『ぐでたまYoutubeチャンネル』や『PUI PUI モルカー』のコラボ動画などのキッズ・ファミリー向けショートアニメから『呪術廻戦』などの少年向けのバトルアニメまで、様々なテイストのCGアニメーションを手がけるモンスターズエッグ。ジャンルや規模の異なる案件を、徹底した制作・管理体制を敷くことで一律にマネジメントしており、スタッフの制作環境の向上に力を注いでいる。
そんな同社が「変える理由が見つからない!」と語るほど気に入っているのが、現在導入しているマウスコンピューターのクリエイター向けデスクトップPC「DAIV Z7」だ。その理由や導入経緯などについて伺った。
目指したのは、各クリエイターの“やりたいこと”に柔軟に対応できる環境
CGWORLD(以下、CGW):始めに、設立の経緯を教えてください。
奈良岡智哉氏(以下、奈良岡):弊社は、親会社であるギャザリングホールディングスを創業した弊社代表取締役CEOの戸田和宏と、同社のグループ会社レスプリ代表で、弊社取締役の清水香梨子、ドメリカの代表でもある弊社取締役の市川とともに2018年9月に設立。互いに仕事仲間で、サンリオのキャラクター「ぐでたま」のテレビアニメを一緒に手掛けてきたことから、「ぐでたまのようなカワイイ、ファミリー向けキャラクターアニメーション作品を手掛ける3DCGスタジオを作ろう」と思い立ち、モンスターズエッグが生まれました。
CGW:キッズ・ファミリー向けアニメを手掛ける目的で生まれたモンスターズエッグが、近年はなぜ少年向けアニメも手掛けているのでしょうか。
奈良岡:2020年~2021年に私や小林、石川などが入社したことがきっかけの1つだったかなと思います。というのも、我々は入社以前に少年向けアニメを多く手掛けていたので、対応できる仕事の幅を広げようと考えて入社後も少年向けアニメの案件も手がけるようになって行きました。そういった経緯が、ゲームやVTuberまで手がける現在の幅広いコンテンツ作りにつながっているのかなと思います。
奈良岡 智哉 氏
取締役/COO
スタジオのマネジメントとプロデュースを担当。
CGW:職場の環境づくりで気を使っている点などはありますか?
奈良岡:各クリエイターそれぞれのやりたいことに対して柔軟に対応できるような環境を整えたいと思っています。例えば、スタッフの意見が届きやすいよう気軽にディスカッションできるような組織づくりを意識していますし、可能な限りストレスフリーで働けるような作業環境づくりなども心がけています。その方が、各クリエイターが会社に対しても作品に対しても“クリエイティブに向き合える”と思うからです。
小林丸氏
リードアニメーター
ディレクションを担当。最近は、「PUI PUI モルカー」× 映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』スペシャルコラボ動画のディレクションと作業を一人で手掛けた。
石川大輔氏
CGI/シニアアニメーター
現在はテレビアニメ『呪術廻戦』のCGディレクターを担当。
小林丸氏(以下、小林):確かに、会社との対話はしっかりできていると感じます。魅力的な作品にも出会えていますし、制作で使っているPCにもまったく不満はないですね。
石川大輔氏(以下、石川):自分は、設定された基準をクリアすれば「自由にリモートワークを選択できる」という制度が助かっています。忙しくなると移動時間も無駄に感じるので、これは本当にありがたいです。あと、そういった働き方でも不公平感が出ることなく、それぞれの仕事をきちんと評価してくれている点も、働きやすいと実感しています。
モンスターズエッグ
「おもしろい何かが生まれるCGアニメーションスタジオ」と銘打って、従来のアニメーションスタジオの概念に収まらない個性ある組織を目指している。キッズ・ファミリー向けアニメや少年向けアニメも手掛け、人気アニメやゲームからVTuberまでの様々なデジタルコンテンツ・映像作品を生み出す。
ホームページ:https://monstersegg.jp/
X(旧Twitter):@monstersegg_jp
規模もジャンルも違う複数案件の業務を、ShotGridを用いて一元的に管理
CGW:幅広い案件を受けるにあたり、組織として工夫している点はありますか?
