として挙げられます。CGを始めた当初は日産自動車が使っていたVREDを導入し、5年くらい前にKeyShotへと切り替えたのですが、自動車だけではなくその背景のモデリングも自分で行いたい、これまでにない背景を制作したいというニーズが生まれたため、Unreal Engineを導入することになりました。新しい表現を突きつめていった結果、使用するツールが変わってきたという経緯があります。
VREDやKeyShotを使っていたころはレンダリングサーバーをレンタルで契約していたのですが、Unreal Engineを導入してからは“GPUレンダリング”が当社のトレンドになりました。そのながれを受けて、2023年の秋ごろに高性能なGPUを搭載する機材の導入に踏み切ったという背景があります。
CGW:リニューアルにあたって、「DAIV FW-X5N60」を選んだ決め手を教えてください。
澤:以前の制作環境における最上位のスペックの機材は、NVIDIA® RTX™ A6000のGPUを2基を搭載していたPCでした。新しい機材の導入にあたっては、NVIDIA® GeForce RTX™ 4090以上のGPUを搭載していることを条件に、安定性にも優れたデスクトップPCを探していました。そんなとき、関係会社さんからNVIDIA RTX™ 6000Ada世代が非常に良い!と聞き、まずはこのGPUを搭載していた「DAIV FW-X5N60」を1台導入しました。
実際に使ってみるとかなり好感触で、大量のパーティクルを発生させつつ静止画を撮る高負荷な作業においても、それまでに使用していたNVIDIA® GeForce RTX™ 4090搭載マシンより体感で1.5倍~2倍速く感じました。作業が快適になることを実感できたので、これしかない!と「DAIV FW-X5N60」の本格導入を進言しました。
姫野:振り返ってみると、納品がスピーディーであったことも本格導入に至った理由のひとつであったように思います。
CGW:現在は何台「DAIV」のPCを使用されているのでしょうか?
姫野:NVIDIA RTX™ 6000Ada世代搭載の「DAIV FW-X5N60」は澤の専用マシンとして1台、共用のレンダリングマシンとして2台の計3台を導入しています。また、私を含む各デザイナーの専用マシンとして、NVIDIA® GeForce RTX™ 4090を搭載する「DAIV FX-I9G90」を7台導入しています。CG制作業務に関わるPCのほとんどが、「DAIV」のPCですね。
制作環境をリニューアルしたことで、機材の管理および運用コストは3分の1以下になりました。レンダリングサーバーのレンタル費や、サーバー用のソフトウェアライセンス費を削減できたことが、大きな理由です。
トライ&エラーを可能にする性能と、秀逸な筐体デザインが魅力
CGW:改めて、おふたりが制作用PCに求める要件について教えてください。
澤:私の場合は作業の大半がトライで占められているので、安定性と処理スピードを重視しています。作業が効率化されることで生まれた時間で、また新しいデザインを制作することができ、クリエイティブの幅が広がります。「DAIV FW-X5N60」はハイスペックであるのはもちろんのこと、安定性も非常に優れているので、その観点でとても満足しています。
姫野:トライ&エラーを重ねるという点は私も同様なので、求めるポイントも基本的には共通していますね。加えて重視したいのは、メモリやストレージです。
私はUnreal Engineに加えてBlenderやRhinoceros、VRED、Alias、3ds Max、MayaなどのDCCツールを使い分けており、複数のアプリケーションを同時に立ち上げつつ作業をするシーンが多々あります。さらに24K・60fpsの動画データも取り扱うため、作業中のメモリへの負荷はかなり高いと思うのですが、現状の128GBの構成で困ることはほぼありませんね。
また、アセットを過去の案件から現在進行中の案件に持ってきて活用する、といったシーンが多いため、データをなるべく手元に確保しておきたいというニーズもあります。その点で、今のマシンのストレージは2TB SSD+8TB HDDという充実の構成でとても助かっています。
CGW:スペック以外で気に入った点はありましたか?
姫野:デザインがとても気に入っています。当社はデザインスタジオとしてオフィス内の雰囲気を大切にしています。シンプルかつシックなDAIVシリーズのデザインは、オフィスにマッチしていると感じています。
姫野:また、私はデザイナーとしての知見を活かしつつシステムエンジニアのような役割も担っているのですが、福岡県にあるサテライトオフィスへ「DAIV」を導入した際に、筐体の軽さのありがたみを痛感しました。以前使っていた機材は25kg以上あったのに対して、当社が導入したカスタム済みの「DAIV FX-I9G90」は約17kgとかなり軽量化されました。さらに、ケース本体にキャスターとハンドルが標準装備されているので、楽に移動できる点も非常に良かったです。
CGW:制作環境が最適化された現在の、クリエイティブボックスの展望について教えてください。
姫野:デザインプレゼンテーションホール用の動画制作は、さまざまな可能性を秘めた案件だと感じています。今後はさらに空間の特性を活かし、いままで使ってこなかったエフェクトなどの表現も取り入れ、良い意味で見た人をもっと驚かせるようなアイデアを提供していきたいです。
澤:当社は新規プロジェクトにおいて、驚きや感動を表現する「WOW」というキーワードを重要視しています。軽やかにトライ&エラーを重ねられる環境で、「WOW」と言ってもらえる革新的な企画やデザインをさらに生み出していきたいです。
クリエイティブボックスが導入した「DAIV FW-X5N60」と「DAIV FX-I9G90」のポイント
「DAIV FW-X5N60」は、優れたパフォーマンスと高い信頼性を両立するワンランク上のワークステーション。クリエイティブボックスではGPUのNVIDIA RTX™ 6000Ada世代をベースに、CPUは24コア48スレッドのインテル Xeon w7-2495X プロセッサー、メモリは128GB、ストレージは2TB SSD+8TB HDDの構成で導入している。クリエイティブボックスにおける、レンダリングをはじめとするさまざまな作業の効率化を実現している。
「DAIV FX-I9G90」は、CPUにインテル Core i9-14900KF プロセッサー、GPUにNVIDIA® GeForce RTX™ 4090を採用したハイスペック仕様のデスクトップPC。クリエイティブボックスでは「DAIV FW-X5N60」と同様メモリは128GBに、ストレージは2TB SSD+8TB HDD構成にアップグレードしている。
DAIV FW-X5N60 クリエイティブボックス採用構成
- CPU
インテル® Xeon® w5-2455X プロセッサー
- GPU
NVIDIA RTX™ 6000Ada世代
- メモリ
128GB(32GB×4)
- ストレージ
NWVe接続 2TB SSD+8TB HDD
- OS
Windows 11 Pro for Workstations 64ビット(DSP)
DAIV FX-I9G90 クリエイティブボックス採用構成
- CPU
インテル® Core™ i9 プロセッサー 14900KF
- GPU
NVIDIA® GeForce RTX™ 4090
- メモリ
128GB(32GB×4)
- ストレージ
NVMe接続2TB SSD+8TB HDD
- OS
Windows 11 Pro 64bit
お問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv
TEXT_近藤寿成/Toshinari Kondoh
EDIT_Mana Okubo(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota