「プロダクションマネージャーは作品の出来を左右する。」PM職へのイメージに一石を投じるスピードが語る仕事術。PMはキャリアの自由な道筋を表現する新しい名称に
東京、名古屋、瀬戸を拠点としゲームからCGアニメ、VFXなどさまざまな著名タイトルに関わるCGスタジオの株式会社スピード(以下、スピード)では、今まで表にあまり出てこない制作進行/プロダクションマネージャー(PM)の働き方やキャリアパスについて業界を変える勢いで模索している。ふだんはなかなか詳細を知ることができないPMの仕事について、現状を踏まえたスピードの取り組みや思いが分かってきた。クリエイティブ業界を目指す人や現在クリエイティブ業界で働く全ての人にぜひ参考にしていただきたい。
東京、名古屋、瀬戸に3拠点
ゲーム『モンスターハンター』シリーズや、アニメ映画『すずめの⼾締まり』でのCG制作から、実写映画のVFXやミュージックビデオ、プラネタリウム映像、VR、⾃社企画開発のアニメ作品やアプリゲーム、メタバース、ライブ・eスポーツ演出、株式会社活劇座とのモーションキャプチャー事業・スタジオ運営など、CGを⽤いて⼿がける仕事がとにかく多彩で勢いを感じさせる。
スピードは⽩組でキャリアを積んだ岩⽊ 勇⼀郎⽒(プロデューサー/監督)が代表となり、出⾝地の愛知県瀬⼾市で、産学官連携の下、2012年に創業した。以降、拡⼤を続けて現在は東京、名古屋、瀬⼾を拠点とし、従業員数は40名を超える。約1000年前から瀬戸焼を作り続けるものづくりの街で、世界の有名キャラクターを手掛ける原型師との制作活動、創業前から行うICT人材育成事業等、地域に根ざした地方創生事業も積極的に⾏なっている。
「企画・演出などプリプロ段階から作業をすることが多く、完パケまでトータルで映像を作るのが弊社の特徴です」と語るのは取締役で映像ディレクター/VFXスーパーバイザーを務める森⽥淳也⽒。
ディレクターは8名ほどでCGデザイナーが約30名。また、同社の特⾊としてマネジメントの役割を重視していることも挙げられ、どんなに⼩さな案件であってもプロダクションマネージャー(制作進⾏。以下、PM)が⼊ることが普通なのだそうだ。森⽥⽒は「会社全体として案件が増えていますので、新しい仲間を積極的に探しています」という。
PMとは、カードゲームで「デッキ」を作る人
PMの仕事というと、制作全体の進⾏や管理の仕事といった漠然としたイメージでしか捉えきれていない場合が多い。経験者なら仔細に分かるかもしれないが、新卒や学⽣にはなかなか情報収集が難しい仕事でもある。そこで森⽥⽒にPMの仕事はどんなものかを訊ねたところ、意外な例えで話してくれた。
「カードゲームで例えましょう。映像の画⾯を作る⼈がカードだとすると、PMとはデッキを作る⼈だと思います。つまりそのデッキを使って仕事を回す役割ですか。たとえ1枚1枚のカードが強くても、デッキとしてバランスが悪かったら良いものにはなりません」(森⽥⽒)しかし実際には仕事内容が多岐に渡るため、外部に対してのビジョンがなかなか共有しづらく、応募が少ない傾向にあるという。
森⽥⽒は「業界全体として、この仕事の重要性と⾯⽩さの広報が⾜りていないところはあると思います。ディレクターやデザイナーが⽬⽴ちがちですが、『制作の⼈の⼒によって作品のクオリティも変わる』重要なポジションであるのは間違いありません。スケジュールやデータの管理、先⽅とのやり取りなど、作品全般を幅広く⾒通せる⼒が必要で、替えの効かない重要なポジション。能動的に作品を引っ張っていくクリエイティブな仕事です」と解説する。
同社2Dチームチーフ/アートディレクターを務める柴⽥晃宏⽒に尋ねると、「PMさんにはスケジュール管理を含めて助けられてばかりです。⾃分のキャパシティが⼀杯なときに、上⼿くヘルプを呼んできてくれたり、連絡事項をフォローしてくれたりと、上⼿に回してくれるPMさんがいると本当に助かります。スケジュールが遅れそうな時など、上⼿に尻を叩くのも技術がいるんですよ」と笑う。
森⽥⽒は「その案件の状況について⼀番詳しく、理解している⼈。現場の状況をリサーチして、危機を事前に察知してくれる⽔先案内⼈。だから、僕たちはPMに教えてもらっている側なんです」と、PMの仕事を解説してくれた。
アーティストだけじゃない。PMもクリエイティビティを発揮する仕事
篠原正樹⽒は、PM歴8年のキャリアで、現在は実写映画の案件に携わる。元々は一般大学卒業後、⾃動⾞の販売員をしていた。ゲームや映画は趣味と割り切っていたが、⼀念発起して名古屋のCG専⾨学校で4年間学んだ。在学中から先⽣の下、企業とのやり取りを⾏なうなかで制作の仕事の⾯⽩さに⽬覚めていったという。
「企画段階など、プリプロの⼯程から関わっているからこそ、プロジェクトの進め⽅や色々なことを決められる位置にいるのが⼤きいです。仕事が多岐に渡る分、頭を働かせてプロジェクトをつくっていく意識を持てます。クリエイティブなところにいる意識があります」とやり甲斐を話してくれた。
キャリア5年の⽵内かおり⽒は、CGデザイナーを⽬指して大学に通っていたが、先⽣からこの仕事の紹介され興味を持ったという。
「企業説明会で具体的に仕事内容を聞く中で実感が湧きました。⼈と話すことが好きだったので、もしかしたら向いているのかもと思い応募し、今に⾄ります。ゲームの案件に携わることが多いです。弊社オリジナルのアプリ『とりっぷセトまち〜君と歩く瀬⼾もの語り〜』では、私の発案で好みのキャラクターデザイナーさんを起用させていただきました」と話す。
続いて、実際の仕事の様子や実感について話を伺ったところ篠原⽒は「映画の仕事では、現場の⽴ち会いをすることが多いですね。ディレクターと現場に⾏った時はそのサポートとして、周りのスタッフに指⽰を伝えます。時にはカメラマンや監督さんに撮影方法を提案することもありますね」と、現場の作業を語ってくれた。今までイメージしていたPM職とは⼤きく違うクリエイティブへの関わり⽅に驚くばかりだ。
いわゆる管理の仕事については、先に挙げたプリプロの時点から関わっていることが大きい。「デスクワークやデータの受け渡しはもちろんですが、企画の段階から相談していただいて、最終工程のチェックバックまで行なっているので、1つの作品に向き合ってつくっている実感を強く持てます」と、熱意を持って語る。
篠原⽒は現在、故郷である徳島と東京を行き来している。デスクワークはリモートで、ノートパソコンとネット環境さえあれば、どこでも仕事ができるという。スピードは元々事業所が3箇所あったため、コロナ禍以前から会社としてリモートワークに対応していた。案件へのアサインは勤務地に関わらず、本⼈の希望と特性を考慮して⾏なわれる。また、より広く業界に触れて欲しいと考え、出向も積極的に行っている。篠原⽒も「映画が好きだという意志を伝えたところ、プロデューサーが案件を取ってきてくれまして、お仕事をさせていただいています」と話す。
他にもスピード社内には職種に関わらずオリジナル作品の企画募集がある。⽂化庁若⼿アニメーター育成事業「あにめたまご 2020」に採⽤された『オメテオトル≠HERO』(脚本・プロデュースは森⽥⽒、キャラクターデザインは柴⽥⽒)という作品がある。森⽥⽒は「PMが原案をつくり、それを社内で⾁付けしていきました。そんな形でクリエイトする瞬間も多々あるんです」と語った。
スピードでPMに向いているのは「自分の好きなものに情熱がある人」
現在、新卒・既卒、キャリア採⽤でも募集しているスピードのPM職。「向いている⼈はどんなタイプか?」と聞いてみたところ、森⽥⽒からはこんな答えが返ってきた。
「⼤きく⾔えば『⼈間⼒』が⼀番⼤事かなと。『何ができるか分からないけれど、この⼈、⾯⽩そうだな』みたいな⼊⼝が欲しいですね。オタク気質というか、ある分野に話を振るとやたら喋るような。やっぱりモノづくりですから、何かについて情熱がある⼈でないと拠り所が無くなってしまいます。仕事なので⼤変なこともあると思います。
そんな時に情熱がないと踏みとどまれないというのはこれまで⾒てきた実感としてありますので、そうした⼒は重要だと思います。スピードでは、PMの仕事を探求する「プロマネトラのあな」という活動を通して、PMに必要とされるスキルや経験を共有する機会を設けているので、未経験でも後から知見を深めていくことができます」
現役のPMである篠原・竹内両氏に意見を求めると、こんな指摘があった。
「⼈間⼒がある=明るい⼈とは限らないと思うんです。喋って場を明るくするとかでなくても、堅実に現場を回して『この⼈だったら仕事を預けられる』という安⼼感が⼈間⼒だと僕は思います。進⾏をする以上、考えることを⽌めないようにしています。PMが思考停⽌して、なすがままになったらプロジェクトが破綻するリスクが高くなりますので。こうじゃないか、ああじゃないかと想像する⼒。その考え⽅によって、⾟いことも楽しく変えられるでしょうし、関わり⽅も変わるかなと思います。考えることを⽌めずにいられる⼈が向いていると思います」(篠原⽒)
「個⼈的なことを⾔うと、私はネガティブ思考で、⼼配をするがあまり考えすぎてしまうんです。だからこそ、何かあったら⾃分では対処しきれないから周りの⼈たちに相談するクセがついています。スピードのPMは⼥性の⽅が多いので、⼥性同⼠にしかできない⾝近な相談もできますし、色々と助けられています。体育会系みたいな体⼒というよりも、⾃分⾃⾝の体調を整えられれば問題ないし、無理しないようにお互いにサポートし合う体制になっています」(⽵内⽒)
進行をされる立場であるデザイナー側から柴田氏の意見も聞くと、意外な答えが返ってきた。
「多分、優しすぎても駄⽬だと思うんです。それだと僕らデザイナーが動かないんで(笑)。肝⼼なことは結構ズバッと⾔ってもらった⽅が助かるんですけれど、かといってやっぱり頭ごなしには⾔われたくないんですよね(笑)。本当に⾔葉の綾の部分が⼤事で、要件の前に雑談を挟むとか、ちょっとした気配りがあって肝⼼なところも落とさないのが優秀なPMさんです」
これからのPMは“クリエイティブデザイナー”に
プロジェクト全般を把握するPMの仕事は、やがてプロデューサーへと繋がるのが従来の道筋だった。森⽥⽒はそこに別の道筋を提案する。
「僕自身、PM時代にCGを実践で学び、映像ディレクター/VFXスーパーバイザーになりましたが、PMの重要性は自分自身の経験も踏まえて強く実感しています。プロジェクトの全体像を⾒ているから、PMはどこへでも⾏ける。それが良いところでもあり、悩みどころでもあります。演出の⾯⽩さを知り、演出家になる道もあれば、デザイナーになっても良いと思いますが、⼀⽅でPMのままであり続けるキャリアだってあってもいいと思うんです。
次のキャリアに必ずステップしなければいけないという考え⽅は、逆にPMの仕事を下に⾒ているような気がします。実際、すぐに代われるような仕事でもありません。つまりそれはPM⾃体が既にキャリアとして成⽴していることだと思うんです。僕らとしてはPMがPMとして道を極め、⽴派な仕事として扱われるように整えていくのが責務だと考えています。
もちろん、⾃分の意志として先のようなポジションを⽬指すのであれば構いません。弊社にはプロダクションマネージャーでありながら、2Dデザイナーといった⼆⼑流の⼈たちもいます」
「僕もCGの専⾨学校でMayaを習ったので、もし専⾨学校を卒業してスキルを活かしながらPMの仕事をやろうと思っている⽅は、⼆⾜のわらじで始めて、より進みやすい道に進むこともできると思います」と、篠原⽒。
⽵内⽒も「ゲームでフェイシャルのアナライズを頼まれたことがあります。キャプチャから3Dモデルに落とし込む時に、⽬と⼝がどのように動いているかを解析する作業で、大学で学んだ3DCGの知識が役⽴ちました」と話す。
柴⽥⽒も「デザイナー側からすると、こちらの仕事内容をPMさんがある程度分かってくれているととても助かるんです。どうしても時間がかかる⼯程だとか粘りたい部分とか分かってもらえると、進⾏や締切のやり取りもスムーズに⾏くと思います」と、添える。
森⽥⽒はこんなことも語ってくれた。「ここまで、プロダクションマネージャー(プロマネ、PM)という⾔い⽅でお話をしてきましたが、実は名称を変えようと思っています。これまでの⾔葉のイメージがあると思うので、弊社では”クリエイティブをデザインする”という想いを込めて、“クリエイティブデザイナー”と命名しました」
スピードでは“クリエイティブデザイナー”のほか、ディレクターやデザイナー職も募集している。「新卒中途に関わらず、興味がある⽅にはぜひ応募していただければと思います。また、スペシャリストとしての作品への参加もお待ちしています。ゲームや映画などのほか、オリジナル作品の準備も進めていますので、⼀緒にモノづくりを楽しんでいければと思っています。リモートスタッフも多く在籍しているので勤務地は問いません。」(森⽥⽒)
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TEXT_日詰明嘉