奈良岡:まず前提として、社名のモンスターズエッグの由来には「新しいもの、よくわからないもの(=モンスター)を生み出す」という意味が含まれており、「多彩なモンスターたちの卵をふ化させ育てていきたい」という思いがあります。そして、これを実現するためには規模の小さな案件も積極的に手がけ、様々なチャレンジに挑んでいくためのチャンスを増やす必要があるわけです。
ただ、会社の規模が拡大してくるとそう簡単なことではありません。そこで弊社は、規模の大きな案件でも小さな案件でも「同じ業務体制で作業できるような仕組み」を構築するため、CG映像制作に特化したプロジェクト管理用のソフトウェア「ShotGrid」を活用しています。
これにより、1人だけで作業する案件でも制作部がしっかりと管理できるようになったほか、仮にその案件がヒットして劇場タイトルにスケールアップした場合でも、スタッフの増員やサポートをスムーズに実現することが可能です。なぜなら、すべての案件の業務体制が共通しているため、各スタッフはどの案件でも同じ進め方で作業できるからです。そのため、手の空いているスタッフがいた場合も、そのスタッフは忙しい案件に対してスムーズにヘルプ対応できます。
CGW:そのほかに、ShotGridを活用しているところはありますか?
奈良岡:スタッフの作業工数管理にも使用していますね。例えば、各案件はすべてタスクで管理されており、各種タスクにはすべて工数が設定されています。そして、この工数にはそれぞれのノルマ基準が設定されており、その消化率などもきちんと数値で見える化されるようになっています。
先ほどの石川の話で出てきたリモートワークか出社かの“基準”はこの「ノルマ基準」のことで、この数値が一定値を超えていれば「出勤でもリモートワークでも自由に選べる」という仕組みになっています。逆に言えば、作業効率が悪くてノルマ基準を超えていないと基本的に“出社”となり、他スタッフとのディスカッションの機会が増え、学びへとつなげて行く仕組みです。このような制度は弊社ならではのユニークなポイントといえるでしょう。
石川:この作業工数管理のおかげで、例えば1カットに「どれだけ時間がかかったか」などもしっかり数字として出てくるわけです。印象値ではないので、そこは不公平感がないと感じます。
小林:“きちんとした数値で出てくる”という意味では、各スタッフの評価もしやすいですよね。
『呪術廻戦』では劇場タイトル並みのリッチな画作りに貢献
CGW:現在はテレビアニメ『呪術廻戦』で3DCGを手がけているそうですが、どの部分を担当しているのでしょうか。
石川:担当しているのは「背景」、「モブキャラ」、「車両」などです。背景では、作画のアニメ背景を3Dで動かすために「カメラマップ」という手法を導入し、リッチな映像に仕上げています。
奈良岡:『呪術廻戦』はメジャータイトルで視聴者の期待値も高いので、制作のMAPPAさんもチャレンジングな姿勢で作品づくりに臨んでいます。そのため、CG制作に求められるクオリティが劇場タイトルと同じレベルにまで上がっており、例えば通常のテレビアニメであれば2Dの止め絵がパンするようなシーンでも、3Dでしっかりと作り込んで動かすような“リッチさ”を求められています。
CGW:“リッチさ”を実現するために苦労している点は?
奈良岡:例えば、渋谷事変では地下鉄のホームなどで戦闘を繰り広げるのですが、MAPPAさんからは「戦闘による照明の破壊や、それによる明るさの変化なども演出でやりたい」という話がありました。そこで弊社の担当スタッフはみんなで実際に渋谷駅へと出向き、実物を直接見て様々なポイントを確認しながら制作しました。
石川:あと、背景では“手前にあって目立つもの”は作画で描いてもらっているのですが、手前でもすぐに見切れてしまうものや奥にあるものについては、基本的にモブキャラや車両などを3DCGできちんと配置しています。例えば、今回は渋谷スクランブル交差点を上空から見下ろすシーンがあり、こういった広範囲の風景を映すカットだと地上のモブキャラなどはほぼ“点”みたいな感じになっちゃうのですが、それらもちゃんと配置したんですよね(苦笑)。
モデリング、レンダリング・・・、あらゆる局面でパワーが求められる「GPU」
CGW:次に、実際のCG制作について教えてください。まず、DCCツールは主に何を使っていますか。
石川:基本は3ds MaxとMayaで、案件によって使い分けている感じです。あと、ぐでたまの24時間生配信チャンネルではUnreal Engineを使っています。
CGW:高負荷のかかる作業は何でしょうか?
石川:『呪術廻戦』だと、モブキャラを多数配置したカットですね。今回の場合だと、3ds Maxのパーティクルプラグイン「tyFlow」を使って1000人近く配置したら、さすがにファイルを開けなくなりました。
小林:『PUI PUI モルカー』の場合だと、実写版と同じようなフェルト生地の雰囲気をそのまま3DCGで再現しようとすると、それなりの負荷がかかるとは思います。ただ、今年制作した『PUI PUI モルカー』×映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』のスペシャルコラボ動画はトゥーン調の3DCGで、しかも1キャラクターしか登場していないので、それほど負荷は高くありませんでした。とはいえ、トゥーン調でも画面いっぱいに膨大な数のキャラクターが出てくるようなシーンを作るのであれば、それなりに負荷がかかると思いますよ。
CGW:作業用のPCについて、アニメーション制作でもっとも重視するスペックは?
奈良岡:まずは「GPU」ですね。3DCGツールでの作業はもちろん、After EffectsではGPUレンダリングなどで必須ですし、モデラーもSubstance 3D PainterでGPUパワーが求められるので、すべての作業で必要になってきています。
2番目は「メモリ」で、After Effectsのプレビュー表示や、カット素材を仮でタイムラインに並べて要素をそろえたりするときに必要です。ただ、最近はこれらの処理がかなり重くなっていると感じるので、そろそろ32GBから64GBにアップグレードするタイミングかなとも思っているところです。
最後は「CPU」ですね。CPUはもちろん速いに越したことはないのですが、最近は昔ほどスペック差が大きくないので、優先度は高くないです。
CGW:職種別でPCのスペック差はありますか?
奈良岡:ディレクターは、クライマックスのカットなどの重いシーンを開いて作業する必要があるので、そこに対応するために一番ハイスペックなPCを使ってもらうようにしています。それと比較して、モデラーはアセット単位で制作することが多く重いデータを扱う事がそこまで多くないため、ハイスペックなPCでなくとも作業ができています。あとは“予算とのバランス”ですね。
「変える理由が見つからない」DAIVだから、ストレスなく作業できる
CGW:そういったなかで、マウスコンピューターのDAIV Z7を導入したきっかけは何だったのでしょうか。
奈良岡:じつは、私が入社した2020年当時は、GPUにGeForce GT1030を搭載した他社のスリムPCを使っていました。当時手がけていたタイトルでは、アセット数やポリゴン数が少なく負荷的にも小さかったため、とくに問題なく制作できていたようです。
しかし、少年向けのより複雑なキャラクターを制作するにはスペック不足ですし、ゲーム案件でUnreal Engineなどを使うとなると、さすがにパフォーマンスが追い付かなくなって行きました。そこで、業務の幅を広げることも踏まえてスペックとコストパフォーマンスに優れたPCを探し、DAIV Z7を導入したという経緯があります。
CGW:DAIV Z7を選んだ決め手は?
奈良岡:「コスパ」「堅牢性」「格好良さ」の3点ですね。格好良さは、筐体のデザインをとても気に入っていますし、ちょっと無骨で頼りがいがある佇まいも好みです。
DAIV導入前に使用していた国内BTOメーカー製のPC①
- 価格
約23万円
- CPU
Core i7-8700
- GPU
GeForce GTX 1650 または GeForce GT 1030
- メモリ
32GB
- ストレージ
SSD 512GB+HDD 6TBまたは1TB
DAIV導入前に使用していた国内BTOメーカー製のPC②
- 価格
約31万円
- CPU
Core i7-9700KまたはCore i7-8700
- GPU
GeForce GTX 1650 または GeForce RTX 2070・3060
- メモリ
32GB
- ストレージ
SSD 512GB+HDD 6TBまたは1TB
CGW:DAIV Z7を選んだ決め手は?
奈良岡:格好良さは、筐体のデザインをとても気に入っていますし、ちょっと無骨で頼りがいがある佇まいも好みです。
CGW:コスパと堅牢性については?
奈良岡:他社のPCと比べて、コスパは高いと思います。そもそも、以前のスリムPCと同程度の価格でDAIV Z7を導入しており、現在でもほぼストレスなく使えているという点でもかなり優秀でしょう。
堅牢性についても、とにかく壊れないので助かっています。動かなくなるような故障はまだないですし、一番古い約2年半前のモデルもまったく問題なく動いていますからね。しかも、ディレクターが一番古いDAIV Z7でも満足していたりするので、スペック的にも品質的にも申し分ないレベルだと思います。これだけの魅力があると、他のPCに変える理由が見つからないですよね。
CGW:ちなみに、DAIV Z7導入後に、GPUとストレージが強化されたDAIV Z7-3060Tiを導入していますが、その理由は?
奈良岡:GPUは、単純にスペックの高い方が作業効率が上がるから。ストレージは、SSDが512GBだと不足気味になりつつあったからです。いろいろなアプリを適当にインストールしてそのままにしてしまうとどうしても容量が足りなくなってしまうので、サポート対応などを考慮して1TBに増量しました。
あと、HDDも2TBから8TBにアップグレードしているのは、ゲーム案件でそれだけの容量が必要になるからです。そもそも、ゲーム案件をやる際には基本的にすべてのデータをPC内にダウンロードしてから作業するのですが、最近のゲーム案件は5TB規模が当たり前。4TBではちょっと心もとないので、8TBを採用しています。
このように、必要な要件に応じてPCの構成を自由に選べる点も、DAIVの魅力の1つかなと思います。そういった様々な魅力があるからこそ、アニメ・ゲーム・VTuberといった幅広いジャンルや規模の異なるプロジェクトに対して、ストレスなく快適に取り組めていると実感しますね。
モンスターズエッグが導入した「DAIV Z7」と「DAIV Z7-3060Ti」のポイント
DAIV Z7とDAIV Z7-3060Tiは、優れたスペックとコストパフォーマンスを両立するデスクトップPCだ。DAIV Z7は、上位クラスのインテル第11世代CPU「インテル Core i7-11700F プロセッサー」やエントリークラスのGPU「GeForce RTX 3060」を採用。
DAIV Z7-3060TiはDAIV Z7のアップグレード版で、CPUはインテル第12世代「インテル Core i7-12700F プロセッサー」、GPUは「GeForce RTX 3060 Ti」を搭載。さらに、512GBだったSSDも1TBに増量され、使い勝手が向上している。なお、モンスターズエッグでは両モデルともに、ストレージのHDDを2TBから8TBにアップグレードすることで、データ容量の大きいゲーム案件にも対応できるようにしている。
DAIV Z7
- 価格
約24万円
- CPU
インテル(R) Core(TM) i7-11700F プロセッサー ( 8コア / 16スレッド / 2.50GHz / TB時最大4.90GHz / 16MB )
- GPU
GeForce RTX 3060
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
NWVe接続 512GB SSD+8TB HDD
- OS
Windows 10 Pro 64ビット ( Windows 11 Proのダウングレード権を利用 )
DAIV Z7-3060Ti
- 価格
約32万円
- CPU
インテル Core i7-12700F プロセッサー(12コア【Pコア 8、Eコア 4】 / 20スレッド / Pコア 2.10GHz、Eコア 1.60GHz / TB時最大4.90GHz【Pコア 4.90GHz、Eコア 3.60GHz】 / 25MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 3060 Ti
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
NWVe接続 1TB SSD+8TB HDD
- OS
Windows 11 Home 64bit
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)、EDIT_小倉理生、PHOTO_弘田 充